内容要旨 | | 既設鉄道線に立体交差道路を新規建設する際,列車運行を妨害せず,また土地収用問題の少ない非開削工法を使う例が増えている。非開削工法にはいくつかの種類があるが,下路桁式地中構造物を設けるタイプが,構造物構築工事期間中の線路変状が小さく,線路と新規構造物の鉛直方向距離が1m以内でよいの理由で増加している。下路桁式地中構造物とは,鉄道路盤盛土中に継手付横桁と主桁部材で上面からの路盤崩壊を防ぐ橋梁構造を設け,鉄道路盤盛土中に直方体空間を設け,直方体空間内の下路に自動車等が走行するものである。この下路桁式地中構造物の上を路盤と鉄道軌道構造をはさんで列車走行するので,下路桁式地中構造物には,列車による荷重が伝わり,主桁と横桁の連結による荷重分配作用と横軸軸長方向継手による横桁相互間の荷重分配作用が生じる。横桁相互間の継手分配作用は水平鋼管矢板構造の研究の中で解析がなされてきたが,主桁と横桁の連結による荷重分配作用については十分な検討が行われてこなかったのが現状である。 下路桁式地中構造物の設計構造計算は継手を無視した立体ラーメン計算で行われてきたが,実際の構造物の挙動を十分表し得ないことが指摘されてきた。そこで,主桁と横桁の連結による荷重分配作用と横桁軸長方向継手による横桁相互間の荷重分配作用がどのように生じるのかを実験的に把握し,下路桁式地中構造物のモデル化を検討し,積分方程式を用いた解析を試み,下路桁式地中構造物の静的荷重分配作用を解明しようとするのが本論文のねらいである。 第1章では,継手付き横桁を含む下路桁式地中構造物を対象として,これまでに行われた過去の研究を顧み,本研究の位置付け,目的を論じている。 第2章では,主桁と横桁の連結による荷重分配作用が横桁相互間の継手荷重分配作用と同時に考慮できる積分方程式を用いた解析法を展開する。この解析法は,梁を帯板と近似して取り扱うもので,種々の主桁の支持状態,主桁と横桁の結合関係を考慮でき,また自由度が少なく設計に適した方法であるのが特長である。梁の曲げ式と梁のねしり式から得られるグリーン関数は,両関数とも,厳密な一般解で,分母がゼロにならないので,梁の場合,積分方程式から得られる鉛直変位解とねじり角解は厳密解となる。また,付着点という概念を考え,付着点を持った梁要素を用いた有限要素法でも,積分方程式法で解いた同じ構造物モデルの荷重分配作用を解いた。下路桁式地中構造物モデルの場合,演算量からも,解の近似性からも積分方程式法の方が有利となる。 第3章では,下路桁式地中構造物の模型を用い静的室内載荷実験を行い,解析値と比較する。その結果,模型での主桁と横桁の結合部は半剛結とすると解析値と実験値とが整合することが示された。次に,設計の視点から架道橋現場測定を行い,列車荷重による解析値との比較検討を示す。次に,横桁継手以外に焦点をあわせ,充実断面主桁にほぞ穴を設け継手なし横桁を差し込み接着材を充填して作成した格子桁模型による静的室内載荷実験を行い,(1)横桁が中空断面と充実断面の挙動の差異,(2)主桁と横桁の結合方法による差異,(3)主桁端部のねじり方向の結合条件が荷重分配作用に及ぼす影響を調べ,その結果,横桁の中空薄肉断面のものには,薄肉断面変形モードが存在することが示された。また,ほぞ穴にがっちりと差し込んだ横桁の主桁結合部で生ずる負の曲げモーメントは,載荷荷重を受ける横桁において結合を剛結とする場合の半分以下であることが実験的に明かとなった。すなわち,主桁と横桁の結合は,剛結を意図して作成したものでも剛結でなく半剛結ともいうべきものとなることが示された。また,主桁端部がねじり固定のときとねじり固定でないときの荷重分配作用が異なるが,実験によると,大きな定性的な差異はなかった。 第4章では,荷重分配解析法と室内載荷試験等を踏まえ,下路桁式地中構造物の設計に関して,横桁継手の荷重分配作用が大きな役割を演じることを示し,横桁継手の取扱い,桁たわみ制限,桁剛性の算定の示方を述べた。 第5章では,本論文で得られた成果を述べるとともに,今後の検討項目として,さらに測定データ蓄積等を進めることが大切であると述べる。 開発した解析法により,主桁と継手付横桁で構成する下路桁式地中構造物は,横桁軸長方向継手の荷重分配作用と主桁・横桁間荷重分配作用の両者を同時に考慮でき,より現実に近い構造モデルで荷重分配作用をとらえることができるようになった。また,実験による部材変位の考察から,下路桁式地中構造物の荷重分配の動きを以前より正確に捕らえることができるようになり,解析法との両面から,合理的かつ経済的な下路桁式地中構造物設計が可能となった。 |