種々の加工工程でリン化合物を多量に使用し、且つ排出するめっき業、その中でも特に電子技術を基盤とする先端産業の発展にともなって大幅に需要が増加した化学ニッケルめっきでは、処理困難な次亜リン酸、亜リン酸を排出するため、この対策に苦慮している。しかし、化学ニッケルめっき排水処理に関する報告は、酸化処理を行った後、水酸化カルシウムで沈澱処理する2段法という極めて限られたもので、酸化設備の増設,沈降槽の拡大、等を必要とし、さらに生じた汚泥の処分の問題が残るという状況である。 本研究は「火山灰土壌によるリン含有めっき排水の吸着処理」と題し、リン含有めっき排水の吸着処理に関して、火山灰土壌を一つの無機系リン吸着剤として利用するために、リン吸着能を有する火山灰土壌を明らかにすると共に、火山灰土壌による化学ニッケルめっき系排水中のリン(次亜リン酸,亜リン酸)の吸着特性、ならびに実用的システム化のための検討を行ない、めっき排水中のリン吸着処理技術を確立した。 第1章は、リン含有めっき排水処理の背景を示している。 第2章では、山梨県内の代表的火山灰土壌の特性評価を行ない、リンの吸着剤として、まず八ケ岳系火山灰土壌{Y-1(暗褐色),Y-2(黄褐色)と称す}を選択し、化学成分分析,熱分析,粉末X線回折等の検討結果から、最終的にアロフェンの1種であることを確認したY-2を吸着剤として有用なものであるとしている。 第3章では、Y-2による亜リン酸,次亜リン酸の吸着特性を明らかにしている。リン吸着に及ぼす溶液のpH,火山灰土壌の熱処理の影響を検討し、溶液系のpHによって影響され、H3PO3の吸着量は、溶液のpH値が4と低い時、最大となることを示している。また熱処理温度が400〜600℃の時、H3PO2の吸着量が大きくなることを示している。さらに火山灰土壌によるリンの吸着は火山灰土壌中のOH-基とのイオン交換反応であり、両者の反応は比較的速く、律速段階は境膜拡散過程であることを明らかにしている。 第4章では、火山灰土壌によるリン吸着除去のための種々の実用化の検討を行なっている。模擬化学ニッケルめっき排水中のリン(H3PO3,H3PO2)、およびNi2+イオンの吸着特性は、Y-2濃度が高くなるにつれて流出液中のリン濃度は減少し、物質収支式を展開して得られた計算値と一致した。また、ニッケルの吸着量はせいぜい0.1mg/g程であり、処理に用いた火山灰土壌はそのまま土壌に還元できることを明らかにした。 粉末状のY-2を用いる場合には、ポリアクリルアミドが主成分のアニオン系高分子凝集剤、およびポリアルミニウム・シリケート・サルフェート(PASS)の添加が有効であり、これらの凝集剤を添加すると固液分離が十分可能であることを明らかにした。 混合攪拌造粒法により作製した粒状のY-2(粒子径1mm)については、流入液の初期リン濃度が100mg/lの時、H3PO3の吸着量は10.2mg/gであることを示している。 種々量の粉末Y-2をパルプと一緒に漉き込んで作製したリン吸着和紙を開発し、実験データとしてリン吸着量3.5mg/g(漉き込みY-2)を得て、火山灰土壌漉き込み和紙はリン吸着機能を有するフィルターとして利用可能であることを明らかにしている。 第5章は火山灰土壌の利用拡大のための有害イオン吸着除去を検討したものである。厳しい規制値が定められている鉛-スズ合金めっき排水中のフッ素,鉛の吸着除去を検討し、火山灰土壌はF-,BF4-等の陰イオンばかりでなく有害陽イオンであるPb2+イオンに対しても、優れた選択的吸着剤として有用であることを明らかにしている。 第6章は総括である。 以上を要するに、本論文は、火山灰土壌によるリン含有めっき排水の吸着処理の手法を開発したものであり、都市環境工学の分野の発展に大いに貢献する成果である。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |