No | 212009 | |
著者(漢字) | 西村,功 | |
著者(英字) | Nishimura,Isao | |
著者(カナ) | ニシムラ,イサオ | |
標題(和) | アクティブ動吸振器による建築構造物の振動制御 | |
標題(洋) | Vibration Control of Building Structures by Active Tuned Mass Damper | |
報告番号 | 212009 | |
報告番号 | 乙12009 | |
学位授与日 | 1994.12.08 | |
学位種別 | 論文博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 第12009号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 建築学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 動吸振器はFrahmの発明(1909年)により始まると言われ、古くより振動制御装置として知られている(Fig.1)。動吸振器とは主振動系とほぼ同じ振動数を持つ別の小型振動系で、これを主振動系に付属することにより主振動系の振動エネルギーを吸収して振動低減を図るものである。建築構造物の振動制御にこの装置を始めて応用したのは、McNamaraらであり(1977年、John Hancock Tower)高層建築の風揺れ低減を目的として油圧式の動吸振器が設置された。その後(1979年)Lundはパッシブ型動吸振器の振幅を単純に増大させて制御効果を改善しようと試みたが、主振動系との連成を考慮した具体的な制御則を提案するには至らなかった。Chang,SoongらはLundの考えを発展させようとしたが、結果的には現代制御理論の単純な適用にとどまった。ところで、現代制御理論を応用して動吸振器をアクティブに制御し、その効果を高めようという試みはLundよりも早くMorison,Karnoppらにより1972年には始められている(Fig.2)。 本論文はこのようなアクティブに制御された動吸振器の制御アルゴリズムに関する研究で効果的な制御則を新たに考案し、最適ゲイン、最適減衰、最適同調振動数、ならびに制御効果について考察したものである。まず、パッシブ型動吸振器の改良という立場から制御則を新たに考案し、合わせて制御効果を物理的に考察する。アクティブ動吸振器(Fig.2)の運動方程式は下式で与えられる。ここでf(t)は構造物に作用する外乱(例えば風圧力)である。
動吸振器は主振動系の振動数とほぼ同じ振動数に予め同調されているため、主振動系が外乱を受けて振動しはじめると、ほぼ90度の位相遅れをともなって振動し始める。このため、動吸振器の慣性力は主振動系に対して減衰力として作用することとなる。これがパッシブ型の動吸振器の基本的な原理である。ところで式(1)は付加質量体の運動方程式であり、-mdxを外乱と見なせば、これは主振動系から付加質量系への入力と考えられる。一方、式(2)は主振動系の運動方程式であり、-mdyという出力が付加質量系から主振動系にフィードバックされているのがわかる。もしもこの因果関係が保持され、原因を増大させれば結果、即ち制御効果の増大が見込めるとするならば、式(3)の制御則が有効であると考えられる。即ち加速度をフィードバックする。 以上が制御則の基本概念であるが、次の課題として最適同調、最適減衰率、などをどのように定めるかが問題となる。フィードバックの制御量として加速度を採用したので現代制御理論の単純な適用が不可能である。そこで、パッシブ型動吸振器の最適解を求めるのと同じ手法によりこれを求めた。Table1に結果のみ示す。一例として付加質量比0.01、フィードバックゲイン0.192の場合について計算すると、最適減衰率はパッシブの場合の61%に比較してアクティブの場合は27.4%と大幅に上昇する。また最適振動数比はパッシブの0.99に対しアクティブの0.89と付加質量体の振動数は若干低めとなることがわかる。Fig.3およびFig.4に主振動系と付加質量系の共振曲線を示す。加速度フィードバックにより主振動系の共振曲線は著しく改善されるが、動吸振器自身の共振曲線はパッシブの場合と比べて最大値に大きな差異は認められない。この理由は制御力が付加質量体を励振しているのに対し増大した減衰率は逆に不必要な自由振動を速やかに除くため、付加質量体の動きを抑制するからである。従って、動吸振器の動きを抑制しながら制御効果を高めることが可能となった。 さらに、制御則の物理的な効果を再考すれば、加速度フィードバックは動吸振器の動きを拡大して制御効果を高める意味をもち、減衰力は不要な自由振動の抑制を意味する。従って、動吸振器の動きはその両者のせめぎ合いが時々刻々実現されたものである。もしも、アクテュエータが両者の力を同時に発生すれば、制御効果は何ら変わることなく制御力を削減できる。大型構造物の振動制御に際しては、制御力をいかに小さくするかが大変重要な問題となる。制御則は(4)式に変更となり、第2項がアクティブの減衰力を表す。このとき最適なフィードバックゲインgvをどのように求めるかが次の問題となる。
既に、最適パラメータCoptは求められており、この値は変化しない。従ってフィードバックゲインgvは次の関係式を満足しなければならない。
さて、地震動のような、非定常の不規則外乱に対しては、エネルギーの釣り合いを考えることが大切である。式(1)、(2)より次式を得る。
左辺第1項は減衰部材の消費エネルギー、第2項は制御エネルギー、右辺は外乱の入力エネルギーである。もしも制御エネルギーをゼロとするCdが存在すれば明かに最適条件であり,その必要条件は次式で与えられる。
逆に、上式は十分条件でもある。制御エネルギーがゼロであることの物理的な意味は、制御力があたかも動吸振器のアクセルとブレーキの両方の役目を同時に果していることを意味する。ところが、この条件を満足する減衰係数を特定するためには、外乱の情報を始めから終わりまで全てに渡って予め知る必要がある。風が吹く前に風外力を全て知ることは不可能である。従って決定論的なアプローチには限界が生じる。 外乱を定常不規則過程、特に白色雑音と仮定すれば確率論的に扱えるのでパッシブ部材の最適期待値を求めることができる。(7)式に対応するのは(8)式となる。
複素平面上の留数積分を行なうことにより、(8)式を評価すると最適なパッシブ減衰定数Cdとフィードバックゲインgvが求まる。結果のみTable2に記す。さて、Cdが最適化できたので、つぎにKdを最適化する。制御則を式(9)に変更し、最適なアクティブのばね定数とパッシブのばね定数を求める。白色雑音を外乱と仮定し、制御力の二乗平均値を計算すると式(10)を得る。
式(10)は、Cd,Kdの両者について2次関数と見なせるので、その最小値は次式で与えられる。
最終的なパッシブ部材の最適期待値とフィードバックゲインの最適期待値をTable2にまとめて示す。興味深いことに、減衰定数の最適期待値は異なる定義で同じ結果を得た。つまり、Table2に示す減衰定数とフィードバックゲインの組み合わせは、制御力を最小化するだけでなく、制御エネルギーをも極小化するパラメータの組み合わせであることが解析的に証明された。 最後に理論的な展開を振動台実験により実証的に検証した。実験では用いた主振動系は1.8mx3.0mx0.3mのコンクリートプロックを4個緊結し積層ゴム4個で支持したものである。主振動系の総重量は16274kgで固有振動数は自由振動実験により1.28Hzであることを確認した。振動台上にセットした試験体をFig.5に示す。一方、アクティブ動吸振器の質量比は0.0271、ゲインは0.20に設定した。従って最適減衰率は29%、最適振動数比は0.87となる。動吸振器は鋼製のフレームにより構成され、駆動部分は支持フレームのリニアーガイドに支えられて水平一方向に移動可能となっている。振動数の同調用ばねは鋼製スプリングにより、減衰は磁気ダンパにより与えられる。また駆動部にはACサーボモータによるトルク制御方式を用いた。従って、入力電圧に付して、制御力が比例して出力することとなる。トルク力はラックとビニオンを介し主振動系に固定されたフレームに伝えられる。アクティブ動吸器の詳細をFig.6に示す。 試験体は振動台テーブルの上に設置し、地震波加振を行ない制御効果を確認した。入力は十勝沖地震(八戸港湾NS1968年)の記録波を最大加速度20galとなるように修正して用いた。まず、最初は動吸振器を主振動系に固定し無制御状態の加振実験を行なった。次に所定のフィードバックゲインを与え、制御状態にて比較実験を行なった。さらに減衰率のみ10%に変更してパッシブ動吸振器による比較実験も行なった。加振実験による主振動系の時刻歴応答波形をFig.7,8,9に示す。(それぞれ、無制御、パッシブ、アクティブ)。また付加質量体の応答加速度をFig.10,11に示す。図中、実線が実験値で点線が解析値である。アクティブ動吸振器の付加質量体応答はパッシブ動吸振器のそれと比較して全体的に振幅が大きく、かつ最大値を記録する時刻が早まっていることがわかる。また自由振動成分が少ない分だけ効率が高い。 以上、加速度フィードバックによるアクティブ動吸振器の最適な制御アルゴリズムを理論的に確立し、その有効性と再現性を実験的に検証した。提案した制御則は既に述べたとおり、物理的な意味が明確で、数々の特徴を備えているほか制御効果、制御効率とも高く、かつアルゴリズムが簡便であるためフィードバック量の生成が容易であり、応用面での価値が高い。 | |
審査要旨 | 本論文は「アクティブ動吸振器による建築構造物の振動制御」と題し、序章、結章を含めた6章より成る。 序章においては、建築構造物(主振動系)の頂部に主振動系とほぼ同じ振動数を持つ小型振動系(動吸振器)を搭載して、主振動系の振動エネルギーを吸収することにより振動低減をはかる振動制御方式(パッシブ制御)にアクチュエー夕を導入して、小型振動系のエネルギー吸収効率を高めるアクティブ制御の最適化が本論文の主題であることが述べられている。 第1章「既往の研究の調査」においては、パッシブ制御、変位制御に関する既往の研究成果を総括すると共に、その限界を指摘している。即ち、現代制御理論においては、動吸振器の同調周期が重要な意味を持つにも拘わらずそれを特定することが困難であること、主振動系の変位状態がフィードバック量として不可欠であるが、現実的に主振動系の変位状態を低振動数成分を含めて、正確に検知することが困難であること、最終的に導かれたフィードバックゲインの物理的意味が不明確であることから、制御目的の達成を確認する手段に欠ける等の弱点が指摘されている。 第2章「最適制御アルゴリズムの定式化」は本論文の核心をなす部分である。本章では、変位制御に代えて、従来、現代制御理論の適用が困難と考えられてきた絶対加速度制御方式を提示し、パッシブ型動吸振器のエネルギー吸収効率を拡大する上でのアクティブ制御の有効性を論ずると共にその基本的定式化を行なっている。即ち、アクティブ動吸振器の制御方法としてパッシブ動吸振器の原理を応用し、主振動系の絶対加速度をフィードバックすることにより、動吸振器系の振幅を拡大して制御効果を高めている。その結果、アクティブ動吸振器にもパッシブ動吸振器と同等の意味で最適同調と最適減衰率の存在することが示され、これらを解析的に求め定式化している。また、アクティブ制御を行なう際に必要となる制御力および制御パワーの両者が、制御効果を損なうことなく、消滅できる方法を提案している。これは、動吸振器系のアクティブな剛性フィードバック量と減衰フィードバック量の最適値として表現されており、特に減衰フィードバック量の最適値は制御エネルギーを零にする条件、制御力を極小にする条件の2つを独立に用い、フィードバックゲインの最適値として同一の値が導かれることを結論づけている。この事実により、フィードバックゲインの最適値の持つ物理的意味が明確に表現された。 尚、動的外乱を決定論的に扱う際の困難を回避する為、最適ゲインの導出には白色雑音を用いている。 第3章「地震外乱の下における加速度フィードバック制御の数値解析」においては2章で得られた制御パラメータ、フィードバックゲインを用いて、地震動下における数値シミュレーションを行ない、最適制御が制御力の極小化条件、制御エネルギーの消滅条件と対応していることを具体的に検証している。 第4章「加速度フィードバック制御の実験的検証」では、理論的な展開で導かれた加速度フィードバック方式を振動台実験により検証している。主振動系としては、4個のコンクリートプロックを積層ゴムで支持した総重量16tの1質点振動系を用い、これに質量比0.027の動吸振器を搭載し、ACサーボモーターによるトルク制御方式による加速度フィードバック制御を行なっている。振動台入力としては十勝冲地震八戸記録を用いている。実験結果は、制御による応答半減の効果を示しており、実験結果と数値シミュレーション結果は極めて良く一致している。 「結章」においては、本論文の成果が要約されている。 以上、本論文は、加速度フィードバックによるアクティブ動吸振器の最適制御アルゴリズムを理論的に確立し、その有効性と再現性を実験的に検証したもので、提案された制御則は物理的意味が明確で、制御効果、制御効率ともに高く、アルゴリズムが簡便である為にフィードバック量の生成が容易である点で応用面での価値が高く、今後益々重要となる建築構造物の動的外乱下の振動制御技術の発展に資するところ大であり、よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
UTokyo Repositoryリンク | http://hdl.handle.net/2261/50655 |