コンテナターミナル(以下CTと略す)はコンテナサービスの要といわれているが、その計画は、従来、単純な理論に基ずき、実務経験に頼るピーク係数を使用して行われてきた。CTの処理能力に余裕のあるうちは、この方法であまり問題にはならなかったが、コンテナリゼーション第IV世代に突入した現在、その取扱量も激増する一方、CTとして利用できる港頭用地は制約が多く、その環境は一変した。本論文は、このCTに理論的な分析を試み、これに基ずいた計画手法を取りまとめたものである。 CTの計画に当たって、重要な項目を選定すれば、次の通りである。 1)所要蔵置容量の算定 2)年取扱能力の算定 3)荷役方式の選定 4)荷役機器台数の算定 5)レイアウトのまとめ これらの項目に対して、本論文では次の通り理論的考察・分析を行い、具体的な計画手法をまとめることができた。 1.所要蔵置容量(Co)は寄港船の寄港間隔(p)、寄港時の陸揚・船積量(q)、積替コンテナの取扱比率()、ヤード内コンテナの搬出入パターンにより決定される。この点については、コンテナ搬出入の実際のパターンに近い指数分布を使い、数ケースの分析を行った。さらに、近似式を得るため、指数分布を単位分布に置換えた場合を考察し、単位分布にもとずいて所要蔵置容量を求めれば、常に安全側にあり、通常に起こる程度の寄港遅延、搬出パターンの変動などもカバーできることを確認できた。従来この面に関して、理論的考察・分析は皆無であった。 一方、与えられたターミナルの地形から得られる蔵置容量(C)について、従来は、実際にレイアウト図を描いて得られたグランドスロット数と、採用予定のヤード荷役機器の性能から経験による積段数とから求められていた。この手法では、コンテナ荷役方式毎にレイアウトを作成し、手数のかかる試行錯誤を要した。本論文では、実績値を分析して得られたデータからヤード面積率()を決め、荷役方式毎にケーススタデイにより求められたデータから土地利用率(Ls)を決め、これらからグランドスロット数が、種種のケースにつき容易に求められるようになった。また、取出率なるインデックス(S)により、ヤード内コンテナの特性による積段数(t)を求め、そのターミナルの地形による蔵置容量が簡便に求められるようにした。これで、CFSの有無、荷役方式等の種種のケースに対応して検討ができ、その試行錯誤も容易になった。 寄港船のスケジュールから得られる所要蔵置容量と、地形から得られる蔵置容量の比較により、その計画条件の問題点も、その計画初期に見出すことが可能になった。 2.年取扱能力が、一般に、コンテナターミナル計画の目標値となる。所要蔵置容量(Co)にもとずいて、所要年取扱量(Ao)が得られ、地形から得られた蔵置容量(C)により静的年取扱能力(A:そのターミナルの年取扱能力の上限)を求め、静的年取扱能力(A)>所要年取扱量(Ao)を確認する。さらに、所要年取扱量を超える動的年取扱能力(A’)が得られるよう荷役機器の台数・性能を決定し、そのターミナルの計画が達成される。 このとき、静的年取扱能力を蔵置容量から求めるが、従来は、ただ単に蔵置コンテナの平均滞留日数による年回転率にもとずく関係式であった。本論文ではコンテナの搬出入期間(Dl,Du)だけでなく、コンテナ船の寄港間隔(p)、一船陸揚・船積量(q)、積替コンテナの取扱比率()を考慮した関係式を提示できた。 3.荷役方式の選定もコンテナターミナルの計画において、極めて重要である。従来、各荷役方式の優劣の比較は数多くなされているが、計画に当って如何に選定するかという見地からの論は皆無であった。その上、荷役方式の選定と蔵置容量の計画とは、複雑に絡み合っているので、かなりの量の試行錯誤の作業が要求されていた。 本論文においては、既述の蔵置容量、年取扱能力などの数値的な計画に使われるもの以外の諸条件も加えたコンテナターミナルの計画条件から、適切な荷役方式を選定する方法を提示している。先に述べた蔵置容量の計画作業の簡便さと相俟って、蔵置容量の計画・荷役方式の選定の試行錯誤の作業を行う場合でも、従来より遥かに容易に広く行うことが可能になったと考えられる。 4.ヤード荷役機器台数の算定は、従来、詳細に計画できる海側荷役の岸壁コンテナクレーン台数に対する比率などを用い、あまり理論的ではなかった。これは、コンテナ船-岸璧間の海側におけるコンテナの取扱量が明確であるのに比し、搬出入を主体とする陸側荷役におけるコンテナの流れ及びその量が明確化されていなかったためと考えられる。 ここで、本論文では、まずコンテナの流れを分析し、陸側の作業を分類し、その作業毎の取扱量を得られるようにした。これによって、陸側荷役を支えるヤード荷役機器の台数がその取扱量により合理的に算定できるようになった。また、コンテナ搬出入作業については、他の作業のようにターミナルが自ら管理できるものと違い、ターミナル以外の要素により行われる性格なので、待ち行列の理論を使いその作業に必要な荷役機器の台数の考察を行った。 5.コンテナターミナルのレイアウトは、その計画を具体的に示す重要なものである。蔵置容量、年取扱能力等の数値的検討は、最適のレイアウトを得るためになされるといっても遇言ではない。また、最適荷役方式もレイアウトによって、期待通りの真価が発揮できるのである。従来、コンテナターミナルのレイアウト計画法についての考察はほとんど行われていなかった。 本論文では、まず、コンテナターミナルのゾーニング、面積配分を分析し、レイアウトについてマクロな計画概念を示した。ついで、レイアウトに必要なターミナルを構成する各部の基本寸法とその意味づけ、及びその配置の考え方を明らかにした。最後に、全体配置の考え方をまとめた。そこで、この順序に従って、レイアウト作成を進めれば、かなりの程度のレイアウトが得られると期待できる。勿論、レイアウトの作成は実務経験にもとずいた円熟した技量が必要であるから、これで満足度の高いレイアウトが得られることは難しいであろうが、これにより第一近似としてのレイアウトが得られると確信している。 また、積替コンテナの取扱比率をパラメータとして、CTの年取扱量の変化についてケーススタディを行った。この結果、CTの全面積当りの年取扱量の指標P(TEU/年・ha)の値で、そのCTの特性を判別できることを示した。すなわち、OD型CTの上限がP=23,000付近にあることとハプセンタ型CTの下限がP=28,000付近にあり、=0.4〜0.5がその境界であることをを見い出した。この結果は積替コンテナ取扱比率によって、ターミナル全面積当り年取扱量に大きな差のあるOD型の日本CTとハプセンタ型のシンガポール、香港のCTとの実績値に合致している。 以上のとおり、本論文の指示に従って計画作業を進めれば、理論に裏付けされたコンテナターミナルの計画が可能になる。従来、実務経験の豊富な人に限られていたこの計画作業の門戸を、広く開くことができたのではないかと確信している次第である。 |