本研究は慢性心不全患者の運動耐容能評価におけるATの意義を明らかにするため、breath-by-breath法の呼気ガス分析機器により非観血的にATを測定し、下記の結果を得ている。 1。慢性心不全の基礎疾患として左心機能が一次的に障害される拡張型心筋症と、左心機能障害のない僧帽弁狭窄症の患者を対象とし、運動耐容能の指標であるATが両群間で同程度低下している患者で比較検討したところ、安静時及び運動時共に両群間で心拍出量に差はなかったが、運動時肺毛細管圧は僧帽弁狭窄症群で高かった。またATと運動時心拍出量とは強い相関を有したが、安静時及び運動時の肺毛細管圧とATとの間には相関は見られなかった。従って、慢性心不全患者における運動耐容能の指標であるATには、心不全の病因に関わらず心拍出量の関与が強いことが示された。 2。慢性心不全患者を対象とした強心薬(pimobendan)急性投与におけるAT評価の意義を血行動態と関連づけて検討した。Pimobendan投与により安静時、運動時とも肺毛細管圧は低下、心拍出量は増加し、心ポンプ機能の向上が見られた。本剤投与によるATの増加は、心拍出量増加に伴う下肢運動筋への有効な血流量増加を反映することが示された。 3。PTMCを施行する僧帽弁狭窄症患者を対象とし、ATを経時的に測定することにより運動耐容能の改善が判定できるか否かを検討する為、PTMC前後と長期間にわたって血行動態と呼気ガス分析の変化を検討した。PTMCにより直ちに運動時心拍出量が増加したがATは急性期には増加せず、約1ヶ月かかり遅れて改善したことより、心拍出量の改善が運動筋群自体の酸素摂取能改善を生じるのに時間を要することが示された。一方、PTMC直後より僧帽弁狭窄症患者の最大運動能は増加したが、これはPTMCによって呼吸機能が改善し、最大運動時における呼吸困難感は緩和した為、運動筋代謝を反映するATの増加を伴わずに最大運動能が向上した結果であることが示された。 以上、本論文は慢性心不全患者においては病態に関わらず、ATを測定することによって運動時心拍出量の増加の程度を非観血的に推定しうること、更に治療による心拍出量増加の結果生じる運動筋代謝の改善をATは反映するが、ATの改善には時間を要する場合がある為経時的なATの測定が不可欠であることを明かにした。本研究は慢性心不全の新しい指標であるATの意義を明らかにし、臨床的に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値すると考えられる。 |