学位論文要旨



No 211955
著者(漢字) 渡部,正
著者(英字)
著者(カナ) ワタナベ,タダシ
標題(和) サーモグラフィー法によるコンクリート施工のモニタリングシステムに関する研究
標題(洋)
報告番号 211955
報告番号 乙11955
学位授与日 1994.10.13
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第11955号
研究科 工学系研究科
専攻 土木工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 魚本,健人
 東京大学 教授 岡村,甫
 東京大学 教授 國島,正彦
 東京大学 助教授 柴崎,亮介
 東京大学 講師 大賀,宏行
内容要旨

 本研究は、コンクリート構造物を高品質かつ耐久的に建設するためには、施工過程の質を定量的にモニタリングすることによって管理・評価するとともに、所要の品質のコンクリートが打ち込まれたかどうかを検査する技術が重要であるという観点に立って実施した。

 コンクリートの打ち込み時において、締固めの良否、空隙や豆板の発生等をリアルタイムで検出することができれば、コンクリートがまだ固まらないその時点にて、再度入念な締固めを行うなどの対処ができるため、施工の不具合による欠陥を未然に防止することが可能となる。また、養生過程において、部材内におけるセメント量の違いなどの構造体品質の検査を行うことができれば、構造性能や耐久性の評価が早期に行えるとともに、維持管理のための初期情報としてのデータベースを得ることができる。

 本研究で提案した手法は、図-1に示したように、コンクリート打込み時点においては、型わく温度とコンクリート温度が異なることを利用し、コンクリートが打ち込まれたことによる型わく外面の温度変化特性を熱画像として撮影することによって、型わく内部のコンクリートの打ち込み高さや締固め状況を非接触でモニタリングしようとするものである。そして、養生過程ではセメントの水和発熱に伴う型わくの温度変化特性を熱画像として撮影して、打ち込まれたコンクリートのセメント量の相対的な違いや部材内部に存在する豆板を検査しようとするものである。

図-1 コンクリート打ち込み時から養生過程における型わく温度の模式図と本手法での計測概要

 本手法の妥当性を検証するため、コンクリート打込み時における型わく面の熱画像の一次データから、打込み状況や空隙、豆板等の欠陥がどのように検出できるかを模型実験で検証した。その結果、コンクリートの打ち上がり状況や流動状況のみならず、空隙や豆板等の充填不良部分が、型わく温度の違いとしてリアルタイムに検出できることが分かった。しかしながら、熱画像の一次データに基づく判定では、熱画像に関する専門的な知識を必要とするばかりでなく、欠陥の識別に際しては判定者の主観的な要素が大きく影響を及ぼすため、実用化に際しては欠陥の種類、大きさ等を定量的に評価する手法の開発が必要である。

 そこで、撮影した熱画像を画像解析することによって、コンクリートの充填状況を定量的に評価する画像解析手法を検討し、各種計測条件に対応した以下の3種類の方法を提案した。

 (1)処理法-I:本システムにおける基本系であり、画像間差分処理によってコンクリートが打込まれたことによる温度変化量を求めて2値画像処理を行う方法。

 (2)処理法-II:初期熱画像が記録できないない場合、あるいは、打込み途中で環境温度が急変した場合に適用する処理法

 (3)処理法-III:型わくの初期温度が一様でない場合を想定した処理法

 画像処理法-Iの妥当性を検証した例を以下に示す。図-2は実験に使用した型わく模型の形状を、写真-1は使用した型わくの外観を示したものであり、コンクリートの打込みは右側半分の部分のみを使用して行った。

図表図-1 模型形状 / 写真-1 使用した型わく

 写真-2、写真-3は、コンクリート打込み時に撮影した型わく外表面の熱画像である。写真-2は、1層目のコンクリートを投入して締固めを行った直後の熱画像であり、空隙部分が周辺部のコンクリートに比べて低い温度となっていることが明確に認められる。写真-3は、2層目のコンクリートを投入して上部の約10cmのみを締固めた直後の熱画像であり、締固めを行っていない部分は、締固めを行った部分より若干ではあるが温度が低く表れているものの、明確には認識できない。

 画像処理としては、コンクリートが打ち込まれたことによって変化した型わく温度を、コンクリート打ち込み前と打ち込み後の熱画像を差分処理し、得られた温度変量に対して、使用する赤外線映像装置の性能や計測条件、対象物体の性質等による温度の計測誤差を考慮したしきい値を統計的方法により設定した。写真-4が3値画像処理結果であり、写真-5が脱型後の外観である。3値画像は、3色の疑似カラーで表示している。これら両者を比較すると、1層目の空隙部の位置や大きさが良く一致している。2層目の締固め不良部分は、その右側上下の一部が充填部と判定されているものの、全体的には充填不良部分と判定されており、欠陥部が定量的に識別できていることが分かる。

図表写真-2 1層目打込み後の熱画像 / 写真-3 2層目打込み後の熱画像 / 写真-4 3値画像処理結果 / 写真-5脱型後の外観

 また、コンクリートの養生過程において、型わく面の熱画像を撮影して、上記した画像処理を適用することにより、実際に打ち込まれたコンクリート部材内の相対的なセメント量の違い、内部豆板を2値画像として検出できることが分かった。

 提案した本手法の実用性について検証するため、コンクリート打込み状況のモニタリング法を実際の建設工事へ適用した。対象構造物は、鋼コンクリートサンドイッチ構造物であり、外殻鋼板内に超流動コンクリートを打ち込む工事であった。その結果、撮影した熱画像を提案した画像解析法により処理することにより、コンクリートの打込み状況を室内実験と同様2値画像としてモニタリングすることができ、本手法の実用性を検証することができた。

審査要旨

 コンクリートの打ち込み時において、締固めの良否、空隙や豆板の発生等をリアルタイムで検出することができれば、コンクリートがまだ固まらない時点において、再度入念な締固めを行うなどの対処ができるため、施工の不具合による欠陥を未然に防止することが可能となる。また、養生過程において、部材内におけるセメント量の違いなどの構造体品質の検査を行うことができれば、構造体としての性能や耐久性の評価が早期に行えるばかりでなく、維持管理のための初期情報としてのデータベースを得ることができる。従って、コンクリート構造物を高品質かつ耐久的に建設するためには、施工程度を定量的にモニタリングすることによって管理・評価し、所要の品質のコンクリートが打ち込まれたかどうかを直ちに検査する技術が重要である。

 本研究で提案された手法は、コンクリート打込み時点において、型わく温度とコンクリート温度が異なることを利用し、コンクリートが打ち込まれたことによる型わく外面の温度変化特性を赤外線映像装置を用い、型わく内部のコンクリートの打ち込み高さや締固め状況を非接触で広範囲にモニタリングすることを目的としている。また、養生過程ではセメントの水和発熱に伴う型わくの温度変化特性を熱画像として撮影することで、打ち込まれたコンクリートのセメント量の相対的な違いや部材内部に存在する欠陥部の検出可能性について検討している。。

 第1章では、近年のコンクリート構造物の劣化現象が顕在化する要因を明らかにし、コンクリートの打ち込み状況を打設時にモニタリングを行うことにより、施工時に生ずる可能性のある欠陥を未然に防止することの意義について論じている。

 第2章では、建設過程におけるコンクリートの管理・検査法およびサーモグラフィー法によるコンクリート構造物の非破壊検査に関する既往の研究を調査し、本研究の位置づけを明確にしている。

 第3章では、本研究で用いたモニタリングシステムの基本原理および計測システムを説明し、その特徴を述べている。

 第4章では、本研究で提唱しているモニタリングシステムを用いて、コンクリートの打ち込み高さ、締固め状況を打設時にリアルタイムで計測し、コンクリートの品質の位置による変化、部材内の欠陥を検査する手法を提案している。その結果、コンクリートの打ち上がり状況や流動状況のみならず、空隙や豆板等の充填不良部分が、型わく温度の違いとしてリアルタイムに検出できることを明らかにしている。しかしながら、熱画像の一次データに基づく判定では、熱画像に関する専門的な知識を有する人間を必要とするばかりでなく、欠陥の識別に際しては判定者の主観的な要素が大きく影響を及ぼす。そこでこの手法の実用化に際しては欠陥の種類、大きさ等を定量的に評価する方法の開発が必要であることから、撮影した熱画像を画像解析することによって、コンクリートの充填状況を定量的に評価する画像解析手法を検討し、各種計測条件に対応した3種類の方法を提案している。

 第5章では、コンクリートの養生過程において、型わく面の熱画像を撮影して、第4章で提案した画像処理を適用することにより、実際に打ち込まれたコンクリート部材内の相対的なセメント量の違い、内部豆板を2画像として検出できることを確認している。

 第6章では、提案している本手法の実用性について検証するため、コンクリート打込み状況のモニタリング法を実際の建設工事へ適用している。鋼コンクリートサンドイッチ構造物であり、外殻鋼板内に超流動コンクリートを打ち込む工事を対象構造物としている。その結果、撮影した熱画像を提案した画像解析法により、コンクリートの打込み状況を室内実験と同様に2値画像としてモニタリングすることができることを明らかにし、本手法の実用性を検証している。

 第7章は、結論であり、本研究で得られた成果をまとめている。

 以上を要約すると、本研究は、コンクリート構造物を高品質かつ高耐久性を有するように建設するために、コンクリートの施工程度を定量的にモニタリングし、管理・評価するとともに、所要の品質のコンクリートが打設されているか否かを検査する手法を提案したものであり、コンクリート工学の発展に寄与するところが大である。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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