学位論文要旨



No 211941
著者(漢字) 堀,弘幸
著者(英字)
著者(カナ) ホリ,ヒロユキ
標題(和) 高度好熱菌のtRNA(guanosine-2’-)methyltransferaseの基質認識機構の研究
標題(洋)
報告番号 211941
報告番号 乙11941
学位授与日 1994.09.22
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第11941号
研究科 工学系研究科
専攻 化学生命工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 渡辺,公綱
 東京大学 教授 輕部,征夫
 東京大学 教授 小宮山,真
 東京大学 教授 西郷,和彦
 東京大学 助教授 熊谷,泉
内容要旨

 tRNAは生体内でタンパク質が合成されるときに、主としてアミノ酸のキャリアーとして機能する。この時修飾塩基はtRNAがその機能を完全に発揮するために必要不可欠な成分であるが、これらの修飾塩基をtRNAに組み込む酵素がtRNA修飾酵素である。およそ、今まで修飾塩基をもたないtRNAが発見された例はなく、tRNAがより効率的に機能するために、修飾塩基は直接、間接に作用していると考えられている。しかし、またその一方でその役割が明確ではない修飾塩基が数多いのも事実であり、修飾酵素の活性が測定された例は少なく、単一分子種にまで精製された酵素は稀でしかない。このようにtRNA修飾酵素の研究が立ち遅れているのは、(1)細胞あたりの酵素の絶対量が少ない、(2)酵素が不安定で失活しやすい、(3)酵素活性を測定するための適当な基質がない等の理由による。

 tRNA(guanosine-2’-)methyltransferase[EC 2.1.1.34](以下、G m-メチラーゼと略する)はtRNAのD-アーム中に存在する共通配列G18のリボース環の2’-OH基をメチル化するメチル基転移酵素であるが好熱菌由来の本酵素は好熱性細胞のタンパク質に共通した失活しにくいという特性を備えている。それ故、数段にわたるカラムクロマトグラフィーに耐え、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気詠動上で単一バンドを与えるまで精製することが可能である。

 また、近年盛んになったファージ由来のRNAポリメラーゼを利用しRNAを合成する手法は、RNAポリメラーゼの特性の許す範囲内ならば、ある程度思い通りの配列をもったRNAを合成することを可能とした。本論文では人工合成したtRNA遺伝子を鋳型にしT7 RNAポリメラーゼによって転写させたRNAを供給する系を構築し、従来、tRNA修飾酵素の研究において重大な欠点となっていた任意の塩基配列をもつ基質の供給が自由にできないという問題点を解決し、tRNA修飾酵素の基質認識機構を解析した。

 本論文ではまず、G m-メチラーゼが基質であるtRNAのどの部分を本質的に必須としているかを明らかにし、ついでG m-メチラーゼが生理的に意義あるレベルまで高い酵素活性を発揮するにはtRNAのどのような構造が必要であるかについて調べた。

 G m-メチラーゼはtRNA修飾酵素としては、きわめて基質特異性の低い一群に属している。研究を進めていく途上で、G m-メチラーゼの基質となるtRNAは原核、真核、古細菌いずれの生物界に由来したものでもよいことがわかった。これほど広い基質特異性はすなわち、G m-メチラーゼが基質として認識する構造がtRNAの共通に保持する構造に含まれることを示している。それ故、申請者はG m-メチラーゼの本質的に必要とする基質は未修飾のG18を含むD-アーム構造であるという作業仮説をたて、より詳細な検討を試みた。

 まず、最初に行ったのは大腸菌tRNAMetfを用いたフットプリンティングの実験である。この結果、G m-メチラーゼがtRNAをカバーする領域はD-ループ構造を含むごく限られた領域であることが示された。また、このtRNA-酵素複合体のRNaseT1に対する感受性はD-アーム以外の領域で全体的に上昇することもわかった。G m-メチラーゼがメチル基を転移させるG18のリボースの2’-OH基はtRNAが通常とっているL字型構造の中ではT-ループとの会合部近傍に埋もれており酵素のアミノ酸残基が直接接近することは困難なことからも、このRNaseT1感受性の上昇はtRNA-酵素複合体においてtRNAのT-ループとD-ループ間の水素結合及びD-ループとエクストラループ間の水素結合が切断されたことに起因するものと考えられる。

 次に、tRNAをヌクレアーゼで限定分解したフラグメントを基質としてその酵素活性を測定した。すでに大腸菌tRNAMetf/RNaseA 5’-半分子フラグメント、酵母tRNAPhe/RNaseU2 5’-半分子フラグメントが基質となりうることが示されていたので、新たに大腸菌tRNAMetf/RNaseU2 5’-半分子フラグメントおよびより短鎖の大腸菌tRNAIle/NucleaseS1 5’-半分子フラグメントを作製し基質とした。その結果、アンチコドンルーブ部分の塩基配列及びその存否はG m-メチラーゼの酵素活性に影響を及ぼさないことがわかった。

 そこで酵母tRNAPhe遺伝子の全部もしくは一部の配列をコードする8種類のプラスミドを遺伝子工学の手法を用いて作製し、これを鋳型として様々な長さのT7RNAポリメラーゼ転写産物を得、最小基質の特定を行った。その結果、最小基質はtRNAの第4番目から第28番目までの塩基配列をもつフラグメント(4-287ラグメント)であることが示された。つまり、G m-メチラーゼが本質的に必要とする構造はこれらの塩基によって構成される構造である。我々が作業仮説としていたD-アーム構造は上記塩基配列中に含まれる。

 4-28フラグメントを基質とした場合、G m-メチラーゼの初速は天然の酵母tRNAPheを基質とした場合に比較して数パーセントにまで減少してしまう。それでは、いかなるtRNA上の構造がGm-メチラーゼがより効率よく酵素活性を発揮する上で役立っているのであろうか。

 最初に着目したのは共通配列U8の存在である。天然のtRNAではU8はD-ループ中のA14と水素結合を形成しておりD-ループと直接会合している。そこで、U8がs4U8に修飾されている大腸菌のtRNAMetfを材料にし、s4Uを特異的に修飾してその効果を調べた。方法はs4U特異的化学修飾試薬S-benzylthioisothiourea(sBTIU)を用いて可逆的な化学修飾を行う方法とs4Uを紫外線によってC13と分子内架橋させる方法の2通り行った。前者はU8とA14の形成する水素結合を遮断することになり、後者はこの水素結合が切断された状態でもアミノアシルステムとD-ループ間の空間的配置をある程度保ったままにしておくことになる。基質として、これらの修飾を行ったtRNA全分子のみでなく、RNaseU2で部分分解して得た5’-半分子フラグメントも用いた。その結果、いずれの修飾もメチル化活性の大幅な減少をまねくことがわかったが、Km値とVmax値の測定から両者のメチル化活性の低下は全く別の現象に起因することが確認された。すなわち、sBTIUによる修飾tRNAでは酵素とtRNAの親和性が低下するのに対し、架横tRNAでは親和性にはほとんど変化がないもののVmax値が減少していた。また、これらの半分子を比較するとsBTIU半分子ではKm値、Vmax値ともに未修飾半分子とさほど変化がないが、架橋半分子ではKm値は向上しておりVmax値が減少していることがわかった。これらの結果はU8-A14の水素結合の存在はGm-メチラーゼの基質認識に影響を与えること、またその結果はtRNAの全構造が存在しているときのみ発揮されることを示している。また、架橋分子に対するVmax値の低下からG m-メチラーゼがtRNAと結合した際にはU8-A14の水素結合は切断されている可能性も示唆された。

 次に種々の塩基置換をほどこしたT7 RNAポリメラーゼ転写産物を基質としてそのメチル化活性を測定した。鋳型プラスミドはKunkel法で、D-ループ部分の改変体11種、D-ステムの改変体3種、D-アーム全体の改変体1種、その他の共通配列の改変体13種を作成した。

 まず、天然tRNAPheに由来する半分子フラグメントとそれに対応するT7 RNAポリメラーゼ転写産物の比較から修飾塩基の存在がGm-メチラーゼの酵素活性に影響をあたえることがわかった。また、核酸の高次構造形成を助け、tRNA全分子に対してはG m-メチラーゼの酵素活性を上昇させるスペルミジンの効果は半分子フラグメントに対して発揮されないこともわかった。

 次にD-ループ中の共通配列G18G19の一方もしくは両方を他の塩基に置換したT7 RNA転写産物はメチル化されないことから、G18G19配列は基質認識に必須であることがわかった。

 また、A17G18G19という塩基配列をもつ大腸菌tRNASer3はG18G19配列をもつ天然のtRNAのなかで例外的にほとんどメチル化されないこと及び大腸菌tRNASer3のT7 RNAポリメラーゼ転写産物はメチル化されないことからG m-メチラーゼの認識配列はPy17G18G19である可能性が示された。そこで、17位塩基の改変体を作成してみたところ、この位置の塩基がプリンであった場合にはVmaxが大きく低下し、効率のよいメチル化にはPy17G18G19の配列が最適であることが判った。さらに、D-ループ中の保存配列であるA13、A21を含むループ全域にも変異を導入したが、これらは全くメチル化活性に影響を与えず、G m-メチラーゼはD-ループのごく一部のみを認識していることがわかった。

 D-ステムの塩基配列改変体に関してはメチル化活性に顕著な変化はなく、G m-メチラーゼはステム部分の塩基配列を直接認識していないことがわかった。しかしながら、D-ステム構造そのものを破壊した改変体は全くメチル化されないので、D-ステムの塩基対は酵素活性に必須である。

 さらにtRNA中に保存されている配列のうち、D-アーム領域と会合する塩基を中心に改変体を作成した。これらの塩基のうち、U8、G26、G46、U54、U55、C56の改変はいずれもKm値が上昇し酵素との親和性の減少が観察されたが、なかでも、G18、G19と直接会合するU55、C56の改変体は大きな親和性の低下を示した。このことから、G m-メチラーゼのより効率のよいメチル化にはtRNAのL字構造が必要であることが再認識された。また、tRNAの準保存配列のうち、C48、A58の改変は全くメチル化活性に影響がなく、したがってこれらの塩基が形成するG15-C48、U54-A58の水素結合もG m-メチラーゼの基質認識には関与しないことがわかった。

審査要旨

 tRNAは生体内でタンパク質が合成されるときに、主としてアミノ酸のキャリアーとして機能する。この時修飾塩基はtRNAがその機能を完全に発揮するために必要不可欠な成分であるが、これらの修飾塩基をtRNAに組み込む酵素がtRNA修飾酵素である。およそ、今まで修飾塩基をもたないtRNAが発見された例はなく、tRNAがより効率的に機能するために、修飾塩基は直接、間接に作用していると考えられている。しかし、またその一方でその役割が明確ではない修飾塩基が数多いのも事実であり、修飾酵素の活性が測定された例は少なく、単一分子種にまで精製された酵素は稀でしかない。このようにtRNA修飾酵素の研究が立ち遅れているのは、(1)細胞あたりの酵素の絶対量が少ない、(2)酵素が不安定で失活しやすい、(3)酵素活性を測定するための適当な基質がない等の理由による。

 tRNA(guanosine-2’-)methyltransferase[EC 2.1.1.34](以下、G m-メチラーゼと略する)はtRNAのD-アーム中に存在する共通配列G18のリボース環の2’-OH基をメチル化するメチル基転移酵素であるが好熱菌由来の本酵素は好熱性細胞のタンパク質に共通した失活しにくいという特性を備えている。それ故、数段にわたるカラムクロマトグラフィーに耐え、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動上で単一バンドを与えるまで精製することが可能である。

 また、近年盛んになったファージ由来のRNAポリメラーゼを利用しRNAを合成する手法は、RNAポリメラーゼの特性の許す範囲内ならば、ある程度思い通りの配列をもったRNAを合成することを可能とした。本論文では人工合成したtRNA遺伝子を鋳型にしT7 RNAポリメラーゼによって転写させたRNAを供給する系を構築し、従来、tRNA修飾酵素の研究において重大な欠点となっていた任意の塩基配列をもつ基質の供給が自由にできないという問題点を解決し、tRNA修飾酵素の基質認識機構を解析した。

 本論文ではまず、G m-メチラーゼが基質であるtRNAのどの部分を本質的に必須としているかを明らかにし、ついでG m-メチラーゼが生理的に意義あるレベルまで高い酵素活性を発揮するにはtRNAのどのような構造が必要であるかについて調べた。

 G m-メチラーゼはtRNA修飾酵素としては、きわめて基質特異性の低い一群に属している。研究を進めていく途上で、G m-メチラーゼの基質となるtRNAは原核、真核、古細菌いずれの生物界に由来したものでもよいことがわかった。これほど広い基質特異性はすなわち、G m-メチラーゼが基質として認識する構造がtRNAの共通に保持する構造に含まれることを示している。それ故、申請者はG m-メチラーゼの本質的に必要とする基質は未修飾のG18を含むD-アーム構造であるという作業仮説をたて、より詳細な検討を試みた。

 まず、最初に行ったのは大腸菌tRNAMetfを用いたフットプリンティングの実験である。この結果、G m-メチラーゼがtRNAをカバーする領域はD-ループ構造を含むごく限られた領域であることが示された。また、このtRNA-酵素複合体のRNaseT1に対する感受性はD-アーム以外の領域で全体的に上昇することもわかった。G m-メチラーゼがメチル基を転移させるG18のリボースの2’-OH基はtRNAが通常とっているL字型構造の中ではT-ループとの会合部近傍に埋もれており酵素のアミノ酸残基が直接接近することは困難なことからも、このRNaseT1感受性の上昇はtRNA-酵素複合体においてtRNAのT-ループとD-ループ間の水素結合及びD-ループとエクストラループ間の水素結合が切断されたことに起因するものと考えられる。

 次に、tRNAをヌクレアーゼで限定分解したフラグメントを基質としてその酵素活性を測定した。すでに大腸菌tRNAMetf/RNaseA 5’-半分子フラグメント、酵母tRNAPhe/RNaseU2 5’-半分子フラグメントが基質となりうることが示されていたので、新たに大腸菌tRNAMetf/RNaseU2 5’-半分子フラグメントおよびより短鎖の大腸菌tRNAIle/NucleaseS1 5’-半分子フラグメントを作製し基質とした。その結果、アンチコドンループ部分の塩基配列及びその存否はG m-メチラーゼの酵素活性に影響を及ぼさないことがわかった。

 そこで酵母tRNAPhe遺伝子の全部もしくは一部の配列をコードする8種類のプラスミドを遺伝子工学の手法を用いて作製し、これを鋳型として様々な長さのT7RNAポリメラーゼ転写産物を得、最小基質の特定を行った。その結果、最小基質はtRNAの第4番目から第28番目までの塩基配列をもつフラグメント(4-28フラグメント)であることが示された。つまり、G m-メチラーゼが本質的に必要とする構造はこれらの塩基によって構成される構造である。我々が作業仮説としていたD-アーム構造は上記塩基配列中に含まれる。

 4-28フラグメントを基質とした場合、G m-メチラーゼの初速は天然の酵母tRNAPheを基質とした場合に比較して数パーセントにまで減少してしまう。それでは、いかなるtRNA上の構造がGm-メチラーゼがより効率よく酵素活性を発揮する上で役立っているのであろうか。

 最初に着目したのは共通配列U8の存在である。天然のtRNAではU8はD-ループ中のA14と水素結合を形成しておりD-ループと直接会合している。そこで、U8がs4U8に修飾されている大腸菌のtRNAMetfを材料にし、s4Uを特異的に修飾してその効果を調べた。方法はs4U特異的化学修飾試薬S-benzylthioisothiourea(sBTIU)を用いて可逆的な化学修飾を行う方法とs4Uを紫外線によってC13と分子内架橋させる方法の2通り行った。前者はU8とA14の形成する水素結合を遮断することになり、後者はこの水素結合が切断された状態でもアミノアシルステムとD-ループ間の空間的配置をある程度保ったままにしておくことになる。基質として、これらの修飾を行ったtRNA全分子のみでなく、RNaseU2で部分分解して得た5’-半分子フラグメントも用いた。その結果、いずれの修飾もメチル化活性の大幅な減少をまねくことがわかったが、Km値とVmax値の測定から両者のメチル化活性の低下は全く別の現象に起因することが確認された。すなわち、sBTIUによる修飾tRNAでは酵素とtRNAの親和性が低下するのに対し、架橋tRNAでは親和性にはほとんど変化がないもののVmax値が減少していた。また、これらの半分子を比較するとsBTIU半分子ではKm値、Vmax値ともに未修飾半分子とさほど変化がないが、架橋半分子ではKm値は向上しておりVmax値が減少していることがわかった。これらの結果はU8-A14の水素結合の存在はGm-メチラーゼの基質認識に影響を与えること、またその結果はtRNAの全構造が存在しているときのみ発揮されることを示している。また、架橋分子に対するVmax値の低下からG m-メチラーゼがtRNAと結合した際にはU8-A14の水素結合は切断されている可能性も示唆された。

 次に種々の塩基置換をほどこしたT7 RNAポリメラーゼ転写産物を基質としてそのメチル化活性を測定した。鋳型プラスミドはKunkel法で、D-ループ部分の改変体11種、D-ステムの改変体3種、D-アーム全体の改変体1種、その他の共通配列の改変体13種を作成した。

 まず、天然tRNAPheに由来する半分子フラグメントとそれに対応するT7 RNAポリメラーゼ転写産物の比較から修飾塩基の存在がGm-メチラーゼの酵素活性に影響をあたえることがわかったまた、核酸の高次構造形成を助け、tRNA全分子に対してはG m-メチラーゼの酵素活性を上昇させるスペルミジンの効果は半分子フラグメントに対して発揮されないこともわかった。

 次にD-ループ中の共通配列G18G19の一方もしくは両方を他の塩基に置換したT7 RNA転写産物はメチル化されないことから、G18Gl9配列は基質認識に必須であることがわかった。

 また、A17G18G19という塩基配列をもつ大腸菌tRNASer3はG18G19配列をもつ天然のtRNAのなかで例外的にほとんどメチル化されないこと及び大腸菌tRNASer3のT7 RNAポリメラーゼ転写産物はメチル化されないことからG m-メチラーゼの認識配列はPy17G18G19である可能性が示された。そこで、17位塩基の改変体を作成してみたところ、この位置の塩基がプリンであった場合にはVmaxが大きく低下し、効率のよいメチル化にはPy17G18G19の配列が最適であることが判った。さらに、D-ループ中の保存配列であるA13、A21を含むループ全域にも変異を導入したが、これらは全くメチル化活性に影響を与えず、G m-メチラーゼはD-ループのごく一部のみを認識していることがわかった。

 D-ステムの塩基配列改変体に関してはメチル化活性に顕著な変化はなく、Gm-メチラーゼはステム部分の塩基配列を直接認識していないことがわかった。しかしながら、D-ステム構造そのものを破壊した改変体は全くメチル化されないので、D-ステムの塩基対は酵素活性に必須である。

 さらにtRNA中に保存されている配列のうち、D-アーム領域と会合する塩基を中心に改変体を作成した。これらの塩基のうち、U8、G26、G46、U54、U55、C56の改変はいずれもKm値が上昇し酵素との親和性の減少が観察されたが、なかでも、G18、G19と直接会合するU55、C56の改変体は大きな親和性の低下を示した。このことから、G m-メチラーゼのより効率のよいメチル化にはtRNAのL字構造が必要であることが再認識された。また、tRNAの準保存配列のうち、C48、A58の改変は全くメチル化活性に影響がなく、したがってこれらの塩基が形成するG15-C48、U54-A58の水素結合もG m-メチラーゼの基質認識には関与しないことがわかった。

 以上要するに本論文は高度好熱菌由来のtRNA(guanosine-2’-)methyltransferaseの基質認識機構を数々の手段で検討し、本酵素の最小認識配列がD-ループ中のPy17G18G19であることをつきとめたものであり、学問的価値が高い。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

UTokyo Repositoryリンク http://hdl.handle.net/2261/50903