医療被ばくによる線量が人工放射線源の中でもっとも大きな被ばく源であり、国民線量の大部分を占めている。しかし、台湾においては全ての放射線源からの国民線量の評価が実施されはじめたところであり、医療被ばくによる国民線量に関してはほとんど調査が実施されていないのが現状である。とくに、台湾においては、1994年から医療社会保険制度が導入されることになっており医療被ばくによる国民線量の増加が懸念される。本研究では、台湾における1993年の放射線診断(X線診断およびインビボ核医学診断)の実施件数を調査し、医療被ばくに伴う国民線量およびそのリスクを評価し、日本、イギリス、アメリカのそれらと比較検討して、下記の結果を得ている。 (1)放射線診断(X線診断およびインビボ核医学診断)の実施頻度 調査期間中に実施されたX線診断の件数およびこの調査結果をもとに評価した台湾における1年間のX線検査の実施頻度は国民1万人当たり5309件で、日本に比べて約1/2、アメリカに比べ70%、イギリスとほぼ同数である。検査の種類としては、胸部検査がもっとも多く全体の検査の約1/2を占める。次いで腹部、四肢の順である。X線診断の実施件数の合計は、施設数の多いローカルホスピタルがっとも多く、検査の種類としては胸部および腹部が大部分である。1年間核医学検査の実施頻度は100万人当たり4903件で、日本に比べて約1/2、アメリカに比べ15%、イギリスの80%である。インビボの核医学検査の実施頻度はX線検査に比べ少ない。使用されている放射性医薬品としては、99mTcが圧倒的に多い。患者の被ばく線量が高くなるために日本や欧米諸国では現在は用いられていない131Iが台湾では現在も頻度多く用いられていることも特徴的なことである。 (2)放射線診断(X線診断およびインビボ核医学診断)による国民線量 台湾におけるX線診断による集団実効線量は4705.5man・Svであり、一人当たり線量(per caput dose)は、0.23mSv/年であり、日本の15%、アメリカの50%に相当し、イギリスとほぼ同程度である。核医学診断による集団実効線量は、418man・Svであり、一人当たりの線量は、0.020mSv/年で、日本の1/2、アメリカの15%に相当し、イギリスとほぼ同程度である。 (3)放射線診断(X線診断およびインビボ核医学診断)に伴うリスク X線診断およびインビボ核医学診断に伴う放射線リスク(致死ガンの発生確率)をICRP1990年勧告のガン死亡確率係数を用いて求めると、269人である。これは1992年台湾の自然発生のガンによる死亡数の約1%に相当する。 以上、本論文は台湾における1993年の放射線診断(X線診断およびインビボ核医学診断)の実施件数を調査し、それによる国民線量、リスクを評価し、台湾医療被ばくの現状を明らかにしたものである。今まで、全く情報がなかった台湾の医療被ばくの実態が本論文により明らかにされ、医療被ばくに対する放射線防護の正当化、最適化の判断のための極めて貴重な情報が提供された。本論文の研究成果は台湾における医療被ばくの放射線防護・管理のためだけではなく、世界全体の放射線利用、放射線防護に対する重要な貢献をなすものであり、学位の授与に値するものと考えられる。 |