学位論文要旨



No 211988
著者(漢字) 末松,充彦
著者(英字)
著者(カナ) スエマツ,アツヒコ
標題(和) 低比重パーティクルボードの形成と機械的性質に関する研究
標題(洋)
報告番号 211988
報告番号 乙11988
学位授与日 1994.11.14
学位種別 論文博士
学位種類 博士(農学)
学位記番号 第11988号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 大熊,幹章
 東京大学 教授 岡野,健
 東京大学 助教授 有馬,孝礼
 東京大学 助教授 小野,拡邦
 東京大学 助教授 太田,正光
内容要旨

 近年、優良な木材資源の減少と低質化が進行しつつあり、未利用材や低質原料から得られた木材小片の活用が可能なパーティクルボードの発展が期待されている。パーティクルボードを構造用材料として使用する場合、比較的厚いものが要求されるのでボードの重量が問題となる。低比重で耐水性の高いボードが建築サイドから強く望まれており、合板に匹敵する耐水性が付与され、しかも低コストで得られれば、合板に替わる材料としての需要が伸展すると予想される。本研究は、低比重パーティクルボードの形成機構を解明し、建築構造用面材としての性能を評価することを目的とした。得られた結果の概要は以下の通りである。

 低比重パーティクルボードの形成に及ぼす原料樹種、圧縮比等の影響を検討した。小片間の空隙率は圧縮比の増加に伴って直線的に減少し、小片比重の大きいものほど急激な減少を示した。小片の平均圧縮率は圧縮比の増加で直線的な増加を示し、この傾向は原料小片の樹種に依存しなかった。また、圧縮比が1以下でも小片の平均圧縮率は10%程度を示しており、低比重ボードの製造には重要なことと考えられる(Fig.1)。

 ボード製造時の最大圧締圧はボード圧縮比の増加で直線的な増加を示し、その増加の傾きには原料比重の影響が認められ、実用的なはく離強さをもつボードを製造するためには、10kgf/cm2以上の最大圧締圧が必要であった(Fig.2)。なお、マットを所定厚さまで熱圧した時の最大圧締圧とボード圧縮比との関係より、ボードとして成形される圧縮比の下限値は0.5〜0.6であると推測された。

図表Fig.1.Relationships between average compression rate of particles(Ca)and compaction ratio(Cr).Legend:〇:Ezomatsu,△:Hinoki,●:Buna A.▲:Buna B. / Fig.2.Effect of maximum pressure during hot‐pressing on the internal-bond strength of boards.Legend: 〇:Hinoki PF,●:Hinoki IC,△:Buna PF.▲:Buna IC,R:Correlation coeffi cient.Note:The solid lines rpresent the regression line.

 圧縮比の増加に伴うはく離強さの増加の傾きは原料小片によって異なり、小片比重の大きいものほど急激な増加を示した。はく離強さに接着剤塗布量の影響は認められず、1×10-3g/cm2程度の塗布量でも充分な小片結合力が得られていることが示唆された(Fig.3)。

Fig.3.Relationships between internal-bond strength (IB)and compaction ratio(Cr).Legend:〇:Ezomatsu,△:Hinoki,●:Buna A,▲:Buna B.

 小片の吸湿厚さ膨潤率は圧縮比の増加で直線的な増加を示し、その傾向は原料樹種に依存しないことが認められた。ボードの吸湿厚さ膨潤率とボード比重との関係は、高圧縮ボードでは比重依存性がみられたが、低圧縮ボードには認められなかった。ボードの厚さ膨潤と圧縮比との関係では、一部の低圧縮ボードの厚さ膨潤率は高い値を示したが、これらを除外すれば相関の高い直線関係が認められ、この増加の傾向は小片の平均厚さ膨潤率と同様に原料樹種に依存しなかった(Fig.4)。

Fig.4.Relationships between thickness swelling of board(TSB)and Cr.Legend:One-step, ○:Ezomatsu, □:Hinoki, △:Buna, Two-step, ●:Ezomatsu, ■:Hinoki, ▲:Buna

 吸湿後の小片空隙率は低圧縮ボードで大きな増加を示し、ボード比重の増加と共に吸湿前後の空隙率の変化は少なくなった。低圧縮ボードは製造時の圧締圧が低いので、小片間の密着性が充分でなく、小片の厚さ膨潤による結合部の破壊に抵抗できないためにボード厚さ膨潤率が大きくなると考えられ、厚さ膨潤を低く抑えるには、圧縮比の最適値が存在することが推測された。

 ボードの吸湿厚さ膨潤に影響を及ぼす因子を線形重回帰分析により推定した結果、ボードの厚さ膨潤率は圧縮比、ボード比重、ならびに原料小片比重の3つの説明変数によって予測が可能であった。また、接着剤塗布量の影響は認められなかった。

 2段階圧締法の熱圧条件について、初期圧締時間および解圧時間がボードの性能に与える影響を調べた。初期圧締時間は低比重ボードの機械的性質に影響を与え、この時間が長いものほど高い曲げ破壊係数を示したが、はく離強さは減少する傾向が認められた。これらはボード内部の比重傾斜によるものであった(Fig.5)。初期圧締時間が30秒以上であれば、90秒以内の熱板解放によるボード材質の低下は少なく、2段階圧締法を利用した連続的なボード製造の可能性が示唆された。

Fig.5.Effect of pressing time in the first step and temporarily released time on internal-bond strength(IB)and modulus of rupture(MOR).Legend:Pressing time of the first step,〇:30,△:60,□:90(sec).Note:The dashed line represents one-step method.

 パーティクルボードを構造用部材として使用する場合、優れた機械的性能と耐久性が問題となる。低比重ボードの機械的性質に及ぼす原料小片樹種、接着剤の種類による影響を検討した結果、ボード比重が0.5以上であれば、フェノール系樹脂接着剤を用いたボードのはく離強さは5kgf/cm2を上回り、低比重ボードの結合剤としてフェノール系樹脂接着剤を利用できる可能性が示された。

 イソシアネート系樹脂接着剤はフェノール系樹脂接着剤よりも優れた曲げ性能を与えることが認められた(Fig.6)。また、フェノール系樹脂接着剤を用いた低比重ボードは小片樹種にもよるが、比重0.50〜0.60であればJIS-200タイプに合格することが認められ、構造用材料として利用できる可能性が示唆された。

 低比重ボードのはく離強さに影響を及ぼす因子を線形重回帰分析によって検討した結果、はく離強さIBはボード比重Db、小片空隙率Vs、圧縮比Crの3つの説明変数によって予測が可能であった。

 IB(kgf/cm2)=20.5+26.4Db-1.1Vs-11.6Cr(R2=0.87)

 単位面積当りの接着剤塗布量の影響は本分析の結果からも認められなかった。

 低比重ボードの吸水・乾燥処理後の小片結合力の低下は、小片樹種および接着剤の種類に関係なく、ひとつの回帰式で表された(Fig.7)。本実験の比重範囲では、劣化処理後の小片結合力は、常態時の75%以上が残存すると推測された。従来より耐水性能に定評のあるフェノール系樹脂接着剤は、常態における結合力ではイソシアネート系樹脂接着剤に及ばないが、これと同等の耐水性を示した。

図表 Fig.6.Effect of board specific gravity(SG)on modulus of rupture (MOR) and modulus of elasticity (MOE) based on bending test.Legend:●:Ilinoki IC,〇:Ilinoki PF,▲:Buna IC,△:Buna PF.IC:lsocyanate compound resin-bonded boards,PF:Phenolic resin-bonded boards. / Fig.7.Relationships between interlaminar-shear strength after treatments and those before treatments.

 吸水・乾燥処理後の曲げ性能の低下は小片樹種に係わりなく、接着剤の種類に影響を受けることが認められた(Fig.8)。フェノール系樹脂ボードはイソシアネート系樹脂ボードよりもその低下が大きく、曲げ破壊係数および曲げヤング係数はイソシアネート系樹脂ボードでは常態時のおよそ90%、フェノール系樹脂ボードでは60〜70%が残存すると推測された。

Fig.8.Relationships between modulus of elasticity (MOE)of board after treatments and those before treatments.Legend:R:Correlation coefficient. Notes:Symbols are the same as in Fig.16.The solid lines represent the regression line.

 処理後の最大荷重および比例限度荷重は、常態時と同等かそれ以上の値を示した。最大荷重はボードの厚さが増すほど大きくなり、厚さの増加分が処理による小片結合力および引張り強さの低下を相殺していると推測された。

 曲げ破壊係数、曲げヤング係数ならびに面内せん断強さは小片樹種および接着剤の種類に影響を受けた。イソシアネート系樹脂接着剤はフェノール系樹脂接着剤よりも優れた機械的性能を与えたが、せん断弾性係数については接着剤の違いによる差は認められなかった。

 比重0.60の低比重ボードと市販ボードとを比較すると(Table 1)、12mm構造用合板には及ばないが、比重0.75のパーティクルボードと同等の曲げ性能を示した。せん断弾性係数およびせん断強さについても低比重ボードは市販ボードと同等かそれ以上の値を示し、常態についての比較ではこれらの代替として利用できることが示唆された。

Table 1.Results of bending and shearing tests.

 比重0.60のボードは市販ボード類とほぼ同等の釘一面せん断耐力を示した(Table2)。以上のように本実験で製造した低比重ボードは、比重が0.60であれば建築構造用面材として利用できる可能性が示唆された。

Table2.Resuluts of nailed-joint tests.
審査要旨

 優良な木材資源の減少と低質化の進行により,未利用材や工場廃材の活用が可能なパーティクルボードの発展が期待されている。これを構造用材科として使用する場合,比較的厚いものが要求されるため,軽量化の検討が必要になり,実用上の性能が確保されれば,ボードの低比重化は大きな意義をもつと考えられる。本論文は,低比重パーティクルボードの形成機構を解明し,建築構造用材料としての可能性を追求したものであり,7章より構成されている。

 第1章は本研究の目的,既往の研究内容,低比重パーティクルボードの意義,研究の経緯を述べている。

 第2章では低比重パーティクルボードの形成機構を解明するため,ボードを構成している小片の厚さおよび小片間に存在する空隙の間隔を詳細に検討し,熱圧締による小片の密着性の優劣を小片圧縮率ならびに空隙率により分析評価している。ボード比重が原料比重以下の場合にも,個々の小片は十分に圧縮されていることを精査し,小片間の空隙部は低比重ボードの製造面から非常に重要であり,その存在意義が大きいことを明確にした。さらに,小片同士の密着性に依存する小片結合力の発現についてボードの厚さ方向比重分布と関連づけて検討し,実用的な小片結合力を得る製造条件についての知見を得ている。

 第3章では,吸湿による小片の挙動と空隙率の変化を細見して,低比重ボードの厚さ膨潤の機構について考察し,熱圧工程で小片が受けた横圧縮変形の水分による回復は,ボードの厚さ膨潤に影響を与え,圧縮比が大きいほど小片間の密着性は良好であるが,厚さ膨潤を低く抑えるには圧縮比に最適値が存在すると推測している。重回帰分析により厚さ膨潤の予測式を求め,種々の因子の中で原料小片樹種の影響を強く受けることを明らかにした。

 第4章では,従来の平板プレスを複数用いて低比重ボードを連続的に製造する可能性を検討している。2段階圧締法により製造されたボードの機械的性質は,ボード内部の比重傾科に影響を与える初期圧締時間により決定され,初期圧締を十分行っていれば一時解圧によるボード材質の低下は少ないことを検証し,2段階圧締法を利用した連続的なボード製造の可能性を示唆している。

 第5章では,低比重ボードの曲げヤング係数の実測値と積層材の理論から求めた計算値が良く一致することを明らかにし,曲げ性能に対する層構成の最適設計が可能であることを示した。また,構造用途に使用するボードが要求される強度値を達成するときの圧縮比を求めている。さらに,ボードの耐久性の検討を行い,劣化促進処理により生じるボードの厚さ膨潤に起因する比重低下と関連づけて,小片結合力ならびに曲げ性能の変化について考察している。その結果,小片のセット回復が厚さ膨潤の支配因子であり,小片間の結合点の破壊は少ないことを明らかにし,曲げ破壊係数は低下したが,曲げ破壊荷重の変化は認められず,実用的な観点からは曲げ破壊荷重の比較による評価が適切であると提唱している。

 第6章では,建築構造用面材として低比重ボードの利用が可能であるかを検討するために,その曲げ性能,せん断剛性および釘接合せん断耐力について,市販ボード類との比較を行っている。その結果,比重0.60のボードは曲げ性能では構造用合板には及ばないが,その他のボード類と同等の性能を示し,またせん断剛性および釘一面せん断耐力については合板を含む市販ボードと同等かそれ以上の性能を持つことを明らかにし,低比重ボードは建築構造用材料としてこれらと代替できる可能性が示された。

 以上要するに,本論文は低比重パーティクルボードの形成機構を解明するとともに建築構造用材料としての可能性を追及したものであり,学術上,応用上貢献するところが少なくない。よって,審査員一同は,本論文が博士(農学)の学位論文に値するものと認めた。

UTokyo Repositoryリンク http://hdl.handle.net/2261/50909