学位論文要旨



No 211800
著者(漢字) 清水,正利
著者(英字)
著者(カナ) シミズ,マサトシ
標題(和) 光通信線路における心線対照技術の実用化に関する研究
標題(洋)
報告番号 211800
報告番号 乙11800
学位授与日 1994.05.19
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第11800号
研究科 工学系研究科
専攻 電気工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 桂井,誠
 東京大学 教授 羽鳥,光俊
 東京大学 教授 小田,哲治
 東京大学 教授 保立,和夫
 東京大学 助教授 菊池,和朗
 東京大学 助教授 日高,邦彦
内容要旨

 本論文は「光通信線路における心線対照技術の実用化に関する研究」と題し、光ファイバ線路を対象とし、通信サービスを中断させることなく現用光ファイバ心線を識別するための心線対照技術について論じたものであり、8章より構成されている。

 第1章は「序論」であり、本研究の背景や関連する従来の研究について概説すると共に、本研究の目的について述べている。

 第2章は「光ファイバ曲げ入射/曲げ受光系の光学モデル解析と特性評価」と題し、対照信号光を効率良く現用光ファイバに伝搬させるための曲げ入射条件及び光ファイバ内を伝搬する対照信号光を効率良く受光するための曲げ受光条件を理論的、実験的に論じている。

 第3章は「心線対照機能実用化のための光学設計と光学特性解析」と題し、第2章で得られた研究成果を踏まえて光ファイバ曲げ入射/曲げ受光光学系を用いた心線対照機能の実現に向け、単一モード光ファイバパラメータと曲げ損失の関係、曲げ部の光ファイバ破断確率等光ファイバ曲げ部の評価及び心線対照系に要求される機能について整理し、曲げ入射系と曲げ受光系の機能設計について論じている。

 第4章は「心線対照実用装置の機能と評価」と題し、心線対照実用装置の装置構成について整理し、適用形態、所要機能、要求条件、心線対照実用装置の設計と特性について論じている。

 第5章は「光アクセス機能を有する心線対照用単一モード光コネクタ」と題し、単一モード光ファイバの接続点において対照信号光を入射でき、かつ受光可能な光コネクタの基本構造を提案し、構造設計法、光アクセス特性、試作検討結果について論じている。

 第6章は「光ファイバケーブル接続部における光ファイバハンドリング時の光損失変動特性評価」と題し、光ファイバ心線接続部と光ファイバ心線をハンドリングした時の光損失変動特性、アナログベースバンド画像信号伝送時の光損失変動特性評価法の検討を行い、光通信線路に適した心線処理方式を提案している。

 第7章は「光ファイバ切替接続による伝送システムへの影響」と題し、対照信号光が通信回線へ与える影響評価を行い、対照信号光レベルを調整することにより伝送品質を劣化させることなく心線対照が可能であることを示した。また、光ファイバ切替接続システム使用時に生じる光信号の瞬断による伝送装置への影響評価及び通信サービスへの影響評価を行い、本システムが十分実用可能であることを確認した。

 第8章は「結論」であり、本研究の成果を要約すると共に、今後に残された研究課題について整理している。

 以上これを要するに、本論文で得られた心線対照技術は、光ファイバ切替接続システムとして公衆電気通信網に導入される予定であり、現在NTTネットワークシステム開発センタにおいて現場環境下における機能確認試験が進められている。また、光ファイバハンドリング時の光損失変動の評価により得られた研究成果は、現在公衆電気通信網に導入されている光ファイバケーブル接続部収納技術の基盤となるものであり、光通信線路設備構築技術に貢献するものである。

審査要旨

 本論文は「光通信線路における心線対照技術の実用化に関する研究」と題し、公衆電気通信網における光ファイバ線路を対象として、通信サービスを中断させることなく現用光ファイバ心線を識別するための心線対照技術とそれを用いた線路切替接続技術について論じたものであり、8章より構成されている.

 第1章は「序論」であり、本研究の背景、動機、目的、および関連する従来技術について述べている.特に今日使用が増大しつつある多心光ファイバ線路に対しては、従来の導体線路において採用されてきた方式とは異なる線路切替接続作業が必要である状況を説明して、それを実現する技術の開発が光ファイバ線路の大規模導入に不可欠であることを述べている.

 第2章は「光ファイバ曲げ入射/曲げ受光系の光学モデル解析と特性評価」と題し、対照信号光を効率良く現用光ファイバに伝搬させるための曲げ入射条件、および光ファイバ内を伝搬する対照信号光を効率良く受光するための曲げ受光条件を理論的および実験的に検討して、入射ビームスポットサイズを小さくし、かつ光源波長を実用範囲内で長くすることが効率を向上させることに有効であることを明らかにしている.

 第3章は「心線対照機能実用化のための光学設計と光学特性解析」と題し、第2章で得られた研究成果を踏まえて光ファイバ曲げ入射/曲げ受光光学系を用いた心線対照装置を具体化するための諸検討を行っている.例えば単一モード光ファイバパラメータと曲げ損失の関係、光ファイバ曲げ部における光ファイバ破断確率、さらに心線対照実用系に要求される諸機能等について検討し、また曲げ入射系と曲げ受光系の機能設計について論じている.その結果の一つとして曲げ半径を7mm、対照信号光波長に1.55mを用いる場合には適用距離は最大21km程度までとれることを明らかにしている.

 第4章は「心線対照実用装置の機能と評価」と題し、現場で用いることのできる心線対照装置の具体的装置構成について、その適用形態、所要機能、要求条件を整理しつつ実用化装置の設計について論じている.またそれに基づいて、曲げ入射/曲げ受光方式、端面入射/曲げ受光方式の2種類の心線対照方式を用いた現用回線の切替接続システムの開発を行い試験を行った結果、それらが現場環境下で十分な性能を有することを明らかにしている.

 第5章は「光アクセス機能を有する心線対照用単一モード光コネクタ」と題し、単一モード光ファイバの接続点において光ファイバを曲げることなく対照信号光が入射および受光可能な光コネクタの基本構造を提案し、それについての構造設計法、光アクセス特性等について論じている.さらにその試作試験を行った結果、本コネクタによって現用光ファイバ接続点において対照信号光を回線内に入射でき、またそれを任意の接続点において受光できることを確認して、将来の実用技術として有望であることを指摘している.

 第6章は「光ファイバケーブル接続部における光ファイバハンドリング時の光損失変動特性評価」と題し、線路接続部における心線処理方式として提案されている個別処理方式および一括処理方式の特徴と問題点を評価し,さらにそれぞれを用いたハンドリング装置を開発して、心線接続部および接続余長心線の収容実験を行い、その際の光損失変動特性の評価を行っている.その結果、両方式を比較すると、個別処理方式の方がアナログベースバンド画像信号伝送時の信号対雑音比の劣化が小さいことから、特にケーブル接続部において心線接続替を必要とする加入者光線路に対しては好ましい方式であることを明らかにしている.

 第7章は「光ファイバ切替接続による伝送システムへの影響」と題し、本研究で用いられてきた対照信号光が現用通信回線へ与える影響について評価を行い、その結果、対照信号光レベルを調整することにより伝送品質を劣化させることなく心線対照が可能であることを示している.また、光ファイバ切替接続システム使用時に生じる光信号の瞬断による伝送装置への影響評価および通信サービスへの影響評価を行い、本システムが十分現用回線に適用できることを確認している.

 第8章は「結論」であり、本研究の成果を要約すると共に、今後検討が期待される研究課題について整理している.

 以上要するに本論文は、公衆電気通信網への導入が増大しつつある多心光ファイバ線路において、通信サービスを中断させることなく離れた2地点で現用心線の識別を行う心線対照技術に関して、外部よりレーザ光線を結合させて心線同定を行う新技術を開発してその諸性能の評価を行い、さらにこれに基づいて現場環境下で使用可能な光ファイバ切替接続システムの開発を行ってその実用化に重要な知見を与えたもので、電気通信工学に貢献するところが多い.

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる.

UTokyo Repositoryリンク http://hdl.handle.net/2261/50886