学位論文要旨



No 211825
著者(漢字) 佐野,可寸志
著者(英字)
著者(カナ) サノ,カズシ
標題(和) 都市内物流における流動ロットと輸送頻度の決定メカニズム
標題(洋)
報告番号 211825
報告番号 乙11825
学位授与日 1994.06.16
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第11825号
研究科 工学系研究科
専攻 土木工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 越,正毅
 東京大学 助教授 家田,仁
 東京大学 助教授 桑原,雅夫
 東京大学 助教授 清水,英範
 東京大学 助教授 原田,昇
内容要旨

 産業構造の変化や利用者ニーズの多様化にともない、多頻度小口化や、JIT(Just In Time)輸送が増加しており、このため輸送頻度の増加と同時に流動ロットの減少の傾向が、近年特に都市内において顕著に現れてきている。このため、貨物自動車でほとんどの物資輸送がおこなわれている都市内では、貨物車の積載効率の低下と運行量の増加がみられる。このような貨物車の増加は、慢性化している都市圏の道路混雑をさらに悪化させる一因となっており、これが更なる配送効率の低下をもたらすといった悪循環に陥っている。また、労働者不足による輸送に従事する人々の労働環境の悪化や、人件費の増加や諸費用の上昇による輸送コストの増大も無視する事が、できなくなってきている.

 多頻度小口化や、JIT輸送等は川下側の一方的な要請といった側面もあるが、何らかの経済的な合理性は存在すると考えられるので、本論文では、上記の問題の解決のために、1回の荷動きの単位である流動ロットと輸送頻度の決定メカニズムを明らかにすることを試みる。なお、流動ロットと輸送頻度は、輸送の形態を規定するもっとも基本的な量であるので、これらの決定メカニズムを明らかにすることは、現在計画が進められている地下物流システムの需要予測や、燃料税制等の変更による貨物車挙動の推定をおこなうための基礎研究となりうるものである。

 これまでの物流研究においては、[1]品目の体積、重量、価格等の多様性、[2]意志決定者の多様性、[3]商習慣や流通チャンネルの複雑性といった理由から、事例を限った個別の議論が多くおこなわれてきた。しかし、一方では、広い地域に対する物流政策の効果や地下物流システムの需要予測等においては、物流をもっと統一的に扱う必要性は非常に高い。今回は、個別の要因をマクロな視点からとらえることにより、流動ロットと輸送頻度の決定過程のモデル化を通して、都市圏レベルのマクロな視点からの、物流の統一的な取り扱いを試みる。

 現在までに、わが国では3大都市圏を中心に合計12回、東京圏に限ると昭和47年と昭和57年の2回、都市圏の物流調査はおこなわれている。かなり大規模な調査であるが、発生集中貨物量、分布貨物量、輸送機関別貨物交通量といった、物や貨物車の流れの現状を把握することに主眼がおかれており、物の流れのメカニズムを解明するという視点から言うと必ずしも満足のいく調査ではない。また、第2回の調査から10年以上が経過し、近年の物流に対するニーズの高度化にともなう現象をとらえることは困難である。そこで本研究では独自の訪問インタビュー調査をおこなうとともに、流動ロット、輸送頻度、トラックサイズ、輸送機関等の物の流れのメカニズムのモデル化を試みた。

 本論文の構成は、以下の通りである.

 第2章では、流動ロットに着目をして、都市内物流の現状の把握を試みる.代表的な業種の各会社の物流担当者に対して、訪問ヒアリング調査を行い、実地での物流がどのようにおこなわれているかを把握した.また、流動ロットに着目して、昭和57年に実施された東京都市圏物資流動調査のデータを用いた分析をおこなった.

 第3章では、輸送頻度と流動ロットの決定のメカニズムをモデル化をおこなった.

 本モデルは、流動ロット、配送頻度、トラックサイズ、配送件数を決定する流動ロットサブモデルと、貨物自動車の業態を決定する自家用/営業用貨物車決定サブモデルの2つのサブモデルから成り立つ.

 流動ロットサブモデルは、貨物需要量固定を前提とし、取扱い品目の密度、単位重量当たり価格、価格提言特性といった品物に関する情報や顧客数、配送量、配送エリア面積といった顧客に関する情報をもとに、荷主と荷受け人の在庫も含めた配送に関わる費用を最小化するように流動ロット等の配送の形態を決定するモデルである.また、自家用/営業用貨物車決定サブモデルは、上位の流動ロットサブモデルから出力される輸送形態の変数を入力変数の一部とし、直接的な物流活動にともなうコストだけでなく、自家用輸送において実施されているドライバーのセールス活動の便益や緊急輸送に対応可能と自家用貨物輸送の有利さも効用として計測した。

 第4章では、食料工業品物流調査をおこない、モデルの推定をおこなった。第3章で提案したモデルを推定するために、独自に事業所に対する訪問インタビュー調査をおこない、パラメータの推定をおこない、結果について考察をおこなった.その結果、輸送頻度は、価値逓減特性や、競争の激しさが大きく効いていることや、トラックのサイズは、道路状況や駐車の容易さといった事柄が大きな制約となっていることがわかった。

 また、食料品といった特殊性によるところが大きいが、荷主は荷物の取り扱いの丁寧さに大きな関心を持っており、丁寧な取り扱いに対しては、少々のコスト高は容認することや、どのくらいセールスに対して効用を感じているかを定量的に把握した。

 第5章では、流動ロットに着目した都市内物流の需要予測手法を提案した。分布貨物量モデル、機関分担モデル、貨物交通量変換モデルに対して、流動ロットを考慮したモデルの提案をおこない、従来の方法に比べて精度の高い結果を得ることができた。特に、貨物交通量変換は、荷物の動きを貨物車の動きに変換するもので、交通計画をおこなう際には最も重要なプロセスである。しかし、今までのところ従来パターン法以外の方法は存在しておらず、合理的なモデルの必要性は非常に高い。

 これらのモデルにより、広い地域に対する物流政策や地下物流システムの需要予測等が可能となると同時に、削減交通量といった効果も計測が可能となる。

 第6章では、第4章と第5章で提案したモデルを利用して、物流政策の評価や各種のシナリオに対する分析をを試みた。

審査要旨

 産業構造の変化や利用者ニーズの多様化にともない、多頻度小口化や、JIT(Just In Time)輸送が増加している。このため、輸送頻度の増加と同時に流動ロットの縮小の傾向が、近年特に都市内において顕著に現れてきている。貨物自動車でほとんどの物資が輸送されている都市内においては、貨物車の積載効率の低下と運行量の増加がみられる。このような貨物車の増加は、慢性化している都市圏の道路混雑をさらに悪化させる一因となっており、これが更なる輸送効率の低下をもたらすといった悪循環に陥っている。また、労働者不足による輸送に従事する人々の労働環境の悪化、人件費、諸費用の上昇による輸送コストの増大も無視する事ができなくなってきている。

 多頻度小口化や、JIT輸送等は川下側の一方的な要請によるといった見方もあるが、本論文では何らかの経済的な合理性が存在すると考え、1回の荷動きの単位である流動ロットと輸送頻度の決定メカニズムを経済合理性に合致した行動として明らかにすることを試みている。流動ロットと輸送頻度は、輸送の形態を規定するもっとも基本的な量であり、これらの決定メカニズムを明らかにすることは、現在検討が進められている地下物流システムの需要予測や、将来起こりうる物流コストの変化による貨物車挙動の推定を行うための基礎となるものである。

 これまでの物流研究においては、[1]品目の体積、重量、価格等の多様性、[2]意志決定者の多様性、[3]商習慣や流通チャンネルの複雑性といった事情から、事例ごとに個別の議論が多くおこなわれてきた。しかし、一方では、物流政策の評価や物流の将来需要予測等においては、物流をもっと統一的に扱う必要性が非常に高い。本研究では、流動ロットと輸送頻度の決定過程のモデル化を通して、都市圏レベルのマクロな視点からの、物流の統一的な取り扱いを試みたものである。

 本論文は全7章より構成されている。

 第1章では、研究の目的と論文の構成について述べている。

 第2章では、流動ロットに着目して、都市内物流の現状把握のための調査を実施している。代表的な業種の物流担当者に対して、訪問ヒアリング調査を行うとともに、昭和57年に実施された東京都市圏物資流動調査のデータを分析して、都市内の物流の特性を把握している。第3章では、輸送頻度と流動ロットの決定メカニズムをモデル化している。

 このモデルは、流動ロット、輸送頻度、トラックサイズ、輸送件数を決定する流動ロットサブモデルと、貨物自動車の業態を決定する自家用/営業用貨物車決定サブモデルの2つのサブモデルから成り立つ。

 流動ロットサブモデルは、取り扱い品目の密度、単位重量当たり価格、価格低減特性といった品物に関する情報や、顧客数、輸送量、輸送エリア面積といった顧客に関する情報をもとに、荷主と荷受け人の在庫も含めた、輸送に関わる総費用を最小化するように流動ロット等の輸送形態を決定するモデルである。また、自家用/営業用貨物車決定サブモデルは、上位の流動ロットサブモデルから出力される輸送形態の変数を入力変数の一部とし、直接的な物流コストだけでなく、自家用輸送において往々行われているドライバーのセールス活動の便益や、緊急輸送に対応可能という自家用貨物輸送の有利さも効用として計測している。

 第4章では、食料工業品物流調査を行い、モデルの推定をしている。

 前章で提案したモデルを推定するために、独自に事業所に対する訪問インタビュー調査を実施し、パラメータの推定と考察を行っている。その結果、輸送頻度は、価値低減特性や競争の激しさが大きく影響していることが示されている。

 また、食料品であるためもあって、荷主は荷物の取り扱いの丁寧さに大きな関心を持っており、丁寧な取り扱いに対してどれほどのコスト高を容認するかとか、セールス活動に対してどれほどの効用を認めるかについても定量的に把握している。

 第5章では、流動ロットに着目した都市内物流の需要予測手法を提案している。分布貨物量モデル、機関分担モデル、貨物車交通量変換モデルに対して、流動ロットを考慮したモデルの提案を行ない、従来の方法に比べて精度の高い結果を得ている。特に、貨物車交通量変換モデルは、荷物の動きを貨物車の動きに変換するもので、交通計画を行なう際には最も重要なプロセスであるにもかかわらず、これまで現在パターン法しか存在しなかったので、本モデルの意義は高く評価される。

 第6章では、第4章で提案したモデルを利用して、燃料税や環境税の導入による燃料価格の増加、労働力不足による人件費の高騰が、輸送形態に与える影響を定量的に示している。また、旅行速度や荷役時間の影響も定量的に示している。

 第7章では、結論として本研究により得られた知見と、今後の課題について述べている。

 本論文は、都市内貨物輸送について、輸送形態を規定する最も基本的な量である輸送頻度と流動ロットの決定を経済合理性にのっとった行動として、そのメカニズムを明らかにしたものである。理論的な考察に基づく仮説を、独自の物流インタビュー調査を実施して得られたデータを使用して検証している。本論文では、従来は個別の検討しか行われていなかった、複雑な物流の多様性をより統一的に取り扱うことに成功しており、今後の研究に資するところが大きい。また、本論文で提案されたモデルは、様々な物流政策を評価するための基礎分析ツールとなりうるものであり、実用性が高く、その成果は高く評価される。

 よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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