内容要旨 | | 送電線の事故は電力供給を阻害するもので,極力防止する必要がある。送電線事故の第一の原因は雷によるもので,全事故件数の50%以上を占めている。したがって,雷害事故の防止は電力輸送上重要となる。雷害事故を防止するためには,雷の性状を把握することが,先ず必要となる。一方,学術的な視点で古くから雷の観測が実施されている。観測の対象としては雷電流,雷放電路,電磁界等があり,初期の頃は磁鋼片,回転カメラなどが使われていた。近年,光計測技術やデジタル技術が進歩し,これらの技術を応用した測定器の開発が行われている。 光エレクトロニクスとデジタル技術を用いた新しい光学観測システムの雷放電進展様相自動観測装置(Automatic Lightning-Discharge Prgressing-Feature Observation System以下ALPSと呼ぶ)を開発した。初期のものは画素数が6×6=36個と少ないが,その後,継続して改良を加え機能を向上させた。表1に一連のシステムの構成と機能の内容を示す。最新型のALPS4号機は1989年に完成した。4号機の特徴は,高度な解像力と光の強さの判別が可能な点にある。解像力は縦横に配置したダイオードの数によって決まる。ALPS4号機では,画素数が1600個(=40×40)で1号機の44倍になっている。光の強さは16段階に分解が可能であり,比較的に光の弱いストリーマの進展状況から光の強いアーク放電の現象まで,同時に把握することが可能となった。ALPS4号機の内部回路は図1に示すように光-電気変換,信号の増幅,信号の対数圧縮,16段階発光強度分解(4ビット),アナログ/デジタル変換,記憶などの機能を有している。ALPSの特徴を以下に示す。 (1)無人・自動観測が極めて容易。 (2)観測を開始させるトリガの発生が容易で,また,トリガ以前の現象の観測も可能。 (3)明るい場所でも観測が可能。 (4)データを駒表示,連続画面,連続線画など,多様な表示・解析機能を持つ。 などの長所があり,室内での放電実験,突発的な絶縁破壊の監視用,雷観測用など幅広い分野での期待ができる。 表1 放電現象進展様相観測システムの開発経緯図1 ALPSの回路構成 ALPSを用いた観測結果と雷電流波形の1例を図2に示す。図2(a)はALPSの結果を時系列で表示したもの,(b)が小電流用同軸抵抗シャントで捕らえた電流波形,(c)が大電流用同軸抵抗シャントで捕らえた電流波形,(d)が静止写真である。同図によれば,初期の段階では,煙突頂部から上向きにリーダが進展しており,それに対応して波高値で-5kA程度の電流が流れている((1))。その後,一時的に弱くなった雷放電路の発光強度が再び増加するのに対応して,電流値も一時小さくなった後に増加傾向を示し,雷放電路の発光が急激に増加する時点で,小電流用同軸抵抗シャントの電流測定領域を超過して保護回路が動作している。この時点で,大電流用同軸抵抗シャント側に信号が現れ,電流値-120kAを記録している。この時,ALPSによる放電路の記録は,煙突頂部から400mまで,強く発光していて,これは静止写真において比較的強く発光している部分に対応している。この大電流は短い時間で終了し,電流値の減少に伴って放電路の発光も減衰するが,それから2005s後に雷放電路の発光強度と雷電流値が再び増加し,-20kAの電流値を記録している((3))。この際,雷放電路の発光強度も再び増加しているが,-120kAの時に比較すると,発光強度は若干弱くなっている。 図2 主放電進展様相(多重雷)と電流波形の対応90-F-24(平成3年1月13日9時57分31秒) 次に,雷放電路を2台のカメラを用いて2方向から撮影した結果を示す。高構造物の先端から垂直線を引き,この垂直線と雷放電路(ノード0→1)とのなす角度を垂直進入角とした。図3には垂直進入角の累積頻度分布F()を示した。垂直進入角の最頻値は35〜40度と大きく,最大値は85度に達しており,煙突に対してほぼ真横から進入する雷がある。観測で得られた垂直進入角の累積頻度分布F()を次式にあてはめた。 図3 雷放電路の垂直進入角の累積頻度分布 高構造物の先端から見て,どの方位(東西南北など)から雷が進入するかを示すもので,これは高構造物の先端から北の方向にのばした線と水平面上に投影された雷放電路(ノード0→1)とのなす角度を水平進入角とした。水平進入角(北の方位を0度として時計の針の回転方向に測定)の最頻値は西南西〜西(225度〜270度)の方位にある。これは落雷時の風向と相関がある。 雷電流観測は昭和53年から昭和61年が福井および柏崎地点で,平成元年から福井地点で実施された。以下にその結果を示す。 福井・柏崎地点における昭和53年から昭和61年までの観測結果を継続時間によって,短いものをパルス状電流とし,長いものを持続性電流として,以下の結論を得た。 (1)パルス状電流はその90%程度を負極性雷が占める。 (2)持続性電流のうち継続時間が1000s以上の波形は正極性の占める割合が多い。 (3)パルス状電流と持続性電流の発生頻度はほぼ等しい。 (4)正極性電流と負極性電流の割合は1対2である。 (5)持続性電流にパルス状電流が重畳する電流波形は,正極性には無く,負極性に5件あった。 (6)正極性から負極性に極性が反転する電流波形は1件のみで,逆に負極性から正極性に極性が反転する電流波形は6件あった。 雷電流波形の波頭長Tfと波尾長Ttとの間には,つぎの関係があることを見いだした。 平成元年〜平成4年までに観測された雷電流波形は33例で,このうち正極性雷4例,負極性雷27例,負極性から正極性に反転した波形は2例であった。正極性雷と負極性雷の比は1対7で,昭和61年までの結果の1対2と比較して正極性雷の占める割合は小さくなっている。電流波形から見ると,ミリ秒オーダのリーダ性電流が20例,立ち上がりが急峻な主放電(リターンストローク)電流が13例であった。この主放電電流のうち,多重雷が4例観測された。また電流値としては-180kAもの大きい値が記録された。 |