コンクリート構造の有限要素解析では、コンクリートのひびわれ、塑性、損傷に関わる構成関係(応力-ひずみ関係)のモデル化がその解析精度を支配する。そのため、コンクリートの複雑な材料非線形性を記述する様々な構成則が開発されてきた。 マイクロプレーンモデルは、微視的な物埋モデルを強く意識した構成則のひとつであり、非均質材料であるコンクリートの非弾性の源がモルタルマトリックスと粗骨材との界面領域(マイクロプレーン)から発生するマイクロクラックや界面ひびわれであるという仮説に基づくところに特徴がある。しかし、既往のモデルではマイクロプレーンが本来有する特質を崩すことで適用性を広げようとする傾向にあり、モデルの特徴的な基本概念が崩されてきている。 本研究は、マイクロプレーンモデルをコンクリートの実用的な構成則として使用するために、基本概念に基づいたマイクロプレーンモデルの場合にどの程度までの予測精度が得られるかを見極め、より合理的な一般化マイクロプレーンコンクリートモデルへの再構築を行なったものである。そしてその妥当性を既往の実験との比較により検証するとともに、本モデルから得られる構成関係とその微視的レベル(マイクロプレーンレベル)での応答を関係づけた考察によって同モデルをより深く洞察し、コンクリートの耐荷機構を検討した。 本論文は4章より構成されている。 第1章の序論では、本研究の背景と既往の研究に関して概説した後、研究目的について述べた。 第2章では、マイクロプレーンコンクリートモデルを再構築した。本モデルは、既往のモデルのようにマイクロプレーンの基本的耐荷機構である垂直成分を体積成分と偏差成分とに分解せず、垂直成分とせん断成分のみによって耐荷機構をモデル化し構成関係を誘導したものであり、微視的イメージの明快な物理的構成則であるといえる。すなわち本研究の前半では、マイクロプレーンの特徴的な基本概念に回帰したマイクロプレーンコンクリートモデルの再構築を試み、その適用性を検討した。本モデルを用いてコンクリート工学上、重要ではあるが限定された応力状態に関連する既往のコンクリート構成関係実験をシミュレートした結果、本モデルは良好な予測精度を持つことが確かめられた。ただし高拘束圧下における拘束効果が弱すぎる、ぜい性-塑性遷移挙動を表現できないなどの適用限界も明らかになってきた。つまり本マイクロプレーンコンクリートモデルは、工学的に重要な適用範囲である低拘束圧状態においては十分な予測精度を有するが、極端に高い拘束圧状態などではその適用性に問題のあることが確認されたのである。 局所型のひずみ軟化構成則を使用してコンクリート構造の軟化挙動を有限要素解析する場合には、ひずみ軟化状態に特有な破壊局所化現象に対して数値解析上の非局所的取扱いが必要である。そこでマイクロプレーンコンクリートモデルを非局所空間平均化理論と結合し、非局所マイクロプレーンコンクリートモデルを開発した。この非局所マイクロプレーンコンクリートモデルを用いて1軸圧縮軟化挙動に関する寸法効果実験をシミュレートし、本モデルがコンクリート構成関係の非局所特性をどの程度、表現できるか検討した。その結果、非局所解析は局所解析と同様に圧縮軟化剛性の寸法効果を再現できなかったが、数値計算上の収束安定性が良好であった。 第3章では、マイクロプレーンコンクリートモデルの適用限界をさらに広げより汎用的な構成則を構築するため改良を行ない、一般化マイクロプレーンコンクリートモデルを構築した。主な改良点は、マイクロプレーンでの側方応力が垂直圧縮応答へ与える効果を考慮したこと、及びマイクロプレーンのせん断応答が直応力の増加とともに軟化型から完全塑性型へ遷移するというモデルを取り入れたことであり、これらの改良によってマイクロプレーン間の複雑な相互作用がモデル化された。この一般化マイクロプレーンコンクリートモデルを用いて既往の構成関係実験を解析した結果、本モデルが1軸圧縮状態、2軸圧縮-圧縮状態、2軸圧縮-引張状態、低拘束圧から高拘束圧に至る圧縮子午線上及び引張子午線上の3軸圧縮状態、1軸引張状態、2軸引張-引張状態などにおいて優れた予測精度を持つことが明らかになった。また、解析から逆に得られる各応力状態でのマイクロプレーンの応答を詳細に検討することによって、コンクリートの巨視的な耐荷機構に対してマイクロプレーンレベルでの耐荷機構からの説明を試みた。さらに本モデルによる解析結果から応力不変量、ひずみ不変量を抽出し、それらの関係を対応する実験結果と比較して、一般化マイクロプレーンコンクリートモデルが応力不変量やひずみ不変量の関係を解析的にも表現していることを示した。また、除荷再載荷の経路で微小載荷バルスを与えた場合に得られる非線形弾性可逆剛性が解析的に再現できることを確認し、さらに鋼管コンクリートの解析を通して本モデルが表現する受動的拘束効果を検証した。 第4章は結論であり、本論文を総括した。 以上を要約すると、単調載荷とくりかえし載荷、圧縮応力状態と引張応力状態、1軸応力状態と多軸応力状態、硬化領域と軟化領域などを区別することなく統一的にかなり広範な応力状態に対して適用可能である物理的構成則としての一般化マイクロプレーンコンクリートモデルを構築し、それを通してコンクリートの耐荷機構に対する微視的なレベルでの耐荷機構の考察を行なうことができた。 |