No | 129337 | |
著者(漢字) | 生冨,公康 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | イクトミ,マサヤス | |
標題(和) | 骨髄由来後期血管内皮前駆細胞 : その特性と、肺動脈性肺高血圧における傷害肺動脈および体血圧系動脈の内皮損傷に対する血管内皮修復機能の評価 | |
標題(洋) | Bone marrow-derived late-outgrowth endothelial progenitor cells : Characterization and evaluation of real therapeutic efficacy to vascular endothelial repair in the setting of pulmonary arterial hypertension and arterial neointimal formation | |
報告番号 | 129337 | |
報告番号 | 甲29337 | |
学位授与日 | 2013.03.25 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 博医第4070号 | |
研究科 | 医学系研究科 | |
専攻 | 内科学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | Introduction 血管の内側を覆っている内皮細胞は、多くの機能を有し、脈管系のホメオスタシス維持にとって中心的な役割を果たしている。血管内皮機能の障害は様々な血管病の原因となり、その内皮機能を再生することは治療や予防につながると考えられている。骨髄より流血中に動員される血管内皮前駆細胞 (endothelial progenitor cell: EPC) は、虚血組織や血管損傷部位に集積し、血管新生・内皮修復に寄与するとされ、EPCを用いた虚血性疾患や血管障害の再生治療が注目されている。体血管の動脈内皮傷害が引き起こす代表的な病態として、動脈硬化症や血管形成術後 (PCI, CABG) に生じる新生内膜形成があげられる。また肺循環における内皮機能障害が原因となる疾患としては肺高血圧症 (pulmonary arterial hypertension: PAH) があげられる。肺高血圧症は未だ病態メカニズムが不明な疾患であるが、肺微小血管内皮機能障害が一つの引き金となり、肺血管リモデリングから肺血管抵抗と肺動脈圧の進行性の上昇を引き起こし、最終的に右心不全に至ると考えられている。新生内膜形成やPAHにおいて、EPCを用いた再生治療は魅力的かつ有効な戦略と考えられるが、その有効性については各実験により相違があり、一定の結論を得ていない。報告による結果の相違の要因として、本来heterogeneityな集団であるEPCの定義の問題があげられる。従来、内皮系表面抗原や幹細胞マーカーなどによりEPCを定義してきたが、これらの形質は単球系細胞にもあり、両者はオーバーラップしていることが分かっている。特に近年の研究より、これまで「EPC」として最も研究されてきた集団は、単核球分離後5日弱でcolonyを作り、CD34+/CD45+である「early EPC」であるが、この集団の大部分が単球系に由来し、増殖能と成熟血管内皮細胞への分化能に乏しいことがわかってきた。一方単核球分離後1週間以上してから血管内皮細胞に特徴的な「cobblestone appearance」を呈しながらcolonyを形成する細胞群は「late outgrowth cells (LOC)」とよばれ、増殖能やNO産生能に富み、単核球マーカーを発現せず、厳密な定義上のEPCに近いと考えられている。EPCのソースとなる単核球の抽出部位としては末梢血、骨髄や脾臓などがあげられる。過去にヒト末梢血単核球由来EPCを用いた実験においては、early EPC、LOCといったEPCの集団における機能の違いが報告されているが、骨髄単核球由来EPC培養においてEPCの集団による機能の相違があるかは不明である。またPAHや新生内膜形成といった血管内皮障害において、骨髄由来EPCが真にどのような血管修復能を有するのかは不明である。 今回我々は、ラット骨髄単核球を用いてEPCの培養を行った。培養期間およびコロニー外観により、骨髄由来EPCをearly EPC、LOC、very late outgrowth cells (VLOC) の3群に分類し、機能および特性をin vitroで比較検討した。さらに「モノクロタリン (monocrotaline: MCT) による肺動脈傷害モデル(肺高血圧モデル)」と「大腿動脈ワイヤー挿入による機械的動脈内皮傷害モデル」という肺体血管同時傷害モデルラットを作成、3群のEPC投与を経静脈的に投与し、モデル間およびEPC間での血管修復能を比較検討した。 Result & Method ラット大腿骨より骨髄単核球を比重遠心にて分離、endothelial basal mediumを用いてEPC培養を行った。Early EPCはday 3-6にfibronectin-coating plateに接着した小円形の細胞集団として出現、その後急速に減少し消失。次にday 7-10にかけて内皮系細胞に特徴的なcobblestone appearanceを呈するcolonyが出現、このLOC型colonyは急速に増大し、2-3週間の間にwell上にconfluentとなった。LOC型colonyの中での培養時間経過に伴った形質変化の有無を調べるために、LOC型colony出現後早期 (day 8-14) にharvestとした「LOC」と、LOC型colony出現後期 (day 15-21) にharvestした「VLOC」の二つに細分化。early EPCと合わせて全3群で比較を行った。古典的にEPC特定法として用いられてきたacetylated LDLとlectin biding能の二重染色において、いずれのEPCも同様に二重陽性となった。しかし免疫染色・flow cytometryによる表面抗原解析においては、[early EPC] CD31-CD45+CD34(high)Flk1(low), [LOC] CD31+CD45-CD34(low)Flk-1(high), [VLOC] CD31-CD45-CD34-Flk-1(low) と各EPCは全く異なる表現形質を呈しており、特にLOCは高い内皮系形質 (CD31, Flk-1)を呈していた。eNOS蛋白発現能(Western-blot)、増殖能(MTS assay)および管腔構造形成能 (Matrigel tube-formation assay) の全ての解析において、LOCは他のEPCに比べて有意に高い機能を示し、in vitroの検証において最も強いangiogenic propertyをもつEPC集団であると推測された。 次に肺体血管同時傷害モデルラットを作成、各々のEPCを投与し血管修復への効果を比較検討した。8週齢 wild F344 ratに対して、右大腿動脈より0.46mmの血管造影用ワイヤーを挿入、血管内皮を機械的に損傷し、片側大腿動脈傷害モデルを作成した。さらに同ラットにMCT 60mg/kgを腹腔内投与し、肺動脈内皮傷害に伴うPAHモデルを作成した。この同時傷害モデルラットを4群(vehicle, early EPC, LOC, VLOC群)に分類、さらに別に用意したsham群とあわせ、全5群での比較を行った(各群n=8)。GFP transgenic F344 ratの骨髄単核球よりEPCを培養し、1×106 cell の各EPCもしくはPBS (vehicle群) を day 0, 1, 3, 5, 7, 9の計6回に分けて尾静脈より投与。4週後に右室圧をカテーテル挿入にて測定した後、肺・心臓・両側大腿動脈の組織採取を行った。 4週後のカテーテル測定にて、右室圧はMCT投与群全てにおいて同様に上昇みとめた。また、右室リモデリング指標となる右室/左室重量比(RV/LV ratio)や、肺動脈リモデリング指標となる肺動脈肥厚化比(percent pulmonary arterial musclarization)も、MCT投与群で同様に上昇をみとめた。しかし、いずれのPAH変化のパラメータにおいても各群による差異はみられず、EPC投与による治療効果はみられなかった。蛍光顕微鏡下にGFPで標識された移植EPCをくまなく検索したが、いずれの群においても肺動脈へのEPC生着は一切みとめなかった。 次に、ワイヤー障害後の大腿動脈の組織評価を行った。機械的に傷害された大腿動脈には、4週間後に顕著な新生内膜形成をみとめた。各群での新生内膜量の定量比較を行ったところ、LOC投与群でのみ有意な新生内膜の減少がみられた。蛍光顕微鏡観察において、多くのGFP+ LOCが大腿動脈傷害部へ集積し、一部のLOCは実際に内皮化し直接的に血管修復に寄与している像が確認された (replacement ratio= 12.7%)。投与LOCのhomingは大腿動脈のワイヤー傷害部分にのみ限局し、非傷害側には一切みとめなかった。また他EPC投与群(early EPC/VLOC群)においては新生内膜抑制効果やGFP標識細胞の局在は一切みられなかった。 最後にEPC投与の傷害組織でのparacrine effectを検証するため、real-time RT-PCRを用いて肺と大腿動脈でのmRNA発現を定量比較した。肺および大腿動脈では、共にモデル傷害に伴って炎症性サイトカイン(TNFα、MCP1、IL6など)の発現上昇がみられた。肺においては各MCT投与群でのサイトカイン発現上昇に差はなかったのに対し、大腿動脈においてはLOC投与群傷害側でのみサイトカイン発現上昇が有意に抑制されていた。同効果はearly EPC/VLOC群ではみられず、LOCは直接的な内皮化のみでなくparacrine effectとしても、血管修復に寄与するものと考えられた。 Conclusion ラット骨髄由来のEPC培養において、cobblestone colonyを呈するLOCは高いangiogenic potentialおよび内皮細胞形質を有することがin vitroの検証で確認された。しかしこのcobblestone colonyを有するLOCも培養が長期に及ぶことにより(VLOC化することにより)、EPCとしての機能が低下することが明らかとなった。ワイヤーによる機械的動脈内皮損傷において、経静脈的に投与されたLOCは傷害血管に遊走集積し、新生内膜形成抑制効果を有した。この血管修復には、直接的内皮化と、paracrine effectによる抗炎症効果という、二つの効果がみられた。一方でEPC投与は、たとえLOCであっても、MCTによる肺高血圧に対しては治療効果を一切みとめなかった。同時傷害モデルにおける、二つの傷害でのLOCの治療効果の相違には、血管リモデリングの病態メカニズムの違いが関与していると考えられた。 | |
審査要旨 | 血管内皮前駆細胞 (EPC) はその特徴から様々な血管病における再生治療への応用が期待されている。本研究は、骨髄単核球を用いたEPCの培養における特性について解析している。ラット骨髄単球よりEPCを培養し、その培養期間に応じて、「early EPC (day3-6)」、「late outgrowth cell (LOC) (day8-14)」、「very LOC (VLOC) (day15-21)」の3つに分類し、in vitroで比較している。さらに、骨髄由来EPCが真にどのような血管修復能を有するのかを調べるため、「モノクロタリン (monocrotaline: MCT) による肺動脈傷害モデル(肺高血圧モデル)」と「大腿動脈ワイヤー挿入による機械的動脈内皮傷害モデル」という肺体血管同時傷害モデルラットを作成し、傷害モデルにおける骨髄由来EPCの血管修復能を検証し、以下の結果を示している。 1.ラット骨髄単核球を用いたEPC培養においては、培養早期(day 3-7)にcolonyを形成する小円形細胞集団の「early EPC」と、培養後期(day7以後)に内皮系細胞に特徴的なcobblestone colonyを呈する「late outgrowth cells (LOC)」、の二種の異なる集団が観察される。cobblestone colony は外観上の大きな変化はなく増殖していく(LOCとVLOCの間ではコロニー外観上明らかな変化はない)。 2.古典的にEPC特定法として用いられてきたacetylated LDLとlectin biding能の二重染色において、いずれのEPCも同様に二重陽性となった。しかし免疫染色・flow cytometryによる表面抗原解析においては、[early EPC] CD31-CD45+CD34(high)Flk1(low), [LOC] CD31+CD45- CD34(low)Flk-1(high), [VLOC] CD31-CD45-CD34-Flk-1(low) と各EPCは全く異なる表現形質を呈し、LOCで有意に高い内皮系形質 (CD31, Flk-1)が確認された。eNOS蛋白発現能(Western-blot)、増殖能(MTS assay)および管腔構造形成能 (Matrigel tube-formation assay) の全てのin vitroの機能解析において、LOCは最も高いangiogenic propertyを示していた。 3.肺体血管同時傷害モデルラットにおける骨髄由来EPCの治療効果の検証においては、肺高血圧変化パラメーター(右室圧、右室リモデリング、肺動脈リモデリング)と、組織学的なEPCの傷害肺血管床における局在性、の両者において、いずれのEPCも無効であることが確認された。 4.逆に、ワイヤー障害後の大腿動脈においては、投与されたLOCは傷害血管内皮に遊走・集積し、実際に内皮化している像が確認され(replacement ratio= 12.7%)、LOC投与によりワイヤー傷害後に形成される新生内膜の量は有意に抑制されていた。mRNA発現量の比較から、LOCの投与が傷害血管部位で、炎症性サイトカインの上昇を抑制していることが確認された。同効果は、early EPC/VLOC投与群ではみられず、LOCに特異的な血管修復能であることが示された。 以上、ラット骨髄由来のEPC培養において、cobblestone colonyを呈するLOCは高いangiogenic potentialおよび内皮細胞形質を有することがin vitroの検証で確認された。しかしこのcobblestone colonyを有するLOCも培養が長期に及ぶことにより(VLOC化することにより)、EPCとしての機能が低下することが明らかとなった。ワイヤーによる機械的動脈内皮損傷において、経静脈的に投与されたLOCは傷害血管に遊走集積し、新生内膜形成抑制効果を有した。この血管修復には、直接的内皮化と、paracrine effectによる抗炎症効果という、二つの効果がみられた。一方でEPC投与は、たとえLOCであっても、MCTによる肺高血圧に対しては治療効果を一切みとめなかった。 本研究は、EPC研究における新たな知見を示しており、血管障害病態に対する骨髄由来EPCの臨床応用にむけて、重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 | |
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