本論文は、配位化学的な考え方を取入れたゾルゲル法による複合酸化物の調製法とその触媒等への応用に関するものである。各種の複合酸化物が触媒、吸着剤など化学機能材料として広く利用されているが、これらの構造、物性は、調製時に起こる加水分解、沈殿、縮重合反応などの化学反応により複雑に変化する。本論文で用いたゾルグル法は、論文提出者の考案した調製過程における架橋錯体の形成、配位子種の効果など配位化学的因子の制御を重視したもので、配位化学的ゾルゲル法とよんでいる。すなわち、有機多座配位子を用いて複数金属原料の反応速度を平準化することにより生成する複合酸化物の構造、組成、物性の制御をはかっている。その結果、均質かつ高表面積など、優れた物性を有する複合酸化物触媒の合成を実現したものであり、全6章からなっている。 第1章は序論であり、複合酸化物の構造、組成、均質性、物性制御における調製法の重要性を指摘し、配位化学的な考え方を複合酸化物の調製法に取り入れ、有機多座配位子を用いるゾルゲル法により複合酸化物の構造や物性を制御するという本研究の目的、意義について述べている。 第2章は、複合酸化物の物性、とくに均質性に及ぼす調製法の影響について検討した結果を述べている。原料金属アルコキシドと有機多座配位子との錯形成により、加水分解速度の平準化、架橋錯体の生成を通して均質な複合酸化物の調製が可能と考え、アルミナ/シリカなどの複合酸化物を配位化学的ゾルゲル法により調製した。その結果、共沈法や混練法などの従来法に比べて均質度の高い複合酸化物が得られ、M-O-M’結合(M,M’=金属元素)の生成度も高いことを明らかにした。さらに、これら酸化物の酸性質をアンモニア吸着により調べ、均質度やM-O-M’結合生成度の違いは酸性度や比表面積、触媒活性とも密接な関連をもつことを明らかにしている。 第3章は、有機多座配位子を用いる複合酸化物の物性制御に関するものである。有機多座配位子が、複合酸化物の構造をきめる鋳型や核の役割を果たすことを期待し、有機多座配位子の分子形を規則的に変化させて、複合酸化物の物性を制御することを試みている。配位子として種々のジオールを用いて調製した複合酸化物の比表面積や細孔径、酸性度、さらにこれらを触媒とするメタノール転化反応やナフタレンのアルキル化を調べ、反応活性や選択性がジオールの構造の変化に対応して変化し、有機多座配位子によって複合酸化物の物性を制御することが可能であることを示している。 第4章は、燃焼触媒用複合酸化物担体の調製に適用した結果を述べている。すなわち、配位化学的ゾルゲル法を耐熱性担体として知られるアルミナ複合酸化物の調製に用い、高性能な担体の調製を試みている。その結果、均質度の向上にともない結晶化等の相変化が抑制され、従来、一般的な調製法として最も耐熱性の高い複合酸化物を与える共沈法よりもさらに耐熱性にすぐれた担体の合成が可能であることを見出した。とくに、BaO/Al2O3系が高耐熱性、高耐久性の担体となることを明らかにしている。 第5章は、有機多座配位子による担持酸化鉄の構造制御の可能性について検討した結果について述べている。有機多座配位子を用いる物性制御の応用としては含浸法による調製における担持成分の構造制御を試みている。酸化チタン等の酸化物の表面に担持した酸化鉄の構造や飽和磁化率は、用いる有機多座配位子の量や構造に依存して変化し、一段含浸法では配位力の強いジオールを、二段含浸法ではクエン酸、糖アルコール、単糖類をそれぞれ有機多座配位子に用いた場合に、担持酸化鉄の飽和磁化率が高くなることを見出している。 第6章は、総括であり、本研究を要約するとともに、有機多座配位子を用いて複合酸化物の物性制御を行なう配位化学的ゾルゲル法の手法によって、今後複合酸化物材料の触媒化学、材料化学への応用が一層広がるとの展望を述べている。 以上、本論文は、固体触媒のデザインを念頭において、配位化学的ゾルゲル法により調製される複合酸化物の構造、表面物性、さらに触媒機能について調製条件、多座配位子等を広範に変えて検討したもので、均質性、高表面積、耐熱性にすぐれた複合酸化物の合成法に新規で有用な知見を得ている。その成果は広く触媒化学、材料化学の分野に貢献するところが大きい。 よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |