No | 129301 | |
著者(漢字) | 田之上,大 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | タノウエ,タケシ | |
標題(和) | 腸内常在性クロストリジウム菌による制御性T細胞の誘導 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 129301 | |
報告番号 | 甲29301 | |
学位授与日 | 2013.03.25 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 博医第4034号 | |
研究科 | 医学系研究科 | |
専攻 | 病因・病理学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 腸管は、膨大な量の微生物と接触しているという点で、非常にユニークな器官である。実際、ヒトの消化管にはおよそ1000種類、100兆個の常在細菌が生息していると考えられている(1)。近年、無菌動物を用いた研究により、腸内常在菌が宿主免疫系の教育・成熟に大きく影響していることが明らかになってきた(2)。例えば、腸内常在菌は、上皮細胞からの抗菌ペプチド産生を促進するなど、上皮のバリア機構の発達・維持にはたらいている(3)。また、腸内常在菌は腸管特有のリンパ組織であるパイエル板や隔離リンパ小節の発達・成熟に関与している(4-6)。さらに、腸内常在菌は、病原性微生物とニッチを競合することでその定着及び増殖の制御に貢献している(7, 8)。しかしながら、腸内常在菌全体としての重要性を示すこれらの報告が多くなされた一方で、個々の細菌種が免疫系にどう関与しているかについては十分な解明が進んでいなかった。最近になってノトバイオート技術が普及し、腸内細菌とそれが特異的に導く宿主免疫応答の関連性が精査される傾向になってきた。たとえば、Segmented Filamentous Bacteria (SFB)は小腸粘膜固有層においてInterluekin (IL)-17産生性 T helper (Th17)細胞を特異的に誘導することが報告されている(9)。SFBの定着は腸管においてTh17細胞を誘導し、病原性細菌の感染に対する抵抗性を強めることが報告されている(9)。 CD4+ Foxp3+ regulatory T (Treg)細胞は免疫抑制能に特化したCD4+ T細胞サブセットであり、生体に必要不可欠な制御性免疫細胞である。Treg細胞は自己抗原に対する免疫不応答性の維持及び宿主にとって有害となる過剰な免疫応答の抑制に働く(10)。Treg細胞は腸管免疫系の恒常性の維持にも重要な役割を担うことが報告されている(11)。実際、通常環境で生育したマウスにおいて、Treg細胞は、他の組織に比べて腸管粘膜固有層に豊富に存在することが知られている(12)。そこで、本研究ではマウス腸管に存在するTreg細胞の誘導機構解明を目的とした研究を行った。はじめに、無菌マウスを解析したところ大腸のTreg細胞数が著しく低下していたことから、大腸Treg細胞は常在菌依存的に誘導されることが示唆された(13)。次に、46株の常在性クロストリジウム属菌を無菌マウスに投与すると大腸Treg細胞がSPFレベルにまで増加したことから、本菌がTreg細胞の誘導に影響していることが示唆された(13)。さらには、46株のクロストリジウム属菌はTreg細胞の集積だけでなくその機能成熟についても影響することを見いだした(13)。最近になって、腸内細菌叢の変化 (Dysbiosis)と炎症性およびアレルギー性疾患との関連が多く報告されてきている(14)。なかでも、腸内細菌の関与が報告されている代表的な免疫疾患として炎症性腸疾患 (Inflammatory bowel disease : IBD)がよく知られている(15, 16)。これらの報告から、腸内細菌叢の人為的なコントロールが、免疫疾患に対する効果的な治療手段として有望視されている。46株の常在性クロストリジウム属菌の投与は大腸炎モデルの症状を抑制することを明らかにした(13)。以上の結果から、46株の常在性クロストリジウム属菌の投与は、大腸Treg細胞の誘導を介して大腸炎の症状を予防する可能性が示唆された。 | |
審査要旨 | 本研究では生体に不可欠な免疫制御細胞であるTreg細胞について、その腸管における誘導機構解明を試みたものである。無菌マウスおよびノトバイオートマウスなどを用いた検討により、下記の結果を得ている。 1. SPFマウスの様々な組織におけるTreg細胞数について解析を行った結果、大腸および小腸粘膜固有層にはTreg細胞が豊富に存在していることが分かった。無菌マウスを解析したところ、SPFマウスに比較し大腸Treg細胞数が著しく低値を示していた。このことから、大腸Treg細胞は常在菌依存的に誘導されることが示唆された。 2. その責任細菌を特定するために、無菌マウスにさまざまな腸内細菌種を単独に定着させたノトバイオートマウスを作製し、腸管におけるTreg細胞数の解析を行った。その結果、46菌株のクロストリジウム属菌の定着が大腸Treg 細胞数をSPFレベルにまで増加させていた。またその他の細菌の投与は、Treg細胞数に大きな影響を与えなかった。投与した46菌株のクロストリジウム属菌はコンベンショナルマウスの便から単離された細菌株であり、通常のSPFマウスの便においても検出されていた。以上の結果から、マウスの常在菌のうち、クロストリジウム属菌が大腸Treg細胞を特異的に誘導していることが明らかとなった。 3. 次に、その誘導機構について検討を行った。46菌株のクロストリジウム属菌により誘導されたTreg細胞は転写因子Heliosを発現していなかったことから、末梢誘導性のTreg細胞であることが推測された。末梢誘導性のTreg細胞の分化にはTGFβが必須であることが知られれている。そこで大腸組織および上皮細胞からのTGFβ産生量を検討したところ、46菌株のクロストリジウム属菌の定着はその産生を促進していた。その培養上清を含む培地ではnaiveT細胞からTreg細胞の分化が観察され、さらに抗TGFβ中和抗体の投与によりその効果が減弱していた。このことから、クロストリジウム属菌によるTreg細胞の誘導について、大腸上皮細胞からのTGFβの産生促進を介した機構が示唆された。 4. 次に、誘導されたTreg細胞における炎症抑制分子IL10およびCTLA4の発現を調べたところ、クロストリジウム属菌の定着はその発現を増加させていた。このことから、46菌株のクロストリジウム属菌はTreg細胞の集積だけでなくその機能成熟についても影響していることが明らかとなった。 5. 最後に、クロストリウム属菌の投与が大腸炎モデルの症状に及ぼす影響を調べている。SPFマウスに46菌株のクロストリジウム属菌を投与すると、Treg細胞数が増加し、それに伴ってDSSおよびOxazolone誘導性大腸炎モデルの症状が緩和されていた。このことから、46菌株の常在性クロストリジウム属菌の投与は大腸炎の発症または症状悪化の予防に対して有用な効果を持つ可能性が示された。 以上、本研究は、46菌株の常在性クロストリジウム属菌が大腸Treg細胞の誘導していることを特定し、Treg細胞誘導性細菌の特定・単離および免疫疾患治療におけるその有用性の提唱している。本研究の成果は、将来的に炎症性腸疾患などに対する新規治療法の開発に応用可能な内容であり、学位の授与に値すると考えられる。 | |
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