学位論文要旨



No 129618
著者(漢字) 永徳,真一郎
著者(英字)
著者(カナ) エイトク,シンイチロウ
標題(和) 温度可変な水滴の集合体を用いた空間型ディスプレイの構築法
標題(洋)
報告番号 129618
報告番号 甲29618
学位授与日 2013.03.25
学位種別 課程博士
学位種類 博士(情報理工学)
学位記番号 博情第440号
研究科 情報理工学系研究科
専攻 知能機械情報学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 廣瀬,通孝
 東京大学 教授 相澤,清晴
 東京大学 准教授 正宗,賢
 東京大学 准教授 広田,光一
 東京大学 准教授 苗村,健
 東京大学 講師 谷川,智洋
内容要旨 要旨を表示する

空間演出において,樹木や噴水等は「視覚的に彩りを与える」「利用者が『実体』に触れて楽しむ」という役割を担ってきた.近年,そのような樹木や噴水等と同様の役割をもつものとして水を利用したディスプレイやアート作品が研究開発されているが,利用者が見て楽しむだけの装置にとどまっている.本論文では「水」の特徴の1つ「人が触れる/触れたくなる素材」に着目し,見るだけではなく触れて楽しむことが可能な新たな空間型ディスプレイとして,複数の水滴の集合を用い,色彩情報を有する視覚情報ならびに温度情報の同時提示が可能なディスプレイの構築法を述べている.

本論文は全7章から構成される.

第1章「序論」

空間演出における「水」の特徴を述べ,水とITの組み合わせにより水に視覚情報だけでなく温度情報も同時に提示することで,見ても触れても楽しむことが可能な空間型ディスプレイの構築が本研究の目的であると述べている.

第2章「関連研究」

ディスプレイを3次元視覚ディスプレイの観点,五感ディスプレイの観点ならびに,両者における実体としての「水」の役割の観点で整理している.関連研究の観点からも(1)「触れる」「中に入れる」空間型ディスプレイの実現において「水」は人にとって安全であるもの/普段触れるものであり,適した素材である,(2)ディスプレイの情報提示媒体として実体を用いることで,利用者が提示情報に触れるようになる,(3)五感ディスプレイの観点において,視覚以外の情報は提示情報の印象を高めること,を挙げ,空間型ディスプレイにて「水」を媒体とし,視覚以外の五感情報として温度情報を重畳させることにより見ても触れても楽しむことが可能な空間型ディスプレイが構築可能であると述べている.

第3章「水滴を用いた温度情報重畳可能な空間型視覚ディスプレイの提案」

温度情報を重畳可能な空間型視覚ディスプレイの実現方法として色彩情報を有する視覚情報ならびに温度情報を解像度高く提示するために,水の形態は水滴で用いる方式が適することを述べている.水滴を用いた具体的な実装方法として,視覚情報は水滴群を平面状に配置して落下させ,落下する水滴群にプロジェクタで映像を投影することで水滴1滴を1dotとした2次元映像を表現し,水滴群の落下位置に同期させて映像をプロジェクタから投影することで,残像の集合により3次元的な視覚情報を提示,温度情報は水滴群の各水滴の温度を水滴毎に制御することで水滴群全体として情報表現を行う方式を提案している.

水滴群を平面状に並べて落下させる機構として,上方に水の流入を制御する穴,下方に水滴穴を複数有する箱において,箱上方から流入する水量を調整することで,全ての水滴穴から同時に水滴を生成かつ落下させる方式(図1)を用いている.その上で,提案方式の予備検討として幅10dot×奥行き10dot×高さ10dotの色彩情報・3次元表現を有する視覚情報が提示を目的とした評価装置を構築し,色彩表現・目標とする解像度が表現可能であることを示している(図2).さらに,評価装置を展示し,提示映像に触れる利用者が見られたことから,実際にシステムを利用する利用者の立場からも提示映像に触れられることを実現できていると述べている.

第4章「水滴を媒体とした視覚情報表現」

視覚情報表現で課題となる明るさ・リフレッシュレートの向上を目的として,高さ方向に複数台のプロジェクタを設置し,水滴群に対し斜め方向から映像を投影,リアプロジェクションのようにプロジェクタの投影方向から視覚映像を見る方式を提案している.検証装置の作成・実験により,第3章で述べた評価装置よりも視覚情報の明るさ向上,リフレッシュレートの改善がなされたことを述べている.

第5章「水滴を媒体とした温度情報表現」

人間の温覚の知覚特性を踏まえ,温度情報の提示条件として「水滴間の距離を15mm以下」「水滴に9℃以上の温度差を発生可能」を満足する機構を検討している.水滴発生装置の各水滴穴にて水滴温度を制御する方式ならびにニクロム線を水滴穴にまきつける実装(図3)を採用し,シミュレーションならびに検証装置を用いた実測により上記条件を満足可能であること,水滴の温度を変化させることにより,水滴の落下タイミングが変わることを述べている.

第6章「視覚情報・温度情報が同時提示可能な空間型ディスプレイ」

温度が低い水滴よりも温度が高い水滴が早いタイミングで落下することを考慮した視覚情報表現に必要な投影映像補正方式を提案し,32℃の水滴と45℃の水滴が1つの水滴群内に同時に存在する状況下でその補正が有効であること,ならびに目的とする水滴を情報表現の媒体として用いた視覚情報・温度情報の同時提示が可能であることを示している.また,水滴群に映像を投影するプロジェクタの傾き(水滴群へ投影される光線の傾き)をパラメータとし,視覚情報の表現能力と温度情報の表現能力の間に存在するトレードオフ,提案手法における理論的な拡張性を論じている.

第7章「結論・今後の展開」

本論文における結論,ならびに本ディスプレイによって期待される展開として,温度情報以外の嗅覚情報・味覚情報も重畳可能な空間型の五感情報提示ディスプレイへの拡張,水を利用する生活シーンへの導入について述べている.

図1:水滴群発生機構

図2:提示された視覚情報

図3:水滴の加熱方法

審査要旨 要旨を表示する

空間演出において,樹木や噴水等は「視覚的に彩りを与える」「利用者が『実体』に触れて楽しむ」という役割を担ってきた.近年,そのような樹木や噴水等と同様の役割をもつものとして水を利用したディスプレイやアート作品が研究開発されているが,利用者が見て楽しむだけの装置にとどまっている.本論文では「水」の特徴の1つ「人が触れる/触れたくなる素材」に着目し,見るだけではなく触れて楽しむことが可能な新たな空間型ディスプレイとして,複数の水滴の集合を用い,色彩情報を有する視覚情報ならびに温度情報の同時提示が可能なディスプレイの構築法を述べている.

第1章「序論」

空間演出における「水」の特徴を述べ,水とITの組み合わせにより水に視覚情報だけでなく温度情報も同時に提示することで,見ても触れても楽しむことが可能な空間型ディスプレイの構築が本研究の目的であると述べている.

第2章「関連研究」

ディスプレイを3次元視覚ディスプレイの観点,五感ディスプレイの観点ならびに,両者における実体としての「水」の役割の観点で整理している.関連研究の観点からも(1)「触れる」「中に入れる」空間型ディスプレイの実現において「水」は人にとって安全であるもの/普段触れるものであり,適した素材である,(2)ディスプレイの情報提示媒体として実体を用いることで,利用者が提示情報に触れるようになる,(3)五感ディスプレイの観点において,視覚以外の情報は提示情報の印象を高めること,を挙げ,空間型ディスプレイにて「水」を媒体とし,視覚以外の五感情報として温度情報を重畳させることにより見ても触れても楽しむことが可能な空間型ディスプレイが構築可能であると述べている.

第3章「水滴を用いた温度情報重畳可能な空間型視覚ディスプレイの提案」

視覚情報・温度情報を同時提示可能な空間型視覚ディスプレイの実現方法として,水を水滴の形態で用い,視覚情報は水滴群を平面状に配置して落下させ,落下する水滴群にプロジェクタで映像を投影することで水滴1滴を1dotとした2次元映像を表現し,水滴群の落下位置に同期させて映像をプロジェクタから投影することで,残像の集合により3次元的な視覚情報を提示,温度情報は水滴群の各水滴の温度を水滴毎に制御することで水滴群全体として情報表現を行う方式を提案している.

提案方式の予備検討として幅10dot×奥行き10dot×高さ10dotの色彩情報・3次元表現を有する視覚情報が提示を目的とした評価装置を構築し,色彩表現・目標とする解像度が表現可能であることを示している.さらに,評価装置を展示し,提示映像に触れる利用者が見られたことから,実際にシステムを利用する利用者の立場からも提示映像に触れられることを実現できていると述べている.

第4章「水滴を媒体とした視覚情報表現」

視覚情報表現で課題となる明るさ・リフレッシュレートの向上を目的として,高さ方向に複数台のプロジェクタを設置し,水滴群に対し斜め方向から映像を投影,リアプロジェクションのようにプロジェクタの投影方向から視覚映像を見る方式を提案している.検証装置の作成・実験により,第3章で述べた評価装置よりも視覚情報の明るさ向上,リフレッシュレートの改善がなされたことを述べている.

第5章「水滴を媒体とした温度情報表現」

人間の温覚の知覚特性を踏まえ,温度情報の提示条件として「水滴間の距離を15mm以下」「水滴に9℃以上の温度差を発生可能」を満足する機構を検討している.水滴発生装置から排出される水滴温度をニクロム線により制御する方式を採用し,シミュレーションならびに検証装置を用いた実測により上記条件を満足可能であること,水滴の温度を変化させることにより,水滴の落下タイミングが変わることを述べている.

第6章「視覚情報・温度情報が同時提示可能な空間型ディスプレイ」

温度が低い水滴よりも温度が高い水滴が早いタイミングで落下することを考慮した視覚情報表現に必要な投影映像補正方式を提案し,32℃の水滴と45℃の水滴が1つの水滴群内に同時に存在する状況下でその補正が有効であること,ならびに目的とする水滴を情報表現の媒体として用いた視覚情報・温度情報の同時提示が可能であることを示している.また,水滴群に映像を投影するプロジェクタの傾き(水滴群へ投影される光線の傾き)をパラメータとし,視覚情報の表現能力と温度情報の表現能力の間に存在するトレードオフ,提案手法における理論的な拡張性を論じている.

第7章「結論・今後の展開」

本論文における結論,ならびに本ディスプレイによって期待される展開として,温度情報以外の嗅覚情報・味覚情報も重畳可能な空間型の五感情報提示ディスプレイへの拡張,水を利用する生活シーンへの導入について述べている.

筆者によって提案されたディスプレイは,水という実体のもつ「触れる/触れたくなる」要素に着目し,従来は見るだけであった水を利用したディスプレイに温度情報表現による触れる楽しみの取り入れた新たなコンセプトのディスプレイである.本論文で提案した水滴を利用した視覚情報・温度情報表現の実現方式により,コンセプトが具体的に実現可能である知見を得ている.また,ITと水を活用した屋内・屋外空間演出において,触れて楽しむ新たな演出手法が創出されることが期待される.

よって本論文は博士(情報理工学)の学位請求論文として合格と認められる.

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