学位論文要旨



No 129309
著者(漢字) 富澤,信夫
著者(英字)
著者(カナ) トミザワ,ノブオ
標題(和) 320列CTを用いた冠動脈CTAにおける低侵襲な撮像法に関する検討
標題(洋)
報告番号 129309
報告番号 甲29309
学位授与日 2013.03.25
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第4042号
研究科 医学系研究科
専攻 生体物理医学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 特任准教授 宇野,漢成
 東京大学 准教授 國松,聡
 東京大学 講師 増谷,佳孝
 東京大学 講師 廣井,透雄
 東京大学 教授 小野,稔
内容要旨 要旨を表示する

320列computed tomography (CT)及び新たな画像再構成法(逐次近似法)の導入により、動きの大きい冠動脈を一心拍かつ低被曝量で撮像することが可能となった。しかし、これらの機器・方法を用いて得られた画像が以前のものより劣っていれば意味がない。そこで、320列CTと逐次近似法を用いた冠動脈CT angiography (CTA)において、従来の冠動脈CTAと比較してより低被曝、より少ない造影剤で、より良好な画質を実現することが目的である。

(1)低線量撮影の検討

<AIDR 3Dを用いた低線量撮影の検討>

目的:AIDR 3Dを用いることを前提とした低線量冠動脈CTA画像とfiltered back projection (FBP)再構成を用いた従来線量での画像間で主観的、客観的画質評価を比較すること。

方法:100名の患者を後ろ向きに検討した。最初の50名は従来線量でFBP再構成を行い、後半50名は低線量で撮影し、AIDR 3D (strong)を使用して再構成を行った。主観的画質評価は2名の放射線科医がセグメントごとに4段階で評価し、客観的画質評価は大動脈基部のノイズ、左右冠動脈起始部でのsignal-to-noise ratio (SNR)、contrast-to-noise ratio (CNR)を測定し、各々を比較検討した。

結果:AIDR 3D群ではFBP群と比較して管電流は平均で40%低減され(483 mA vs 289 mA)、結果として実効線量の中央値はFBP群5.4 mSvからAIDR 3D群4.2 mSvへと22%低減された(p = 0.0001)。主観的画質に有意差を認めず(p = 0.12)、ノイズ、SNR、CNRといった客観的画質でも有意差を認めなかった。

結論:冠動脈CTAにおいて、従来のFBP法と比較して、管電流を40%低減して被曝量を22%下げて撮像し、AIDR 3Dを用いて再構成を行っても、画質は保持される。

<小焦点撮像に関するファントム実験>

目的:小焦点撮像と大焦点撮像の画質についてファントムを用いて比較し、どの程度のノイズまで小焦点撮像が許容されるかを検討する。

方法:ポリエチレン製チューブ(外径2.0, 4.0, 5.0 mm)に希釈造影剤を満たしたファントムを作成し、両脇にアクリル板を重ねることでノイズを増加させて撮像した。ノイズが20 Hounsfield Unit (HU)程度になるように310, 370, 430, 500, 580 mA(大焦点)で撮像し、それぞれ270 mA(小焦点)でも撮像した。データはAIDR 3D (standard)で再構成し、それぞれ15箇所で画像を作成して、2名の放射線科医が主観的画質評価を3段階で評価した。また、ノイズとSNRを算出して記録した。

結果:ノイズは大焦点では18 HU前後でほぼ一定であったが、アクリル板の枚数増加と共に小焦点画像のノイズが増加し、SNRが低下した。一方で、主観的評価は大焦点580 mAに対応する小焦点画像で有意に画質が低下したが、それ以外では有意差を認めなかった。

結論:ファントム実験では大焦点撮像で500 mAまでなら小焦点270 mA撮像をすることで主観的画質が保たれると考えられた。

(2)造影剤注入法の検討

<生食後押しによる造影剤使用量の低減に関する検討>

目的:320列CTを用いた冠動脈CTAにおいて、冠動脈近位部、中間部、遠位部における生理食塩水後押しによる造影効果の変化を検証し、さらには同方法により造影剤減量が可能であるかどうかを検証する。

方法:後ろ向きに108名の患者を対象とした。最初の36名は造影剤14秒注入(group 1)、次の36名は造影剤14秒注入の後に生食30 mL後押し(group 2)、最後の36名は造影剤12秒注入の後に生食30 mL後押しとした(group 3)。冠動脈の短軸像で右冠動脈、左前下行枝、左回旋枝の近位部、中間部、遠位部の平均CT値を測定し、CNRも計算した。右室内部のCT値を記録し、ストリークアーチファクトの有無を評価した。

結果:Group 2, 3の冠動脈CT値、CNRは近位部から遠位部にかけてgroup 1と比較して有意に高く(p < 0.005)、group 2, 3では有意差を認めなかった。右室のCT値はgroup 2でgroup 1, 3と比較して有意に高かったが(p < 0.05)、ストリークアーチファクトには有意差を認めなかった。

結論:320列CTを用いた冠動脈CTAにおいて、生理食塩水後押しを行うことで、特に遠位部で冠動脈の増強効果やCNRの改善に加え、造影剤使用量14%低減が可能と考えられた。

<単相注入対二相注入:冠動脈内の濃度差に与える影響の検討>

目的:単相性注入と比較して、二相性注入にすることで冠動脈の近位部と遠位部の濃度差を減じることが可能かどうかを検証すること。

方法:後ろ向きに76名の患者を対象とした。前半の38名の患者は造影剤12秒注入とした(単相群);後半38名は造影剤10秒注入の後に、造影剤と生食を50:50で混合して4秒注入し、同じスピードで生食30 mLを後押しした(二相群)。冠動脈の短軸像で右冠動脈、左前下行枝、左回旋枝の近位部、中間部、遠位部に円形ROIを置き、平均CT値を記録した。濃度差は近位部と遠位部のCT値の差として定義した。

結果:冠動脈近位部、中間部、遠位部のCT値は二群間で有意差を認めなかったものの、近位部のCT値は単相群で二相群と比較して高かった(447 HU vs 431 HU, p = 0.30)。濃度差は二相群で単相群と比較して有意に低かった(40 HU vs 65 HU, p = 0.0004)。

結論:320列CTを用いた冠動脈CTAにおいて、冠動脈近位部と遠位部の濃度差は単相性注入と比較して二相性注入で減じることが可能であると考えられた。

本研究の目的であるより低被曝、より少ない造影剤で、より良好な画質の冠動脈検査を行うことは上記の研究で達成された。バイパス術後の患者は撮像範囲が長い分、AIDR 3Dによる被曝量減少の寄与が特に大きいと考えられる。AIDR 3D導入前および後に撮像された患者に関して、検査時の被曝量を比較すると、AIDR 3Dを導入してからは約半分程度の被曝での撮影が可能となり、64列CTを使用していた時と比較すると1割から2割程度の線量で撮影している。また、被曝量は減少しても、画質の低下を認めなかった。一方で、造影剤使用量は生食後押し開始後に1割程度減少している。現在はwide volume撮像はvolume間で5秒程度の間隔が必要となるが、この時間が短縮できればさらなる造影剤使用量の減少が期待できる。このように、本研究の結果は臨床的に有意義であることがいえる。

当院では2012年10月よりAquilion ONEの次世代機であるVision editionが稼働し、管球の回転速度が上昇し、時間分解能が改善することで高心拍症例でもさらなる被曝の低減が期待できる。また、心臓でもdual energy撮像が可能となることで、プラークの性状評価をより厳密に行える可能性がある。

新しい技術の導入と共に、より低侵襲に、臨床的に有用な診断ができるようになることを願ってやまない。また、本研究の結果が他施設のAquilion ONEを使用した心臓検査でも侵襲性低下の観点で貢献することができれば幸甚である。

審査要旨 要旨を表示する

本研究は逐次近似(Adaptive Iterative Dose Reduction (AIDR) 3D)を応用した画像再構成、小焦点撮像、生食後押しの活用、造影剤注入法の工夫を行うことで、従来の冠動脈computed tomography (CT)検査と比較してより低被曝、より少ない造影剤で、より良好な画質を実現することを目的としており、下記の結果を得ている。

1.従来線量で撮像後filtered back projection (FBP)再構成を行った群と、低線量で撮像後AIDR 3D (strong)を使用して再構成を行った群とで主観的および客観的(大動脈基部のノイズ、左右冠動脈起始部でのsignal-to-noise ratio (SNR)、contrast-to-noise ratio (CNR))画質を評価した。その結果、AIDR 3D群ではFBP群と比較して管電流は平均で40%低減され、結果として実効線量は22%低減された一方で、画質評価には有意差を認めなかった。逐次近似法の導入により、画質を保持しつつ、被曝を下げられることが示された。

2.小焦点撮像のノイズに対する許容範囲を検討するファントム実験では、ポリエチレン製チューブに希釈造影剤を満たしたファントムを作成し、両脇にアクリル板を重ねることでノイズを増加させて撮像した。ノイズが20 HU程度になるような大焦点画像と、対応する270 mAでの小焦点画像を撮像し、主観的および客観的(ノイズ、SNR)画質を評価した。その結果、小焦点画像の客観的画質はアクリル板の増加と共に増悪した一方で、主観的画質は大焦点で500 mAまでなら、両者の評価に有意差を認めなかった。大焦点撮像で500 mAまでなら小焦点270 mA撮像をすることで主観的画質を保ちつつ、被曝低減が可能であることが示された。

3.造影剤14秒注入群、造影剤14秒注入の後に生食30 mL後押しした群、造影剤12秒注入の後に生食30 mL後押しした群で、冠動脈の近位部、中間部、遠位部における平均CT値、CNR、および、右室内部のCT値、右冠動脈へのストリークアーチファクトの有無を比較した。その結果、生食後押し群では後押ししない群と比較して、冠動脈CT値、CNRが近位部から遠位部にかけて有意に高くなった。右室のCT値は造影剤14秒注入に生食30 mL後押し群で有意に高かったが、ストリークアーチファクトには群間差を認めなかった。生食後押しを行うことで、特に遠位部で冠動脈のCT値やCNRの改善を認めることに加え、造影剤使用量を14%低減できることが示された。

4.造影剤12秒注入に生食30 mL後押しした群(単相群)と造影剤10秒注入の後に、造影剤と生食を50:50で混合して4秒注入し、生食30 mLを後押しした群(二相群)とで、冠動脈の近位部、中間部、遠位部における平均CT値を測定し、近位部と遠位部のCT値の差を濃度差とした。その結果、冠動脈近位部、中間部、遠位部のCT値は二群間で有意差を認めなかったものの、濃度差は二相群で単相群と比較して有意に低かった。単相性注入と比較して二相性注入をすることで、冠動脈近位部と遠位部の濃度差を減じることが可能であると示した。

以上、本論文はAIDR 3Dを用いた再構成法、小焦点撮像や生食後押しを駆使することで、画質を保ちつつ、より少ない被曝と造影剤で冠動脈CTを行えることを示した。320列CTにおけるこれらの手法の有効性を示した研究は本研究が初めてであり、冠動脈検査の低侵襲化に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考える。

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