学位論文要旨



No 129581
著者(漢字) 宋,俊煥
著者(英字)
著者(カナ) ソン,ジュンファン
標題(和) 鉄道駅を中心としたエリアマネジメントの役割と手法に関する研究
標題(洋) Role and Method of Area Management in Railway Station Based Area
報告番号 129581
報告番号 甲29581
学位授与日 2013.03.25
学位種別 課程博士
学位種類 博士(環境学)
学位記番号 博創域第926号
研究科 新領域創成科学研究科
専攻 社会文化環境学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 出口,敦
 東京大学 教授 大野,秀敏
 東京大学 教授 羽藤,英二
 東京大学 准教授 清家,剛
 東京大学 准教授 窪田,亜矢
内容要旨 要旨を表示する

本研究では、鉄道駅を中心としたエリアマネジメントの役割と手法について論じるため、まず、エリアマネジメントの概念と日本の都市計画の中でのエリアマネジメントの領域と位置づけを明確にし、今後鉄道駅周辺地区が担っていくべき役割を整理した上で、鉄道駅を中心としたエリアマネジメントの定義と基本的な考え方を示した。その上で研究対象を設定し、鉄道駅周辺地区とそのエリアマネジメントの実態把握と今後の課題を明らかにするため、(1)公共交通指向型開発(TOD)、(2)鉄道駅とその周辺空間の活用、(3)鉄道駅周辺の変遷という3つの観点に基づく研究を行った。各章で得られた知見を総括し、以下にまとめる。

第1章では、序論として本研究に至るまでの問題意識や研究の背景、研究の目的について述べるとともに、既往研究についての整理を行った上で、本研究の位置づけを明確にした。

第2章では、エリアマネジメントの概念と日本の都市計画上のエリアマネジメントの位置づけを整理した上で、鉄道駅を中心としたエリアマネジメントの役割を明らかにすることを主な目的として研究を行った。結論としては以下の3点にまとめられる。

第1に、世界各地のエリアマネジメントの動向によると、エリアマネジメントとは、社会的状況と都市問題に対する解決策として提示され、地域住民・地権者・テナント等が、自主的に地域の将来像を提示し、地域を維持・管理する一連の活動であり、日本の中では、都市再生特別措置法により(1)組織づくり、(2)計画づくり、(3)社会実験の支援に関する制度として整備されている。

第2に、既往文献によると鉄道駅周辺地区は、(1)CO2の削減や大気汚染防止、(2)交通混雑の緩和、(3)不動産価値の向上、(4)省エネルギー効率化という役割を持っていることが分かった。即ち、鉄道駅を中心としたエリアマネジメントの役割は、鉄道駅あるいはその周辺空間を利活用し、上記の役割を果たしながら推進させていく必要があると考える。

第3に、上記のエリアマネジメントの概念と鉄道駅周辺地区が担っていくべき役割を踏まえ、鉄道駅周辺地区エリアマネジメントの基本的な考え方として、(1)鉄道駅を中心とした地区間「競争」を前提とした計画理念、(2)地区内の多様な主体の利益となる「共益」を目指した活動目的、(3)官民協働に基づく地域主体の「自治」による地域管理・運営、(4)経済的効果と都市活動の活性化につながる現存空間の「利活用」の取り組み、(5)地区内多様な主体による資金と収益活動に基づく「自立」的な財源調達、の5点を整理した。

第3章では、鉄道駅周辺地区が抱えている課題の実態把握について、首都圏整備計画により整備されてきた東京30km圏の都市に着目し、公共交通指向型開発(TOD)の観点から鉄道駅周辺地区を定量的に評価する方法を構築した。それに基づき主成分分析とクラスター分析を行い、東京30km圏にある152の鉄道駅周辺地区の特徴と課題を明らかにし、今後TODを進めるためのエリアマネジメントの方策を提示した。結論としては以下の3点にまとめられる。

第1に、TODの定義に基づき、「TOD地区」に向けて地区が備えるべき性能を、(1)公共交通サービス、(2)人口集積、(3)都市密度、(4)構成要素の変化率、(5)社会的ニーズへの対応度、(6)地域の特徴という6点に整理した上で21の評価指標を体系化し、この評価指標に基づき鉄道駅周辺地区を定量的に評価する方法を開発した。

第2に、東京30km圏にある152の鉄道駅周辺地区を対象に、21の評価指標に基づく主成分分析を行った結果、(1)都市機能の集積性、(2)公共交通の連結・利便性、(3)都市機能の変化率、(4)都市の自立性の、4つの特性軸が得られた。また、主成分分析から得られた主成分得点を用いてクラスター分析を行った結果、対象地区群をA.高密・停滞型(51地区)、B.低密・成長型(28地区)、C.高成長進行型(20地区)、D.低密・衰退型(36地区)、E.業務拠点型(4地区)、F.高密都市管理型(3地区)、G.高密・成熟型(10地区)の7グループに類型することができ、類型別の特徴と課題を明らかにすると共に、TODを進める上でのエリアマネジメントの方策を提示した。

また、鉄道の利用頻度と地区類型とを組み合わせてみると、人口や都市機能の高密度な集積が鉄道の利用頻度にも良い影響を与えていること、歩行圏内の公共交通の密度もTODの計画に重要な要因であることが明らかとなり、鉄道駅周辺地区におけるエリアマネジメントは、鉄道駅を中心とした人口・都市機能の集積や公共交通計画と緊密に連携する手法を導入する必要があることを指摘した。

第3に、首都圏は、東京都心と連結性が良い地区を中心にセクター状の鉄道線に沿って都市圏が拡張していったため、例えば柏市が位置している首都圏東北地域のようにセクターでの連結性が良くない地区では相対的に衰退傾向があることが明らかとなった。また、人口減少時代において地区の衰退現象を解決し、人口集積が進む「TOD地区」に向かうためには、東京30km圏に位置する業務核拠点型鉄道駅を中心に都市機能を分担する横方向の連携ゾーンを形成し、ゾーン内の地区が役割分担をしながら課題解決を図ることが一つの有効な方策であることを示した。

第4章では、日本の鉄道駅周辺地区におけるエリアマネジメントの実態把握のため、38の鉄道駅周辺地区のエリアマネジメントに着目し、鉄道駅やその周辺空間の利活用の観点からみた類型化を行い、その傾向と特徴を明らかにし、類型別エリアマネジメントの主体や役割の特徴を整理した上で、今後の課題を提示した。結論としては以下の3点にまとめられる。

第1に、鉄道駅周辺地区のエリアマネジメントの実態を把握するための方法を、(1)地区特性、(2)組織主体の体制、(3)活動内容、(4)駅周辺空間の活用手法の4つの観点に基づき、25の評価項目にまとめた。

第2に、上記の評価項目に基づき、対象事例をA.駅周辺資源活用型(5地区)、B.駅周辺再開発型(10地区)、C.コミュニティ形成型(7地区)、D.駅周辺再活性化型(11地区)、E.駅機能強化型(2地区)、F.デザイン調整型(2地区)と6つのグループに類型することができた。さらに類型の代表事例を抽出し、各事例のエリアマネジメント手法の特徴を明らかにすると共に、課題を提示した。

第3に、各類型の代表事例から、公共交通の利便性に向けた活動が行われているが、未だに公共交通の利便性の観点からのエリアマネジメント活動は不十分であることを示し、公共交通指向型エリアマネジメントへの展開の必要性を示した。また、大半が組織経営等の財源的な問題が最も大きな課題として挙げられていることに対し、今後のエリアマネジメントは、地区の問題解決と共に経済的観念を導入した活動へと転換する必要性を示した。

第5章では、通勤圏の郊外都市である柏市に着目し、鉄道駅周辺地区の都市化プロセスを整理した上で、鉄道駅周辺地区の変遷の観点からみた柏駅と柏の葉キャンパス駅周辺地区の、それぞれのエリアマネジメント組織の特徴を明らかにし、利用者の観点からみた鉄道駅周辺地区の課題に基づき、エリアマネジメントの手法と役割を提示した。その結論は以下の4点にまとめられる。

第1に、柏市の都市化プロセスを、(1)川沿いに形成された小集落(1896~1956)、(2)郊外ベットタウンの建設(1957~1965)、(3)中心市街地の過密化と再開発(1966~1991)、(4)2つの鉄道駅を中心とした拠点地区の形成(1992~2003)、(5)2つの拠点地区の不均衡な成長(2004~現在)、の5つの段階に整理することができ、2つの鉄道駅周辺地区の異なるエリアマネジメント特徴を明確にした。

第2に、鉄道駅の利便性に向けた交通マネジメント手法とそれに基づいた地域主体の役割を示した。柏駅周辺地区は、周辺に多数存在する駐車場と連携し、タクシーの待機場としての運用や一定のバス停の国道6号線等への移動により駅前広場の渋滞を減らす方法等を提案しているが、そのためには現在のマネジメント組織に公共交通事業者と地権者等の地域の業務者の参画が必要であると考える。

柏の葉キャンパス駅周辺地区は、シャトルバス運行企業とバス事業者のエリアマネジメント組織への参画によるバス路線調整の必要性と、公共交通サービスが充実していない地区に対するスマートサイクルやカーシェアリングのスポット設置等、公共交通サービス提供に関する役割の必要性を示した。

第3に、活性化につながる空間プログラムマネジメント手法とそれに基づく地域主体の役割を示した。柏駅周辺地区は、多数存在する地上駐車場と連携した仮設市場等を提案し、その活動を行うことが地区の賑わい創出と収益事業としてエリアマネジメント組織の自立化につながる有効な手法であることを論じた。そのためには、地権者と道路管理者である市行政や鉄道事業者の地域主体としての参画が必修である。

柏の葉キャンパス駅周辺地区は、現在の駅前空間が約30年後を想定したもので現在の使い方とは異なることから、低未利用空間を利活用し地域ならではの空間として使いこなす方法を提案した。そのためには、現在UDCKの構成団体である市行政と鉄道事業者の協力と意義の共有が必要であると考える。

第4に、TOD計画に基づく空間デザインマネジメント手法とそれに基づく地域主体の役割を示した。柏駅周辺地区は、空間特性により建て替えが困難で、低密度な都市規模が続いていることを指摘し、規制緩和と容積インセンティブによる地権者の収益とエリアマネジメント資金との連動させる仕組みの構築等を提案した。

柏の葉キャンパス駅周辺地区は、乱立する建物を管理するための柏の葉ならではのデザインガイドライン策定の必要性と、そのための行政の制度的な協力とエリアマネジメント組織によるガイドラインの運営の仕組みの必要性を示した。

審査要旨 要旨を表示する

我が国の大都市郊外の開発の多くは、都心から郊外部に延伸する鉄道駅の整備と共に進行してきたが、鉄道駅が交通結節点としての機能を活用するような整備事業や既存施設の活用は、従来の行政主導の都市計画手法では、公共交通の利便性向上、都市機能の集約、省エネルギーや低炭素化といった課題に十分に対応できていない。そのため、各地区固有の課題や条件に対応した地域主体の施設・空間の利活用や交通システムの改善等の取り組みが求められており、近年、国内外で増加している地域の民間事業者主体によるエリアマネジメントが着目されているが、その手法や役割の整理と体系化は未着手であり、都市計画学上の課題となっている。

そこで、本研究は、地域間競争を前提とした地域主体の利便性や快適性向上のための事業に取り組む鉄道駅を中心とした地区(鉄道駅周辺地区)のエリアマネジメントに着目し、国内の事例調査に基づきながら、その役割と手法について論じたものである。その所見は以下の通り取りまとめられる。

第1章では、研究の背景、目的、およびエリアマネジメントに係る既往研究の整理による本研究の位置づけを整理した。

第2章では、まず鉄道駅周辺地区のエリアマネジメントの概念と期待される役割について、文献調査、専門家へのヒアリング等を通じて整理した。次に、世界各地で実施されているエリアマネジメントの事例を収集し、それぞれの手法の相違や類似点を整理すると共に、我が国で取り組みが進むエリアマネジメントの特徴を欧米との比較により明らかにした。また、エリアマネジメントに関わる我が国と欧米諸国の政策や制度の整理を通じ、エリアマネジメントを支援する上での日本の都市計画制度の課題を指摘した。更に、既往研究の成果に基づき、鉄道駅周辺地区の課題と地区が兼備すべき機能を明確にした上で、従来の都市計画手法と対比させることにより、同地区におけるエリアマネジメントの基本的考え方を提示した。

第3章では、我が国の首都圏整備計画の下に整備されてきた東京30km圏に位置する鉄道駅周辺の152 地区を対象に、TOD(公共交通指向型開発)の観点からみた地区それぞれの特徴と課題を明らかにすると共に、得られた知見に基づき、今後TODを進める上で求められるエリアマネジメントの方策を提示した。まずTODの定義に基づく評価指標を体系化した上で、それら指標群を用いた主成分分析によるTODの観点からみた鉄道駅周辺地区特性の定量評価方法を開発し、各対象地区の特性を比較評価できることを示した。次に、クラスター分析によって対象地区の類型化を行った結果、7つの類型に分類できることを示した。更に、開発した方法により導出された各類型の特性を踏まえ、東京30km圏のTOD推進のために求められる方策として、各タイプの特性に応じた地区のエリアマネジメント、およびタイプの異なる地区で相互に機能を補完し合うゾーン形成の2つの方策を提唱し、その必要性と効果について論じた。

第4章では、文献調査やweb検索により鉄道駅周辺でエリアマネジメントが実施されている38地区の国内事例を抽出し、鉄道駅施設とその周辺空間の利活用の観点から6タイプに類型化を行い、各類型における立地環境特性、地価等の経済的特性、エリアマネジメントの主体と役割といった項目別に類型の傾向を整理した。更に、地区を含む都市の拡大傾向と新規開発時点からの成熟化の度合いの2つの観点からみたエリアマネジメントのタイプに一定の傾向がある点に着目し、地区の成熟化と拡大化に伴うエリアマネジメントの役割の段階的な変遷について論じた。

第5章では、東京30km圏に位置し、鉄道駅を中心とした新規開発や再整備が進行する柏市に着目し、市中央部の既成市街地整備型、および市北部の新規開発地型それぞれの鉄道駅を中心とした地区の都市化のプロセスと官民協働によるマネジメント組織の主体と役割の変化との関係、および都市化の各段階におけるマネジメントの対象や手法の変化を整理した。また、それぞれの地区の利用者の観点からみた課題をアンケート調査等により明らかにし、課題解決のために求められるエリアマネジメントの手法および関係主体の役割を提示した。

第6章では、上述までの章を通じて得られた知見を総括すると共に、郊外開発地における鉄道駅を中心とした地区に求められるエリアマネジメントについて、その役割と手法を整理し、今後の展望を論じた。

以上の研究成果は、主として郊外開発地における鉄道駅を中心とする地区の整備および施設・空間の利活用に地区間競争の環境下で地域が主体的に取り組むエリアマネジメントの役割と具体的手法を事例の検証により明らかにすると共に、その必要性と今後の展望を論じており、都市計画学に寄与するところが大きい。従って、博士(環境学)の学位を授与できると認める。

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