学位論文要旨



No 211795
著者(漢字) 古関,潤一
著者(英字)
著者(カナ) コセキ,ジュンイチ
標題(和) 周辺地盤の液状化による半地下構造物の地震時浮上がりに関する研究
標題(洋)
報告番号 211795
報告番号 乙11795
学位授与日 1994.05.19
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第11795号
研究科 工学系研究科
専攻 土木工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 石原,研而
 東京大学 教授 龍岡,文夫
 東京大学 助教授 東畑,郁生
 東京大学 助教授 小長井,一男
 東京大学 助教授 山口,栄輝
内容要旨

 1964年の新潟地震、1983年の日本海中部地震、1993年の釧路沖地震などにおいて、さまざまな構造物が砂質地盤の液状化に起因する被害を受けてきた。その一つとして、下水管渠や地下オイルタンク、下水マンホールなどの地盤中の軽量構造物の浮上がり被害がある。近年建設がすすめられている掘割道路、水路などのU型擁壁形式の大規模な半地下構造物も、その構造上、見かけの重量が周辺の地盤よりも著しく小さいために、同様な被害を受ける恐れが高い。

 これらの半地下構造物の地震時の浮上がり安定性を評価するために従来用いられてきた手法の妥当性は、必ずしも明らかにされておらず、また、同手法では、構造物の規模や液状化層の範囲の影響を合理的に評価することができない。さらに、地震の発生率と地盤強度のばらつき、測定誤差などの影響が、従来の経験に基づいて、あるいは安全側の評価によって間接的に考慮されており、これらの不確実性が構造物の安定性に及ぼす影響を直接的に評価した例はない。

 そこで、周辺地盤が地震時に液状化したときの、半地下構造物の浮上がりに対する安定性の評価手法を開発することを目的として、模型実験と数値解析を行った。その結果、半地下構造物の浮上がりは地盤の変形を伴う場合と伴わない場合の2通りがあることを示すとともに、浮上がりが生じる可能性の評価法としての浮上がり安全率の有効性と、既往の設計指針で用いられている浮上がり安全率の簡易算定手法の妥当性を検証した。さらに、浮上がり量の評価法としての永久変形解析、円弧すべり安全率、浸透解析の適用性を明らかにした。

 次に、既応の液状化・非液状化事例に基づいて、所定の地震外力に対する液状化の発生確率を液状化抵抗率FLの関数として定式化した。この結果を、半地下構造物の地震時浮上がりに対する安定計算に適用し、浮上がり発生確率を算定した。また、所定の期間内における地震の発生頻度を考慮して、液状化の発生頻度と半地下構造物の浮上がり発生頻度の算定を行った。

 これらの成果をもとに、半地下構造物の地震時浮上がりに対する安定性の評価法として、(1)浮上がりの生じる可能性の評価、(2)浮上がり量の予測、及び(3)浮上がり対策工の設計の3項目からなる検討フローを作成し、それぞれにおいて適用可能な検討手法とその留意点をとりまとめた。

審査要旨

 地震時に砂地盤が液状化すると、下水管渠や地下オイルタンクや地下道等の軽量構造物が浮上し、大きな被害の元凶になることはよく知られている。そこで、近年堀割道路や水路等の建設の際に採用されるU型擁壁形式の半地下構造物を対象にして、地震時の浮上現象を究明するため模型実験と数値解析を行ない、そのメカニズムと安定性の評価方法を研究考察したのが本論文の内容である。

 第1章は序論で、液状化時の地下埋設物の浮上がりの実例を紹介し、問題点の存在を明らかにし、本研究の背景とその重要性を述べている。

 第2章では、本研究の目的を具体的に示し、以後の各章で述べるいくつかの研究の相互関係と位置づけを総括的に述べている。

 第3章ではこの問題に関する従来の研究を概観し、本研究との関連を明らかにしている。

 半地下構造物の浮上がりメカニズムを明らかにすることを目的として行なった3種類の模型実験について述べたのが第4章である。最初の実験は振動を加えず、砂を詰めた模型容器(長さ250cm高さ60cm、奥行き68cm)の下部から注水して水位を上昇させて浮上がりを発生させる方式である。実験の結果、降雨や浸透などによる地下水位の上昇に起因する静的浮上がりでは周辺の土の回り込みを伴わないこと、浮き上がり量は構造物の下部に入り込んでくる水量に等しいこと等、が明らかになった。又浮き上がりの判定は鉛直方向に作用する力の均合いより定義した安全率Fuが1になるという基準を適用してよいことが確かめられた。

 第2の実験は上記と同じ容器の中に飽和砂(相対密度55-65%)を敷きつめ、その中央にモデル半地下構造物を置き、全体を振動台の上に乗せて加振する方式である。実験の結果、加振加速度をある値まで上昇させると周辺部の砂が液状化を起こし浮上がりが始まるが、このとき周辺の砂がモデルの下部に回り込んできて、浮上がり量が増加することが示された。又、浮上がりの開始は安全率によって判定できるが、浮き上がり量は周辺の土のまわり込み量に関係していて安全率との対応はよくないことが示された。そして、半地下構造物周辺の地盤を締固めるとか、下部の液状化層厚を薄くするとかによって周辺土のまわり込みを最小限にとどめる方策を講じると浮上がり量が著しく低減することが模型実験で示され、逆にこのような方策が対策工法として有効であることが確かめられた。

 第3の実験では、上記のモデル地盤の砂を透水係数の小さいグリセグン水溶液で飽和させて振動を加えた。これは、透水に時間を要する実地盤で生ずる浮上がりのプロセスを地震動中と地震動後の2つに分けてより正確に観察するための実験である。これにより、地震中には主として周辺地盤のまわり込みによる浮上がりが生じ、地震後は周辺からの水が構造物底面下に流入することによって生ずるというメカニズムが明らかにされた。

 第5章では浮き上がり量を定量的に評価するための解析法とその適用性について述べいてる。第1は最も精巧な有限要素法にもとずく永久変形解析である。まず室内の要素実験を三軸装置を用いて行ない、初期応力と動的繰り返し応力の関数として残留ひずみを推定する関係式を作っておく。次に、半地下構造物が存在する地盤の静的応力解析と地震応答解析を行ない、各有限要素に作用する地震前と地震時の応力を求める。これを先の関係式に代入して各要素に発生する残留ひずみを求める。この残留ひずみにもとずいて修正した応力-ひずみ曲線を用いて再び静的解析を行なう。これで得られた変位から無修正の応力-ひずみ関係を用いて最初に行なった静的解析でえられた変位を差し引くことにより、地震動のみによって生じる変位を推定しようとするものである。この解析手法により、浮上がり時の地盤の全体的変形のパターンとそのオーダーについて予測が可能になることが示された。

 次に、より簡便な変位の推定方法として、円弧すべり面を想定しこれについてのすべり安全率FSを算定し、これと浮上がり量の相関関係を用いて、浮上がり量を推定することも可能であることを示している。

 第6章では原位置での半地下構造物の浮上がり量を推定する方法について論じている。既往の液状化と非液状化事例にもとずいて、所定の地震外力に対する液状化の発生確率を地盤自体の液状化抵抗率F1との関係としてまず定式化し、その結果を半地下構造物の地震時浮上がりに対する安定計算に適用し、浮上がり発生確率を算定した。次に既定の期間内の地震の発生頻度を考慮して、液状化発生頻度と浮上がり発生頻度とを算定する方法を提案している。

 第7章では以上の各章で得た各方法をとりまとめ、半地下構造物の浮上がり発生の評価から始まって浮上がり量の予測に到るまでの一連の検討方法を総括的にとりまとめている。

 第8章は結論で本研究全体の成果を要約している。

 以上を要するに、本研究では地震時の砂地盤の液状化によって生ずる半地下構造物の浮上がり現象について、発生のメカニズムを明らかにし、その評価法とその結果生ずる浮上がり量の予測について、多くの模型実験と解析にもとずいて多角的に検討し、更に実際問題への適用方法を提案したものである。その成果は、今後半地下構造物の耐震設計を行なう上での基本的考え方と有益な知見を提供しており、土質力学の分野における貢献が大きいと判断される。よって本論文は学位請求論文として合格と認める。

UTokyo Repositoryリンク http://hdl.handle.net/2261/50885