No | 129468 | |
著者(漢字) | 橋川,浩一 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ハシカワ,コウイチ | |
標題(和) | 味覚連合学習に関与する扁桃体における神経活動の解明 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 129468 | |
報告番号 | 甲29468 | |
学位授与日 | 2013.03.25 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(薬学) | |
学位記番号 | 博薬第1509号 | |
研究科 | 薬学系研究科 | |
専攻 | 生命薬学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 【背景と目的】 記憶は日々の生活で的確に行動するために必須であると共に、人を人たらしめる人格の形成にも関与する。そのため、記憶形成メカニズムの解明は神経科学で最も重要な課題の一つである。中でも連合記憶は、人を含め多くの動物が環境で適応的に行動するために、普遍的に備えている認知機能である。動物モデルを用いた先行研究により、連合記憶に関与する脳領域、神経伝達様式の変化、神経構造の変化、分子機構などが明らかにされてきた。さらに近年、記憶が特定の神経細胞集団"neural ensemble"により表象されることを支持する知見が蓄積してきた。しかし、「学習時に、どの神経細胞集団がどのように活動して、記憶に関わる細胞が選択されるのか」は分かっていない。本研究の目的は、連合記憶形成に関与する、神経細胞集団の活動を明らかにすることである。 神経活動の"観察"と"制御"という相補的なアプローチを組み合わせて、上記の課題に取り組んだ。神経活動を観察するだけでは、観察された活動と記憶形成が無関係な並行現象の可能性があるため、特定の神経活動を選択的に制御することで記憶形成への役割を調べた。 【方法と結果】 1.味覚嫌悪学習時に生じる神経活動 本研究では味覚嫌悪条件づけを連合学習課題として用いた。マウスは味覚と内臓不快感の二つの異なる刺激の関係を学習する。嫌悪記憶が形成されるとマウスは条件づけで用いた味覚刺激を避けるようになる。味覚と内臓不快感刺激を数分から数時間の時間間隔を設けて提示しても学習が成立するため、二つの刺激に対応した神経活動を明確に区別できる。味覚嫌悪学習時の扁桃体基底外側核(BLA)における神経活動をArc catFISH法により大規模にイメージングした(図1)。Arcは神経活動に依存して一過性に発現が誘導されるImmediate early gene(IEG)の1つで、神経活動マーカーとして用いられる。Arcの細胞内局在が時間的に厳密に制御されていることを利用して、数百個の神経細胞の活動を複数のタイムポイントで観察することを可能とする。 味覚刺激と内臓不快感刺激によってそれぞれ10.1土2.0%,9.2±0.6%の細胞が活動した(数値は平均値±SEM。以下同様)。また、味覚刺激と内臓不快感刺激の両方で活動した細胞は4.2±0.3%もあった(もし独立であれば、両方で活動する細胞の割合は0.95土0.23%と算出される。図1)。味覚刺激と内臓不快感刺激で活動した細胞集団の重なり(類似度)は44±0.1%であった。味覚刺激を提示した時に活動した細胞の半数近くの細胞が内臓不快感刺激でも活動したことを意味する。本結果を受け、「扁桃体の一部の神経細胞(亜神経細胞集団)が味覚刺激と内臓不快感刺激の両方で活動することで記憶が形成される」という仮説を立てた。仮説を検証するためには、味覚刺激で活性化した細胞のみを選択的に、内臓不快感刺激提示時に不活性化しなければならない。CREB-Allatostatinシステムを用いて、これを達成した(図2)。CREBとAllatostatin受容体の両方の遺伝子を搭載した単純ヘルペスウイルス(CREB-AlstR HSV:HSV-CREB)を使用することで、両遺伝子を一部の細胞にのみ発現させた(19±1.8%)。転写因子の一つである、CREBを過剰発現した細胞は細胞の興奮性が上昇する。Allatostatin受容体はショウジョウバエ由来のGタンパク共役型受容体であり、リガンドのAllatostatinが結合すると細胞は過分極し活動が可逆的に抑制される。 2.CREBによる味覚刺激時に活動する細胞の選択 まずCREBが味覚刺激提示時の細胞の活動に与える影響を調べた(図3)。ウイルス感染細胞(GFP陽性細胞)と非感染細胞(GFP陰性細胞)を分けて解析したところウイルス感染細胞が優先的に活性化していた。GFP陽性細胞のうち63±3.3%が味覚刺激提示時に活性化したのに対し、GFP陰性細胞のうち3.4土1.4%が活性化した(図3B,C)。一方でコントロールウイルスとして、CREBをLacZに置換したLacZ-AlstR HSV(HSV-LacZ)を用いた場合は、GFP陽性・陰性細胞ともに同程度活動した(10.9±3.2%vsll.6±1.2%)。これらの結果は、扁桃体において一部の細胞にCREBを導入することで、それらの細胞が味覚刺激提示時に優先的に活性化することを示している。 3.味覚刺激と内臓不快感刺激の一部の細胞における収斂を阻害すると記憶形成が障害される 味覚刺激で活動した細胞が内臓不快感刺激でも活動することが記憶形成に関与するかを調べた(図4)。HSV-CREBをBLAの一部の細部(~20%)に感染させ、味覚刺激提示後にAllatostatinを投与した。これにより、味覚刺激で活性化した細胞を高い選択性で内臓不快感刺激時に不活性化した。Allatostatin投与により記憶形成が障害された(図4C左)。しかし、ランダムにBLAの一部の細胞を内臓不快感刺激時に不活性化しても同様に記憶形成が障害されるかもしれない。この可能性をHSV-LacZを用いて検証した。HSV-LacZを感染させた場合は、Allatostatinを投与しても記憶成績に影響はなかった(図4C右)。 もし、味覚刺激と内臓不快感刺激の亜細胞集団における収斂が連合記憶形成に関与するなら、HSV-CREBに感染した細胞(味覚刺激で優先的に活性化する細胞)を味覚刺激時にのみ抑制しても記憶形成が障害されるはずである。 HSV-CREB感染細胞を味覚刺激時にのみ不活性化するために、味覚刺激と内臓不快感刺激の間隔を2.5時間設け、味覚刺激の30分前にallatostatinを投与した(予備実験において、allatostatinの効果が30分以上3時間以内であることをすでに確認している)。Allatostatin投与により、記憶形成が障害された(図5A)。さらに、図4の実験と同様に、HSV-CREBに感染した細胞を内臓不快感刺激時に不活性化した場合も記憶形成が障害された(図5B)。 以上のように、味覚刺激と内臓不快感刺激の一部の細胞における収斂を阻害するために、HSV-CREB感染細胞を味覚刺激または内臓不快感刺激時に不活性化すると、いずれの場合も連合記憶形成が障害された。本研究結果は「扁桃体の亜神経細胞集団が味覚刺激と内臓不快感刺激の両方で活動することで記憶が形成される」という仮説を支持している。 4.異なる感覚刺激を用いた連合記憶は特定の条件で干渉する 上記の研究に加えて異なる感覚刺激を用いた連合記憶が干渉しうるかを調べた。学習課題として文脈的恐怖条件づけと味覚嫌悪条件づけを用いた。両学習課題ともに扁桃体が連合性獲得の中枢と考えられており、干渉が生じうると予測した。両課題を様々な時間間隔で行ったところ、文脈的恐怖条件づけの2時間後に味覚嫌悪条件づけを行った時に味覚嫌悪記憶形成が障害された(図6)。また、味覚嫌悪記憶形成障害は長期記憶において観察され、短期記憶への影響はなかった(図7)。文脈的恐怖条件づけにより、味覚嫌悪記憶の固定化が障害されたと示唆される。 【総括】 本研究では、連合記憶形成と連合記憶の干渉に関して以下の点を明らかにした。 連合記憶形成時の扁桃体細胞集団の神経活動をIEGを用いたイメージング法により観察し、薬理遺伝学的手法により制御することで、一部の細胞(亜神経細胞集団)における刺激の収斂が連合記憶形成に関与することを示唆した。HSVは投与部位の神経細胞にランダムに感染することから、扁桃体では記憶に関わる細胞の選択に、神経投射などのhard-wiredな要素のみが関与するわけではなく、細胞の状態(細胞の興奮性、遺伝子発現など)の周りの細胞との相対的な差異も関与していると推察される。 異なる感覚入力を用いた記憶が干渉しうることを示した。従来、記憶の干渉は類似の学習課題を用いたときに顕著に生じ、異なった感覚入力を用いた場合は干渉が生じにくいとされてきた。その点で本研究成果は大変興味深いが、どのような神経生理学的基盤が記憶の干渉の原因となっているのかはほとんどわかっていない。両学習課題が扁桃体の一部の神経細胞に担われていること、味覚嫌悪記憶の長期記憶が影響されたことを合わせて考えると、両学習課題時に重複した神経細胞集団が活性化し、重複した細胞内で遺伝子発現に影響・発現した遺伝子産物の競合的搾取などが生じることで、記憶が干渉したのではと推察する。数時間離れた課題に対応した神経活動を検出するなどのさらに高度な実験手法がこれからの研究に必要である。 図1 味覚刺激を提示した時に活動した細胞の約半数が、内臓が不快感刺激を提示した時にも活動した。 図2 単純ヘルプスウイルス(CREB-AlstR HSV:HSV-CREB)を用いて、CREBとAllatostatin受容体の遺伝子を導入する。Scale bar:100μm 図3 CREBを遺伝子導入した細胞は味覚刺激時に優先的に活性化するA.BLAのすべての解析した細胞のうち味覚刺激時に活性化した細胞の割合 B.左:HSV-CREBを導入した場合。右:LacZ-CREBを導入した場合。味覚刺激時に活性化したGFP(+)細胞とGFP(-)細胞の割合。C.代表写真。矢印はGFP,Arcの共陽性細胞。Scale bar:20μm 図4 味覚刺激で活性化した細胞を高い選択性で内臓不快感刺激時に不活性化すると記憶形成が障害される。 A.実験スキーム B.条件づけプロトコール C.記憶成績。 左:HSV-CREB 右:HSV-LacZ 図5 A.HSV-CREB感染細胞を味覚刺激時に不活性化すると記憶形成が障害された。B.HSV-CREB感染細胞を内臓不快感刺激時に不活性化すると記憶形成が障害された。 図6 文脈的恐怖条件づけの2時間後に味覚嫌悪条件づけを行うと味覚嫌悪記憶形成が障害された。 B:文脈的恐怖記憶成績 C:味覚嫌悪記憶成績 図7 文脈的恐怖条件づけを2時間前に行うことで味覚嫌悪記憶形成の長期記憶が障害される。B:短期記憶と長期記憶の比較 左:恐怖条件づけを行わなかった場合 C:恐怖条件づけを味覚嫌悪記憶条件づけの2時間前に行った場合 | |
審査要旨 | 記憶は日々の生活で的確に行動するために必須であると共に、人を人たらしめる人格の形成にも関与する。そのため、記憶形成メカニズムの解明は神経科学で最も重要な課題の一つである。中でも連合記憶は、人を含め多くの動物が環境で適応的に行動するために、普遍的に備えている認知機能である。動物モデルを用いた先行研究により、連合記憶に関与する脳領域、神経伝達様式の変化、神経構造の変化、分子機構などが明らかにされてきた。さらに近年、記憶が特定の神経細胞集団 "neural ensemble" により表象されることを支持する知見が蓄積してきた。しかし、「学習時に、どの神経細胞集団がどのように活動して、記憶に関わる細胞が選択されるのか」は分かっていない。本研究の目的は、連合記憶形成に関与する、神経細胞集団の活動を明らかにすることである。 神経活動の"観察"と"制御"という相補的なアプローチを組み合わせて、上記の課題に取り組んだ。神経活動を観察するだけでは、観察された活動と記憶形成が無関係な並行現象の可能性があるため、特定の神経活動を選択的に制御することで記憶形成への役割を調べた。 1.味覚嫌悪学習時に生じる神経活動 本研究では味覚嫌悪条件づけを連合学習課題として用いた。マウスは味覚と内臓不快感の二つの異なる刺激の関係を学習する。嫌悪記憶が形成されるとマウスは条件づけで用いた味覚刺激を避けるようになる。味覚と内臓不快感刺激を数分から数時間の時間間隔を設けて提示しても学習が成立するため、二つの刺激に対応した神経活動を明確に区別できる。味覚嫌悪学習時の扁桃体基底外側核 (BLA)における神経活動をArc catFISH法により大規模にイメージングした。Arcは神経活動に依存して一過性に発現が誘導されるImmediate early gene (IEG)の1つで、神経活動マーカーとして用いられる。Arc の細胞内局在が時間的に厳密に制御されていることを利用して、数百個の神経細胞の活動を複数のタイムポイントで観察することを可能とする。 味覚刺激と内臓不快感刺激によってそれぞれ10.1 ± 2.0 %, 9.2 ± 0.6 %の細胞が活動した(数値は平均値±SEM。以下同様)。また、味覚刺激と内臓不快感刺激の両方で活動した細胞は4.2 ± 0.3 %もあった(もし独立であれば、両方で活動する細胞の割合は0.95 ± 0.23 %と算出される。味覚刺激と内臓不快感刺激で活動した細胞集団の重なり(類似度)は44 ± 0.1 % であった。味覚刺激を提示した時に活動した細胞の半数近くの細胞が内臓不快感刺激でも活動したことを意味する。本結果を受け、「扁桃体の神経細胞(亜神経細胞集団)が味覚刺激と内臓不快感刺激の両方で活動することで記憶が形成される」という仮説を立てた。仮説を検証するためには、味覚刺激で活性化した細胞のみを選択的に、内臓不快感刺激提示時に不活性化しなければならない。CREB-Allatostatin システムを用いて、これを達成した。CREBとAllatostatin受容体の両方の遺伝子を搭載した単純ヘルペスウイルス(CREB-AlstR HSV: HSV-CREB)を使用することで、両遺伝子を一部の細胞にのみ発現させた (19 ± 1.8 %)。転写因子の一つである、CREBを過剰発現した細胞は細胞の興奮性が上昇する。Allatostatin受容体はショウジョウバエ由来のGタンパク共役型受容体であり、リガンドのAllatostatinが結合すると細胞は過分極し活動が可逆的に抑制される。 2. CREB による味覚刺激時に活動する細胞の選択 まずCREB が味覚刺激提示時の細胞の活動に与える影響を調べた。ウイルス感染細胞(GFP陽性細胞)と非感染細胞(GFP陰性細胞)を分けて解析したところウイルス感染細胞が優先的に活性化していた。GFP陽性細胞のうち63 ± 3.3 % が味覚刺激提示時に活性化したのに対し、GFP 陰性細胞のうち3.4 ± 1.4 % が活性化した。一方でコントロールウイルスとして、CREBをLacZ に置換したLacZ-AlstR HSV (HSV-LacZ)を用いた場合は、GFP 陽性・陰性細胞ともに同程度活動した(10.9 ± 3.2 % vs 11.6 ± 1.2 %)。これらの結果は、扁桃体において神経細胞にCREB を導入することで、それらの細胞が味覚刺激提示時に優先的に活性化することを示している。 3. 味覚刺激と内臓不快感刺激の収斂を阻害すると記憶形成が障害される 味覚刺激で活動した細胞が内臓不快感刺激でも活動することが記憶形成に関与するかを調べた。HSV-CREB をBLA の神経細胞(~20 %)に感染させ、味覚刺激提示後にAllatostatin を投与した。これにより、味覚刺激で活性化した細胞を高い選択性で内臓不快感刺激時に不活性化した。Allatostatin 投与により記憶形成が障害された。しかし、ランダムにBLA の20%程度の細胞を内臓不快感刺激時に不活性化した場合にも同様に記憶形成が障害されるかもしれない。この可能性をHSV-LacZ を用いて検証した。HSV-LacZ を感染させた場合は、Allatostatin を投与しても記憶成績に影響はなかった。 もし、味覚刺激と内臓不快感刺激の亜細胞集団における収斂が連合記憶形成に関与するなら、HSV-CREB に感染した細胞(味覚刺激で優先的に活性化する細胞)を味覚刺激時にのみ抑制しても記憶形成が障害されるはずである。 HSV-CREB 感染細胞を味覚刺激時にのみ不活性化するために、味覚刺激と内臓不快感刺激の間隔を2.5 時間設け、味覚刺激の30 分前にallatostatin を投与した(予備実験において、allatostatin の効果が30 分以上3時間以内であることをすでに確認している)。Allatostatin 投与により、記憶形成が障害された。さらに、HSV-CREB に感染した細胞を内臓不快感刺激時に不活性化した場合も記憶形成が障害された。 以上のように、味覚刺激と内臓不快感刺激の一部の細胞における収斂を阻害するために、HSV-CREB 感染細胞を味覚刺激または内臓不快感刺激時に不活性化すると、いずれの場合も連合記憶形成が障害された。本研究結果は「扁桃体の亜神経細胞集団が味覚刺激と内臓不快感刺激の両方で活動することで記憶が形成される」という仮説を支持している。 4.異なる感覚刺激を用いた連合記憶は特定の条件で干渉する 上記の研究に加えて異なる感覚刺激を用いた連合記憶が干渉しうるかを調べた。学習課題として文脈的恐怖条件づけと味覚嫌悪条件づけを用いた。両学習課題ともに扁桃体が連合性獲得の中枢と考えられており、干渉が生じうると予測した。両課題を様々な時間間隔(0.5 hr ~ 5 hr)で行ったところ、文脈的恐怖条件づけの2時間後に味覚嫌悪条件づけを行った時にのみ味覚嫌悪記憶形成が顕著に障害された。また、味覚嫌悪記憶形成障害は長期記憶において観察され、短期記憶への影響は認められなかった。文脈的恐怖条件づけにより、味覚嫌悪記憶の固定化が障害されたことが示唆された。 本研究では、連合記憶形成と連合記憶の干渉に関して以下の点を明らかにした。連合記憶形成時の扁桃体細胞集団の神経活動をIEG を用いたイメージング法により観察し、薬理遺伝学的手法により制御することで、一部の細胞(亜神経細胞集団)における刺激の収斂が連合記憶形成に関与することを示唆した。HSV は投与部位の神経細胞にランダムに感染することから、扁桃体では記憶に関わる細胞の選択に、神経投射などのhard-wired な要素のみが関与するわけではなく、細胞の状態(細胞の興奮性、遺伝子発現など)の周りの細胞との相対的な差異も関与していると推察される。 異なる感覚入力を用いた記憶が干渉しうることを示した。従来、記憶の干渉は類似の学習課題を用いたときに顕著に生じ、異なった感覚入力を用いた場合は干渉が生じにくいとされてきた。その点で本研究成果は大変興味深いが、どのような神経生理学的基盤が記憶の干渉の原因となっているのかはほとんどわかっていない。両学習課題が扁桃体の一部の神経細胞に担われていること、味覚嫌悪記憶の長期記憶が影響されたことを合わせて考えると、両学習課題時に重複した神経細胞集団が活性化し、重複した細胞内で遺伝子発現に影響・発現した遺伝子産物の競合的搾取などが生じることで、記憶が干渉したのではと推察する。数時間離れた課題に対応した神経活動を検出するなどのさらに高度な実験手法がこれからの研究に必要である。 本研究は、連合記憶の形成と連合記憶の干渉の機構について、全く新しい手法で解析したものであり、博士(薬学)の学位授与に値すると判断した。 | |
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