学位論文要旨



No 211753
著者(漢字) 谷水,克行
著者(英字)
著者(カナ) タニミズ,カツユキ
標題(和) カラー印刷画像の自動検査に関する研究
標題(洋)
報告番号 211753
報告番号 乙11753
学位授与日 1994.04.15
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第11753号
研究科 工学系研究科
専攻 電子工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 高木,幹雄
 東京大学 教授 羽鳥,光俊
 東京大学 教授 原島,博
 東京大学 教授 坂内,正夫
 東京大学 教授 石塚,満
内容要旨

 高度なカラー画像品質を要求する市場を背景に、印刷現場では、印刷面に生じる欠陥の自動検査実現に対する強い要望がある。我々は、高品質印刷物として、テレホンカードなどのプリペイドカードのカラー印刷面の自動検査を目的とした自動検査装置を開発した。検査対象は網点印刷によるカラー画像であり、生じる欠陥は、形状欠陥と色調欠陥の印刷欠陥の他、カード打ち抜きずれの欠陥などである。カードは、機能にも増して付加価値としての印刷面絵柄が重要視されている傾向があり、芸術図書と同等の印刷品質が要求されている。従来、検査は正常画像との比較による検査が、人間の目視により行なわれているが、自動検査では人間の判定に準ずる判定が要求されている。

 本研究では、カードのカラー印刷面の自動検査装置の開発を目的として、検討を行なった。論文は全5章により構成されており、以下、各章の概要を述べる。

 第1章では、本研究の背景として、先ず、カード印刷物の市場規模と要求品質、および目視検査の難しさをまとめる。そして、一般の検査技術における印刷検査の位置付け、印刷検査自動化の現状とその問題点について述べ、本研究の位置付けと必要性を明らかにする。本研究の具体的な検討項目として、検査対象の特性と検査現状、判定条件の定量化、検査アルゴリズム開発、システム化の4項目を掲げて、各章で検討を行なうこととした。

 第2章では、対象とするカラー印刷物の印刷工程について示し、生じる欠陥の種別と欠陥の特徴を明らかにした。そして、自動化における欠陥検出上の要求項目をまとめた。

 カラー印刷面上の主な欠陥は、形状欠陥と調子欠陥に分類できる。まず、インク抜けや汚れなどの形状欠陥について、欠陥サンプルに対する目視検査判定を行ない、判定結果から、欠陥サイズ上の要求条件を明らかにした。また、微細欠陥としての形状欠陥の種別を、カメラ画像信号の処理によって識別する方法について検討した。この結果、形状欠陥のうち、特に、白抜け欠陥とヒッキー(1色のみのインク抜け欠陥)について、色再現の関係式を用いて、欠陥種別の検出条件を明らかにした。具体的には、RGB値変化率空間内で欠陥種別に対応する領域を明らかにし、検査画像の基準画像に対するRGB値の変化率を用いたLUT変換処理により、欠陥種別に応じた判定条件の設定が可能である。

 また、微細な形状欠陥を最も感度良く検出するための、画像処理パラメータの設定法について検討した。自動検査では、画像処理上、平滑化処理や絵柄の位置ずれ許容が欠かせないが、先ず、これらの設定の違いに応じた微細欠陥の検出感度の違いを明らにするため、形状欠陥をモデル化し、欠陥サイズ、レベル差、画像平滑化フィルタサイズ、および位置ずれ許容量の違いに応じた欠陥の検出条件を算出した。そして、形状欠陥部のレベル差を最も感度良く検出するための各パラメータの関係式を明らかにした。最後に、平滑化処理や位置ずれ許容設定があるなかで、形状欠陥の種別に応じた検査条件の設定が、上記、RGB値の変化率を用いたLUTの変形により可能であることを示した。

 続いて、広域的な色合いの違いである調子欠陥について、自動検査判定のための定量化法について検討した。先ず、調子欠陥サンプルを用いて、現場の検査員に、印刷面の色調に対する評価実験を行なった。なお、定量的評価にはCIEL*a*b*表色系の色差値を用いることとした。検査時の着目箇所における色差計測結果と、検査員の判定結果とを用いて、主成分分析により定量的な評価値を算出した。得られた評価値による判定と目視判定との比較の結果、熟練検査員との相関は、非熟練検査員を上回る94%程度であり、自動評価のための評価値として妥当であることを確認した。また、ここで示した調子欠陥の定量評価を検査装置に適用する場合の検査方法として、少量サンプルの目視判定を伴う半自動検査方法を提示した。さらに、検査員のばらつきについて検討を加えた結果、熟練の違いは、各検査員の基準検査員に対する相関係数の大小に対応していることが分かった。

 第3章では、インデックス法と名付けた新たな欠陥検出方法を示した。カラー印刷面の検査は、一般に、基準となる正常な印刷面との比較検査である。本研究で提案する手法は、画像の濃度値および座標値を属性値とするフラグによって構成される3次元フラグテーブル(インデックス空間と命名)を用意し、基準画像データに基づき、インデックス空間内の全てのフラグに、属性値に対す評価値を記述することにより、許容範囲を含めた形で基準パターンを表現することを特徴としている。検査は、検査画素の座標値と濃度値をもとにインデックス空間内の対応フラグを参照し、フラグの評価値を判定処理することによって行なわれる。手法の利点は、人間の視覚特性を考慮した複雑な判定条件を盛り込んだ検査が高速に行なえることである。本章では、検査の一連の流れを示した後、画像の位置ずれやレベル変動などの画像入力特性、人間の視覚特性を考慮した人間の感覚に準じた判定条件の設定方法を示した。

 提案した検査手法では、基準パターンの設定が重要であり、特に、条件設定のためには、許容限度見本としての複数枚の基準画像が必要である。そこで、複数枚基準画像を用いた基準パターン設定法について検討した。具体的には、1枚目の基準画像に対する2枚目以降の基準画像の位置ずれを補正しながら、インデックス空間に評価値を上書きすることにより基準パターンを作成する。複数枚基準画像を用いる効果は、色調許容の限度見本を複数枚用いることによる色調許容範囲の拡大設定、および、打ち抜き位置をずらせた複数カードを用いた有効絵柄領域の拡大設定などが可能であることである。各々の効果を検証するため、実際の検査装置を用いたシミュレーションを行なった。

 さらに、インデックス空間の多大なメモリ量を多階層木構造により圧縮することとし、木構造の構成法について検討した。インデックス空間の画素毎のテーブルは、背景値が一様なデータ領域内に有意データが局所的に存在する1次元データである。圧縮では、各階層についてデータ領域を等分割し、有意データが存在すれば、さらに下の階層で分割操作を繰り返し、有意データを最下層に記述する。本章では、元データにおける有意データの存在確率に着目して、メモリ量が最小となる最適な階層数と分割数の関係式を導いた。この関係式を用いることにより、階層数に応じた分割数決定など、木構造の設計が可能となった。最後に、実画像を用いて、位置ずれ許容量を数種類に変えて基準設定したインデックス空間に対して圧縮を行なうものとして、木構造の構成法の適用により、最適な木構造の階層数と分割数の算出例を示した。

 第4章では、カード状のカラー印刷面の自動検査システムの開発を目的に製作した試作機について述べた。先ず、試作にあたり、機能実証、評価研究、将来的機能変更に適したシステム設計を行なった。システムは、搬送系、画像入力系、画像前処理系、検査判定系、システム制御系により構成される。装置の検査項目は、色抜け、色調不良、打ち抜きずれなどである。また、装置において第3章で示したインデックス法の検査原理を専用ハードウェアとして構成した結果、複雑な判定条件による検査の高速性を確認できた。また、本試作機は、検査の機能確認を優先としており、システム制御系画面の操作案内により、システムパラメータや検査条件を変えた実験など、機能確認に必要な手続きが効率的に行なえることを重視した。試作機の機能確認の結果、サイズ0.1mmの欠陥検出、カード1枚当たり0.7秒での連続検査の見通しを得た。

 なお、検査システムを複数台導入する際には、品質管理上、撮像系の個体差による装置間のRGB信号値のずれを補正する必要がある。そのため本研究では、RGB信号値に対する行列変換による補正方法について検討した。先ず、網点印刷物の分光反射率の主成分分析による基底関数と、推定した撮像系の分光特性とを用いて、変換式が算出できることを示した。そして、RGB値間の最小二乗を用いて決定された係数の意味づけを明らかにするとともに、装置単体で推定した特性と、網点印刷面分光分布の3次までの主成分に対する重みを装置毎のRGB値に変換する行列を求めておくことにより、標準の装置で得られるRGB値に変換するための補正式の算出が可能であることを示した。

 最後に、諸課題の整理と今後の展開について述べる。本研究に基づくプリペイドカード用フルカラー外観検査装置は、平成元年4月に実用化され、現在、カード印刷面の目視検査を行なう印刷会社の検査工程において、多数台導入されて稼働している。また、検査処理部はプリント配線板検査の検査主要部としても稼働しており、今後さらに、オンライン化を含めた一般印刷物検査への適用や、FAにおける他の工業製品の外観検査分野において、カラー画像処理による自動検査の展開が期待できる。

 最後に第5章で本論文のまとめを行なう。

 以上述べたように、本研究のカラー印刷画像の自動検査に関する研究により、カラー印刷面特性、目視検査の判定条件、検査自動化のための判定条件の定量化、高速かつ多様な条件設定が可能な検査アルゴリズム、装置としての検査システム化などの技術的課題について検討し、カラー印刷面検査の自動化に対して良好な指針を示すことができた。

審査要旨

 本論文は「カラー印刷画像の自動検査に関する研究」と題し,カラー印刷画像の自動検査の実用化を目指して行った一連の研究を纏めたもので,5章よりなっている。

 第1章は「序論」で,本研究の背景について述べ,本研究の目的を明らかにすると共に,本論文の構成について述べている。

 第2章「カラー印刷面上の欠陥とその定量化」では,対象とするカラー印刷物において生ずる欠陥の種別と欠陥の特徴を明らかにし,自動化における欠陥検出上の要求項目を纏めている。カラー印刷面上の主な欠陥は,形状欠陥と調子欠陥に分類できるが,インク抜けや汚れなどの形状欠陥について,欠陥サンプルに対する目視検査判定を行ない,判定結果から欠陥サイズ上の要求条件を明らかにし,微細欠陥としての形状欠陥の種別を,カメラ画像信号の処理によって識別する方法について検討し,微細な形状欠陥を最も感度良く検出するための画像処理パラメータの設定法について検討している。

 又,広域的な色合いの違いである調子欠陥について,自動検査判定のための定量化法について検討している。調子欠陥サンプルを用いて,現場の検査員に対して,印刷面の色調に対する評価実験を行い,検査時の着目箇所における色差計測結果と検査員の判定結果とを用いて,主成分分析により定量的な評価値を算出し,得られた評価値による判定と目視判定との比較の結果,熟練検査員との相関は,非熟練検査員を上回る94%程度で,自動評価のための評価値として妥当であることを確認している。

 第3章「インデックス空間を用いた高速外観検査方法」では,基準となる正常な印刷面との比較検査のための手法を提案している。画像の濃度値および座標値を属性値とするフラグによって構成されるインデックス空間と呼ぶ3次元フラグテーブルを用意し,基準画像データに基いて,インデックス空間内の全てのフラグに,属性値に対する評価値を記述することにより,許容範囲を含めた形で基準パターンを表現し,検査画素の座標値と濃度値をもとにインデックス空間内の対応フラグを参照し,フラグの評価値を判定処理することによって検査する手法を開発している。

 又,インデックス空間の多大なメモリ量を多階層木構造により圧縮するための木構造の構成法について検討し,原データにおける有意データの存在確率に着目して,メモリ量が最小となる最適な階層数と分割数の関係式を導き,木構造の設計を可能としている。

 第4章「フルカラー印刷画像検査システムの試作」では,カード状のカラー印刷面の自動検査システムの開発を目的に製作した試作機について述べている。装置の検査項目は,色抜け,色調不良,打ち抜きずれ等であり,第3章に示されているインデックス法の検査原理を専用ハードウェアに実装し,復雑な判定条件による検査の高速性を確認している。試作機では,サイズ0.1mmの欠陥検出,カード1枚当たり0.7秒での連続検査の見通しを得ている。

 又,検査システムを複数台導入する際には,品質管理上,撮像系の個体差による装置間の色信号値のずれを補正する必要があるが,その補正方法を開発し,標準の装置で得られる色信号値に変換するための補正式を算出し,補正が可能であることを示している。

 終りに,本研究に基いて,プリペイドカード用フルカラー外観検査装置が実用化されて多数台稼働していること,及び,その検査処理部はプリント配線板検査の主要部としても用いられていることを述べている。

 第5章は,「結論」であって本研究の成果を纏めている。

 以上これを要するに,本論文はカラー印刷画像の自動検査に関して,カラー印刷面の特性と目視検査の判定条件を調査し,検査自動化のための判定条件を定量化し,高速かつ多様な条件設定が可能な検査アルゴリズムを開発し,それに基いて試作を行い,カラー印刷面検査の自動化の実用化の道を開く等,画像処理技術の進展に寄与するところが多大であり,電気・電子工学に貢献するところが少なくない。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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