学位論文要旨



No 211797
著者(漢字) 貞広,幸雄
著者(英字)
著者(カナ) サダヒロ,ユキオ
標題(和) 都市商業施設の立地に関する一連の分析手法
標題(洋)
報告番号 211797
報告番号 乙11797
学位授与日 1994.05.19
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第11797号
研究科 工学系研究科
専攻 都市工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 岡部,篤行
 東京大学 教授 太田,勝敏
 東京大学 教授 小出,治
 東京大学 助教授 柴崎,亮介
 東京大学 助教授 荒井,良雄
 東京大学 助教授 浅見,泰司
内容要旨

 本論文の目的は,都市における商業施設の立地構造を規定する5つの要因について,その影響を分析するための手法を提案し,実証分析を通してその有効性を検証することにある.

 店舗の立地構造に影響する要因は,空間的なものから非空間的なものまで,多岐に渡っており,それらの影響を分析するための手法については,まだ確立されていないものが多い.そこで本論文では,商業施設の立地を規定する多数の要因のうち,最も重要であると思われる以下の5つの要因を取り上げ,解析手法の提案と実証分析を行った.

 [1]人口分布の影響

 [2]商業集積の空間階層構造

 [3]チェーン型商業施設の立地傾向

 [4]商業集積の形態と規模

 [5]消費者の店舗評価構造

 第1章では,既存研究における本研究の位置付けを行ない,本論文で上記の5つの立地要因を分析するための手法が確立されていないこと,及び,これらの分析によって明らかにされる立地構造について説明し,本研究の目的と意義について明らかにした.

 第2章では,人口分布が店舗分布に与える影響を解析するための手法を提案した.この影響については,店舗は人口分在に比例して立地するという言い方によって経験的に知られていたが,実際にそれを確かめるための手法はまだ確立されていなかった.そこで本論文では,2つの確率分布の類似性を調べるという観点からこの問題を見ることによって,地区分割をせずに人口分布の影響を解析するための手法を開発した.

 具体的には,ポテンシャルとアクセシビリティという二つの概念を媒介として.人口分布と店舗分布がどのように影響し合うかをモデル化し,モデルの推定を行った.人口分布の影響は二つの分布の適合度という形で数量化し,GIS上で見ることができるようにしている.

 このモデルを用い,兵庫県西宮市において人口分布と店舗分布の点データを用い,実証分析を行った.その結果,人口分布の影響を強く受ける業種とそうでない業種とを定量的に判別することができた.また,店舗選択において消費者と店舗との間の距離が大きく影響する業種については,ここで提案された手法を適用することで,買物動向調査のような消費者の行動に関する詳細な調査と同等の結果を得られることがわかった.

 第3章では,商業集積の空間階層構造を記述し,階層構造を規定している要因を推定するための手法を提案した.商業集積の階層構造については,中心地理論などでも言及されているが,その構造を記述し,構造の形成要因を調べるための方法は確立されていない.また,現実に様々な施設の空間階層構造を記述しようとする場合,施設がある規則的な階層構造を持っているということが暗黙のうちに前提になっており,そのため実際には階層構造を形成する要因のない施設についても,階層性を見出してしまう危険性がある.

 上記の点をふまえ,本論文では現実の階層構造を階層構造の形成要因が全くない場合と比較することによって,現実の階層構造形成要因を推定するための手法を提案した.階層構造には空間的なものと非空間的なものがあるが,ここでは特に空間的階層構造に着目している.

 本章ではまず,商業集積の空間的関係と規模を用いて空間階層構造の定義を行った.階層構造は,直感的に理解しやすいように,ツリーグラフを用いて記述している.次に,階層構造間の比較を可能にするために,ツリー長やツリー幅など,ツリーグラフの特性を表すいくつかの指標を導入した.さらに,階層構造の形成要因がない場合について,その構造を記述し,指標値がどのような値をとるのかを解析的及びモンテカルロシミュレーションによって計算した.

 以上の指標値を用い,西宮市の商業集積の階層構造をランダムな階層構造及び中心地理論において述べられている階層構造と比較した.その結果,西宮市の商業集積の階層構造は,これら二つの階層構造の中間にあるが,どちらかと言えばランダムな階層構造に近いものであり,必ずしも明確な階層構造の形成要因があるとは言えないということがわかった.

 第4章では,GISを用いてチェーン型商業施設の立地傾向を分析するための手法を提案した.商業施設が単独で立地する場合には,一店舗について最適な立地点を見つければ良いわけであるから,立地行動は比較的単純である.しかし,チェーン型商業施設の場合,自己チェーン店との競合を考えるために立地戦略も異なり,その解析手法の整備が望まれていた.

 そこで本論文では,商業施設が全くチェーン展開を行わない場合の立地とチェーン型商業施設の立地とを比較することで,その立地傾向を分析した.本章ではまず,各店舗の商圏を用いて店舖間の空間的競合関係を定義した.店舗の商圏は,通常大規模な買物動向調査によって調査されるものであるが,ここではGIS上での適用の利点を考え,ボロノイダイアグラムによって近似的に表している.このように考えることによって,店舗間の競合関係は,商圏が接している店舖間に発生しているものとして明確に定義することができる.次に,チェーン間の競合と住み分けを記述するための方法を示した.競合と住み分けは,全てのチェーン店が何の戦略もなしに立地した場合,つまり,競合や住み分けを意図的に行わなかった場合に,どのくらい店舗間の競合が発生するかを調べ,その状態と比較することによって区別を行っている.

 上記の手法を用い,東京近郊の3つの地域におけるコンビニエンスストアチェーンの立地傾向を分析した.その結果,いくつかのチェーン間での明らかな競合関係や,同一チェーン間での競合を避ける傾向などを確認することができた.

 第5章では,商業集積の形態と規模との関係を分析するための手法を開発した.商業施設が集積を形成するという現象はよく知られており,それを説明するために従来集積効果を対象とした研究が数多く行われてきた.しかし,商業集積が形成される過程を空間的に解析するための手法はまだ確立されておらず,道路や用途規制などの空間的要因の影響を調べることが難しかった.そこでここでは,商業集積の形成要因を探るための一つの方法として,商業集積の形態分析を行った.具体的には、商業集積の形態を分類し,集積の規模との関係を調べることによって,集積形成の過程と要因を推定するための手法を提案している.

 本章ではまず,商業集積の形態を分類するための手法を提案した.形態分類の方法は既にいくつか存在するが,特に統計的検定によって形態を分類することを目的とし,店舗間の隣接角度に注目した分類を行っている.次に,店舗の形態と規模との関係を調べるための方法として,WilcoxonのU検定や連検定などの既存の検定手法を適用する方法を,場合に応じて説明している.

 上記の手法を用い,西宮市の商業集積における形態と規模との関係の分析を行った.その結果,商業集積はその規模が大きくなるにつれて曖昧型から線型,さらに格子型へと変化すること,面型の集積はそのような成長過程とは別に発生するものであることが明らかになった.

 第6章では,消費者の店舗に対する評価尺度を導出するための手法を開発した.店舗が立地する場合,その空間的な位置だけでなく,どのような種類の店舗にするのかということも,十分に考慮しなければならない.そのため,従来から買物動向調査などにおいて,店舗に対する評価を求めるアンケートがよく行われてきたが,そこから店舗の属性に対する消費者の評価を定量的に把握することは難しかった.そこで,買物動向調査のアンケートデータを利用し,アンケート結果から消費者の店舗属性に対する評価尺度を導出するための手法を提案した.特に,店舗や消費者に関するデータが完備していない場合に留意し,手法の適用方法を説明している.

 まずはじめに,消費者が店舗に対する評価を求められたとき,どのような回答を行うのかを確率的な行動として捉え,モデル化した.さらに,最尤法を用いて,実際に得られた回答結果から,このモデルを推定するための手法を開発した.モデル推定の方法は,得られる回答結果の種類によって異なり,いくつかの場合について推定の方法とそこから得られる推定結果について言及した.

 以上の手法を用い,西宮市における買物動向調査で行われた店舗評価アンケートの結果を解析した.その結果,各店舗の非空間的な属性に対する消費者の評価を定量的に表すことができ,各店舗の持つ課題を示すことができた.また,GISを用いてそれらを空間的に捉えることにより,商業施設に関する地域的な問題点を明らかにすることができた.

 第7章では,第2章から第6章において提案した分析手法の評価,及び実証分析から得られる知見をまとめ,商業施設の立地分析における本研究の意義について論じた.さらに,残された課題について整理することによって,今後展開すべき研究の方向を示した.

審査要旨

 本論文は,都市における商業施設の立地構造を規定する5つの要因の影響を分析するための手法を提案し,実証分析を通してその有効性を検証したものである.

 店舗の立地構造に影響する要因は,空間的なものから非空間的なものまで,多岐に渡っており,それらの影響を分析するための手法については,まだ確立されていない.本論文では,商業施設の立地を規定する多数の要因のうち,最も重要であると思われる人口分布の影響,商業集積の空間階層構造,チェーン型商業施設の立地傾向,商業集積の形態と規模,消費者の店舗評価構造の5つについて,新たな分析手法が提案されている.

 第1章では,既存研究における本研究の位置付けがなされ,上記の5つの立地要因を分析するための手法が確立されていないこと,及び,これらの分析によって明らかにされる立地構造について説明がなされ,研究の目的と意義が明らかにされている.

 第2章では,人口分布が店舗分布に与える影響を解析するための手法を提案されている.この影響については,店舗は人口分布に比例して立地するという言い方によって経験的に知られていたが,実際にそれを確かめるための手法はまだ確立されていなかった.本論文では,ポテンシャルとアクセシビリティという二つの概念を媒介として,人口分布と店舗分布がどのように影響し合うかがモデル化され,そのモデルの推定方法が定式化されている.この分析手法の開発によって,各業種の人口依存の度合いを把握すること,また,人口依存型業種については,買物動向調査と同等の分析結果を得ることが可能となった.

 第3章では,商業集積の空間階層構造の記述法,及び,階層構造を規定している要因を推定するための手法が提案されている.商業集積の階層構造については,中心地理論などでも言及されているが,その構造を記述し,構造の形成要因を調べるための方法は確立されていない.本論文では,グラフ論的な指標を用い,現実の階層構造を階層構造の形成要因が全くない場合と比較する方法が提案されている.この方法によって,現実の階層構造,特に空間的階層構造の形成要因を推定したり,地域的な商業集積の階層構造を明らかにすることができるようになった.

 第4章では,地理情報システム(GIS)を用いてチェーン型商業施設の立地傾向を分析するための手法が提案されている.チェーン型商業施設の場合,自己チェーン店との競合を考えるために単独立地型店とは立地戦略が異なり,その解析手法の整備が望まれていた.本論文では,ドローネ三角網を用い,商業施設が全くチェーン展開を行わない場合の立地とチェーン型商業施設の立地とを統計的に比較する手法が提案されている.この手法の適用によって,チェーン型商業施設特有の立地行動を把握することが可能となり,都市計画における立地予測の説明力をさらに高くすることができるようになった.

 第5章では,商業集積の形態と規模との関係を分析するための手法が開発されている.商業集積の形成要因については,既に数多くの研究が行われてきたが,形成過程を空間的に解析するための手法はまだ確立されておらず,道路や用途規制などの空間的要因の影響を調べることが難しかった.本論文では,商業集積の形成要因を探るための一つの方法として,商業集積の形態を統計的に分類し,規模との関係を分析する手法が提案されている.さらにこの手法が西宮市の商業集積の分析に適用され,商業集積はその規模が大きくなるにつれて曖昧型から線型,さらに格子型へと変化することが明らかにされている.このように,商業集積が規模に応じた形態を持つことが明らかになったことで,既存の集積が将来どのような形態をとるのかをある程度予測することが可能となった.

 第6章では,消費者の店舗に対する評価尺度を導出するための手法が開発されている.店舗立地において消費者の評価を知ることは極めて重要であり,従来から買物動向調査などにおいて,店舗に対する評価を求めるアンケートがよく行われてきたが,そこから店舗の属性に対する消費者の評価を定量的に把握することは難しかった.本論文では.買物動向調査のアンケートデータを利用し,アンケート結果から消費者の店舗属性に対する評価尺度を導出するための手法が提案されている.この手法を用いることで,各店舗の非空間的な属性に対する消費者の評価を定量的に表し,各店舗の持つ課題を示すことができるようになった.また,その結果を利用し,GISを用いてそれらを空間的に捉えることで,商業施設に関する地域的な問題点を明らかにすることができるようになった.

 第7章では,第2章から第6章において提案した分析手法の評価,及び実証分析から得られる知見がまとめられ,商業施設の立地分析における本研究の意義について論じられている.さらに,残された課題が整理され,今後展開すべき研究の方向が示されている.

 以上より明らかなように,本論文は都市工学の研究に大きな貢献をしており,よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる.

UTokyo Repositoryリンク http://hdl.handle.net/2261/53867