世界のエネルギー需要の伸びと環境問題解決のため原子力発電の必要性が増大している半面、原子力発電の安全性と経済性に対する要求は益々高まりをみせている。これらの社会的要請に応えるため、原子力発電所の一層の信頼性と経済性の向上を目指した改良を進めることが必要である。 本研究はBWR原子力発電プラントの信頼性・経済性をさらに高めるための技術について分析した結果、最も効果があると評価した作業員の被ばく低減技術について、原子力発電プラントのエンジニアリングに長年従事してきた経験を踏まえ、開発の考え方について、その位置付け、被ばく低減に係わる因子の解明、被ばく低減のための方策、被ばく低減対策を実プラントへ採用するための評価手法についての方法論を述べ、この評価手法に従って被ばく低減対策を実施した結果どのような成果を上げることができたかについて明らかにすることである。 原子力発電所の信頼性、経済性向上の要因を分析し、原子力発電所特有の課題である作業員被ばくの低減を実施することはこれらと密接な関係にあると分析した。 即ち、被ばく低減対策を実施することにより、対策そのものが機器システムの信頼性向上に繋がると共に、保守性の改善を通してプラントの信頼性向上が期待できる。 また、被ばく低減は保守費の低減や、廃棄物量の低減等を通してプラント保守費の低減効果が期待でき、プラント建設費の上昇に見合う経済効果が得られることから、総合的にみてコストミニマムを達成する近道であると評価した。 各被ばく低減対策の実施に当っては、その効果を評価し、これを経済的価値に換算しコストメリットを評価する必要がある。この目的で、被ばく線量当量を直接経済価値に換算する手法を開発した。 即ち、被ばく線量当量の低減に伴う定期検査(定検)工数の低減予想算定式を立て、線量当量が半減した場合の工数を算定し、その結果を用いて人・rem当りの経済価値を求めた。さらに、定検期間の短縮と、放射性廃棄物量の低減の経済的効果を合わせ評価する手法を導入した。 被ばく低減方策の検討に当たっては、被ばくに関わる因子につき分析・評価し、被ばく低減は作業環境線量率と放射線を受ける作業時間の両面から検討すべきであると分析した。 作業環境線量率については、その基となる放射線源は実プラントのデータからその大部分がコバルト(Co)の放射性同位元素60Coであり、これが鉄錆(クラッド)に随伴されてプラント内に持ち運ばれる事を明らかにした。 この分析結果に基づき、効果的な放射能低減対策を立案するために、これら線源の挙動を記述する放射能挙動モデルを作成した。そしてこのモデルを基に、各要素相互の相関を求める解析モデルを開発した。このモデルをもちい、原子炉一次系冷却水に接する材料面と、水質管理などの各影響因子について解析と分析を行った。 被ばく作業時間については実プラントの作業分析を行い、各作業を実施する場所の放射線マップ、各作業の作業時間、被ばく線量当量を求め、要因分析と改善策について検討を行った。また、作業環境線量率の低減に繋がる遮蔽についてもその性格上、作業性改善と並行して分析評価した。 これらを基に、放射線源低減の視点から材料の選択、水化学と水質管理、また、作業時間の低減の立場から自動化の採用など広範囲で落ちのない被ばく低減方策を立案した。これら、各方策について被ばく低減等の効果を求め、先の評価手法により経済価値を算定し、効果があると評価したものについては積極的に採用を進めた。 放射線源低減についてはクラッド低減対策とCo低減対策につき、以下に述べるように研究の考え方と具体的内容について検討した。 クラッド低減のためには、給・復水系での発生の抑制と、発生したクラッドの炉心への流入抑制、さらには炉心内のクラッドの拡散防止が重要であると分析した。 発生の抑制にはコストメリットを評価し、二層流によるエロージョンの起こりやすい抽気管などにはクロムモリブデン鋼のような耐食性材料の採用し、酸素注入が採用できる給水系配管は冷却水の酸素濃度を20ppb〜にコントロールすることが腐食量抑制に有効であると評価した。 しかしこれだけでは目標給水クラッド濃度を得るに不十分であると評価した。このため、復水脱塩装置の前にろ過脱塩装置を設置し、このクラッド除去性能の向上について開発研究をおこなった。ついで、このろ過脱塩装置に代えて、2次廃棄物が発生しない中空糸膜フィルターを開発し、クラッド濃度を当初の目標である1ppb以下に抑えることに成功した。 Co低減をのためにはプラントの一次系構成材料の低Co化を計った。先ず、一次系構成材料として表面積の大きいステンレス鋼中の不純物Coの含有量を低減した。 また、構成材料として使用している超硬コバルト合金に変えCoを含まない代替超硬合金を開発し、その採用を進めた。 さらに中性子照射を直接受け60Coを生成する燃料スペーサに対し、気中酸化により表面に安定な酸化被膜を作り、腐食抑制を計る表面処理法を開発し適用した。 水質管理面からは炉水中のCoイオン濃度と配管内面への60Co付着量とは密接な関係があると評価し、Coと似た性質を持ち、Coの挙動に大きな影響を持つニッケル(Ni)をNiフェライトとすることにより、炉水中へのNiおよびCoの溶出を抑え、炉水中のNiおよびCoのイオン濃度を低下させることを狙い、ニッケル鉄コントロールを実施した。これは炉水中のNi/Fe濃度比をフェライト生成の化学量論比:0.5以下に保つため、給水の鉄(Fe)濃度をコントロールする方策である。 被ばく時間の短縮については、保守性を考えたレイアウトの改善、供用期間中検査(ISI)の完全実施と対象箇所の低減を狙った大型鍛造材の採用、ISIの自動化などISIに関わる改良を積極的に推進した。 また、特に重点項目として被ばくの多い作業について、作業の遠隔化と省力化を狙い自動機の開発と導入を進めた。その代表例は、燃料自動交換機、制御棒自動交換機、点検ロボットなどである。 このような評価手法に基づき作業員の被ばく低減対策を実施した結果、総合的には被ばく線量等量の1桁低減を達成することができた。 そして、被ばく低減技術の主要ポイントとしては、クラッドの大幅低減の効果と、Co低減の効果が明らかになった。また、自動機の導入は被ばく低減に効果があるだけでなく、作業安全と作業の信頼性向上にも効果が大きいことが明確となった。このような評価の結果から、本評価手法が妥当であることが明らかになった。 今後の課題としては、さらなる放射線源の低減に向けての研究開発と、被ばく低減効果の放射線管理面での活用が望まれるところである。 |