水平坑井は垂直坑井に比べ、石油・天然ガスの貯留層に沿って長い排出区間を設けることにより、短期的に生産量を増加させると共に、最終的な可採量の増加も図ることから、1980年代後半から脚光を浴びるようになり、1992年には世界全体で、水平区間距離が300m以上の水平坑井が約1,000坑掘削され、その後も数は増加している。 水平坑井による生産における未解決の課題の一つは、水平坑井内の流体挙動を的確に解析・予測する方法が確立されていないことである。これは、水平坑井の長い排出/仕上げ区間では、油層からの流体流入に伴い、流れ方向に沿って流量が増加し、油・水・ガスを含む多相流による圧力損失は、油層から流入する流体量の分布と坑井内の流体挙動が相互に関係し合うため、パイプラインや垂直坑井のように通常流れ方向に流量が変わらない場合と比べ、格段に解析が難しくなるためである。坑井の寿命予測、生産設備の仕様設定、坑井仕上げ等について適切な設計をする上で的確な解析技術が切望されているが、広範囲な文献調査からは、この相互関係を踏まえ、水平坑井内の流体挙動を厳密に解析した研究は見当たらない。 この課題解決のため、本論文は水平坑井内の流体挙動及びその油層との相互関係に焦点を絞り、実験・理論の両面から厳密に解析したものである。論文は、文献調査及び課題解決のアプローチを記述した序論、実験装置及び方法を記述した章、モデルの内容及び数値解法を記述した章、考察、及び結論の計5章から構成されている。以下に、本論文に記載された重要な結論を審査する。 1.実験研究では、油層からの流入を伴う水平坑井内の流体挙動を模擬するための的確な大規模実験装置(石油公団の二相流実験装置)を製作した。実験では水平管中に水・空気の二相流を流し、途中に設置された多数の圧入点から、水・空気を注入することにより油層からの流入および水平坑井内の二相流体挙動を模擬している。流入量を変化させて、水平坑井内の圧力損失、液相体積率等について精度の高い計測を行い、理論計算と比較するために有効な実験データを取得している。 2.理論研究では、最新の一次元の二流体モデルの手法を用い、水平坑井内の流体挙動を予測する物理(力学的)モデル(Mechanistic Model)を基本とし、摩擦圧力損失のみならず、加速圧力損失も考慮した、より厳密な定式化を提案した。加速圧力損失については、実験データの解析により、油層からの流体が水平坑井内の流れに高速で合流することに起因する均質流モデルで表現している。 3.新たな定式化により、水平坑井内の流体挙動を予測するプログラムAWHOZACCを開発した。実験結果を、開発したAWHOZACCによる圧力損失や液相体積率の計算結果と比較したところ、両者は極めてよく一致している。特に、「油層からの流入による運動量変化が、水平坑井内の流れ方向の運動量変化に直ちに変換されている」とする均質流モデルが実験結果を良く説明し、その後の加速圧力損失を支配する因子を用いた無次元解析を通じて、AWHOZACCの基礎構成式の妥当性を確かめている。 4.水平坑井向けに開発された油層内の流体挙動曲線IPR(Inflow Performance Relationship)、流体の物性を計算するブラックオイルモデル、及びAWHOZACCの計3つのモデルを適切に組合せて、流量・圧力・温度を、坑口・坑底・セパレータ等を節点として計算する手法(Nodal Concept)を用い、簡易的な生産最適化プログラムPOPHOZNを新たに開発した。POPHOZNを使い、水平坑井の計画時に有用な情報として、水平部分長さやガス油比等の因子が水平坑井の生産挙動へ及ぼす影響を調べたところ、定常状態における現実の水平坑井の生産挙動をよく説明できている。 付録として、油層内の流体挙動曲線IPRの誘導及び加速圧力損失の支配因子の説明が記載されている。 以上、本論文は、水平坑井内の流体挙動を、油層との相互関係を踏まえて、厳密に解析する定式化を提案し、精度の高い実験データを用いてその妥当性を示した。また、この水平坑井内の流体挙動予測モデルを、油層内の流体挙動曲線や流体の物性計算と適切に組合せた生産最適化プログラムは、水平坑井の計画時に有用な情報を提供できることを示した。定式化を含む理論展開に当たっては、管流れの合流理論を考慮した筆者独自の考えが組み込まれており、今後の水平坑井による油ガス田開発技術の発展に資するところが少なくない。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |