本研究は下顎骨を仮骨延長法により延長した際の骨形成の機序とリモデリングの過程を明らかにする目的で、家兎の下顎骨を用いた延長モデルを作成し、骨延長部の軟X線像と組織像の経時的変化について観察したものである。さらに下顎骨延長に伴い発現の予想される咬合の変化、これに伴う顎関節への影響、および延長された骨の術後短縮の有無についても観察し、下記の結果を得ている。 1.延長終了後切歯は著明な交叉咬合を示し、臼歯は咬合面が斜めになる変形をみた。延長終了後8週以降の乾燥骨標本では、肉眼上ほぼ正常な皮質骨の外観を呈しており、骨切り断端と新生骨の境界は判別できなかった。 2.軟X線像では、延長終了後0週にはradiolucentであった延長部に、2〜4週で皮質骨の骨切り断端から仮骨が石灰化していくのが観察された。6週には完全に延長中央部まで石灰化骨で充填され、8週にはほぼ皮質骨化が完了していた。 また10週では延長部の境界が不鮮明になっているのが認められた。 3.延長終了後0〜2週群の組織像では、延長中央部は線維組織で充たされ、その両側に出血巣を伴った結合織や新生骨が長軸方向に沿って骨切り端に向かって配列していた。新生骨の断端をみると、未分化間葉系細胞が直接骨芽細胞に分化し新生骨が形成されている像を認めた。また部分的にではあるが、軟骨細胞が骨端軟骨様に配列している像が観察された。したがって骨形成に関しては、膜性骨化及び内軟骨性骨化の両方の機序が働くことが明らかになった。延長終了後2〜4週で延長仮骨は連続し、徐々にリモデリングを受け皮質骨は厚みを増し、骨梁は吸収されてくる。そして8〜10週で管状骨の形態を示すことが明らかになった。 4.頭蓋顎顔面領域において骨の延長を図る場合、従来の方法では術後短縮が大きな問題の一つとなっていた。今回の実験では延長終了後10週目に延長器を抜去し測定した延長部分の距離は、その後3カ月後に測定しても全く変化なく、その効果の持続性が確認できた。 5.延長終了後8、10週群の下顎頭の形に左右差を認め、とくに延長側において前後、左右径とも小さくなっていた。しかし関節面には組織学的変化は認めなかった。これは今回延長したのが下顎体部の前方であったため、力学的負荷が垂直方向ではなく水平方向に加わったためと考えられた。 以上、本論文は家兎の下顎を用いた仮骨延長モデルにおいて、骨形成には膜性骨化及び内軟骨性骨化の両方の機序が働くことを明らかにし、また延長部に形成された新生骨が管状骨にリモデリングしていく過程を示した。本研究はこれまで明らかでなかった、下顎骨の仮骨延長法における骨形成のメカニズムを解明する上で重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 |