審査要旨 | | 生体の造血機構は,造血細胞とそれを支持する造血域間質細胞より成り立っている。この造血域間質細胞が各種の液性因子を産生し,あるいは造血細胞との接着により造血細胞の分化・増殖を支持することは多くの報告より明らかである。しかし,生体外から投与された液性因子が,造血域間質細胞にどのような作用を及ぼすか,また,間質細胞が造血機能亢進にどのような役割を果たすかについては未だ明らかになっていない。著者は,rG-CSFがin vivoの脾臓で造血幹細胞および前駆細胞を著明に増加させることに着目し,この造血機能亢進を解析する目的で,rG-CSFの脾臓間質細胞に及ぼす作用,また,これらの間質細胞が造血機能亢進に果たす役割について検討を行った。そのため,rG-CSFを5日間連続投与したC57BL/6Jマウス脾臓より脾臓間質細胞株(CF-1細胞)を樹立し,rG-CSFのCF-1細胞に対する作用およびCF-1細胞の造血支持能について,さらに,CF-1細胞を抗原とする単クローナル抗体(GSPST-1)を作製し,rG-CSFの造血域間質細胞への作用について検討した。 CF-1細胞はアルカリ・ホスファターゼ,第VIII因子関連抗原,マックIおよび貪食能は陰性,酸性ホスファターゼ,I型コラーゲン,III型コラーゲンおよびフィブロネクチンは陽性であり,脂肪細胞への分化は認められなかった。従って,CF-1細胞は,前脂肪細胞,マクロファージおよび血管内皮細胞でない間質系細胞である。〔35S〕rG-CSFは増殖期のCF-1細胞に結合するが,静止期のCF-1細胞にはほとんど結合しなかった。CF-1細胞および対照の間質細胞をフィーダーレーヤーとしたCFU-Cassayで,CF1細胞は正常脾臓細胞より樹立した間質細胞よりも強い刺激効果を示し,より多数のコロニーを形成させた。骨髄細胞とCF-1細胞を放射線照射マウスに移植すると,脾臓コロニー数はCF-1細胞を移植しなかったマウスに比べて有意に増加し(1.4〜1.8倍),また骨髄細胞とCF-1細胞移植マウスの移植後12日目の生存率は骨髄細胞単独移植マウスよりも高く,一方,対照の間質細胞にはこの活性は認められなかった。従って,CF-1細胞は造血幹細胞をin vivoで支持することが明らかとなった。CF-1細胞がin vivoで造血幹細胞を支持するメカニズムについて-galactosidase遺伝子を導入したCF-1細胞を用い,骨髄細胞と共にこの細胞を致死量の放射線を受けたマウスに静脈内投与により移植し,脾臓コロニーの形成あるいは骨髄の再生とCF-1細胞の生着との関連を抗-galactosidase抗体による免疫組織化学により検討した。その結果,移植後8日目および12日目共にCF-1細胞が脾臓コロニー内あるいはコロニーを囲んで生着しているのが認められ,これらの部位では未分化の造血細胞も見られる場合があるものの,多くの部位ではCF-1細胞の生着部位と一致して顆粒球系細胞の増殖が認められた。一方,骨髄では造血の再生は十分ではないが,骨髄にCF-1細胞が生着していることが認められた。 rG-CSFが造血域間質細胞に作用し,その分化・増殖を促進し造血微小環境の造血支持を亢進させることを明確にするために,CF-1細胞に対する単クローナル抗体を作製し,rG-CSFを連続投与した脾臓・骨髄について免疫組織化学的に間質細胞の増殖を検討した。すなわち,CF-1細胞を抗原としたウィスター・イマミチ系ラットに免疫,常法に従ってハイブリドーマを作製,さらにCF-1細胞に反応し骨髄・脾臓細胞と反応しない抗体を産生するハイブリドーマ(GSPST-1)を選択した。このGSPST-1抗体を用いて,C57BL/6Jマウスの脾臓および骨髄について免疫組織化学的に検討を行った。その結果,無処置の脾臓では,極く稀にGSPST-1抗体に反応する部位が脾膜および脾柱周囲に見られるのみであったが,rG-CSFを投与していくに従い脾膜および脾柱を中心に陽性部位が増殖することが認められた。これらGSPST-1抗体陽性部位では,著明に顆粒球系細胞の増殖が認められた。骨髄では,無処置およびrG-CSF処置の骨髄ともにGSPST-1抗体には反応せず,従って,GSPST-1抗体の反応する細胞は骨髄ではなく脾臓間質細胞由来の細胞であり,これらの細胞はrG-CSFの刺激により増殖し,顆粒球系細胞の増殖を支持するものと考えられた。 以上の結果から,rG-CSFは造血細胞だけではなく造血域間質細胞をも刺激し,その増殖を促すことにより造血支持能力のある造血微小環境を創り,この環境によりさらに造血が支持されることが明らかとなった。 このように,本研究は学術的に貢献するところが大であり,審査員一同社本論文が博士(獣医学)に価すると判定した。 |