学位論文要旨



No 211919
著者(漢字) 藤波,秀雄
著者(英字)
著者(カナ) フジナミ,ヒデオ
標題(和) ガス絶縁機器の絶縁信頼性向上に関する研究
標題(洋)
報告番号 211919
報告番号 乙11919
学位授与日 1994.09.22
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第11919号
研究科 工学系研究科
専攻 電気工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 河野,照哉
 東京大学 教授 正田,英介
 東京大学 教授 小田,哲治
 東京大学 教授 石井,勝
 東京大学 教授 藤田,博之
 東京大学 助教授 日高,邦彦
内容要旨

 SF6ガスを絶縁・消弧媒体として用いたガス絶縁機器は、高い絶縁耐力ならびに機器の密閉化により、小型化・高信頼化・耐環境性能の向上・保守の省力化などの利点を有し、ガス絶縁開閉装置(GIS)を中心として適用が進んでいる。

 しかしながら、ガス絶縁機器は昭和40年代前半の実用化以来20年以上経過した現在においても事故・障害が皆無でなく、その中にはいくつかの未解明な現象も残されている。特に、ガス絶縁機器は密閉型であるために、事故時の復旧時間が長くなるという問題があり、さらなる信頼性向上が求められている。

 本論文は、ガス絶縁機器の絶縁信頼性向上を目的として、種々の絶縁上の未解明問題についての一連の研究成果をとりまとめたものである。以下にその主要な成果を述べる。

[1]SF6ガスギャップの破壊電圧-時間特性(第2章)

 SF6ガスの短時間領域V-t特性について、実用上問題となる準平等電界配置の球-平板モデルギャップで検討を行なった。その結果、下限の包絡曲線において、2つのパターンが得られた。一つは、低ガス圧力(大気圧付近)で破壊に関与する電極の有効面積が小さい短ギャップ長領域での特性で、V-t曲線が比較的平坦でしかも印加電圧の極性による差もあまり見られず、単一電子なだれ理論による破壊電圧の計算値と良い対応を示す。他のパターンは、高ガス圧力で電極有効面積が大きい領域でみられ、この場合、負極性において電極効果が生じてsec領域で破壊電圧が計算値よりも著しく低下する。短時間領域では、この負極性の特性は急激に立ち上がり、そのため正極性の特性と1sec以下で交差し、正極性の特性が下回るようになる。

 実用のガス絶縁機器はガス圧力0.3〜0.5MPaで使用されることが多く、電極効果の生じる場合の特性が重要である。これまで、ガス絶縁機器の絶縁に関しては、電極効果の生じる負極性の特性が支配的とされてきたが、V-t特性の1sec以下の短時間領域ではむしろ正極性の特性が下回ことになる。そのため、機器の絶縁特性としてはsec領域では負極性、1sec以下の短時間領域では正極性の特性を考慮すべきであることを示した。

[2]雷サージと試験電圧波形の等価性評価(第3章)

 V-t特性の面積則をもとにGISに発生する雷サージ電圧の波形効果を検討し、試験電圧波形である標準雷インパルス波形との等価性から雷インパルス試験電圧値の定量的評価を行った。

 その結果、雷サージに対する機器の絶縁性能を標準雷インパルス波形で検証する場合には、雷サージ波形値よりも6〜8%低い試験電圧で検証が可能であることを示した。ただし、0.5sec以下の短時間領域では、雷サージ波形のV-t特性が雷インパルス波形の特性よりも平坦となるので、短時間領域での避雷器との協調条件の裕度に注意する必要がある。

[3]GIS断路器動作時の絶縁特性(第4章)

 高電圧導体-浮遊導体-接地平板から成る断路器模擬ギャップを用いて、断路器動作時の極間火花発生時の絶縁特性ならびに極間火花から対地フラッシオーバに至るメカニズムについて検討を行なった。その結果をまとめると以下のとおりである。

 高電圧導体-浮遊導体間で局所的な極間火花が発生すると、導体-接地平板間のフラッシオーバ電圧は極間火花が発生しない場合に比べ低下する。フラッシオーバ電圧の低下する傾向はガス圧力が高い程顕著であり、0.5MPaでは約40%低下する。

 また、フラッシオーバ特性は印加電圧の極性により異なり、特に正極性では極間火花が発生すると直ちにフラッシオーバに至るという傾向がある。したがって、この場合には導体-接地平板間の距離を増してもフラッシオーバ電圧はあまり上昇しない。フラッシオーバ電圧が著しく低下する場合、極間火花と導体-接地平板間のフラッシオーバの発生は時間的にも位置的にも非常に近接しており、導体-接地平板間のフラッシオーバは極間火花の影響を著しく受ける。

 フラッシオーバ電圧の低下原因となる極間火花から対地放電に至るメカニズムについては、極間火花形成により対地に対して著しい不平等電界(静電界と空間電荷電界)が形成され、不平等電界ギャップ特有の自己空間電荷電界による放電進展により対地放電に至りやすいものと考えられる。このことから、対地放電防止の対策としては、極間の両側シールド電極径を大きくするなどして極間火花周辺の対地電界強度を低く抑えることが必要である。

[4]ガス絶縁スペーサの帯電現象(第5章)

 ガス絶縁スペーサ(支持絶縁物)の直流電界下における帯電現象を解明する目的で、モデルスペーサを用いた実験的検討を行い、以下の点を明らかにした。

 スペーサに生じる帯電電荷は、3〜5時間で飽和し、ほとんどスペーサ表面に蓄積する。一方、帯電後の電荷消滅時間は減衰時定数が30〜200時間で飽和時間に比べはるかに長い。帯電電荷の分布は、スペーサ表面の法線方向電界成分Enに対応し、Enと逆極性の電荷が帯電する。また、帯電電荷密度はスペーサの表面粗さにも影響され、粗さの大きいところで電荷密度が高くなる傾向がある。

 帯電の機構としては、電荷発生源として表面微小突起での電離、微小ダストの運動さらにガスの自然電離が考えられ、それらがガス中を電界によって移動し、帯電が進行するものと考えられる。その結果、スペーサ表面の法線方向電界Enは帯電の進行に伴い減少し、最終的にはEn=0のとき帯電が飽和する。上記の帯電機構をもとに、スペーサに生じる最大帯電電荷密度はスペーサ表面電界の法線方向成分En=0の条件で数値電界計算により推定できることを示した。

 帯電電荷によるスペーサの絶縁特性の変化は、印加電圧による電界と帯電電荷の作る電界をベクトル的に合成すれば定量的に評価できることを示した。これにより、スペーサの帯電時の絶縁耐力は最大帯電電荷密度を考慮した値で評価できる。

 また、帯電が生じないスペーサとして、表面の法線方向電界成分のない電気力線形スペーサ形状を提案し、モデルスペーサによる実証試験結果からその有効性を示した。

[5]ガス絶縁機器の接触不良診断手法の開発(第6章)

 GISの事故要因の一つである導体接触不良に関する新しい診断手法について検討した。

 検出原理は、接触不良による通電電流分布の変位をシース外部の磁界分布の変化から検出するもので、検出センサとしては光学的磁界センサを用いる。

 縮小モデルでの原理実証模擬実験を行い、その結果、シース材質がアルミの場合には通電異常を磁界の変化から検出できることを明らかとした。さらに、実規模GISを使用して、各種の接触不良模擬に対する電圧・電流試験を行い、接触不良部の電流分布の変化に伴う磁界変化を確実に検出できることを示した。また、検出磁界の変化は接触不良部の電流分布を仮定した磁界計算結果と良く一致することを確認し、提案の診断手法の有効性を実証した。本手法は実使用状態の監視診断手法として有効である。

審査要旨

 本論文は、現在変電機器の主流となっているSF6ガスを用いたガス絶縁機器の絶縁信頼性を向上させるための諸問題を論じたもので7章よりなる。

 第1章「序論」では、ガス絶縁機器発展の歴史、運転実績、技術上の問題点をまとめ、本論文の意義と背景を明らかにしている。

 第2章は「SF6ガスギャップの破壊電圧-時間特性」であり、ガス絶縁機器の絶縁特性を論ずる場合の基礎となる、SF6ガスギャップのV-t特性を実用に近い準平等電界の比較的長いギャップ長について実験的に求め検討したものである。これまでの研究結果ではインパルス電圧の極性については負極性の破壊電圧の方が低いとされて来たが、1s以下の短時間領域では実用されるガス圧0.3〜0.5MPaにおいては正極性の方が低くなる結果を見出し、機器の絶縁特性としてs領域では負極性、1s以下の短時間領域では正極性の特性を考慮すべきことを示している。

 第3章「雷サージと試験電圧波形の等価性評価」では、雷サージが変電所に侵入し、ガス絶縁機器に印加される場合、避雷器の効果と変電所内での往復反射のため振動性の波形になることを考慮し、高電圧試験に用いられる単極性の雷インパルス標準波形との等価性を論じている。その結果V-t特性を面積則を用いて評価した場合、波形の効果を考えると現行の雷インパルス標準波形による絶縁レベルを数%下げられる可能性を示している。

 第4章は「GIS断路器動作時の絶縁特性」であり、GIS(ガス絶縁開閉装置)で、断路器の開閉動作時に発生する極間のアーク放電が、対地絶縁に与える影響を実験的に詳細に検討したものである。この結果、断路器動作時の極間放電の発生が、対地放電を誘発する性質についてSF6のガス圧、電圧の極性、電極近くの電界分布などとの関係を明らかにし、放電のメカニズムの検討を行って対地放電防止対策を示している。

 第5章「ガス絶縁スペーサの帯電現象」は、ガス絶縁機器を直流で使用する場合や、交流用でも現地試験や充電部の開路時のように直流電圧が印加される場合に重要な導体支持用固体絶縁物(スペーサ)表面の帯電現象について実験的ならびに理論的に検討したものである。スペーサ表面の帯電々荷がスペーサ表面の法線方向電界成分に対応し、表面粗さに影響されるなどの実験結果から、帯電々荷の飽和量を電界計算によって推定し、絶縁耐力の低下を評価する方法を示し、帯電が生じないスペーサ形状を提案している。

 第6章「ガス絶縁機器の接触不良診断手法の開発」では、GISにおける導体接触部の接触不良を早い段階で検出するために、磁界センサで電流分布の異常を検出する方法を提案し、モデル実験を経て、実規模のGISによる試験でその有効性を確かめている。

 第7章は「結言」であり、本論文で得られた知見をまとめて示したものである。

 以上を要するに、本論文は変電機器の主流となったガス絶縁機器について、その信頼性に重要な役割を果たすSF6ガスの絶縁性能を、基本的なガスギャップの絶縁特性をはじめ、機器の使用状態によって生ずる種々の条件下における特性を実験的ならびに理論的に明らかにし、さらに性能を向上させる対策を示したものであり、電気工学上貢献するところが大きい。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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