原子炉プラントの運転に伴って、機器、配管内等に核分裂生成物、放射化した腐食生成物や構造物等がさまざまな形態で付着していく。これらの放射能の存在状況につき、核種、量、分布等を適確に把握しておくことは、プラントの保守作業にとって直接的に必要なことであるが、その結果は人に例えると健康度の診断でもあり、健全なプラントの運転、さらには将来の解体作業にとって重要な役割を果たしている。 このプラント内放射能診断は、一般に周辺からの放射線量が強い場所であり、従来サンプルを採取する方式が採用されてきた。この方法は破壊法であるので作業上の被曝も多く、かつ測定が可能な場所も限られていた。この状況に対し、放射線計測原理の点で革命的飛躍をもたらしたゲルマニウム半導体型ガンマ線スペクトロメトリーシステムを現場に持ち込んで、その場観察をする方法を開発すること、さらに実際に適用してプラント内放射能診断技術が大幅に向上し得ることを本論文では明らかにしている。本論文は9章より構成されている。 第1章は緒言であり、原子炉施設内の放射能測定の現状がレビユーされ、その上で本研究の目的は小型の半導体型ガンマ線測定システムを開発し、具体的に原子炉施設に適用することであると述べている。 第2章は、半導体検出器を小型化するための最大の技術的ポイントである液体窒素による冷却方式について検討したものである。具体的には小型ガス冷却式および小型電気冷却式を開発し、この方式の最大の課題であるマイクロフォニック雑音とそれによるエネルギー分解能の劣化を詳細に検討し、柔構造の採用や前置増幅器の周波数特性の改良により、この新方式による雑音を実用的レベルにまで低下させることに成功している。また同時に、電子回路の小型化、可搬型のパルス波高分析器の開発についてもまとめている。 第3章は、前章の成果を基に現場に適用可能なガンマ線測定システムを開発し、それを評価した結果についてまとめている。測定対象として配管内に放射能物質の沈着や放射性水溶液の模擬状態を作り、コリメータ窓を通じ円周および軸方向にスキャニングすることにより標準較正実験を実施し、良好な結果を得ている。 第4章は、原研大洗の材料試験炉JMTRに設置されている照射用ガスループ(OG -1)内に沈着された放射能物質を実測した結果をまとめている。その結果、110mAg,124Sbは出口より下流に行くにつれ自然に減少するのに対し、60Coは局所的に、54Mnは高温部に、131Iは低温部に付着するなど、核種により異なる付着傾向を定量的に明らかにしている。 第5章は、配管内部に液体、気体、沈着物という形で放射能が存在する場合、円周方向にスキャンニングした分布測定結果より各成分の存在割合を推定する方式について検討したものである。モックアップ配管を用いて実測した結果、各状態毎に10〜14%で推定可能と結論している。 第6章は、前章の結果を用いて原研JPDRの強制循環配管内の放射能測定を行った結果をまとめている。この測定結果はJPDRの解体作業を進める上で放射能インベントリー評価として必須事項であった。その結果、放射能沈着量として50Coが500〜1100Bq/cm2との結果を求めており、サンプリングによる非破壊測定値とも±5%の範囲で一致している。また、配管内沈着挙動、特に沈着分布の不均一性にも重要な知見を与えている。 第7章は、放射能レベルの高い原子炉内圧力容器の放射能インベントリー測定用に望遠測定法を考案した結果をまとめている。これは原理的には極めて簡単で、圧力容器内に水を満たし、測定したい点から3〜7mの中空ガイドで放射線ビームを容器外に引き出して測定するものである。この手法の有効性を定量的に示し、望遠測定法として提案している。 第8章は、この望遠測定法を用いて具体的に解体前のJPDR圧力容器内に適用した結果を述べている。2ヶ月で約1000点もの測定対象をサーベイし、炉心シュラウド、グリッド、底部支持板、圧力容器内面の放射能を評価している。この手法は極めて簡便かつ実用的な手法で、今後解体時の放射線測定として実用的であると述べている。 第9章は結論であり、小型のゲルマニウム半導体検出器の開発がプラント内放射能診断には必須かつ有効であることを多くの実例を基に示すことができたと結論している。 以上のように、本論文は極めて実用的な可搬型の小型半導体検出器をプラント診断技術の1つとして開発し、その有効性を示しており、原子力技術の進歩に対し大変重要な貢献をしている。 よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |