学位論文要旨



No 211839
著者(漢字) 唐木,幸子
著者(英字)
著者(カナ) カラキ,サチコ
標題(和) HLAクラスIトランスジェニックマウスにおけるHLAクラスIアロ抗体産生の解析
標題(洋)
報告番号 211839
報告番号 乙11839
学位授与日 1994.06.22
学位種別 論文博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 第11839号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 成内,秀雄
 東京大学 教授 藤原,道夫
 東京大学 教授 柴田,洋一
 東京大学 教授 宮崎,純一
 東京大学 助教授 長尾,桓
内容要旨

 HLA(ヒト主要組織適合抗原;Human leucocyte-associated antigen)クラスI抗原の多型的部位(Polymorphic determinants)に対して特異的なマウスモノクローナル抗体は、HLAタイピングや様々なHLAの研究において大変有用である。

 しかし、HLAクラスI抗原をマウスに免疫すると、マウスはHLA分子のxenoの抗原決定基を強く認識するため、クラスI分子の共通部位を認職するようなmonomorphicな抗体が強く産生されて、通常の細胞融合などの方法によってはpolymorphicなマウスモノクローナル抗体は限られた種類しか得られていない。そのため、HLAクラスI抗原のタイピングは現在もヒト由来のアロ抗血清を用いた古典的な補体依存性細胞傷害試験によっている。

 そこで、マウスにHLAクラスI分子に対するアロ抗体産生を誘導することを目的として、C3Hマウス受精卵にHLAクラスI遺伝子を導入し、免疫されたHLAクラスI抗原をアロ抗原として認識するようなHLAクラスIトランスジェニックマウス(TGM)を作成した。

 樹立したHLAクラス1B51TGMは、フローサイトメトリーにより解析したところ末梢血リンパ球や胸線細胞などの体細胞表面上にHLA-B51分子を発現していることがわかった。(図1)

図1 体細胞上のHLAクラスI分子の発現縦軸;細胞数 PBL;末梢血リンパ球 横軸;蛍光強度 Thymus;胸線細胞

 また、HLA-B51抗原を遺伝子導入したマウスL細胞を免疫し、マウス抗血清について様々なHLAクラスI抗原を1種類ずつ発現させたヒトBリンバ球細胞ライン(Hmy-HLA)を用いて補体依存性細胞傷害試験を行った結果、B51TGMはクラスI抗原にmonomorphicな抗体を産生するC3H/Heマウスと異なり、HLAクラスI抗原に対する抗体産生をまったく行わずトレランスを示した(図2)ことにより、B51抗原を自己抗原(self-antigen)として認識していることが明らかになった。

図2 B51抗原免疫に対する抗体産生縦軸;死細胞率 横軸;Hmy-HLA マウスの抗血清を3段階(50×,250×,1250×)に希釈した結果を左から高濃度順に棒グラフで表した

 更に様々なHLAクラスI抗原を免疫してこのHLA-B51TGMのアロ抗体産生能を補体依存性細胞傷害試験により解析したところ、通常のC3HマウスがHLA-A,B,Cいずれの抗原の免疫によっても、その抗血清がmonomorphicな特異性を示したのに対しHLA-B51TGMは明らかに、HLA-A,B抗原の免疫によって、クラスI抗原分子に共通な抗原決定基に対する抗体産生は抑制されており、その血清中に多少のcross-reactivityはあるもののpolymorphicな抗体を産生していることがわかった。(表1、表2)

 これに対し、HLA-C抗原の免疫によっては補体依存性細胞傷害試験(表3)、フローサイトメトリー法(図3)両法において、HLAクラスI抗原に対する抗体産生は殆ど見られなかったことから、HLA-C抗原はこのHLA-B51TGMにおいてはアロ抗原性が非常に低いことが示唆された。この結果は、ヒトアロ抗血清においてもHLA-C抗原に対して特異性の高い試薬が得られにくいという現状とも合致している。

図表Table1. Pro〓hiction of allefnl ipoxllc〓 In HLA-B51 lcansgebic mics lmmvnirsd HLA-A a〓lgcru / Table2. Pro〓hiction of allcanllbodios In HLA-B51 lra〓v〓calc mics lmmcnlLcd wld HLA-B pnugcno. / Table3. Produevon of alln〓nlloodlos In HLA-B51 ran〓genls mics lmmunlicd wluh HLA-C 〓Vc〓図3 HLA-C抗原を免疫したマウス抗血清のアロ抗体のFACS解析による検出横軸:蛍光強度 抗血清はいずれも50倍希釈

 尚、これらの結果は、異なるハプロタイプのマウスをHLA-B51TGMにかけあわせて作成したF1マウスを免疫動物に用いてもまったく同様であったことから、マウスのH-2はこのHLA-C抗原に対するアロ抗体産生の欠損に影響を与えていないことが明らかになった。

 次に、このHLA-B51TGMを免疫動物として、HLAクラスIA,B抗原に対して多型性を示すマウスモノクローナル抗体(MoAb)の作製を試みたところ、Hmy-HLAを免疫原として用いることにより、A抗原に対する抗体を中心にいくつかのMoAbを樹立できた。これらのMoAbの特異性をHmy-HLAを標的細胞として酵素免疫抗体法を用いて解析した結果を図4に示す。これによると、HLA-B51TGM由来のMoAbは免疫原と同ローカス内ではいくらかのcross-reactivityを示すものの、通常のC3H/Heマウス由来のMoAbに比較して明らかにアロ特異性が高く、その組合せにより、HLAクラスI抗原を効率よく同定出来る可能性があることが示唆された。

図4 モノクローナル抗体の特異性解析縦軸;490nmでの吸光度 横軸;Hmy-HLA ( );マウスIgクラス 抗体;HLA-B51由来3G11,1D2,1H9,1D11,2G3,1H5,3D11 C3H/He由来4E12 W6/3、2 クラスI monomorphic HAT HAT培養液

 これらの結果から、HLAクラスITGMはHLA関連疾病モデルとしての可能性やHLAクラスI分子の生体内での機能と役割を解明する免疫応答の実験モデルとして有効であるばかりでなく、近い将来、ヒト由来アロ抗血清に代替するようなHLAクラスIMoAbを作製するためのrecipientsとして有効であることがわかった。また、今回樹立されたようなMoAbを用いれば、HLAクラスI抗原の同定を酵素免疫抗体法や間接蛍光抗体法などのいわゆるbinding assayによって行うことの出来る可能性がある。これにより、古典的な現在のクラスI抗原の同定法にかわる新しい自動化可能なタイピングシステムを開発して将来の輸血や臓器移植に寄与することが期待できる。

審査要旨

 本研究は、HLAクラスI遺伝子を導入して作成したHLAクラスIトランスジェニックマウスを免疫動物に用いて、HLAクラスI抗原のアロ抗原性の解析と、その多型的部位を認識する抗体産生誘導を試みたものであり、次の結果を得た。

 1、HLA-B51抗原のDNAをC3Hマウスの受精卵にマイクロインジェクションして作成したHLA-B51トランスジェニックマウスは、体細胞表面上にHLA-B51分子を発現しており、免疫したHLA-B51抗原に対しては抗体産生をまったく行わずトレランスを示した。

 2、更に様々なHLAクラスI抗原を免疫して、このトランスジェニックマウスのHLAクラスI抗原の多型的部位に特異性を示す抗体産生を解析したところ、通常のC3HマウスではHLA-A、B、Cいずれの抗原の免疫によっても、各クラスI抗原の共通部位に対する特異性を示す抗血清が得られたのに対し、 HLA-B51トランスジェニックマウスにおいては明らかに、クラスエ抗原分子に共通な抗原決定基に対する抗体産生が抑制されており、HLAクラスI抗原の免疫によって、cross-reactivityはあるものの多型的部位を認識する抗体が産生されていることがわかった。なお、HLA-C抗原の免疫では、HLA-B51トランスジェニックマウスではHLAクラスI抗原に対する抗体産生は殆ど見られなかっった。通常のC3Hマウスでは、HLA-A、B抗原免疫時と同様に各クラスI抗原の共通部位に対する抗体が得られていることから、免疫原として用いた細胞表面上のHLA-C抗原の発現量が低いのではなく、このトランスジェニックマウスにおいて、HLA-C抗原は、その多型的部位を認識する抗体産生を誘導し得るような抗原性を発揮できない、ということが示唆された。この結果は、ヒト由来のアロ血清でもHLA-C抗原に対して特異性の高い血清が得られにくく、血清学的な同定が困難であるという現状とも合致している。近年、HLA-C抗原のpolymorphism(多型性)はHLA-A、B抗原のPolymorphismの有様とは異なることがその構造解析から明らかになってきており、そのpolymorphismの相違が、今回のトランスジェニックマウスにおけるHLA-C抗原の多型的部位を認識する抗体産生機能の欠損に関わりがあることが考えられた。

 3、遺伝子導入により細胞表面上に一種類ずつのクラスI抗原を発現させた培養細胞を免疫原に用いて、このHLA-B51トランスジェニックマウスを免疫動物としてHLA-A、B抗原に対するモノクローナル抗体の作成を試みたところ、A抗原に対する抗体を産生する細胞を中心にいくつかの細胞株を樹立できた。これらのモノクローナル抗体の特異性を、HLAクラスI遺伝子を導入したヒトB細胞ラインを用いて解析したところ、HLA-A抗原の多型的部位を認識していることが示唆された。

 以上、本論文はHLAクラスIトランスジェニックマウスにおけるHLAクラスI抗原の多型的部位を認識する抗体産生について解析した。この結果、HLA-B51トランスジェニックマウスに導入されたHLA-B51抗原はマウス体内で自己抗原として認識されており、通常のC3Hマウスとは異なり、HLA-A、B抗原を免疫されることにより、その多型的部位に特異性のある抗体を産生していることが示唆された。このことは、これらのHLAクラスI抗原を免疫したHLA-B51トランスジェニックマウスを用いてモノクローナル抗体の作成を試みた結果からも裏付けられた。

 本研究は未だ不明の部分の多いHLAクラスI抗原の抗原性および生体内における抗体産生の解明に寄与するものであり、学位の授与に値するものと考えられる。

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