学位論文要旨



No 129620
著者(漢字) 金﨑,朝子
著者(英字)
著者(カナ) カネザキ,アサコ
標題(和) 対象毎の負例クラスの導入による実世界からの多クラス物体認識
標題(洋)
報告番号 129620
報告番号 甲29620
学位授与日 2013.03.25
学位種別 課程博士
学位種類 博士(情報理工学)
学位記番号 博情第442号
研究科 情報理工学系研究科
専攻 知能機械情報学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 准教授 原田,達也
 東京大学 教授 廣瀬,通孝
 東京大学 教授 國吉,康夫
 東京大学 准教授 岡田,慧
 東京大学 講師 下坂,正倫
内容要旨 要旨を表示する

知能システムが実世界を理解し,知的なタスクを正しく遂行するためには,環境中のどこに何の物体が存在するかを知ることが重要である.古くからコンピュータビジョン分野において,画像に写っている物体の名前やカテゴリ名を特定する "物体識別" タスクと,画像から対象物体の位置を同定する"物体検出"タスクが広く研究されてきた.しかしながら,「何がどこに存在するか」を判断するタスク,すなわち"物体識別兼検出"タスクは,その重要性に相反して深く議論されてこなかった.また,これらのタスクは主にインターネット等に存在する画像データセットを対象とした機械学習により実現されてきたが,物体の位置や姿勢変化による見え方の変化,また照明変化や物理的な変形への対処は依然として難解な課題として残る.

本研究は実世界からの多クラス物体認識タスクに取り組み,これを"物体識別兼検出" タスクとして捉えて,"識別"タスクと "検出" タスクの両者における課題を同時に解決するための新しい手法を提案する.多クラス物体認識タスクにおいては,第一に物体ラベルと観測データの対応の学習(物体領域の発見),そして第二に対応する物体ラベルと観測データとの相関をより強めるパラメータの学習(物体認識器の最適化)が必要となる.そこで本研究では下記の二課題を扱う.

1. 弱教師付き学習による物体ラベルに対応した物体領域の発見

2. 教師付き学習による物体認識器の最適化

前者においては物体ラベルとの相関が特に強い"正例" サンプルの発見が重要であり,後者においては物体ラベルとの相関が特に強い "負例"サンプルの発見が重要である.提案手法は各対象物体に相当するクラスに相対する "負例クラス" を導入した多クラス識別問題を解くことで,両課題を解決する.弱教師付き色距離画像データセットを用いた評価実験,大規模画像データセットを用いた評価実験,そして実環境における多クラス物体認識の評価実験において,提案手法の有効性を示す.

審査要旨 要旨を表示する

本論文は「対象毎の負例クラスの導入による実世界からの多クラス物体認識」と題し,識別性と検出性を同時に考慮した多クラス物体認識手法の開発および様々な実世界データに適用した評価実験を行ったものであり,全7章からなる.従来コンピュータビジョン分野において,画像に写っている物体の名前やカテゴリ名を特定する"物体識別"タスクと,画像から対象物体の位置を同定する"物体検出"タスクが広く研究されてきた.しかしながら,「何がどこに存在するか」を判断するタスク,すなわち"物体識別兼検出"タスクは,その重要性に相反して深く議論されてこなかった.また,これらのタスクは主にインターネット等に存在する画像データセットを対象とした機械学習により実現されてきたが,物体の位置や姿勢変化による見え方の変化,また照明変動や物理的な変形への対処は依然として難解な課題であった.以下の各章では,この問題の分析と定式化,それに基づく新規手法の開発,評価,考察を行っている.

第1章「序論」では,多クラス物体認識の問題を定式化し,「物体ラベルに対応した物体領域の発見」と「物体認識器の最適化」の二つの課題の解決を要求機能として述べた上で,多数の物体の候補領域に対して識別と検出を同時に行う提案手法の方針を示した.

第2章「実環境からの物体認識の歴史と考察」では,物体識別・物体検出を含む従来の物体認識研究の考察を行った後,多クラス物体認識課題における負例クラスの扱い方について議論し,提案手法の指針を述べた.

第3章「対象毎の負例クラスの導入による多クラス物体認識手法の提案」では,提案手法の基づく線形多クラス識別手法の解説,識別性と検出性を同時に考慮した学習を行うために対象毎の負例クラスを導入する手法の提案,および提案手法を用いて実世界からの多クラス物体認識を行う具体的な解決方法を述べた.

第4章「弱教師付き学習による多クラス物体認識」では,実環境中に存在する物体ラベルのリストのみを教師データとする弱教師付き学習により,各物体ラベルに対応した物体領域を自動的に発見する手法を提案した.また,実環境を計測した三次元データを用いて従来手法との比較実験を行い,多クラス物体のランクを考慮した評価指標における提案手法の優位性を示した.

第5章「教師付き学習による多クラス物体認識」では,物体ラベルとの相関が特に強い"負例" サンプルを使用して物体認識器を最適化する手法を提案し,大規模画像データセットを用いた提案手法のスケーラビリティおよび認識精度の評価,学習による非剛体の多クラス物体認識の性能向上,および実環境三次元データにおける多クラス物体認識の性能向上を示した.

第6章「弱教師・教師付き学習による多クラス物体認識」では,第4章で述べた弱教師付き学習による物体領域の発見機能と第5章で述べた教師付き学習による物体認識器の最適化機能を組み合わせ,100 個の対象物体クラスを含む雑多な実環境計測三次元データからの多クラス物体認識を行った.本実験では,100 個中の70 個の対象物体について正しい領域の発見に成功し,また後段の物体認識器の最適化処理を行うことで,信頼度の高い出力結果の精度をより向上させることができた.このとき,信頼度の高い出力結果のみを評価すれば,提案手法によって正解の物体の認識率を向上させ,かつ誤認識率を抑えることが可能であった.

第7章「結論と展望」では,以上を総括した上で,対象毎の負例クラスの導入によって識別性と検出性を同時に考慮した多クラス物体認識器の学習が可能であり,実世界における実応用性が示されたと結論づけている.

以上,これを要するに,本論文は,コンピュータビジョン分野において最も大きな課題の一つであった実世界からの多クラス物体認識に取り組み,その有効性を示したものである.これにより,従来は独立に議論されていた"物体識別" と"物体検出" を同時に解決し,より実用的な状況下で多数の物体の認識を行うシステムの実現性が高まった.

以上の理由から,本論文は知能機械情報学上貢献するところ大である.よって本論文は博士(情報理工学)の学位請求論文として合格と認められる.

UTokyo Repositoryリンク