学位論文要旨



No 211808
著者(漢字) 功刀,資彰
著者(英字)
著者(カナ) クヌギ,トモアキ
標題(和) 片面加熱流路における対流熱伝達に関する数値解析的研究
標題(洋)
報告番号 211808
報告番号 乙11808
学位授与日 1994.05.19
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第11808号
研究科 工学系研究科
専攻 システム量子工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 秋山,守
 東京大学 教授 矢川,元基
 東京大学 教授 岡,芳明
 東京大学 教授 班目,春樹
 東京大学 助教授 大橋,弘忠
内容要旨

 現在の核融合研究は、国際熱核融合炉(International Thermonuclear Experimental Reactor:ITER)の工学研究開発を中心に展開されつつあり、近い将来にITERによって自己点火条件や長時間燃焼プラズマが達成されることとなろう。また、将来の発電プラントとしてのトカマク型核融合動力炉の設計研究も盛んに行われており、最近では逆ピンチ磁場型核融合動力炉概念であるTITANや高磁場トカマク型核融合動力炉としてARIESが検討されている。

 周知のようにトカマク型核融合炉は、真空容器内に形成したトロイダルおよびポロイダル合成磁場により高温のプラズマを閉じ込める構造となっている。したがって、高温のプラズマからの強い放射熱から真空容器および核融合炉燃料(トリチウム)の生産を行う増殖ブランケットを保護する必要がある。このため、ブランケットの保護を兼ねた第一壁、およびプラズマで生成されるヘリウム灰の除去を行うダイバータと呼ばれる受熱機器(プラズマ対向機器)が真空容器の内壁にプラズマに対向する形で配置されている。このプラズマ対向機器は片面からのみ強い熱流束(数十MW/m2)で加熱され、機器の機能を保持・保護するためにはこの高熱流束による熱を効率よく除去する必要がある。

 また、これまでに提案・検討されているトカマク型核融合動力炉概念設計(STARFIRE、TITANやARIES等)では、冷却材として水、液体金属および気体が取り上げられているが、将来の発電炉として考えた場合、エネルギー変換効率の観点から出口温度の高く取れる液体金属および気体が有望と考えられる。この液体金属として有望な物質には、液体リチウムや液体リチウム鉛等があり、熱伝導に優れ熱容量が大きく取れることと、リチウムを含む金属では冷却と同時にトリチウム増殖ができるため非常に魅力的な冷却材であると考えられている。しかし、トカマク型核融合炉では前述のように磁場によるプラズマ閉じ込めを行っているので、磁場下で液体金属を流す際に発生する電磁力による大きな流動抵抗が問題となる。また、これらの液体金属は空気、水および窒素などとの化学反応性を有しており、構造材料との両立性やリチウム火災等の安全性に問題があることが指摘されている。

 一方、不活性気体(ヘリウムガス)は環境安全性の観点から本質安全性が高いため魅力ある冷却材であるが、熱容量が小さく伝熱特性に優れていないため、約100気圧程度に加圧(気体を圧縮して密度を大きくし、熱容量を増大させる)して利用しなければならない。このような高圧の冷却系は、漏洩防止のためにフランジのない継目無し配管の使用や系内ガスの純度管理のためのバイパス流量を補償するために圧縮機の常時使用などの技術的課題や信頼性の確保が重要となる。

 さて、図1(a)に示すようにプラズマ対向機器内の冷却材流路として円管が用いられた場合、プラズマからの強い片側放射加熱により管周方向に強い非一様な熱的境界条件を生ずることになる。管周方向に強い非一様な熱的境界条件を有する円管内の対流熱伝達特性については、ガス流に対する研究はいくつか報告されているが、磁場中の液体金属流については十分な研究は行われておらず、核融合炉等の冷却管伝熱設計では一様加熱条件で得られた熱伝達相関式で代用しているのが現状である。また、プラズマ対向機器の中でもダイバータ板は局所的に非一様な高い熱負荷を受けることになるため、図1(b)のような衝突噴流を用いた局所冷却が有効と考えられるが未だ十分な検討は行われていない。

図1 各種プラズマ対向機器冷却方式

 本研究では、不均一な境界条件(非一様な熱的条件や速度および乱れの非等方性)を有する受熱機器の除熱解析の磁場(MHD)効果を含めた複雑な伝熱流動特性を数値解析的に解明することを目的とした。このため、数値解析を効率的に進めるために必要な基本的技術として数値解析手法(特にCONDIF法に関する)の検討、および流れ場の非一様性を正確に評価するための物理モデルとしての各種乱流モデルおよびモデル定数(特に代数応力モデルの圧力速度歪み相関項のモデル定数)の検討を行った。次いで、核融合炉への応用という観点に立って、(1)熱伝導率および熱容量の大きい液体金属を作動流体と考えた場合の円管内熱伝達特性、および(2)環境安全性の高い気体を作動流体とした場合の高熱流束除去系と目される乱流衝突噴流の伝熱流動特性を数値解析によって検討した。

 (1)液体金属流については、CONDIF法による数値安定性に優れた3次元MHD流解析コードを開発し、片面強加熱や磁場効果による速度分布の非一様性等を含む複雑な流路内MHD圧力損失の詳細な評価を可能とした。液体金属流の円管内伝熱流動特性については、核融合炉での強磁場条件下ではMHD力による乱れの強い安定化が期待されるため速度発達領域における円管内熱伝達特性に焦点を絞り、磁場の影響や温度発達助走区間特性を含めた伝熱特性を数値解析で検討した。その結果、種々の速度分布を持つ場合の円管内非MHD流熱伝達について、プラズマ側の冷却管頂点における熱伝達率は片面加熱強さの増加に伴って大幅に低下することを明らかにした。次いで、円管内MHD流に垂直でプラズマからの放射熱流束と平行な磁場条件における熱伝達特性を、磁場強度の影響、片面加熱強さの影響、速度分布の影響および助走区間長さについて検討し、管頂点の熱伝達率は磁場強度の増加に伴って非MHD流の約2倍程度大きくなること、および熱伝達率の増加は強磁場条件では飽和することを明らかにした。さらに、片面加熱強さの増加とともに熱伝達率は急激に減少するが強磁場条件では飽和することを明らかにした。また、磁場交差角度の影響と片面加熱強さの影響、および助走区間の熱伝達特性について検討し、片面加熱強さが大きい場合には管頂点の熱伝達率の磁場交差角度の依存性は小さいが、一様加熱条件の場合には磁場交差角の影響が大きく現れ、平行磁場に比べて直交磁場の熱伝達率が減少することを明らかにした。管頂点近傍の熱伝達率は片面加熱強さの増加に伴って低下し、一様加熱の場合に比べて大幅な減少を示すこと、および磁場交差角の影響は、片面強加熱条件よりも一様加熱条件の方が大きく現れることを明らかにした。

 (2)不活性気体の乱流衝突噴流伝熱流動特性については、高い熱伝達が期待される淀み点近傍の伝熱流動特性、特に、衝突噴流の特徴である壁面上の局所熱伝達率分布の第1および第2ピークの予測性能について種々の乱流モデルを用いた詳細な検討を行い、円形乱流自由衝突噴流解析に及ぼす数値解析条件や境界条件の影響を明らかにした。また、核融合炉への適用を想定した場合、自由噴流としての利用は難しく、非常に狭隘な流路内での衝突噴流による冷却方式が現実的である。このような場合における乱流衝突噴流の伝熱流動特性について、上述の乱流自由噴流での検討結果を踏まえ、低レイノルズ数型非等方乱流モデルの検討をとおして「乱流の非等方性」および「壁面近傍での低レイノルズ数効果」の両者を考慮することが重要である点が認識され、狭隘な流路内での衝突噴流熱伝達の第1および第2ピークの予測が初めて可能となった。

 以上のように、核融合炉のプラズマ対向機器中の冷却材円管流路を流れる液体金属MHD流を対象に、熱流束の非一様性や磁場による速度分布の非一様性がMHD熱流動特性に及ぼす影響を数値解析で検討した結果、加熱面側の熱伝達率が一様加熱条件における熱伝達率に比べて大幅に減少することが明らかとなり、円管頂部における境膜温度差の見積もりが過少評価となっている可能性が示唆された。最期に、液体金属流冷却およびヘリウムガス冷却の核融合動力炉を対象として片面加熱による伝熱性能劣化の具体的検討を示した。

審査要旨

 核融合炉では、高温プラズマに面する第一壁やダイバータの高い熱負荷をいかに冷却するかが核融合炉実現のための炉工学の重要な技術課題となっている。このようなプラズマ対向機器は、片側放射加熱による非一様性の強い高い熱流束を受けるのが特徴であり、その冷却には液体金属冷却や衝突噴流冷却が有効であると期待されている。非一様加熱に対して核融合炉の熱設計では一様加熱条件で得られた伝熱相関式で代用してまかなっており、ここに非一様性の効果を正しく反映することが重要な課題となっている。また、液体金属冷却では磁場の効果が、衝突噴流では乱流効果がそれぞれ熱伝達特性にどのような影響を及ぼすかを把握しておく必要がある。本研究は以上を背景として非一様な加熱を受ける場合の高熱負荷除去のための冷却手法の熱伝達特性を明らかにすることを目的として行われたもので、数値解析手法の開発と乱流モデルの検討ののち、それらを用いて熱伝達特性を詳細に検討したものである。本論文は4つの章から構成されている。

 第1章では以上の研究の背景と目的を述べている。

 第2章は本研究で開発・検討した数値解析手法と乱流モデルについて述べた章である。まず、熱流動方程式の差分法としてCONDIF法に着目し、これを2次元に拡張しキャビティ流れを対象としたスキーム精度の検討を通してCONDIF法が高精度で安定性の高い差分スキームであることを実証している。このCONDIF法に基づいて、高磁場近似を用いることがなく任意形状を扱うことの出来る3次元非定常MHD流れの解析コードを開発し、ベンチマークテストおよび直角曲がりダクト流に適用して解析解と2次元有限要素コードの計算結果と比較することによりコードの妥当性を示している。また、対流伝熱における乱流について壁近傍の乱流熱流束のモデルとして等価渦拡散係数を提案し、第3章で使用する高レイノルズ数型等方k-モデル、低レイノルズ数型非等方k-モデル、代数応力モデルを導入するとともに、代数応力モデルの圧力歪相関項のモデル定数をマクロ伝熱流動特性量である熱伝達率、摩擦係数の相関式および局所平衡流実験との比較から検討してより整合性の高い定数の使用を提唱している。

 第3章は第2章で開発した数値解析手法と検討結果を用いて片面加熱流路の対流熱伝達の数値解析結果を述べた章である。液体金属MHD流では磁場強度、磁場方位や加熱の非一様性の効果を検討し、強加熱部の熱伝達率は磁場の増大に伴い非MHD流の場合の2倍程度まで増加すること、この増加は強磁場条件で飽和してくること、加熱強さの増加とともに熱伝達率は低下すること、片面加熱強さが大きい場合には磁場交差角の影響は小さいが一様加熱ではこの影響が大きく現われることなどを明らかにしている。乱流衝突噴流の熱伝達解析では、標準的な高レイノルズ数型等方k-モデルを用いた解析を行い、格子分割数、境界条件の取り方などの影響を検討している。この場合に衝突点近傍の熱伝達率予測が乱流強度の非等方性のために十分ではないことを示し、新しい定数を用いた代数応力モデルを用いた解析で実験値をほぼ完全に予測できることを明らかにしている。また、狭い流路で衝突噴流ノズルと衝突面が接近している場合には低レイノルズ数型非等方k-モデルが有効であり、乱流レイノルズ応力の非等方性と壁面近傍での低レイノルズ数効果の両者を考慮することが乱流輸送機構を検討する上で重要であることを示している。

 第4章は結論であり、本研究で得られた知見をまとめるとともにそれらが核融合炉の熱設計にもつ意義を述べている。

 以上を要するに、本論文は核融合炉の熱設計に必要な非一様性の高い高熱流束を受ける場合の熱伝達特性を解析する手法を開発しその有効性を示すとともに、これを適用したシミュレーションから多くの有用な知見を得たもので、システム量子工学、特にシステム設計工学の分野に寄与するところが大きい。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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