本研究は、自然歴が明らかでなく、治療法が未だ確立されていない解離性脳動脈瘤に関して、過去最大数の43症例のクモ膜下出血発症例において、特に再出血の頻度、時期、転帰を分析したものである。これに基づいて、最適な治療法とその時期についての検討を試み、下記の結果を得ている。 1.43例中、30例に対してのべ32回の手術がなされていた。手術の内訳は、親血管の近位部閉塞19(近位部クリッピンク"18例、血管内バルーン1例),解離部のトラッピング9,ラッピンク"2,ブレブクリッピング 2であった。トラッピング,近位部クリッピングの合計28例のうち13例に術後、難聴、運動失調、嗄声、嚥下困難などの障害を生じたが、5例が一過性で8例(28.6%)が継続した。しかしこれらの多くは日常生活に大きな支障を来さず、このうち6例が社会復帰、もしくは家庭内復帰をはたした。30例の手術症例の内死亡は4例で、そのうち手術による死亡は2例(2/32,6.3%)で、内訳は、術中破裂、術前状態不良によるものであった。 2.43例中、30例に再出血がみられた(手術20例、非手術10例)。初回出血後に較べて、再出血後の症状の悪化は明らかで、半昏睡もしくは昏睡に陥ったものが、初回出血後の25.6%(11/43)から76.7%(23/30)へと有意に増加した。 3.再出血を来した30例中14例が死亡し、その内術中破裂の1例を含めて、再出血が直接の原因となったものが12例で、他2例は脳血管攣縮、術後9ヶ月の脳底動脈の血栓症であった。一方再出血を来さなかった13例(手術10例、非手術3例)については、このうち1例が重篤な初回出血により死亡したのみで、残りの12例が生存した。この結果、再出血群の死亡率は再出血を来さなかった群に対して有意に死亡率が高かった。 4.再出血をおこすまでの時間は、初回出血から24時間以内が56.7%(17/30),1週間以内が80.0%(24/30)であり、最初の1週間に大半が集中していた。また24時間以内に再出血を来した症例のうち、70.6%(12/17)が6時間以内のものであった。1ヶ月を越えて再出血を生じた例も10.0%(3/30)にみられた。 5.再出血の80%が1週間以内におこったのにもかかわらず、この期間に手術を受けていたものが.全手術例のうち53.5%(16/30)で、残りが1週間以降に手術を受けていた。また発症1週間以内で手術を受けていた例に関しても、術前の再出血率が24時間以内の手術で66.7%(6/9),2日から1週間以内の手術でも68.7%(11/16)と高率で、手術時期が遅れていることを反映していた。 6.椎骨動脈解離性動脈瘤に対する急性期の手術的は、慢性期の手術に比べて手術罹患率や死亡率が有意に高いとはいえなかった。これに対して再出血による死亡率は高く、これを予防する目的で、術前の状態が良好で、片側椎骨動脈に解離の起始部が存在するものは早期に、近位部クリッピングもしくは、トラッピングを施行すべきであると考えられた。 以上、本論文はクモ膜下出血発症の解離性脳動脈瘤について、その再出血の頻度、時期、転帰の分析に基づき、最適な治療法とその時期についてを明らかにした。本研究はこれまで未知に等しかった、解離性脳動脈瘤の病態及び治療に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 |