学位論文要旨



No 211750
著者(漢字) 坂本,光重
著者(英字)
著者(カナ) サカモト,ミツシゲ
標題(和) 水中不分離性コンクリートの広域層状打込み工法の開発
標題(洋)
報告番号 211750
報告番号 乙11750
学位授与日 1994.04.15
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第11750号
研究科 工学系研究科
専攻 土木工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 岡村,甫
 東京大学 教授 友澤,史紀
 東京大学 教授 魚本,健人
 東京大学 教授 國島,正彦
 東京大学 助教授 前川,宏一
 東京大学 助教授 小澤,一雄
内容要旨

 水中不分離性コンクリートは、不分離性・流動性・セルフレベリング性に優れたコンクリートであるが、流動距離が長くなると材料分離や強度低下が生ずる。このため、打込み範囲が広い場合には打込み管を移動して流動距離を短くしたり、仕切り型わくにより流動距離を制限する方法が用いられてきた。

 この方法は水深が深くなると打込み管が長大になるため移動が困難になる。

 さらに、仕切り型わくの設置には潜水作業が必要になるが、潜水作業は水深が深くなるにしたがって困難になり、特に水深が50mを超えると現実的に不可能になる。また、水中打継ぎ目は避けるものとされているが、施工数量が多くなると材料補給や施工設備の規模より連続打込みが困難となるため水中打継ぎ目が必要になる。したがって、水深が深く打込み面積が広い水中マスコンクリートの施工には、打込み管の移動や仕切り型わくを用いない合理的な流動距離の制御方法と、水中打継ぎ目処理の機械化が必要になる。

 本工法は、大水深下の広い打込み範囲全体に多数の打込み管を配置し、あらかじめ定めた各打込み管毎の打込み面積比にコンクリートを分配して流動距離を制御する分配圧送装置により、打込み管の移動や仕切り型わくを用いることなく全面積平坦に打上げるとともに、回転ブラシと水中ポンプ及び走行装置で構成する水中打継ぎ目処理装置により水中打継ぎ目処理の機械化施工を実現したものであり、本論文では広域層状打込み工法と称する。

 本論文はこの広域層状打込み工法の有用性を論述したものであり、6章より成っている。第1章は序論であり、本論文の構成について概述した。第2章では本論文に関する既往の研究例と施工例を総括した。

 第3章はこの工法の基本となる、コンクリートの流動性状と合流性状についてまとめた。初めに、コンクリートの水中落下高さを変えた実験を行い、強度変動と材料分離状況より、水中不分離性混和剤量2kg/m2・セメント量360kg/m2程度の配合では水中落下高さは30cm以下が適切であることを明らかにした。次いで、流動距離が20m以上の長距離流動実験を行い、流動距離が10mを超えると強度の低下と材料分離が多くなるため、流動距離は10m程度に制限しなければならないことを明らかにした。また、長方形と菱形の型わく内に2本の打込み管を対称に配置し、同時に同量のコンクリートを打込むとコンクリートは対称に流動し、2本の打込み管を結ぶ線分の垂直二等分線上で合流することを明らかにした。さらに、30m四方の型わく内に4本の打込み管を対称に配置し同時に同量のコンクリートを打込み、近隣の打込み管を結ぶ線分の垂直二等分線上で合流させることにより、コンクリートの合流位置は打込み量で管理できるとともに、配合強度240kgf/cm2に対し10m程度流動しても設計基準強度180kgf/cm2が確保できることを明らかにした。

 第4章はコンクリートの分配圧送装置の開発と明石海峡大橋主塔基礎の内核部の施工における稼働実績ならびにコンクリートの品質についてまとめた。

 実施工における流動距離は実験で確認した10mに対し、制御誤差や装置の故障等に対する安全性を考慮して8mとした。打込み範囲は直径56mの円形であり、流動距離が8m以下になるように打込み管を配置すると24本必要になり、各打込み管の打込み面積は93m2/本〜112m2/本と異なるため、実験時のように等分ではなく打込み面積の比率に分配しなければならない。

 このため、コンクリートの分配圧送装置は1合のポンプ・3台の2分岐弁・4本の打込み管の構成を1ユニットとし、これを6ユニット使用した。

 各ポンプの圧送速度は全体の圧送速度を各ユニットの打込み管の合計面積比で按分し、1ユニット内の打込み管毎の圧送時間は各打込み管の面積比となるように、3台の2分岐弁を切り替えて圧送する打込み管を選定した。

 実施工では1回当たりの打込み量を9000m3とし、全面積同時の3.5mリフトを14回繰りし、12万5千m3のコンクリートを半年間で打込んだ。

 打込み中のコンクリートの合流位置は計画合流位置±1mの範囲でゆっくりとした左右の移動を繰り返していた。最終リフトの約400mの合流位置は、80%が計画合流位置の±1m以内にあり1.5m以上の差は見られない。

 打込み中のコンクリートの高さの差は10cm〜20cmであり、最終リフトのコンクリートの平均高さは計画高さに対し-1cm、標準偏差は5cmであった。

 基礎内から採取したボーリングコアーの圧縮強度は配合強度240kgf/cm2に対し全て設計基準強度度80kgf/cm2を上回っており、平均259kgf/cm2、標準偏差20.1kgf/cm2であり、実験よりも良好な値であった。

 したがって、この工法によると流動距離を1m程度の精度で管理しながら全面積平坦にリフトアップし、良好な品質のコンクリートを得ることができる。

 第5章は広域打込みした各リフトを一体化する水中打継ぎ目処理装置の開発と実施工における稼働実績ならびに打継ぎ目の強度についてまとめた。

 最初に3種類(無処理・水洗い・ブラシ掛け)の処理による打継ぎ目の引張強度を求め、最も高い引張強度(14.6kgf/cm2)の得られたブラシ掛け処理に決定した。次いで、12mの流動距離が得られる菱形の型わくの半分を入力によるブラシ掛けと水中ポンプによる吸引処理、半分を無処理で上層のコンクリートを打継いだ。この実験では、無処理側のコンクリートは付着しなかったが、処理側は平均3.2kgf/cm2の引張強度で付着したことより、実施工においてもコンクリート面の沈殿物を除去する打継ぎ目処理により各リフトが一体化できる見通しを得た。この成果を基に、走行装置により連続走行しながら回転ブラシにより沈殿物を水中に浮遊させ、この濁水をポンプにより吸引除去する水中打継ぎ目処理装置を試作した。この装置により、4本の打込み管による合流実験において、30m四方のコンクリート面の打継ぎ目を処理したところ、処理効果は良好であったが、合流部の溝に車輪が落ち込み走行不能になる不具合が発生した。このため、車輪を大型化(直経347mm→1m)して走行性能を向上させ、幅3.4m・長さ20mの型わく内に実施工と同じ要領でコンクリートを打込み、中央部に深さ20cmの模擬溝を作り打継ぎ目処理をした後、コンクリートを打継いだ。この実験によると処理装置は円滑に溝を乗り越えて規定の速度(4m/分)で走行した。また、打継ぎ目の平均強度は9.5kgf/cm2であり、入力による処理より高い引張強度が得られた。実施工では打込みが完了する毎に直径56mの範囲を3日〜6日間で処理し、全体で13リフト処理した。基礎内から採取したボーリングコアーの打継ぎ目の引張強度は2.8kgf/cm2〜19.3kgf/cm2の範囲にあり、平均9.1kgf/cm2であった。したがって、広域打込みされた各リフトはこの水中打継ぎ目処理装置により一体化することができる。

 第6章は本研究の総合的な結論を述べた。本研究の成果を一言で述べると面積が広く水深の深い水中マスコンクリートの打込みを、打込み範囲全体に装置した打込み管へコンクリートを適切に分配することにより流動距離を制御しながら、全面積平坦にリフトアップするとともに、各リフト間を一体化する水中打継ぎ目処理を可能ならしめたことにある。本工法は明石海峡大橋主塔基礎という限られた構造物を対象に開発したものであるが、本工法を構成する基本的な技術は分配圧送装置と水中打継ぎ目処理装置である。分配圧送装置を構成するポンプ・2分岐弁・打込み管の組合せには制限は無く基礎の大きさによって自由に組み合わせることができる。また水中打継ぎ目処理装置の走行機構は円形を対象に構成したが、角度検出機構や方位検出機構を追加すれば基礎の平面形状に関わりなく処理できる。したがって、本工法は水中マスコンクリートの汎用工法として発展定着する可能性を有している。

審査要旨

 本論文は,面積が広く大水深下の水中マスコンクリート構造物へ水中不分離性コンクリートを打込む合理的な工法を開発することを目的に行ったものであり,その成果は明石大橋主塔基礎の内核部の施工において実証されており,その後の工事にも活用されている。水中不分離性コンクリートは,不分離性・流動性・セルフレベリング性に優れたコンクリートであるが,流動距離が長くなると材料分離や強度低下が生ずる。このため打込み範囲が広い場合には,打込み管を移動して流動距離を短くしたり,仕切り型わくにより流動距離を制限する方法が用いられてきた。しかし,これらの方法は,(i)大水深になると打込み管が長大となるため移動が困難となること,(ii)仕切り型わくの装置には,膨大な量の鋼材が必要となること,(iii)施工数量が多くなると連続打込みが困難となるため水中打継ぎ目が必要となること,などの欠点があり,大水深で打込み面積が広い水中コンクリートの施工には,流動距離の制御方法と水中打継ぎ目処理を大水深下で確実に行える機械装置の開発が必要であった。

 まず水中不分離性コンクリートの水中下での流動性状および合流性状について大規模な実験を行って,コンクリートの流動距離を10m以下に制限する必要があること,同時に同量打込む場合には,コンクリートの合流位置が2本の打込み管を結ぶ線分の垂直二等分線上にあること等を明らかにするとともに,ポンプ,分岐弁,打込み管から構成されるコンクリートの分配圧送装置の開発目標を明確にした。この目標を達成するために,各ポンプの圧送速度をそのポンプの受け持つ打込み区画の総面積に比例させ,さらに各ポンプに接続する打込み管の時間当り圧送量がそれぞれの打込み区画の面積比となるよう分岐弁を切替えることによって,各打込み区画のコンクリートのリフトアップ速度を同一とすることで合理的に流動距離を制御する方法を考案した。この方法を適用することにより,直径56mの円筒形で水深60mに構築された世界最大級の明石海峡大橋主塔基礎の内核部の施工において,流動距離を1m程度の精度で管理し,全面積を10〜20cm程度の差で平坦にリフトアップすることに成功している。

 広域打込みした各リフトを一体化するための水中打継ぎ目処理装置の開発を行うために,処理方法の違いによる打継ぎ部の引張強度を大規模な実験を行い調べている。その結果,適切に処理を行うことで水中打継ぎ目において各リフトを一体化することが可能であることが示されただけでなく,所要の打継ぎ部強度を得るためには,ブラシによりコンクリート面の沈殿物を除去し,これを直ちにポンプにより吸引処理することが必要であることを明らかにした。

 これらの成果に基づき,回転ブラシと吸引装置を搭載した水中打継ぎ目処理装置を試作し,水中打継ぎ目処理実験を繰り返し行い,その改良を繰り返すとともに,大水深下で打込面全面積を確実に処理するための自動走行制御装置の開発を行った。すなわち,打継ぎ処理範囲の中心から延ばしたケーブルの先端に処理装置を繋げ,ケーブルの張力と処理装置の走行速度と方向を同時に制御することで,打継ぎ処理範囲の中心から螺旋状に処理装置の走行を自動制御する方法を考案した。この方法を適用することで,打込み面積2462m3を持つ明石海峡大橋主塔基礎の内核部の施工において各リフト間の水中打継ぎ目処理を3〜6日間で行うことができ,採取したボーリングコアの打継ぎ目の引張強度が平均9.1kgf/cm2であることから,各リフトを合理的に確実に一体化することに成功している。

 本研究の成果は,打込み面積が広い大水深下における水中マスコンクリートの打込みを,仕切り型枠を設けることなく,打込み範囲全体に装置した固定打込み管へコンクリートを適切に分配することにより流動距離を制御しながら,全面積を平坦にリフトアップするとともに,各リフト間を一体化する水中打継ぎ目処理を可能ならしめたことにある。これにより,世界最大級の明石大橋主塔基礎の内核部の施工を合理的に行うことが可能となっただけでなく,その後の同種工事にも活用されており,汎用性の高い工法と位置づけられる。これは,水中マスコンクリートの施工に新しい途が開かれたものと認識され,コンクリート工学および土木工学の発展に寄与するところ大である。

 よって,本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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