原子炉の過渡事象は多くの物理的な過程が相互に関連して発生する複雑な事象であり、原子や安全解析はこれらの多くの不確定性や不確実性を包含するような保守的な仮定をおいて行われ安全性が確認されている。これに対して、原子炉過渡事象をなるべく現実的に予測することによって安全余裕度を定量的に把握したり安全系統の合理的な設計に役立てていくニーズが高まっており、多くの実験と解析手法の開発が進められている。本研究はこのような観点から設計基準事故である冷却材喪失事故の定量的予測手法の確立を目的として行われたもので、加圧水型原子炉(PWR)の冷却材喪失事故時再冠水過程の熱流動挙動を取り上げ、実験による特性の把握と詳細な検討を通してこれらの挙動の解明とモデルの開発を行ったものである。本論文は6つの章から構成されている。 第1章は序論で、冷却材喪失事故再冠水過程に関するこれまでの研究をまとめ、本研究で対象としたPWRの再冠水過程の熱流動挙動についての課題を管群内ボイド率、炉心内出力分布の効果、複合注入型PWRでの熱流動挙動、圧力容器内熱流動挙動の4つに整理している。 第2章は再冠水過程のPWR管群内ボイド率について検討した章である。4×4ならびに7×7の管群試験装置で得られたデータと流動状況の観察から、ボイド率特性に与える蒸気流束、圧力、等価直径、熱流束などの影響を明らかにしている。これをもとに従来のボイド率相関式を評価してそれらに適用性の限界があることを示し、新しい相関式を作成・提唱してその広範な適用性を確認している。 第3章では炉心出力分布の影響を検討している。2000本管群の大規模試験装置による出力分布を変えた実験データから、広くかつ出力分布のある炉心でのボイド率が示す特性とボイド率相関式の適用性を評価している。この結果から出力分布の影響をモデル化して解析コードREFLAに組み込み、また、水平方向出力分布による冷却促進効果を考慮することによって解析コードの予測がより高精度になることを示している。 第4章は複合注入型PWRの再冠水挙動を検討したもので、大規模再冠水模擬試験によってコールドレグ注入型PWRとの挙動の差異を検討し、炉心の2領域化、循環流の発生、炉心入口での逆流の有無などの点で異なることを明らかにしている。循環流の発生については、特に対向流制限現象の装置規模による違いを中心としてメカニズムの点から議論し現象を解明している。また、運動量バランスに基づく循環流量の評価式を導出しこの適用性を確認している。 第5章は複合注入型PWRの圧力容器内の伝熱流動挙動のモデル化に関する章である。まず、二相流上昇域の熱流動挙動についてコールドレグ注入型PWR用のボイド率相関式と熱伝達率相関式を確認し、つづいて複合注入型PWRに特有な炉心2領域化と循環流を質量保存とエネルギー保存からモデル化している。そしてこれらのモデルが良好な予測性能をもっていることを被覆管温度や炉心差圧の実験データとの比較で確認している。 第6章は結論であり、第1章で整理した4つの研究課題について本研究で得られた知見をまとめるとともに、それらが定量的予測手法の確立に果たす意義を述べている。 以上を要するに、本論文は原子炉安全解析の定量的予測手法の開発について重要となる熱流動挙動を解明すると同時に、相関式の作成とモデルの開発を通して予測手法の精度の向上と適用性の拡大に貢献したものであり、システム量子工学、特にシステム設計工学の分野に寄与するところが大きい。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |