インターロイキン5(IL-5)は、B細胞分化因子として初めて同定された糖タンパク質性のサイトカインで、特に好酸球の増殖、分化にも特異的に作用することから、アレルギー疾患や癌との関わりで注目されている。本研究は、CHO細胞でR現させたヒトおよびマウスの遺伝子組み替え型インターロイキン5(rIL-5)の構造と機能に関するもので、内容としては蛋白質の構造と機能、および糖鎖の構造と機能の二つに大別することができる。 1.rIL-5の蛋白質の構造と機能 ヒトのrIL-5は、還元および非還元条件下でのSDS-PAGEでの分析ではそれぞれ20kDa,40kDaのバンドとして検出され、ジスルフィド結合を介した二量体として存在することを認めた。更に、ペプチドマップを作成し、ペプチド断片のアミノ酸配列の解析から、ヒトのrIL-5は115アミノ酸残基からなりタンパク化学的に均一であること、分子間ジスルフィド結合は2箇所(Cys-44とCys-86’及びCys-86とCys-44’)に存在し、その架橋様式から逆平行二量体構造をとっていること等を示した。叉、糖鎖の結合部位は、Thr-3とAsn-28であり、糖鎖結合可能な配列上のAsn-71には糖鎖が結合していないことを示した。同様の解析から、マウスのrIL-5は113アミノ酸残基からなっており、逆平行二量体として存在すること、叉、Asn-26とAsn-55に糖鎖が結合していること等を明らかにした。 二量体構造の生物活性発現への寄与を調べるため、マウスおよびヒトのrIL-5を還元アルキル化して得た単量体を作製し、マウスの慢性B白血病細胞株に対するIgM産生誘導能を指標として、活性を測定した。その結果、いずれも単量体では活性を示さないことを認めた。また、単量体は125I標識rIL-5の受容体への結合を阻害せず、rIL-5の二量体構造は受容体に結合するために必須であることを示した。化学修飾、酵素消化等により、C-末端側のアミノ酸4残基を削ったヒトのrIL-5(1-111)は未処理(1-115)に比較して4倍以上の生物活性を示すのに対し、8残基を削ったrIL-5(1-107)は完全に活性を失っていたこと等から、C-末端付近の配列、Met107-Asn-Thr-Glu-Trp111がrIL-5の生物活性発現に重要な役割を担っていることを示唆した。 2.rIL-5の糖鎖の構造と機能 ヒト及びマウスのrIL-5のAsn結合型糖鎖の全構造を解析し、いずれも中性糖鎖含量が9割近くを占め、複合型二本鎖を主要糖鎖として含むことを明らかにした。また、ヒトのrIL-5に含まれるムチン型糖鎖の構造を解析し、2糖骨格(Gal1-3GalNAc)にシアル酸が1および2残基結合した構造をとることも明らかにした。 糖鎖の役割を調べるため、ヒトのrIL-5を種々のグリコシダーゼで消化して糖鎖を除去し、活性への影響を調べた。その結果、Asn結合型糖鎖を除去すると未処理に比べて3倍程度、ムチン型糖鎖及び全糖鎖を除去すると10倍程度活性が上昇すること、叉、熱安定性についてはムチン型糖鎖を除去しても変化はないが、Asn結合型糖鎖を除去すると大幅に低下すること等を認めた。従って、ヒトのrIL-5の糖鎖は生物活性の発現には必須ではないが、Asn結合型糖鎖は熱安定性に寄与していることが示唆された。 以上、本研究は遺伝子組み替え技術を用いて得たIL-5の全構造を解析し、構造情報を基盤に蛋白質部分、糖鎖部分の役割を明らかにしたものであり、rIL-5を用いての医薬創製に有用な知見を提供するもので、博士(薬学)の学位に値するものと判定した。 |