SF6ガスを絶縁・消弧媒体として用いたガス絶縁機器は、高い絶縁耐力ならびに機器の密閉化により、小型化・高信頼化・耐環境性能の向上・保守の省力化などの利点を有し、ガス絶縁開閉装置(GIS)を中心として適用が進んでいる。 しかしながら、ガス絶縁機器は昭和40年代前半の実用化以来20年以上経過した現在においても事故・障害が皆無でなく、その中にはいくつかの未解明な現象も残されている。特に、ガス絶縁機器は密閉型であるために、事故時の復旧時間が長くなるという問題があり、さらなる信頼性向上が求められている。 本論文は、ガス絶縁機器の絶縁信頼性向上を目的として、種々の絶縁上の未解明問題についての一連の研究成果をとりまとめたものである。以下にその主要な成果を述べる。 [1]SF6ガスギャップの破壊電圧-時間特性(第2章) SF6ガスの短時間領域V-t特性について、実用上問題となる準平等電界配置の球-平板モデルギャップで検討を行なった。その結果、下限の包絡曲線において、2つのパターンが得られた。一つは、低ガス圧力(大気圧付近)で破壊に関与する電極の有効面積が小さい短ギャップ長領域での特性で、V-t曲線が比較的平坦でしかも印加電圧の極性による差もあまり見られず、単一電子なだれ理論による破壊電圧の計算値と良い対応を示す。他のパターンは、高ガス圧力で電極有効面積が大きい領域でみられ、この場合、負極性において電極効果が生じてsec領域で破壊電圧が計算値よりも著しく低下する。短時間領域では、この負極性の特性は急激に立ち上がり、そのため正極性の特性と1sec以下で交差し、正極性の特性が下回るようになる。 実用のガス絶縁機器はガス圧力0.3〜0.5MPaで使用されることが多く、電極効果の生じる場合の特性が重要である。これまで、ガス絶縁機器の絶縁に関しては、電極効果の生じる負極性の特性が支配的とされてきたが、V-t特性の1sec以下の短時間領域ではむしろ正極性の特性が下回ことになる。そのため、機器の絶縁特性としてはsec領域では負極性、1sec以下の短時間領域では正極性の特性を考慮すべきであることを示した。 [2]雷サージと試験電圧波形の等価性評価(第3章) V-t特性の面積則をもとにGISに発生する雷サージ電圧の波形効果を検討し、試験電圧波形である標準雷インパルス波形との等価性から雷インパルス試験電圧値の定量的評価を行った。 その結果、雷サージに対する機器の絶縁性能を標準雷インパルス波形で検証する場合には、雷サージ波形値よりも6〜8%低い試験電圧で検証が可能であることを示した。ただし、0.5sec以下の短時間領域では、雷サージ波形のV-t特性が雷インパルス波形の特性よりも平坦となるので、短時間領域での避雷器との協調条件の裕度に注意する必要がある。 [3]GIS断路器動作時の絶縁特性(第4章) 高電圧導体-浮遊導体-接地平板から成る断路器模擬ギャップを用いて、断路器動作時の極間火花発生時の絶縁特性ならびに極間火花から対地フラッシオーバに至るメカニズムについて検討を行なった。その結果をまとめると以下のとおりである。 高電圧導体-浮遊導体間で局所的な極間火花が発生すると、導体-接地平板間のフラッシオーバ電圧は極間火花が発生しない場合に比べ低下する。フラッシオーバ電圧の低下する傾向はガス圧力が高い程顕著であり、0.5MPaでは約40%低下する。 また、フラッシオーバ特性は印加電圧の極性により異なり、特に正極性では極間火花が発生すると直ちにフラッシオーバに至るという傾向がある。したがって、この場合には導体-接地平板間の距離を増してもフラッシオーバ電圧はあまり上昇しない。フラッシオーバ電圧が著しく低下する場合、極間火花と導体-接地平板間のフラッシオーバの発生は時間的にも位置的にも非常に近接しており、導体-接地平板間のフラッシオーバは極間火花の影響を著しく受ける。 フラッシオーバ電圧の低下原因となる極間火花から対地放電に至るメカニズムについては、極間火花形成により対地に対して著しい不平等電界(静電界と空間電荷電界)が形成され、不平等電界ギャップ特有の自己空間電荷電界による放電進展により対地放電に至りやすいものと考えられる。このことから、対地放電防止の対策としては、極間の両側シールド電極径を大きくするなどして極間火花周辺の対地電界強度を低く抑えることが必要である。 [4]ガス絶縁スペーサの帯電現象(第5章) ガス絶縁スペーサ(支持絶縁物)の直流電界下における帯電現象を解明する目的で、モデルスペーサを用いた実験的検討を行い、以下の点を明らかにした。 スペーサに生じる帯電電荷は、3〜5時間で飽和し、ほとんどスペーサ表面に蓄積する。一方、帯電後の電荷消滅時間は減衰時定数が30〜200時間で飽和時間に比べはるかに長い。帯電電荷の分布は、スペーサ表面の法線方向電界成分Enに対応し、Enと逆極性の電荷が帯電する。また、帯電電荷密度はスペーサの表面粗さにも影響され、粗さの大きいところで電荷密度が高くなる傾向がある。 帯電の機構としては、電荷発生源として表面微小突起での電離、微小ダストの運動さらにガスの自然電離が考えられ、それらがガス中を電界によって移動し、帯電が進行するものと考えられる。その結果、スペーサ表面の法線方向電界Enは帯電の進行に伴い減少し、最終的にはEn=0のとき帯電が飽和する。上記の帯電機構をもとに、スペーサに生じる最大帯電電荷密度はスペーサ表面電界の法線方向成分En=0の条件で数値電界計算により推定できることを示した。 帯電電荷によるスペーサの絶縁特性の変化は、印加電圧による電界と帯電電荷の作る電界をベクトル的に合成すれば定量的に評価できることを示した。これにより、スペーサの帯電時の絶縁耐力は最大帯電電荷密度を考慮した値で評価できる。 また、帯電が生じないスペーサとして、表面の法線方向電界成分のない電気力線形スペーサ形状を提案し、モデルスペーサによる実証試験結果からその有効性を示した。 [5]ガス絶縁機器の接触不良診断手法の開発(第6章) GISの事故要因の一つである導体接触不良に関する新しい診断手法について検討した。 検出原理は、接触不良による通電電流分布の変位をシース外部の磁界分布の変化から検出するもので、検出センサとしては光学的磁界センサを用いる。 縮小モデルでの原理実証模擬実験を行い、その結果、シース材質がアルミの場合には通電異常を磁界の変化から検出できることを明らかとした。さらに、実規模GISを使用して、各種の接触不良模擬に対する電圧・電流試験を行い、接触不良部の電流分布の変化に伴う磁界変化を確実に検出できることを示した。また、検出磁界の変化は接触不良部の電流分布を仮定した磁界計算結果と良く一致することを確認し、提案の診断手法の有効性を実証した。本手法は実使用状態の監視診断手法として有効である。 |