学位論文要旨



No 129605
著者(漢字) 奧村,光平
著者(英字)
著者(カナ) オクムラ,コウヘイ
標題(和) 高速光軸制御を用いた撮像・投影システムの研究
標題(洋)
報告番号 129605
報告番号 甲29605
学位授与日 2013.03.25
学位種別 課程博士
学位種類 博士(情報理工学)
学位記番号 博情第427号
研究科 情報理工学系研究科
専攻 システム情報学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 石川,正俊
 東京大学 教授 篠田,裕之
 東京大学 教授 志村,努
 東京大学 准教授 苗村,健
 東京大学 講師 奥,寛雅
内容要旨 要旨を表示する

近年のビジョンセンサによる撮像・処理のミリ秒オーダという高速化にともない,従来では困難だった動きを有する対象を扱うアプリケーションやシステムがさかんに研究・開発されている.

一方,動きを有する対象を扱う際,ビジョンのセンシング可能な範囲(画角)を超えて撮像したい場面がしばしばあるため,フィードバック制御により視線方向を動的対象に逐次整合させる手段が有効と考えられる.一般的にビジョン筺体を設置することでパン・チルトに視線方向を制御可能な電動雲台と呼ばれる装置がしばしば使用される.

しかしながら,ミリ秒オーダというビジョンの高速性に対して,本装置は数百ミリ秒オーダの応答性能と圧倒的に遅い.すなわち,高速ビジョンに特化した電動雲台に代わる高速な視線制御システムが必要であると考えられる.

また光の相反性から,プロジェクタによる投影はビジョンによる撮像と等価に扱うことが可能であるため,高速視線制御システムは,高速な投影方向の制御システムとしての応用も期待される.

以上の背景の下,本論文では,高速に光軸方向を制御可能な光学系を開発し,本光学系と,映像情報を取り扱うデバイスであるカメラ(ビジョンセンサ)やプロジェクタを組み合わせることによる,「動的物体に特化した撮像・投影の枠組み」の必要性及び有効性を主張する.特に,「1msオートパンチルト」「光てこを用いた高速飛翔体の映像計測」「動的物体への投影型拡張現実感」という三つの応用技術を提示する.

審査要旨 要旨を表示する

本論文は、「高速光軸制御を用いた撮像・投影システムの研究」と題し、7章より構成されている.本論文は、高速光軸制御を実現するシステムを開発し、それを用いた撮像手法や投影手法を提案し実現することにより、動的対象物に対する新しい映像情報制御技術を開拓している.

第1章は「序論」であり、ビジョンセンサによる外界情報の取得とその動的制御並びに映像情報提示技術の現状を概観し、従来の低いフレームレートでの技術では、機械系あるいは光学系のダイナミクスが、システム全体の高速化におけるボトルネックとなっていることを指摘し、その解決を目指し、システムの高速化を目指した関連技術分野の課題を概観した上で、本研究の背景と目的について述べている.

第2章は「高速視線制御システム」と題し、映像取得の際のカメラの視線方向の制御、すなわちカメラの光軸方向を高速に制御可能な光学系を提案し、実際に製作したシステムについて述べている.具体的には、二軸のガルバノミラーを用いた手法を用いているが、従来のシステムでは、二軸ともミラーを小さくすることができなかったため、可能な画角と高速性の双方の実現が課題であった.そこで、二軸とも小型のガルバノミラーを利用できる光学系として、瞳転送系と呼ばれる光学系を用いたシステムを提案し、高速で広い画角を持つ視線制御が実現できることを示し、実際にシステムを製作して提案した原理を確認している.

第3章は「サッカードミラーのユニット化」と題し、第2章の原理に基づき、その性能を向上することを目指して、ミラーの小型化を実現し、極めて高い性能を引き出すことに成功している.動特性を向上させるためには、ミラーの小型化が必要で、なおかつ撮像性能を低下させない光学系の設計が必要である.この実現のため、用いるデバイスの選択や光学系の設計を精緻化することにより、「サッカードミラー」と称するユニット化されたシステムを製作し、性能評価した結果、光軸方向を40deg変化させるのに、わずか3.5msで実現できることを確認している.

第4章は「1msオートパンチルト: Full HD画質での投擲物体の映像計測」と題し、動的な対象物を被写体とする撮像、例えばスポーツ中継等で、人間の目ではわかりにくいシーンを人間にわかり易い映像として撮像することを目的として、新たに「1ms オートパンチルト」システムを提案・製作し、実際に従来では得られなかった映像例を得ている.このシステムは、サッカードミラーユニットに視線制御を実現するための高速ビジョンとFull HDで映像記録するためのカメラを同軸に設置したもので、スポーツゲームにおいて激しい速度変化を伴うボールや特定選手を常に画角内に収まるような映像を取得するものである.物体認識には、単純にHSV色空間をスレッショルドとする色認識を用いている.このシステムにおいて、加速度に対する頑健性を評価するため、対象の位置を入力とし、視線方向を出力として、周波数応答を測定した.その結果、遮断周波数や位相が90deg遅れる周波数は、従来の研究に対して10倍近く向上することを実証している.また、実際のスポーツ映像の撮影を想定し、卓球のラリーゲームにおいてボールの動きを撮影する実験を行った結果、速度ベクトルがほぼ反転する打ち返しや卓上での跳ね返り時等、大きな加速度がかかる場面についても、安定で継続的なFull HD画質での映像を記録することに成功している.

第5章は「光てこ法を用いた高速飛翔体の映像計測」と題し、サッカードミラーと光てこを用いて高速飛翔体の映像を計測する手法を提案し、実際に高速飛翔体の今までにない映像の取得に成功している.高速飛翔体をトラッキングしながら撮像したいというニーズは高く、従来から、非常に明るい照明下かつマイクロ秒オーダの露光時間で、固定された10、000fps以上の高速度カメラを用いて、限られた視野内における撮像が限界であった.そこで、サッカードミラーユニットを用いて、視線方向を高速飛翔体に合わせることにより、高輝度照明を用いることなく、高精細でモーションブラーの無い映像を長い時間撮像できるシステムを提案している.このシステムでは、高速飛翔体の初期の軌道を予測することで、像平面内における対象と視線のずれのダイナミクスを大幅にキャンセルし、さらに高速画像上のずれをフィードバックすることで、高速飛翔体(初速約250m/s)の映像計測に成功している.

第6章は「動的物体への投影型拡張現実感」と題し、動く物体表面へ何らかの映像を投影することによって投影型拡張現実感を実現するシステムとして、「るみぺん」を提案し、実際のシステムを製作している.通常の拡張現実感システムでは、固定のプロジェクタを用いたものがほとんどであり、投影する対象は主に静止物体か、極めて低速に動く対象であった.一般的に、対象が動く物体である場合、プロジェクタとビジョンの映像の間で投影画像の時間幾何学的整合性を取ることが困難であった.そこで、サッカードミラーユニットに高速ビジョンとプロジェクタを同軸に設置したシステムを提案し、加えて、画像の投影があっても第4章で述べた1ms オートパンチルトシステムの物体認識アルゴリズムを適用できるように、事前に行うキャリブレーションデータを用いたアルゴリズムを提案し、実際に、動く卓球の球の上にその動きに対して相対的に静止した映像を投影できることを示している.

第7章は「結論」であり、本研究の成果がまとめられている.

以上要するに、本論文は、高速に動く対象物に対する撮像・投影において、高速ビジョンを用いた高速光軸制御を提案することにより、光軸の高速で正確な制御が可能となり、結果として今までにない撮像・投影が可能であることを示したものであり、実際の高速対象物に対して、いくつかの撮像・投影例を示すことにより、その有効性を実証したものである.本論文の成果は、高速対象物に対する撮像・投影技術を飛躍的に向上させ、様々な応用展開を可能とするものであり、関連する分野の発展に貢献するとともに、システム情報学の進歩に対して寄与することが大であると認められる.よって本論文は博士(情報理工学)の学位請求論文として合格と認められる.

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