学位論文要旨



No 211827
著者(漢字) 三木,理
著者(英字)
著者(カナ) ミキ,オサム
標題(和) 高炉水砕スラグ添加活性汚泥法による有機廃水の高効率処理
標題(洋)
報告番号 211827
報告番号 乙11827
学位授与日 1994.06.16
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第11827号
研究科 工学系研究科
専攻 都市工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 大垣,真一郎
 東京大学 教授 古崎,新太郎
 東京大学 教授 松尾,友矩
 東京大学 助教授 山本,和夫
 東京大学 助教授 味埜,俊
内容要旨

 標準活性汚泥法を効率化する1つの手法として、エアレーションタンク内に担体を投入し、この担体に活性汚泥を付着させるプロセスの研究が進められ、今後、実設備への適用が期待されている。このような担体を用いる活性汚泥法は、標準活性汚泥法よりも、エアレーションタンクでの活性汚泥の高濃度化を進めることができ、この結果、エアレーションタンクの水理学的滞留時間(HRT)の短縮、処理水質の向上、処理設備のコンパクト化が期待できる。本論文は、活性汚泥を付着させる担体として、製鉄所の溶鉱炉からの副産物である高炉水砕スラグに着目し、高炉水砕スラグを担体としてエアレーションタンクに添加する活性汚泥法について、下水処理場に建設したパイロットプラント実験を主体とした研究を行い、本法の都市下水などの有機廃水の高効率処理への適用を検討したものである。この研究成果をまとめると次の通りである。

 高炉水砕スラグは、珪砂、ゼオライトなど他の担体と比較して活性汚泥を付着する性能が優れており、エアレーションタンクでの活性汚泥の高濃度化を容易に進めることができ、この結果、高炉水砕スラグ添加活性汚泥法は、標準活性汚泥法よりも高効率で都市下水を処理でき、処理水質が優れている。また、既設下水処理設備の能力の向上のためにも、適正な粒径の高炉水砕スラグの添加と水中攪拌機の適用により容易に対応できる。さらに、高炉水砕スラグ添加活性汚泥法は、難分解性有機物を含む皮革工場廃水が流入する都市下水や食品工業廃水の処理にも適用でき、標準活性汚泥法より、処理の効率化や処理水質の向上が可能となる。以上の成果を全6章としてとりまとめ、6章には総括、および設計の考え方を示した。

 第1章では、高炉水砕スラグの活性汚泥の担体としての評価を、硅砂、ゼオライト、クリストバライトと比較して、人工下水を用いたベンチスケール実験で行った。高炉水砕スラグは、現在、高炉セメントの原料や土壌改良剤として広く用いられ、入手、取扱いが容易であり、ゼオライトなどと比較して低コストである特長がある。基礎実験の結果、高炉水砕スラグは、他の担体と比較して、活性汚泥の沈降性改善や、活性汚泥のバルキングを抑制する効果が優れており、エアレーションタンクのHRTを2〜3時間程度に短縮できることを明らかにした。高炉水砕スラグが活性汚泥を付着し、活性汚泥の沈降性を改善する性能が優れている原因については、比表面積、ゼータ電位、表面性状などからは説明できなかった。また、高炉水砕スラグの主成分がカルシウム化合物であり、溶出したカルシウムイオンが、活性汚泥の沈降性改善に関与していることが推定されたが、明確な結論は得られなかった。しかし、高炉水砕スラグの比重が2.9と大きく、また、活性汚泥の高炉水砕スラグ表面への付着が即時に進むため、活性汚泥の沈降性が即効的に改善されることを明らかにした。

 第2章では、K市都市下水処理場にパイロットプラントを建設し、高炉水砕スラグ添加活性汚泥法の実下水を用いた評価を行った。この結果、エアレーションタンクのHRTが3時間の高効率処理を行っても、バルキングが発生せず、年間を通じて処理水質が良好であった。また、都市下水の流入量を変動させ、エアレーションタンクのHRTが1.5時間〜3時間の高効率処理を行っても、処理水質はBODが10mg/l以下、COD、SSが15mg/l以下と良好であり、エアレーションタンクのコンパクト化が可能であることを明らかにした。また、高炉水砕スラグ表面に付着した活性汚泥の沈降速度は、MLVSSとMLSSの比を0.2〜0.3に維持すれば、MLVSSが3000mg/lに増加しても50m/日以上であり、最終沈殿池のコンパクト化が可能と考えられた。さらに、高炉水砕スラグは、液体サイクロンにより約93%回収でき、循環使用が可能であることを明らかにした。また、液体サイクロンによって分離された余剰汚泥の発生量は、下水1m3あたり約5l、乾燥重量換算で約60gであり、余剰汚泥は、未回収の高炉水砕スラグを含有している結果、標準活性汚泥法の余剰汚泥よりも、濾過速度、含水率などの脱水性能が優れており、薬注量の削減も可能であることを明らかにした。

 第3章では、能力不足やバルキングの発生しやすい既設の下水処理場に高炉水砕スラグを容易に適用するため、エアレーションタンクの水流速度と高炉水砕スラグの粒径の関係について検討した。既設下水処理場のエアレーションタンクの平均水流速度は、5〜10cm/秒程度であり、この条件で流動する高炉水砕スラグの粒径をベンチスケール実験で検討した結果、この条件でほぼ完全に流動する高炉水砕スラグの粒径は、50%平均粒径が50〜65m程度であった。また、高炉水砕スラグの50%粒径が100m以上になると、平均水流速度が5〜10cm/秒の条件では、エアレーションタンク内で均一に流動させることが困難であった。さらに、既設下水処理場のエアレーションタンクの底部は、平底であり、また、散気管によって曝気を行なっているので、高炉水砕スラグをエアレーションタンクに添加した場合、デッドスペースに堆積が生じ、高炉水砕スラグの添加量を増加させても十分に効果が得られない懸念があった。このため、エアレーションタンクのデッドスペースへの堆積を防ぎ、流動を容易にする方法として、散気管にかえて水中攪拌機の適用をパイロットプラント実験で検討した。この結果、水中攪拌機をタンク底部の水流速度が10cm/秒程度になるように運転すれば、基礎実験の結果と同様、50%平均粒径が50〜65mの高炉水砕スラグを、エアレーションタンク内でほぼ均一に流動させることが可能であることを明らかにした。

 第4章では、難分解性有機物を含む皮革工場廃水が流入する都市下水処理プロセスの改善に、高炉水砕スラグ添加活性汚泥法の適用を検討した。皮革工場廃水は、NH4-Nが約150mg/lと高く、難分解性の有機物を含んでいることが多いため、エアレーションタンクでのHRTがかなり長くなり、また、処理水中にNO2-Nが生成しやすく、NO2-N起因のCODが上昇しやすい問題点があった。そこで、高炉水砕スラグを活性汚泥の担体として、皮革工場廃水が流入する都市下水の高効率処理と処理水質の向上を検討した。この結果、エアレーションタンクのHRTを8〜12時間に設定し、SRTを短縮し、また、エアレーションタンクのORPを0mV程度に維持することによって、NO2-Nの生成を抑制でき、処理水のCODを60〜80mg/lまで削減できることを明らかにした。さらに、処理水質を向上させる方策として、高炉水砕スラグ添加活性汚泥法の後段に高炉水砕スラグを主原料とするサドル型セラミックスを充填した固定床型リアクターを設置し、セラミックスに硝化細菌を付着させ、NO3-Nを生成する硝化反応の促進を検討した。この結果、亜硝酸酸化細菌の増殖には約3か月を要したが、2段生物処理プロセスによって、NO3-Nを生成する硝化反応を促進でき、NO2-Nの蓄積を防止できるため、処理水のCODを40〜60mg/lまで削減できることを明らかにした。

 第5章では、バルキングが生じやすい食品工業廃水(乳業工場廃水、ワイン工場廃水)処理プロセスの改善に、高炉水砕スラグ添加活性汚泥法の適用を検討した、食品工業廃水は、都市下水と異なり、その組成が多種多様であるため、廃水の性状調査や生物処理への影響などの基礎調査を行った後、最適と考えられるプロセスを組み、現地での実験によって処理性能を評価した。この結果、乳業工場廃水を処理する場合、乳業工場廃水をそのまま処理せず、エアレーションタンクでのスカム発生の原因となる油脂などを凝集沈殿法で処理した後、高炉水砕スラグ添加活性汚泥処理法によって、エアレーションタンクのHRTを6〜8時間に設定して処理すれば、エアレーションタンクのHRTを短縮でき、また、処理水質を改善できることを明らかにした。また、ワイン工場廃水を処理する場合、ワイン工場廃水をそのまま処理せず、脱塩素処理を行い、生物処理の阻害の原因となる残留塩素を除去すれば、高炉水砕スラグ添加回分式活性汚泥法により、3サイクル/日(処理時間8時間)の条件で、従来の回分式活性汚泥法よりも良好な処理水質を得ることができることを明らかにした。

 すなわち、本研究によって、高炉水砕スラグ添加活性汚泥法は、都市下水処理について、従来の標準活性汚泥法よりも、エアレーションタンクのHRTを1/2〜1/3に短縮できるため、プロセスの効率化が可能であり、また、処理水質を改善できることを明らかにした。また、難分解性有機物を含む皮革工場廃水が流入する都市下水やバルキングが生じやすい食品工業廃水にも、高炉水砕スラグ添加活性汚泥法の適用が有効であることを明らかにした。

審査要旨

 標準活性汚泥法を効率化する一つの手法として、エアレーションタンク内に担体を投入し、この担体に活性汚泥を付着させるプロセスの研究が進められている。このような担体を用いる活性汚泥法は、標準活性汚泥法よりも、エアレーションタンクでの活性汚泥の高濃度化を進めることができ、この結果、エアレーションタンクの水理学的滞留時間(HRT)の短縮、処理水質の向上、処理設備のコンパクト化が期待できる。

 本論文は「高炉水砕スラグ添加活性汚泥法による有機廃水の高効率処理」と題し、製鉄所の溶鉱炉からの副産物である高炉水砕スラグを担体としてエアレーションタンクに添加する活性汚泥法について、下水処理場に建設したパイロットプラント実験を主体とした研究を行い、本法の都市下水などの有機廃水の高効率処理への適用を検討したものである。

 第1章では、高炉水砕スラグの活性汚泥の担体としての評価を、硅砂、ゼオライト、クリストバライトと比較して、人工下水を用いたベンチスケール実験で行なっている。高炉水砕スラグは、現在、高炉セメントの原料や土壌改良剤として広く用いられ、入手、取扱いが容易であり、ゼオライトなどと比較して低コストである特長がある。基礎実験の結果、高炉水砕スラグは、他の担体と比較して、活性汚泥の沈降性改善や、活性汚泥のバルキングを抑制する効果が優れており、エアレーションタンクのHRTを2〜3時間程度に短縮できることを明らかにしている。

 第2章では、K市都市下水処理場にパイロットプラントを建設し、高炉水砕スラグ添加活性汚泥法の実下水を用いた評価を行なっている。この結果、エアレーションタンクのHRTが3時間の高効率処理を行っても、バルキングが発生せず、年間を通じて処理水質が良好であること、また、都市下水の流入量を変動させ、エアレーションタンクのHRTが1.5時間〜3時間の高効率処理を行っても、処理水質はBODが10mg/L以下、COD、SSが15mg/L以下と良好であり、エアレーションタンクのコンパクト化が可能であることを明らかにしている。さらに、高炉水砕スラグは、液体サイクロンにより約93%回収でき、循環使用が可能であることを明らかにしている。

 第3章では、能力不足やバルキングの発生しやすい既設の下水処理場に高炉水砕スラグを容易に適用するため、エアレーションタンクの水流速度と高炉水砕スラグの粒径の関係について検討している。既設下水処理場のエアレーションタンクの平均水流速度は、5〜10cm/秒程度であり、この条件で流動する高炉水砕スラグの粒径をベンチスケール実験で検討した結果、この条件でほぼ完全に流動する高炉水砕スラグの粒径は、50%平均粒径が50〜65m程度であることを示している。さらに、既設下水処理場のエアレーションタンクの底部は、平底であり、このため、エアレーションタンクのデッドスペースへの堆積を防ぎ、流動を容易にする方法として、散気管にかえて水中撹拌機の適用をパイロットプラント実験で検討し、エアレーションタンク内でほぼ均一に流動させることが可能であることを明らかにしている。

 第4章では、難分解性有機物を含む皮革工場廃水が流入する都市下水処理プロセスの改善に、高炉水砕スラグ添加活性汚泥法の適用を検討し、エアレーションタンクのHRTを8〜12時間に設定し、SRTを短縮し、また、エアレーションタンクのORPを0mV程度に維持することによって、NO2-Nの生成を抑制でき、処理水のCODを60〜80mg/Lまで削減できることを明らかにしている。

 第5章は、バルキングが生じやすい食品工業廃水(乳業工場廃水、ワイン工場廃水)処理プロセスの改善に、高炉水砕スラグ添加活性汚泥法の適用を検討した研究である。乳業工場廃水を処理する場合、乳業工場廃水をそのまま処理せず、エアレーションタンクでのスカム発生の原因となる油脂などを凝集沈殿法で処理した後、高炉水砕スラグ添加活性汚泥処理法によって、エアレーションタンクのHRTを6〜8時間に設定して処理すれば、エアレーションタンクのHRTを短縮でき、また、処理水質を改善できることを明らかにしている。

 第6章には、総括および設計の考え方を示している。

 要するに、本論文は、高炉水砕スラグ添加活性汚泥法の開発とその適用手法を明らかにしており、都市環境工学の分野の発展に大いに貢献する成果である。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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