学位論文要旨



No 212006
著者(漢字) 長谷川,俊昭
著者(英字)
著者(カナ) ハセガワ,トシアキ
標題(和) マイクロプレーンコンクリートモデルの開発
標題(洋)
報告番号 212006
報告番号 乙12006
学位授与日 1994.12.08
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第12006号
研究科 工学系研究科
専攻 土木工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 助教授 前川,宏一
 東京大学 教授 岡村,甫
 東京大学 教授, 龍岡,文夫
 東京大学 教授 東畑,郁生
 東京大学 助教授 堀井,秀之
内容要旨

 コンクリート構造の有限要素解析では、コンクリートのひびわれ、塑性、損傷に関わる構成関係(応力-ひずみ関係)のモデル化がその解析精度を支配する。そのため、コンクリートの複雑な材料非線形性を記述する様々な構成則が開発されてきた。

 マイクロプレーンモデルは、微視的な物埋モデルを強く意識した構成則のひとつであり、非均質材料であるコンクリートの非弾性の源がモルタルマトリックスと粗骨材との界面領域(マイクロプレーン)から発生するマイクロクラックや界面ひびわれであるという仮説に基づくところに特徴がある。しかし、既往のモデルではマイクロプレーンが本来有する特質を崩すことで適用性を広げようとする傾向にあり、モデルの特徴的な基本概念が崩されてきている。

 本研究は、マイクロプレーンモデルをコンクリートの実用的な構成則として使用するために、基本概念に基づいたマイクロプレーンモデルの場合にどの程度までの予測精度が得られるかを見極め、より合理的な一般化マイクロプレーンコンクリートモデルへの再構築を行なったものである。そしてその妥当性を既往の実験との比較により検証するとともに、本モデルから得られる構成関係とその微視的レベル(マイクロプレーンレベル)での応答を関係づけた考察によって同モデルをより深く洞察し、コンクリートの耐荷機構を検討した。

 本論文は4章より構成されている。

 第1章の序論では、本研究の背景と既往の研究に関して概説した後、研究目的について述べた。

 第2章では、マイクロプレーンコンクリートモデルを再構築した。本モデルは、既往のモデルのようにマイクロプレーンの基本的耐荷機構である垂直成分を体積成分と偏差成分とに分解せず、垂直成分とせん断成分のみによって耐荷機構をモデル化し構成関係を誘導したものであり、微視的イメージの明快な物理的構成則であるといえる。すなわち本研究の前半では、マイクロプレーンの特徴的な基本概念に回帰したマイクロプレーンコンクリートモデルの再構築を試み、その適用性を検討した。本モデルを用いてコンクリート工学上、重要ではあるが限定された応力状態に関連する既往のコンクリート構成関係実験をシミュレートした結果、本モデルは良好な予測精度を持つことが確かめられた。ただし高拘束圧下における拘束効果が弱すぎる、ぜい性-塑性遷移挙動を表現できないなどの適用限界も明らかになってきた。つまり本マイクロプレーンコンクリートモデルは、工学的に重要な適用範囲である低拘束圧状態においては十分な予測精度を有するが、極端に高い拘束圧状態などではその適用性に問題のあることが確認されたのである。

 局所型のひずみ軟化構成則を使用してコンクリート構造の軟化挙動を有限要素解析する場合には、ひずみ軟化状態に特有な破壊局所化現象に対して数値解析上の非局所的取扱いが必要である。そこでマイクロプレーンコンクリートモデルを非局所空間平均化理論と結合し、非局所マイクロプレーンコンクリートモデルを開発した。この非局所マイクロプレーンコンクリートモデルを用いて1軸圧縮軟化挙動に関する寸法効果実験をシミュレートし、本モデルがコンクリート構成関係の非局所特性をどの程度、表現できるか検討した。その結果、非局所解析は局所解析と同様に圧縮軟化剛性の寸法効果を再現できなかったが、数値計算上の収束安定性が良好であった。

 第3章では、マイクロプレーンコンクリートモデルの適用限界をさらに広げより汎用的な構成則を構築するため改良を行ない、一般化マイクロプレーンコンクリートモデルを構築した。主な改良点は、マイクロプレーンでの側方応力が垂直圧縮応答へ与える効果を考慮したこと、及びマイクロプレーンのせん断応答が直応力の増加とともに軟化型から完全塑性型へ遷移するというモデルを取り入れたことであり、これらの改良によってマイクロプレーン間の複雑な相互作用がモデル化された。この一般化マイクロプレーンコンクリートモデルを用いて既往の構成関係実験を解析した結果、本モデルが1軸圧縮状態、2軸圧縮-圧縮状態、2軸圧縮-引張状態、低拘束圧から高拘束圧に至る圧縮子午線上及び引張子午線上の3軸圧縮状態、1軸引張状態、2軸引張-引張状態などにおいて優れた予測精度を持つことが明らかになった。また、解析から逆に得られる各応力状態でのマイクロプレーンの応答を詳細に検討することによって、コンクリートの巨視的な耐荷機構に対してマイクロプレーンレベルでの耐荷機構からの説明を試みた。さらに本モデルによる解析結果から応力不変量、ひずみ不変量を抽出し、それらの関係を対応する実験結果と比較して、一般化マイクロプレーンコンクリートモデルが応力不変量やひずみ不変量の関係を解析的にも表現していることを示した。また、除荷再載荷の経路で微小載荷バルスを与えた場合に得られる非線形弾性可逆剛性が解析的に再現できることを確認し、さらに鋼管コンクリートの解析を通して本モデルが表現する受動的拘束効果を検証した。

 第4章は結論であり、本論文を総括した。

 以上を要約すると、単調載荷とくりかえし載荷、圧縮応力状態と引張応力状態、1軸応力状態と多軸応力状態、硬化領域と軟化領域などを区別することなく統一的にかなり広範な応力状態に対して適用可能である物理的構成則としての一般化マイクロプレーンコンクリートモデルを構築し、それを通してコンクリートの耐荷機構に対する微視的なレベルでの耐荷機構の考察を行なうことができた。

審査要旨

 コンクリートおよび鉄筋コンクリート構造解析の信頼性は、使用材料たる鋼材とコンクリートの構成方程式(応力-ひずみ関係)の精度、ならびに両者間に生ずる付着のモデル化の良否によって支配される。特に、3次元拘束を受けるコンクリート部材の靭性や、高せん断力下における鉄筋コンクリートはり・フーチング等の耐力には、コンクリート構成方程式の精度が解析結果に大きな影響を及ぼすことが知られている。

 本研究は、マイクロプレーンの概念に基づくコンクリート構成則を構築し、その精度と適用範囲を検証したものである。ここでマイクロプレーンとは、粗骨材とモルタルとの境界領域から生ずる微細ひびわれや界面すべり面を物理的にイメージした仮想面である。そして、様々な方向に多数、分散したマイクロプレーンの集合を以て、複合材料であるコンクリートを数学的に表現した構成則が、本研究の主題である。論文は以下の4章より構成されている。

 第1章は序論であり、研究の背景と目的について述べている。既往のコンクリート構成則の系統的な整理を行った上で、マイクロプレーンの概念の誕生と、コンクリートへの適用に関する研究の歴史を、過去10数年にわたって概括している。その中で、本研究がマイクロプレーンの概念に立脚した研究の総括として位置づけられていることを、ここで明示している。

 第2章は、マイクロプレーンモデルの基本概念を再整理するとともに、それに忠実かつ簡明な仮説に立脚した、マイクロプレーンコンクリートモデルの基本形ともいうべき3次元構成式を導出したものである。これをもとに、3軸応力下のコンクリートの変形と破壊挙動を実験結果と照査し、適用範囲の限界を見極めている。一般的な使用に供されるコンクリート構造物に発生する応力状態と経路に対しては、本モデルの適用性は満足いくものであることが示されている。しかし、極端に高い3軸圧縮拘束下での挙動に対する予測精度は十分とは言えず、特に圧縮靭性が塑性遷移域に移行する材料挙動をマイクロプレーンモデルの概念で表現するのには、難点があることを明示している。その他、系統的なモデル化の精度と適用性の検証を通じて、各マイクロプレーン上でのモデル化に、せん断変形の靭性遷移を考慮する必要がある点、ならびに、各マイクロプレーンは相互に依存していることをモデル化に導入することが不可欠であることを示した。これは、複合材料たるコンクリートの微視的破壊・塑性挙動を間接的に表現し、ているものと評価される。

 第3章は、マイクロプレーンモデルのコンクリートへの適用限界をさらに広げ、汎用性を追求するとともに、一般化を図ったものである。第2章では、個々のマイクロプレーンは相互に独立した微視的な非線形要素であったのに対して、本章では、ランダムに分布した多数のマイクロプレーンが相互に依存して挙動する機構を新たに導入している。これにより、骨材とモルタルマトリックス間の微小せん断すべりに現れる靭性を表現することを可能にし、かつ高拘束応力下でのコンクリートの圧縮靭性の遷移を表現することに成功したのである。また、除荷・再載荷時に現れる複雑な非線形性とエネルギー吸収能についても、モデル化の精度を詳細に検討している。巨視的なレベルで現れるコンクリートの非線形性と、各々のマイクロプレーン上で現れる微視的な挙動とを対比することで、複合材料たるコンクリートの変形挙動に多面的な考察を加えている点が評価される。

 また、工学的な応用の対象の一つとして、コンクリート充填鋼管柱の圧縮挙動に関する解析を行っている。主たる圧縮材料であるコンクリートが、外郭を形成する鋼材から受動的な拘束圧縮力を受けることにより、靭性が向上する様態が正確に予測されることを示している。

 第4章は結論であり、本研究で得られた成果を概括している。

 本論文は、マイクロプレーンの概念に立脚したコンクリート構成則を提案し、その適用範囲と精度を系統的に吟味することで、信頼性のおける解析手法の基礎を提供したものである。交番繰り返し荷重や複雑な3次元応力解析が今後、一層の工学的意義を高める現況にも鑑み、本研究の果たす役割は大きい。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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