本研究は、膵ランゲルハンス氏島(以下ラ島)を膵より分離する際に、ラ島標識として応用が検討されているラ島染色薬diphenylthiocarbazone(dithizone、以下DTZ)のラ島に対する毒性を明かにするために、ラットモデルを用いて、グルコース刺激に対するラ島のインスリン分泌能、グルコース刺激試験後のラ島のインスリン含有量、蛍光生細胞染色法によるラ島のviability、ラ島内に残留するDTZ量を実験的に検討したものであり、下記の結果を得ている。 1.DTZで染色したラ島(DTZラ島)では、染色直後には、グルコース刺激に対するインスリン分泌能やviabilityは低下し、DTZのラ島への影響が示された。しかし、基礎インスリン分泌量、2相性のインスリン分泌パターン及びインスリン含有量は保たれており、その影響は限定的なものであることが示された。 2.対照とした、DTZの溶媒であるDMSO-Hank’s液で処理したラ島(DMSOラ島)では、培養24時間後のインスリン分泌能やviabilityが培養開始前に比べて低下しており、培養操作にもラ島への影響があることが示された。さらに、基礎インスリン分泌量は増加し、2相性のインスリン分泌パターンは消失し、インスリン含有量は低下していた。すなわち、培養操作によるラ島への影響はDTZの影響より大きいことが示された。 培養24時間後のDTZラ島でも、基礎インスリン分泌量は増加し、2相性のインスリン分泌パターンは消失し、刺激インスリン分泌量やインスリン含有量やviabilityも低下していた。しかし、培養24時間後のDMSOラ島との間に差は無く、DTZの影響は認められなかった。 3.培養96時間後には、DMSO、DTZいずれのラ島においても、刺激インスリン分泌量及び2相性のインスリン分泌パターンは回復し、viabilityも維持され、DTZや培養操作によるラ島への影響は一過性であることが示された。 4.残留DTZは染色直後には検出されたが、培養96時間後には測定限界以下であった。 以上、本論文はラ島のインスリン分泌能、インスリン含有量、viability、残留DTZの解析から、DTZがラ島に対し安全な染色薬であることを実験的に明かにした。本研究は、人ラ烏移植の成否を左右するラ島分離の過程で、新しいラ島純化法として開発が進められているcell soritng法において、DTZをラ島標識として応用する際に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 |