学位論文要旨



No 129332
著者(漢字) 三神,信太郎
著者(英字)
著者(カナ) ミカミ,シンタロウ
標題(和) 初発・再発の肝細胞癌サーベイランスにおける適切なプロトコルの検討
標題(洋)
報告番号 129332
報告番号 甲29332
学位授与日 2013.03.25
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第4065号
研究科 医学系研究科
専攻 内科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 國土,典宏
 東京大学 准教授 四柳,宏
 東京大学 准教授 池田,均
 東京大学 講師 丸山,稔之
 東京大学 講師 山田,晴耕
内容要旨 要旨を表示する

肝細胞癌は日本では主要な悪性疾患の1つであり、アメリカやヨーロッパ各国で増加傾向にある。肝細胞癌の検出と診断を早期に行うことで予後は延長すると考えられており、肝腫瘍を高い感度で検出する腹部超音波検査は肝細胞癌サーベイランスで推奨されているが、腫瘍マーカー測定の是非は各国のガイドラインでは統一されていない。また、根治的治療後の再発肝癌に対しては、画像検査のフォロー手順や再発の診断基準は存在せず、確立されたプロトコルは存在しない。

我々は超音波ガイド下経皮的ラジオ波焼灼術により根治を得た患者に対し、定期的にダイナミックCTを施行し、初発肝細胞癌と同じ基準で再発を診断をしてきた。今回の研究では、経皮的ラジオ波焼灼療法(RFA)による初発肝細胞癌治療後の初回再発例113例の検討を行い、再発診断に至った肝細胞癌の直前のCT所見を検討した。肝内再発に対する我々の診療プロトコルが治療と生存にどのように寄与したか、評価を行った。その結果、RFAによる根治を目的とした再発肝細胞癌サーベイランスのプロトコルにおけるダイナミックCTの撮影間隔は4ヶ月で許容でき、肝細胞癌の再発は初発と同じ診断基準を用いることで、初回再発の大部分に対しても根治的な再治療が可能だった。

次に初発肝癌サーベイランスにおける腫瘍マーカー測定の意義について、腹部超音波検査の信頼性をATOMスコアという指標を用いて定義し、評価した。

無作為化比較試験により、初発肝細胞癌サーベイランスではAFP(alpha-fetoprotein)は適切な腫瘍マーカーにならないとする報告があり、American Association for the Study of Liver Diseases(AASLD)や、European Association for the Study of the Liver (EASL)は初発肝細胞癌サーベイランスでの腫瘍マーカー測定を推奨していない。しかし、腹部超音波検査による肝細胞癌検出の感度と特異度は、検査者の技術や機器性能だけでなく、患者の慢性肝疾患の進行度、肥満や消化管ガスの有無などにより影響を受ける。このように、腹部超音波検査の信頼性が定まっていないことが、各国のガイドラインにおける腫瘍マーカー測定の意義の見解に相違を引き起こすと推測される。

初発肝細胞癌サーベイランスにおける現在の腫瘍マーカー測定の位置づけは、腹部超音波検査が高い信頼性を均一に有する前提であり、高くない信頼性の患者に対しての腫瘍マーカー測定の意義は評価されていない。本研究では初発肝細胞癌サーベイランスで診断された初発患者313例における腫瘍マーカー測定と腹部超音波検査について検討を行った。その結果、信頼性が低い腹部超音波検査によるサーベイランスの患者に対しては、腫瘍マーカー測定は診断・予後に寄与している可能性が示唆された。

結論として、初発肝癌サーベイランスにおける腹部超音波検査の信頼性は必ずしも均一とはいえない。低い信頼性の腹部超音波検査しかできない患者に対しては、腫瘍マーカーの測定は意義がある可能性があり、無作為化比較試験に基づいた評価が望ましい。

再発肝癌サーベイランスでは、現時点ではダイナミックCTによるフォローアップ間隔や再発肝細胞癌診断の定まった基準は存在しない。しかし4ヶ月間隔のダイナミックCT施行と、初発肝細胞癌の診断基準を用いることで、RFA治療対象に含む範囲で殆どの患者の肝細胞癌再発は診断可能であり、東京大学医学部附属病院消化器内科で実施されているプロトコルは妥当と考えられた。

審査要旨 要旨を表示する

肝細胞癌は、初発のみならず再発も含めた診療が必要である。本研究は肝細胞癌サーベイランスにおける適切なプロトコルの評価を、初発肝細胞癌では腫瘍マーカーと、腹部超音波検査の信頼性について、再発肝細胞癌ではダイナミックCTの実施間隔について解析を試みたもので、下記の結果を得ている。

1.本研究における初発肝細胞癌患者のうち、腫瘍マーカー上昇が診断契機となった患者(TM群)は10.3%で、その腫瘍サイズはその他の群(TM+US群・US群)によりも、小さいことが示された。TM群の予後はTM群+US群・US群とほぼ同様であった。

2.初発肝細胞癌患者のTM群は腹部超音波で腫瘍が検出しにくい群とされた。血小板値が、進行した肝線維化を傍証している可能性が示唆された。ATOMスコアという指標を定義し、TM群の腹部超音波の信頼性が低いことが示された。

3.初発肝細胞癌患者のうち90%以上が根治的な治療適応基準である、腫瘍径3cm以下で診断されており、腹部超音波検査と腫瘍マーカー測定の併用によるサーベイランスの成績が非常に良好であることが示唆された。

4.本研究では再発肝細胞癌患者113人の177結節を解析し、27.7%は診断の1つ前のCTでは結節が確認できなかった。各結節ごとに造影効果は異なり、それぞれがde novo発癌や肝内転移である可能性が示唆された。腫瘍倍加時間は生存に相関せず、これは本研究のプロトコルが有効であることを示している。

5.現状では再発肝細胞癌の診断基準がないため、本研究では初発肝細胞癌の診断基準を再発時にも用いた。その結果、再発肝細胞癌患者のうち、86.7%が経皮的ラジオ波焼灼術により根治が可能な直径2cm以下で診断されたことから、初発肝細胞癌の診断基準を用いて、再発診断を行うことの妥当性が示唆された。

6.腫瘍倍加時間が30日以下のような急速に増大する腫瘍は6.2%にとどまり、いずれも13mm以下と小さなサイズで診断され、ダイナミックCTを4ヶ月間隔で実施するフォローアップの有効性が示唆された。

以上、本論分は初発肝癌サーベイランスにおいて、腹部超音波検査の信頼性が均一ではないことを示し、腫瘍マーカーの測定を併用することに意義がある可能性を示した。また、再発肝癌サーベイランスでは、4ヶ月間隔のダイナミックCT施行と、初発肝細胞癌の診断基準を用いるプロトコルが妥当であることを明らかにした。本研究はこれまで明らかでなかった、初発肝癌サーベイランスにおける、腹部超音波検査の信頼性と腫瘍マーカー測定の意義の解明、および再発肝癌サーベイランスのプロトコル設定に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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