内容要旨 | | 本論文は,鉄鋼業における高付加価値製品の代表である表面処理鋼板や薄鋼板を対象として,その品質を管理するためにオンラインで表面諸特性を計測する問題を研究したもので,具体的には,1)塗装鋼板の測色,2)メッキ鋼板の被膜厚計測,3)レーザダル加工ロールの表面微細凹凸パターンの計測,の問題を取り扱っている. 1.塗装鋼板の測色 亜鉛めっき鋼板に有機塗料を焼き付け塗布した塗装鋼板(着色亜鉛鉄板)は主として建材としての用途が多いが,その品質上要求される特性としては物理,化学的性質と同時に色調などの光学的性質も重要であるため,製品からサンプルを切り出してオフライン色差計によるパッチ測定による品質管理がなされていた.しかし,同一色調の鋼板を安定的に生産し,かつ,色調異常の早期発見や試し塗り時の色調の迅速チェック,色調制御などを可能とするために,オンラインによる鋼帯全長にわたる連続測色の実現が望まれていた. 塗装鋼板製造工程での測色には,色差の高分解能測定が可能であること,設置時の安全性や保守性の観点から測定距離が長いこと,連続測定に耐えられる安定性,再現性に優れていること,の3点が主に必要となるため,従来の技術では対応ができなかった.そこで新たなオンライン望遠測色装置を開発した. この装置では,分光系に回折格子とフォトダイオードアレイを使用して可視波長領域において,10または20nmおきの等波長間隔の分光測光方式を採用することにより,高い色差分解能を実現した.また,タングステンランプを高輝度で結像する方式を採用して,測定距離が100mm以上と安全性に優れた性能を得た.市販のオフライン測色計と本測定装置による色差測定値の対応は±0.2以内の差で一致しており,非接触,望遠測定方式として実用上充分に満足できる性能である.また,光ファイバを用いて3波長での光源強度変動補正を行うことにより測定値の安定性を高めている.このため,測定の再現性は±0.1以内を実現している. 本装置によるカラー鋼板製造ラインへの適用実験の結果,各色の標準サンプルとの色差をオフライン測定値と±0.2以内の差で測定可能であり,長時間の連続測定においても高い再現性が得られた.また,白色度の値を用いることにより酸洗鋼板の変色度をオンラインで測定可能であることも示した.さらに,オンラインで得られる測色パラメータを利用して,鋼板の表面焼き付け状態管理やカラータイル,銅箔,紙など鉄鋼製品以外の品質管理への応用も可能である. 本研究によって開発した装置を用いることにより,製造工程におけるオンラインの品質管理が可能となり,歩留り向上,作業工程の簡素化・省力化などに大きく寄与した. 2.メッキ鋼板の被膜厚計測 クロムメッキ鋼板は缶用材料として多く使用されているが,高分子接着材による接着特性や耐水経時劣化性,加工後の耐食性,溶接性,耐熱性等,品質上多くの特性が要求されている.これらの諸特性は,メッキ鋼板上の極薄酸化被膜厚と関係があるために被膜厚の管理は重要であり,オンラインでの鋼板全長にわたる連続測定が要求されている.被膜厚は約10〜20nmと薄いために,従来はオフラインでの破壊測定が行われていたが,より厳しい品質管理のためにオンラインでの非破壊測定が望まれていた.そこで,新しい原理に基づくオンライン連続被膜厚測定装置を開発した. クロムメッキ鋼板上に形成された酸化クロムは紫外波長領域の光を良く吸収する特性があるため,この性質を利用して,反射光強度の測定から被膜厚さを推定する方法を研究した.具体的には,照射光源に水銀ランプを使用し,吸収の大きい波長(1)としてランプの基線のうちの例えば313nmあるいは404.8nmを使用して反射光強度を測定する.また,オンライン測定時の鋼板パスライン変動や反射光強度変動の影響を軽減するために,吸収の少ない波長(2)である546.1nmにおける反射光強度も同時に測定し,それら2波長での反射光強度比I(1)/I(2)と被膜厚さとの関係を利用して膜厚を推定する. 次に,偏光解析法により求めた光学定数を用いて,被膜における多反射モデルより2波長反射光強度比を計算し,計算値が実測値と良く一致することを示した.この計算値を検量線とすることにより,被膜厚さ換算にして約30nmまでの極薄酸化被膜厚を高精度で測定できることを示した. まず,上記の手法を用いてオフライン測定装置を試作し,この手法によって被膜厚測定が可能であることを示し,次にオンライン測定装置を製作して,実際の製造ラインでの測定を実現した.その結果.同一コイル内での被膜厚を±1.4mg/m2以内の推定精度で測定可能できることを示した. メッキ鋼板の原板の材種,粗度,コイル等がかわると下地表面の反射特性が変化するために被膜厚変動以外の要因による反射光強度変動が生じて,被膜厚測定精度が低下する.従って,原板の反射特性を補正する必要が生じるが,その対策としてメッキ前の原板の反射光強度を同一波長で測定しておき,メッキ後の同一地点を測定した値との比を演算する方式を提案した.この補正方式を用いると,生産対象である全材種と粗度条件に対して,コイル長手方向被膜厚みむら,破壊試験からの分析値誤差等を考慮して約2mg/m2の推定誤差での測定が可能である. 本研究により,極薄被膜厚さのオンライン測定技術を確立し,製品の品質管理向上に寄与することができた. 3.レーザダル加工ロールの表面微細凹凸パターンの計測 レーザダル加工技術を利用したロール加工法は高鮮映性鋼板の製造のために有効であることが明らかにされてきたが,塗装後の鮮映性を決定する要因は把握されていなかった.また,加工中の高速回転ロール表面の微小パターン測定がなされていなかったので,最適なパターンの加工状況がモニタできず,従って,目標とする鋼板製造のためのロール表面の品質管理が実施出来ない状況にあった.本研究は,鋼板塗装後の鮮映性と表面微細凹凸形状との関係を解析して鮮映性を決定する因子を明確にするとともに,ロール表面の微小パターン測定が可能となるインライン測定装置を開発して,ロールの品質管理を向上させることを目的としてなされた. レーザダル加工ロールにより製造される鋼板の微細凹凸形状を詳細に解析するためには従来からの2次元的粗さ解析に代わり,面としての特性把握のための3次元解析が有効である.まず,粗面の各点間の差分を計算する傾斜角分布解析から得られる新たなパラメータ,平坦面積率(W2)を用いることで塗装後の鮮映性を評価することが可能であるを明らかにした.さらに,W2値に加えて平均面粗さ(SRa),平均面うねり(SWca)値を組み合わせた実用的なパラメータFc値を提案した.この値は塗装後の鮮映性に良く対応する指標であるので,ある種の高級鋼板の表面品質管理に実用されている. レーザダル加工中の高速回転ロール表面パターンの2次元的配置パラメータ,例えば各マイクロクレータ間のピッチやクレータ径を測定するためには,ロールの最大周速が約10m/secと高速であるために,ストロボ光のみにより撮像した静止画像では鮮明度が不足する.そこで,ロールの回転速度に同期した接線速度を有する高速回転ミラーとストロボ光とを組み合わせた撮像系による静止画像計測システム,さらに,得られた画像から自動画像処理を行うことでピッチ,径等を算出する画像処理システムを開発した.この開発装置はロール最大周速においても鮮明な静止画像を撮像可能であり,実測との比較において約±10mの精度で各パラメータを測定できることを示した. 本装置によりロール回転中の加工状況をモニタでき,ロール品質の管理ばかりでなく加工装置の設備診断的役割としても有用であることを検証した. 本研究により,ロール加工と鋼板表面微細凹凸形状との関係,さらには塗装後の鮮映性との関係が明らかにされたので,高鮮映性鋼板の安定製造に寄与することができた. なお,本研究で開発した光応用表面計測技術は他の鉄鋼製品や鉄鋼以外の製造プロセスへの応用も可能であると思われる. |