No | 129393 | |
著者(漢字) | 赤井,淳 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | アカイ,アツシ | |
標題(和) | ラット腹部大動脈瘤モデルに対するナノ粒子の応用 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 129393 | |
報告番号 | 甲29393 | |
学位授与日 | 2013.03.25 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 博医第4126号 | |
研究科 | 医学系研究科 | |
専攻 | 外科学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 今日まで様々な研究が行われてきたにもかかわらず,腹部大動脈瘤に対する有効な薬物治療は未だ開発されていない.我々は,腹部大動脈瘤に対する薬物治療を実現するための手段として, drug delivery systemに注目した.Drug delivery systemはがん治療の分野で広く研究されており,近年では特に,ナノ粒子をdrug carrierとして用いる手法が注目されている.ナノ粒子は良好な血中滞留性とがん組織への選択的集積性を示すことが報告されているが,心血管疾患への応用はほとんど報告されていない.我々は,腹部大動脈瘤の治療におけるナノ粒子の応用可能性を探り,また腹部大動脈瘤モデルにおけるナノ粒子の詳細な特性を明らかにするために本実験を行った.我々は,蛍光標識されたサイズ調節可能なナノ粒子であるpolyion complex hallow vesicle (PICsome)をラット腹部大動脈瘤モデルに全身投与し,その特性をi)蛍光イメージング,ii)蛍光強度測定による定量評価,iii)共焦点レーザー顕微鏡による組織学的観察,によって評価した.その結果,ナノ粒子が腹部大動脈瘤に選択的に集積することが明らかとなった.また,「その集積性が粒子サイズによって変化すること」,及び「大動脈瘤壁の弾性繊維の破壊が集積の主な要因であること」が明らかとなった.ナノ粒子は腹部大動脈瘤に対するdrug delivery systemの有望な材料であると考えられた.我々の研究は,今後ナノ粒子を腹部大動脈瘤の治療に応用するにあたっての基礎的な知見を提供するものであり,また,心血管疾患を始めとするがん以外の疾患へのナノ粒子の応用を促進するものである. | |
審査要旨 | 本研究は,腫瘍組織に対するドラッグキャリアーとして注目を集めているナノ粒子の腹部大動脈瘤に対する応用可能性を探るために,ラット腹部大動脈瘤モデルに対して蛍光標識されたナノ粒子を経静脈投与しその動態を解析したものであり,下記の結果を得ている.なお,ナノ粒子としては正負反対荷電のポリマーが静電自己集合して得られるPICsomeを使用している. 1.IVIS(R) Living Imageを用いた蛍光イメージングの結果,3D in-vivo及び2D ex-vivo imagingのいずれにおいてもラット腹部大動脈瘤の近傍に蛍光シグナルが観察された.イメージングの性質上,特に3D in-vivoイメージングは定量性に欠けるではあるが,全身投与されたPICsomeがラット腹部大動脈瘤に集積する可能性が示された. 2.PICsome投与後に採取した臓器検体の蛍光強度を測定することにより,ナノ粒子の体内動態を定量的に評価したところ,i)PICsomeは腹部大動脈瘤に集積する(非病変部である胸部大動脈に比べて),ii)PICsomeの腹部大動脈瘤に対する集積性,動態はPICsomeのサイズによって変化する,ことが明らかとなった.すなわち,40 nmのPICsomeは腹部大動脈瘤にすばやく集積される一方でwash outされるのも早い,100 nmのPICsomeは集積にやや時間がかかるが長時間腹部大動脈瘤に留まる,200 nmのPICsomeは100 nm PICsomeに類似した動態を示すが集積性は劣る,ことが明らかとなった. 3.PICsome投与後に腹部大動脈瘤を採取し蛍光顕微鏡で観察することにより,100 nm PICsomeは投与後48時間の時点では主に中膜に残存していることが明らかとなった.また,PICsomeは主に大動脈壁の弾性繊維が破壊されている部位に集積していることが明らかとなった. 以上,本論文はラット腹部大動脈瘤モデルにおいて,経静脈投与されたPICsomeが腹部大動脈瘤に集積することを明らかにした.動脈瘤病変に対するナノ粒子の集積性は過去報告されておらず,本研究で得られた知見は新規性の高いものである.さらに,本研究においては集積性のみならず,動態のサイズ依存性や集積部位といったより詳細な特性についても検討が行われている.本研究は,今後,腹部大動脈瘤を始めとした心血管疾患へナノ粒子を応用する際の基礎的な知見を提供するものであると考えられ,学位の授与に値するものと考えられる. | |
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