本論文は、"Studies on Optical Properties of Scanning Optical Microscopy"(走査光学顕徴鏡の光学特性に関する研究)と題し、最近進展が著しい走査光学顕微鏡の光学特性の解析と、その、電子デバイスの検査装置への応用についておこなった一連の研究を纏めたもので、8章よりなる。 第1章は"Introduction"と題し、本研究の背景となる走査光学顕微鏡の一般的な特徴と、本論文の構成について述べたものである。 走査光学顕微鏡の短所および長所を列挙した後、近年注目されている共焦点走査光学顕微鏡(CSOM)の優れた光学特性について概観している。 第2章は"Fundamentals of Confocal Microscopy"と題し、CSOMの基本的な光学特性について述べたものである。 光学特性の計算は、光学座標を使用することにより行っている。ここでは、ハイゲンス・フレネルの原理を出発点にして、光学座標が導入される過程を述べている。そして、この計算に基づく点像分布関数を、従来の光学顕微鏡とCSOMの両者において比較することにより、CSOMの分布関数の方が狭いことを示している。 第3章は"Fluorescent Confocal Microscopy"と題し、蛍光を検出するCSOMについて述べたものである。 蛍光波長および検出器前のピンホールの大きさを変化させたときの、蛍光CSOMの3次元光学伝達関数(OTF)への影響を検討している。蛍光波長が励起光波長と等しい場合、3次元OTFの横方向の帯域は、励起光波長での従来のインコヒーレントな顕微鏡の帯域の2倍となる。しかし、蛍光波長が長くなると、3次元OTFの帯域は横方向および光軸方向において狭くなってくる。特に、光軸方向では原点方向に帯域の欠落が次第に現われてくる。また、大きいピンホールを使用する場合も、蛍光波長を長くするのと同様の影響が3次元OTFにあり、蛍光CSOMの3次元OTFは悪くなる。 実際にホトレジストからの蛍光を検出し、非破壊でホトレジストの深穴断面構造の観察を行い上記解析結果の検証をおこなっている。 第4章は"Confocal Scanning Dark-Field Polarization Microscopy"と題し、共焦点走査暗視野偏光顕微鏡について述べたものである。 暗視野検鏡を実現するために、円偏光の照射光がエッジによって変化するのを検出する。これにより、すべての方向のエッジを暗視野で観察できるようになることを示している。 第5章は"Confocal Microscopy with Single-Mode Optical Fiber"と題し、シングルモード光学ファイバを用いたCSOMについて述べたものである。 初めに、CSOMのピンホールの代わりに、シングルモード光学ファイバを使用したときのコヒーレント伝達関数および光軸方向での応答特性を計算している。実験的には、ファイバへの入射光の開口数を変化させることで規格化したコア半径を実質的に変化させ、半導体素子表面の画像を撮影している。コア半径を大きくしたときの画像は、コア半径が小さい場合と比較して、粗いものとなり、分解能が悪くなることを明らかにしている。 次に、ファイバを蛍光CSOMのピンホールおよび光源の代わりに使用したときの光学特性について検討している。この光学系では、蛍光は自動的にファイバ端面に戻るようになっているので、光学調整が容易である。 この顕微鏡の2次元OTFおよび3次元OTFを計算している。その結果は、ファイバのコア半径を大きくすると、すべての方向で分解能が悪くなるので、コア半径を光学単位で1程度に小さくする必要があることを示している。 第6章は"Effect of Axial Pinhole Displacement in Confocal Microscope"と題し、CSOMにおける光軸上のピンホール位置ずれの効果について述べたものである。 光軸上での最適位置から、ピンホールを変位させた反射および蛍光タイプのCSOMにおいて、光軸方向に移動する平面鏡および蛍光膜からの応答信号を計算している。そして、実験的にも、上記の応答信号を測定している。その結果、次のことを明らかにしている。 反射タイプのCSOMのピンホールの位置調整において、最適位置を平面鏡からの反射光が最大になる位置とすると、そのピンホール位置は必ずしも共焦点位置になっていない。 一方、蛍光タイプの場合は蛍光膜を使用して、蛍光信号が最大になるようにピンホール位置を調整すれば、それが最適な共焦点位置となっているということを明らかにしている。 第7章は"An Optical Method for Inspecting LSI Patterns Using Reflected Diffraction Waves"と題し、反射回折光を用いるLSIパターン検査方法について述べたものである。 半導体素子製造プロセスで多用される、パターンのエッジの方向は45度毎に4方向あり、パターン欠陥や異物はこの規則性からはずれていることが多い。 ここで述べる検査方式では、欠陥の少ないチップからパターンの規則性に関する情報を収集し、この規則性からはずれたパターンを有するチップを不良と判定する。具体的には、パターンエッジによって回折されたレーザ光の強度分布からそのパターン形状の特徴情報を得る。このパターン欠陥検査装置により、シリコンナイトライド膜上のホトレジストパターンに付着した直径約0.8mの欠陥が検出できることを示している。 第8章は"Conclusions"と題し、本論文の結論であって、本研究の成果をまとめている。 以上これを要するに、本論文は、電子デバイスの検査等に応用される共焦点走査型光学顕微鏡について、その光学的特性の解析法について述べ、光ファイバを用いるもの、あるいは、蛍光型の共焦点顕微鏡について、その特性の解析と改善法の提案、ならびに、これらの成果としての電子デバイスの検査装置の開発等、電子デバイス技術、光学電子技術の進展に寄与するところが多大であり、電気・電子工学に貢献するところが少なくない。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |