学位論文要旨



No 129271
著者(漢字) 有馬,勇一郎
著者(英字)
著者(カナ) アリマ,ユウイチロウ
標題(和) 冠動脈発生における前耳胞神経堤細胞の役割
標題(洋) The novel role of the preotic neural crest in coronary artery development
報告番号 129271
報告番号 甲29271
学位授与日 2013.03.25
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第4004号
研究科 医学系研究科
専攻 分子細胞生物学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 宮崎,徹
 東京大学 教授 饗場,篤
 東京大学 准教授 金井,克光
 東京大学 准教授 渡部,徹郎
 東京大学 特任准教授 森田,啓行
内容要旨 要旨を表示する

Abstract

Neural crest cells constitute a multipotent cell population that gives rise to many types of tissues. The neural crest arising from the postotic hindbrain is known as the 'cardiac' neural crest and contributes to the great vessels and outflow tract endocardial cushions, however the neural crest contribution to structures within the heart remains largely controversial. Here I demonstrate that neural crest cells from the preotic region migrate into the heart and differentiate into coronary artery smooth muscle cells by using Cre-loxP recombination and quail-chick chimera techniques. Preotic neural crest cells preferentially distribute to the conotruncal region and interventricular septum. Ablation of the preotic neural crest causes abnormalities in coronary septal branch and orifice formation. Mice and chicks lacking endothelin signaling show similar abnormalities in the coronary artery, indicating its involvement in neural crest-dependent coronary artery formation. This is the first report that reveals the preotic neural crest contribution to heart development and smooth muscle heterogeneity within a coronary artery.

審査要旨 要旨を表示する

本研究はエンドセリンシグナル欠損モデルの解析から、冠動脈形態異常、およびその背景となる冠動脈平滑筋細胞の由来の違いを明らかにすることを試みたものであり、以下の結果を得ている。

1.エンドセリン1およびエンドセリンA型受容体欠損マウスにおいて、冠動脈近位部および中隔枝の局所的な拡張を認めることが示された。

2.拡張した冠動脈においては、血管内皮細胞を取り巻く平滑筋細胞が一部脱落しており、表現型の出現時期と併せて考察するに、冠動脈リモデリング異常が背景にあることが示された。

3.エンドセリン1およびエンドセリンA型受容体欠損マウスにおいて、冠動脈中隔枝の分岐部が正常型と比較して右冠動脈から左冠動脈に変位することが示された。経時的な解析の結果、中隔枝が変位する際に本来形成される、右冠動脈-中隔枝が欠損マウスでは形成されないことが示された。

4.表現型の出現部位が冠動脈近位部および中隔枝特異的である点に注目し、そこから冠動脈を構成する細胞の分布の違いに注目した。特に神経堤細胞の挙動に注目して、神経堤細胞を系譜するWnt1-creマウスを用いて検討した結果、神経堤細胞由来の冠動脈平滑筋細胞が表現型の出現部位に一致して分布していることが示された。

5.Wnt1-creで系譜される神経堤細胞由来平滑筋細胞が、エンドセリンA型受容体欠損モデルの冠動脈から欠落していることが示された。

6.マウスにおけるWnt1-cre陽性細胞が、頭尾軸上のどの領域の神経堤細胞によるものかを明らかにするため、ニワトリ-ウズラキメラモデルにおける冠動脈平滑筋細胞への関与を検討した。その結果、耳胞より前方に位置する、前耳胞神経堤細胞が冠動脈平滑筋細胞に寄与していることが示された。

7.前耳胞神経堤細胞の領域別キメラモデルで、第四菱脳、第二咽頭弓領域の神経堤細胞が冠動脈に寄与することが示された。

8.マウスにおいて第四菱脳由来の神経堤細胞を系譜する、R4-creマウスを用いて検討した結果、冠動脈および心臓円錐部領域への寄与が示された。

9.前耳胞神経堤細胞の遊走過程を、鳥類胚の色素注入モデルで検討した結果、これまで関与が示されていた後耳胞神経堤細胞より先進して、心臓内に流入することが示された。

10.鳥類胚での前耳胞神経堤細胞切除モデルで、冠動脈の中隔枝が拡張し、これらの表現型がエンドセリン受容体拮抗薬を投与した鳥類胚でも認められることが示された。

以上、本論文は冠動脈形成過程において、前耳胞神経堤細胞が冠動脈内に分布指向性を持って寄与することを明らかにした。本研究はこれまで未知であった、頭頸部を構成する神経堤細胞の心臓への寄与を明らかとしたもので、冠動脈形態形成、病態形成の解明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

UTokyo Repositoryリンク