内容要旨 | | 本論文は中央径間485mを有する2層形式の鋼トラス桁斜張橋である東神戸大橋の構造計画・設計で得られた知見と,これに関連して行われた技術開発について述べたものであり,全5章よりなっている. 第1章では,先ず斜張橋の長大化に伴う技術の発展を述べ,東神戸大橋の設計及び技術開発に当たって構造の合理性と美しさを基本的な目標とすることを示した上で,開発・改良すべき技術課題を抽出している. 第2章では,先ず上記の目標のもとに,斜張橋全体とその構成要素である主桁・塔・ケーブルなどの個々の構造計画設計を行うに当たっては,設計上問題となる種々の要素・条件を総合考慮して行なうべきことを論じ,これを東神戸大橋に実践している.その結果,真っ直ぐな柱と円弧の横梁を有する斬新で優美なH型塔,2面が交錯せず整然としているハープ型ケーブル,鉛直材のない簡潔な主構ワーレントラスとその弦材に合成された床組からなる合理的な主桁構造,が一体となった近代構造美を設計提案している. 次に東神戸大橋に採用した,主桁の全支点を橋軸方向に可動とするオールフリー基本構造系について,活荷重による主桁の移動量の問題を指摘しその抑制方法を示している.また,長大斜張橋に用いるべき衝撃荷重は相当小さくてよいことを動的連成応答解析をもとに提示し経済的な設計を試みている. 最後に主桁・塔・ケーブルの構造設計上の種々の課題について,個別に解決策を与えている.すなわち,主桁と合成された鋼床版におけるケーブル張力による導入応力の評価法及び高い圧縮力を受ける鋼床版の薄肉トラフリブの許容応力度の設定などをFEM解析及び弾塑性有限変位解析により誘導し,合理的で経済性につながる設計を試みている.また,ケーブルアンカーが設置される主桁トラス格点部において,道路横断面内の応力伝違が円滑となる詳細構造を大型実験と解析をもとに提案し,安全性の確保に注意を払っている. 第3章では,耐震設計上の技術開発について述べている. 先ず東神戸大橋を長周期構造物として設計するため,長周期領域で信頼でき安全性を確保できる設計応答スペクトルが必要と考え,架橋地点で調査された約1000mの深い基盤から伝達し長周期部分が増幅された地震波を地震応答解析により求め,これをもとにスペクトルの策定を試み設計に取り込んでいる. 次に斜張橋の耐震設計と構造計画において最も重要となる主桁の橋軸方向の耐震固定法については,東神戸大橋では全支点を可動とし,ケーブルを介し主桁を塔に弾性固定するオールフリー基本構造系という斬新な案を提案し開発している.この方法により本橋は長周期構造物となり,地震慣性力を大幅に軽減でき,塔や基礎を相当に小さくでき合理的・経済的な設計となることを示している.長周期構造で問題となる主桁の大きな水平移動については,これを適度な範囲に拘束するようにハープ型ケーブルを採用すべきことを示している. さらに地震に対する塔柱の設計法については,地震時の斜張橋の3次元挙動が各方向からの単独の地震による挙動の重ね合わせで再現できることを模型振動実験により確認し,これに基づいて簡易な形に規定提案している. 次に予期しえぬ大地震による長周期の橋梁の崩壊を防ぐための耐震安全装置として,橋梁の固有周期すなわち橋梁の設計を変えることなく,主桁の橋軸方向の移動量の制御が行える回転運動型のオイルダンパーを新たに開発している.これはオリフィスを通過するオイルの乱流抵抗を利用しようとするものである.橋軸直角方向の予期しえぬ地震に対しても,橋梁全体として安全性を確保しようとする一貫した考え方にもとづき,塔柱部材の全体座屈と板の局部座屈を考慮した耐荷力照査法を提示し,これによりその安全性を確認している. 設計に用いた構造減衰の確認については,地震時の挙動がスウェイのモードであり塔の曲げ変形に起因するものが多いことに着目し,一般の鋼製橋脚の実験も含め実橋振動実験を行い,考察を加えている. 第4章では,耐風設計上の技術開発について述べている. 先ず架橋地点付近での風観測を行い,設計に用いるべき自然風特性について明かにしている.また風速の期待値を推定する際は,海上部だけを通過して衰えない特異な台風があることも考慮すべきことを指摘している. 次に床組をトラス弦材と合成させた東神戸大橋は2枚の板構造の形態をなすので,静的風荷重は少なくなるが主桁のバフェッティング振動が問題となることを指摘し,そのため空力アドミッタンスを風洞実験により求め応答量を評価し安全性の確認に努めている. またオールフリー基本構造系においては,斜風によるトラス腹材への風圧に起因して主桁の橋軸方向の水平変位が大きくなることを指摘し,そのガスト応答補正係数を解析により求め,安全性確保のため設計に取り込んでいる. 次に東神戸大橋の長い突出塔柱のケーブルの張られていない方向へのギャロッピング振動対策として,柱の四隅を適度に隅切りし風の流れを柱断面に再付看させようとする空力的な方法を開発し,美しい塔の設計を実現している. またケーブルのレインバイブレーションについては,その発生機構が明かでなかったが,傾斜円柱の背後に生じる2次流の存在と,風圧により雨滴が上下面に移動しリブレットを形成し剥離が生じることが原因であることを風洞実験から指摘している.さらにその対策として,空力的な方法が保守管理上望ましいという考えからこれを模索し,ケーブル断面を歯車型とする方法が有効であることを示し,これを現実の製品に開発している. 最後に独立時の塔の渦励振に対する制振装置として,経済的な液柱管ダンパー等の有効性を実橋実験により検証し,技術開発を促すことに努めている. 第5章では本論文で得られた知見と技術開発をまとめている. |