学位論文要旨



No 129606
著者(漢字) 野田,聡人
著者(英字)
著者(カナ) ノダ,アキヒト
標題(和) 二次元導波路を用いた安全な電力伝送の研究
標題(洋) A Study on Safe Power Transmission Using Two-Dimensional Waveguide
報告番号 129606
報告番号 甲29606
学位授与日 2013.03.25
学位種別 課程博士
学位種類 博士(情報理工学)
学位記番号 博情第428号
研究科 情報理工学系研究科
専攻 システム情報学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 篠田,裕之
 東京大学 教授 安藤,繁
 東京大学 教授 満渕,邦彦
 東京大学 准教授 眞溪,歩
 東京大学 講師 奥,寛雅
内容要旨 要旨を表示する

This thesis reports on a research project that aims to develop a safe, up to 10-watt available, and tabletop-size wireless power transmission system based on two-dimensional waveguide power transmission (2DWPT) technology. Portable electronic devices having a special receiver coupler can be charged by just putting them on the 2-D waveguide surface. The tabletop-size interface is significantly larger than typical wireless charger pads for mobile phones, which have recently become commercially available.

If the whole surface of a table is covered with the 2DWPT system, electronic devices just placed wherever on the table surface can be charged and users do not have to be aware of where the charging spot is. Moreover, any items usually placed on the table can be electronized. For example, if a coffee cup had a small display and a receiver coupler, it could tell today's weather to the user.

In 2DWPT system, microwave is confined in the waveguide sheet and generates evanescent field around the sheet surface. Special receiver couplers put on the sheet surface can extract the microwave across the sheet surface. This scheme was originally proposed by Yamahira et al. in 2006.

In this work, a trade-off relationship between selectivity and efficiency of the scheme is pointed out, and a 2DWPT system is designed to achieve high selectivity while the efficiency remains practically high. The term "selectivity" expresses the contrast between the power extracted by a special coupler and the power unintentionally extracted by other general objects. The most important contribution of this work is to improve the selectivity by modifying the waveguide sheet to have a thick surface insulator layer and developing a high-quality-factor (high-Q) resonant coupler.

As an experimental result, power transmission to a 6.5×3.7-cm2 coupler at 40% efficiency on a 56×39-cm2 sheet was achieved. The efficiency was defined as the ratio of dc output power of coupler to the microwave input into the sheet.

The safety was also confirmed by measuring specific absorption rate (SAR), the power absorption per unit mass of human tissue. The maximum localized SAR was less than 2 W/kg, the limit provided in the guideline by The International Commission on Non-Ionizing Radiation Protection (ICNIRP).

This thesis also presents a complete 2DWPT system development including designs of phased array microwave source, waveguide sheet, receiver coupler, and microwave-to-dc converter circuit. The phased array microwave source enables controlling standing wave in the sheet and stable power transmission independent of the receiver position.

The results presented in this thesis indicate the feasibility of the large-area 2DWPT system as above mentioned.

審査要旨 要旨を表示する

本論文は,ワイヤレス電力伝送システムの一形態として,受電デバイスに対し充分広い面積の平面を給電インタフェースとし,そこに近接した受電デバイスに選択的に電力を伝送する方法を提案している.使用状況の具体例としては,机の上全体を給電インタフェースとし,机の上の任意の位置に置かれた携帯電話やパソコン周辺機器等に数ワット程度の電力を伝送するといった状況を想定している.選択的な電力伝送とは,このような日常的な生活環境において,人体や他の電子機器類を含む,給電に無関係な物体に悪影響を及ぼさずに給電することを意味しており,これは実用上必須の要求である.

本論文で提案する手法は,シート状導波路を用いた二次元通信技術を基礎としている.本技術は,シート状媒体によって電磁波を二次元的に導波し,その表面に近接した特殊なカプラによって電磁波を受信することで通信・給電を行う技術である.本論文の主眼は,電力伝送システムとしての二次元通信システムにおいて,選択性と電力伝送効率の決定要因を明らかにし,これらを実用的なレベルで両立する手法を確立することである.

本論文は第1部と第2部に分かれ,第1部において選択的給電を実現する方法を論じている.第2部においては,第1部で得られた知見を利用した,二次元通信の応用システムの例を示している.

第1部は8章から成る.第1章は序論として,二次元導波路電力伝送技術の位置づけを,他のワイヤレス電力伝送技術と比較して論じ,本技術の優位性と解決すべき課題を明確にしている.

第2章では,以降の議論の準備として,二次元導波路の導波モードを定式化している.

第3章では,導波シート表面を横切ってシート内部から外部に電力が流出する現象について理論的考察を行い,流出電力密度の最大値はシート外部に生成される磁界強度に比例することを導いている.さらに,漏洩電磁界の低減と伝送効率の向上とは相反する要求であり,一方を決定すれば他方の理論的な限界が決定することを明らかにしている.

第4章では,導波シート表面を覆う絶縁体層を導入したモデルにおいて,選択的給電の実現方法について述べている.絶縁体層に接触する物体により空洞共振器が形成されていると捕え,この空洞共振器のQ値とシートからの流出電力密度とが近似的に比例関係にあることを導いている.これに基づき,選択的給電のために,一般の物体ではQ値が低くなるように絶縁体層を充分厚く設定し,一方受電カプラは厚い絶縁体層を介しても充分に高いQ値で共振する構造とする,という指針を示している.また導体平板が絶縁体層表面に接触することで外部に放射されるエネルギーを電磁界シミュレーションにより見積もり,絶縁体層厚さを決定している.

第5章では,厚い絶縁体層上に接触することで高いQ値で共振するカプラ構造を提案している.提案構造はシート上で環状の導波路を形成し,絶縁体層中では伝導電流がゼロであるという制約を,外部空間への放射場を伴わずに満足するような共振モードを持つ.シミュレーションと実測により,提案構造の有効性を示している.

第6章では,カプラで受信したマイクロ波を効率的に直流電力に変換する整流回路の設計手法を提案している.ダイオードの整流作用により発生する高調波を,その次数に応じ適切なインピーダンスで終端し,高調波成分の電力損失を抑制するフィルタの実現方法について,回路構造の対称性を利用する手法を提案している.先行研究と比較して,回路寸法のコンパクトさと変換効率の高さの観点から提案手法の有用性を示している.

第7章において,整流回路を組み込んだ直流出力型カプラを示し,その性能を検証している.また,このカプラをシート上で走査し,伝送効率がカプラ位置に依存することについて実測結果を示した.

第8章では,伝送効率の位置依存性を抑制するためにフェーズドアレイを用いる方法を提案している.600mm角のシートを28個の入力ポートで囲み,各ポートの入力の位相は360度の範囲を16段階で調整できる.カプラ位置に応じて適切に各ポートの位相を調整することで,伝送効率の変動を2dB以内に抑えられることを実験により示した.

第2部では二つの応用システム例を示している.第9章において,整流カプラによって無線通信モジュールを駆動し,ワイヤレスかつバッテリーレスな無線センサモジュールの例を実証している.センサモジュールからホストコンピュータに,100ミリ秒周期で継続的に8ビットのセンサデータの無線伝送を行うデモシステムを示している.

第10章では,シート上のRFID(radio frequency identification)タグの位置推定システムを実現している.単一のRFIDリーダの出力を分配してフェーズドアレイによりシート内に電磁波の焦点を形成し,その焦点を走査してタグ応答の信号強度が最も大きくなる焦点位置を以て,タグの位置と推定する.タグは固有のIDを持っているためシート上で複数のタグ位置を同時に推定できる.

最後に第11章で本論文の提案と成果について総括している.本論文は二次元導波路を用いてワイヤレスで安全に電力を伝送するための方法について,根底にある理論的な限界・トレードオフ関係を明確にしつつ,実用的なレベルでのシステムの実現の具体例を示している.本論文の成果は,ワイヤレス電力伝送の新たな選択肢を提供することで,ワイヤレスセンシング,ユビキタスコンピューティング,ヒューマンインタフェース,およびロボティクス等の工学分野に貢献する.

よって本論文は博士(情報理工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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