学位論文要旨



No 129403
著者(漢字) 西山,綾子
著者(英字)
著者(カナ) ニシヤマ,アヤコ
標題(和) 慢性虚血肢における効果的な側副血行路発達促進法に関する研究
標題(洋)
報告番号 129403
報告番号 甲29403
学位授与日 2013.03.25
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第4136号
研究科 医学系研究科
専攻 外科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 小野,稔
 東京大学 准教授 北山,丈二
 東京大学 講師 本村,昇
 東京大学 教授 鄭,雄一
 東京大学 特任准教授 平田,恭信
内容要旨 要旨を表示する

慢性虚血肢に対する血管新生療法において、どのような血管新生因子・細胞を虚血肢に作用させるかについては様々な検討がなされているが、一方で現在までにそれらの血管新生因子や細胞を「どの部位に投与するか」つまり「どの部位を治療ターゲットとするか」に注目した研究は少ない。

今回の研究では、大腿動脈を切除したウサギ虚血肢モデルにおいて血管造影を行い、個々のウサギに依らず、虚血肢への側副血行路は尾骨大腿筋内で発達する事を認めた。この結果により、同筋肉を治療ターゲットとすれば治療効率が高まるとの仮説を立てた。次に、ウサギ虚血肢モデルを作成後28日目にbFGFを尾骨大腿筋に筋注する群とコントロールとして内転筋に筋注する群に分け、投与部位による血管新生の効果を調べた。筋注後28日目の下腿血圧比、血管造影スコア、下肢血流量、組織標本での機能的血管密度を両群で比較したところ、いずれも尾骨大腿筋群が有意な改善を示した。以上から、血管新生因子を投与する部位を特定することで、側副血管の発達を効果的に誘導できることが示された。この知見を臨床に導入するために、下肢慢性閉塞性動脈疾患患者のCT画像を検討したところ、人間においても主幹血管の閉塞部位に応じて一定の部位に側副血管が発達することが明らかとなった。これにより、動物実験研究から得られた知見を臨床応用しうる可能性が示唆された。今回の研究により、血管新生療法において、適切な治療ターゲットを選択する重要性が示された。

審査要旨 要旨を表示する

本研究は、慢性虚血肢に対する血管新生療法をより効果的に行う手法の開発を目的としている。ウサギ慢性虚血肢モデルを用いた動物実験では、血管新生因子であるbFGFを、虚血肢のどの部位に投与すれば虚血改善効果が高いのかが、in-vivo, in-vitroの両側面から検討されている。また、動物実験の結果をふまえて、人間においてもより効果的な血管新生療法の開発を目指すべく、PAD症例の側副血管の走行に関する解剖学的検討を行っており、以下の結果を得ている。

動物実験

1.左外腸骨動脈と大腿動脈全切除によって作成されるウサギ慢性虚血肢モデルにおいて、側副血管の検討をしたところ、後臀動脈と膝窩動脈をつなぐ血管が発達しており、その走行は主に尾骨大腿筋内で認められた。

2.実験Iで示されたウサギ慢性虚血肢モデルにおける側副血管発達部位である尾骨大腿筋に、血管新生因子であるbFGFを選択的に投与し、下腿血圧比、左内腸骨動脈血流量、血管造影とAngiographic score値を測定し、bFGFを内転筋に投与した群と比較したところ、いずれの測定値も尾骨大腿筋に選択的にbFGFを筋注した群において有意に高値であった。

3.実験IIの結果を組織学的に確認するためにHE染色にて血管径の比較、血管密度の比較を行い、尾骨大腿筋群における血管径、密度がともに有意に高値であることが確認された。さらに、側副血管発達のメカニズムを検討するために、Ki67、MCP-1、FGFR-1の免疫染色、bFGF及びFGFR-1, PY99のWestern blottingを行った。その結果、尾骨大腿筋群では、arteriogenesisに関与する血管新生関連蛋白の発現量の増加が認められた。したがって実験IIで得られた結果は、arteriogenesisの亢進によるものであることが確認された。

臨床研究

1.PDA症例の浅大腿動脈閉塞時の側副血管発達の部位を検討するために、CTで血管の走行とその部位を検討した。側副血管の多くは大腿深動脈の第2,3分枝で、外側膝動脈と吻合しており、この血管は主に大腿二頭筋短頭内を走行していた。

2.下腿三分枝動脈閉塞時についても同様の検討を行ったところ、側副血管の多くは、ヒラメ筋内を走行していた。

以上より、ウサギ慢性虚血肢モデルにおいて側副血管の発達部位である、尾骨大腿筋に選択的にbFGFを投与することにより、より効果的な血管新生が促進されること、及びその血管新生の主なメカニズムがarteriogenesisであることが明らかとなった。血管新生因子を虚血肢のどの部位に投与するかに着目をした研究は過去ほとんど行われておらず、より効果的な血管新生療法の開発を目指す上で、側副血管の発達部位に選択的に血管新生因子を投与するという本研究のコンセプトは新規性の高いものである。さらに、本研究においては人間のPAD症例における、側副血管の発達部位に関する解剖学的な検討も行われており、動物実験の結果と合わせて、臨床におけるより効果的な血管新生療法の開発の可能性が示されている。以上のことより、本論文は学位の授与に値するものと考えられる。

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