本研究は、周産期医療において重要な部分を占める成熟児の新生児仮死について、その頻度と予後を明かにし、さらに臍帯血血液ガス所見とアプガースコアを中心にその臨床像を明らかにするため、13年間の総出生数14040例について解析を試みたもので、以下の結果を得ている。 1.14,040例の新生児のうち、1分後アプガースコア6点以下の新生児仮死例は424例(3.0%)、3点以下の重症仮死例は86例(0.61%)であった。424例のうち12カ月以上追跡された症例は302例(70.9%)で、このうち死亡または神経学的予後が不良であったものは、10例(0.071%)であった。 2.重症新生児仮死86例の出生体重は3208.8±391.1g(mean±.S.D.)、在胎週数は40.1±1.1週であった。 重症仮死例での主な合併症は、一過性多呼吸18例、胎便吸引症候群(以下MAS)6例、低酸素性虚血性脳症(以下HIE)6例で、これらは軽症仮死例、正常対照例に比べ、高率に発症しており、有意差を認めた。 臍帯動脈血pHは、重症仮死例では7.11±0.14(mean±.S.D.)、軽症仮死例では7.17±0.11、正常対照例では7.27±0.07とそれぞれ有意差を認めた。さらに胎児仮死の有無による比較では、重症仮死例の場合、胎児仮死のある群では臍帯動脈血pHは7.08±0.14、胎児仮死のない群では7.19±0.11、と前者で有意に低値だった。 重症仮死例のうち、胎児仮死がない26例にはHIEは認められなかったが、頭蓋内出血(以下ICH)による死亡例1例を認めた。 重症仮死例で、臍帯動脈血pHが7.10以下でも蘇生処置の結果5分後アプガースコアが7以上に改善している例は予後良好であった。 3.臍帯血と生後1時間以内の動脈血について、生後のpHの変化を検討したところ、臍帯動脈血pHが7.10以下であった21例のうち、動脈血pHが生後1時間以内に7.15以上に上昇していた10例は予後良好であったが、7.15未満であった11例では新生児期の状態、長期予後ともに不良であった。正常経過例、一過性多呼吸、MAS、HIE、ICH等について、臍帯動脈血と生後1時間以内の血液ガス所見の変化を比較すると、それぞれの疾患に特徴的な変化がみられ、合併症の病態を予測する上からも臍帯血所見を知ることは、極めて有用であった。特に、臍帯動脈血pHが7.20以上でも生後に悪化した症例に2例のMASがあり、羊水混濁のある症例には特別な注意が必要と考えられた。 4.死亡例および神経学的予後不良例は10例であり、うち早期新生児死亡は4例であった。10例の内訳はHIE6例、ICH4例で、10例中9例に胎児仮死を認めた。 以上、本論文は、過去13年間の医療水準における成熟児新生児仮死の頻度と予後を明かにした。また、これまで未知に等しかった、仮死合併症における臍帯動脈血pHを基準としたpHの生後の特徴的変化について明かにし、仮死の病態の解明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 |