都市は成長とともに快適性の追求が進行し、電力・ガス等のエネルギー消費量の増大と集中化、昼夜間格差の拡大等の現象が発生している。その結果、エネルギーの供給側では、ピーク需要に対応するべく供給設備を増強しようとする場合の立地難、供給設備の稼動率の低下、地球環境対策等が大きな問題となっている。その一方で、供給を受ける側の建物や建物群におけるエネルギーシステムは、建築物が機能するために必要とされる電気、冷熱、温熱等々を適時適量に提供することを目的とするものであるが、需要家側のみの経済合理性を主体に決定され、運用されているのが現状である。 たとえば、ガスは月単位の貯蔵が可能であるが電力は貯蔵ができないという特性の違いを考えると、需要家側でもこうした供給側の特性を考慮し、これと整合したシステムを構築する方向に視点を変えることが必要なのではないだろうか。同様に供給者側に対しても、需要家にとって選択し易い供給体制、料金システムのより一層の配慮が望まれるであろう。 また、わが国は国際公約である「地球温暖化防止行動計画」、「石油代替エネルギーの供給目標」および「生活大国5ヶ年計画」等の達成のため、総合的省エネルギー対策をはじめ、エネルギー需給構造の改革に向けた抜本的対応に迫られている。 このような認識に立って、筆者は建物・建物群のエネルギーシステムの今後のあり方として、以下に示す[エネルギーマネジメント]という新しい発想に基づく組立てが必要不可欠と考える。 筆者の考えているエネルギーマネジメントとは、従来の省エネルギーより広い観点から技術を統合化する概念であって、定義すれば次の通りである。すなわち、資源・エネルギーの有効活用を目的として、建物・建物群の中に、供給者側の特性と需要家側の要求の双方の条件を充足するように考慮された整合的な「一体化されたエネルギーシステム」を構築し、その効率的運用を行うための技術である。 本論文は、エネルギーマネジメント概念をベースとしたエネルギーシステムの構築手法の確立を目的として、手法の理論的考察とその具体化である都市開発プロジェクトの事例を述べ、さらに事例の運転実績に基づいて計画時に想定された効果を検証し、理論へのフィードバックを図ろうとするものである。 本論文の主な内容と構成は、以下の通りである。 第1章では、電力とガスを例にとり、都市のエネルギー需要の日変動と季節変動の実態及び問題点を把握した。 そのうえで、筆者が考えるエネルギーマネジメント、即ち、需要に対するエネルギー使用量平準化システムの構築と、エネルギー供給側の特性に配慮した複数エネルギー源の組合わせ利用の両面からのアプローチが省エネルギー・省資源や地球環境問題で需要家側・供給側の双方にメリットを生じることを述べた。 更に、エネルギーの供給・消費のフローチャートを基に、我国の業務用建物のエネルギー効率(一次エネルギー換算の有効率)を仮に10%向上できれば、原油換算1600万kl(1990年度ベース)に相当する省資源となることを試算し、エネルギーマネジメントというアプローチによるエネルギー源の節約が我国の国際公約実現のためにも意義深いものであることを述べた。 第2章では、エネルギーマネジメント概念をベースとしたエネルギーシステムの構築手法の確立を目的として、手法の理論的考察を行った。 先ず、要素技術を整理し、それらの組み合わせ方を考察し、更に、都市部でホテル、ショッピングを含めた建物群(合計延床面積10万m2以上)をモデルとして、最適エネルギーシステムのより具体的な考察を行った。 エネルギーマネジメント概念をベースとしたエネルギーシステムとして、種々のエネルギーシステムを検討した結果、深夜電力利用の蓄熱システムとコージェネレーションシステムを組み合わせた電力-ガスのベストミックスシステムが最適であるという結論を得た。 この結論に基づき、モデルビル群に対する最適のベストミックスシステムを見い出すための考察を行い、蓄熱槽体積とコージェネレーション容量の適正な組み合わせを求めるための一応の指針を得ることができた。 また、最適のエネルギーシステムを構築したとしても、時々刻々変動する負荷に対してシステムの運用面の重要性について私見をまとめてみた。 第3章では、エネルギーマネジメント概念による最適エネルギーシステムの構築に関する2章で得られた知見を基に、実際の都市開発プロジェクト「東京イースト21」への展開を述べた。建築計画との整合やコスト等種々の制約の中で、深夜電力利用の蓄熱システム(ターボ冷凍機450RT×3台、冷水専用蓄熱槽2500m3)とコージェネレーションシステム(ガスエンジン300kw×2台+リン酸形燃料電池200kw×1台)を組み合わせた電力-ガスのベストミックスシステムの実現を見た。そのプロセスで、各種シミュレーションを行うことにより2章で述べたエネルギーマネジメントによる最適エネルギーシステム構築手法に定量的側面を補強することもできた。 第4章では、電力-ガスのベストミックスシステムの構築事例である「東京イースト21」の1年間の稼働実績を基に、システムの性能を種々の角度から詳細に検証を行ってみる。 1年間にわたる検証という貴重な経験を通して、コージェネレーションシステムや燃料電池の発電効率、排熱利用率、各サブシステムおよび統合システムのエネルギー効率、蓄熱槽の性能等の実態を系統だてて把握することができた。 3章で行ったシミュレーションと比較して、満足できる結果が得られなかった部分については考察や一部システムの手直しを行うなど、設計者としてエネルギーシステム運用後のフォローまで徹底的に行ってみた。その結果、エネルギーシステムの構築や運用に対する種々のフィードバック事項が得られた。この一連のプロセスで得られた知見は、今後エネルギーシステムを追求する上で大いに参考になるものと考える。 以上の通りであるが、本論文は実際のプロジェクトで活用されることを主眼として、実務面でエネルギーマネジメントという新しい発想に基づく最適エネルギーシステムの計画手法が確立するための端緒となることを目指した研究である。 そのため、一般の学術論文ではシステムの総合エネルギー効率か最大(一次換算エネルギーが最小)であることを最適としてとらえているが、本論文ではエネルギーコストの最小化に重点をおき、コスト的に許容される範囲で一次換算エネルギーの少ないものを良しとすることとした。 ライフサイクルコスト的に考えると、都市や建物群が長期にわたって使用される場合のエネルギーのウェートが、一般の予想をはるかに越える大きなものとなることを本文で紹介した。 エネルギーコストはプロジェクトの推進者にとって極めて重要な事項である。本文でも述べた通り、現行の料金体系では深夜電力料金やガスの時間帯別B契約料金のような安価な料金を使用できるが否かによってエネルギーコストは大きな差が生じることになる。その結果、現実のプロジェクトでは一次換算エネルギー消費量の大小が必ずしもエネルギーコストの大小とは一致しないことを念頭に置かざるを得ないわけである。 |