学位論文要旨



No 212062
著者(漢字) 渡辺,逸郎
著者(英字)
著者(カナ) ワタナベ,イツロウ
標題(和) コンテナターミナルの理論と計画
標題(洋)
報告番号 212062
報告番号 乙12062
学位授与日 1995.01.26
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第12062号
研究科 工学系研究科
専攻 船舶海洋工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 小山,健夫
 東京大学 教授 加藤,洋治
 東京大学 教授 大坪,英臣
 東京大学 教授 宮田,秀明
 東京大学 助教授 大和,裕幸
内容要旨

 コンテナターミナル(以下CTと略す)はコンテナサービスの要といわれているが、その計画は、従来、単純な理論に基ずき、実務経験に頼るピーク係数を使用して行われてきた。CTの処理能力に余裕のあるうちは、この方法であまり問題にはならなかったが、コンテナリゼーション第IV世代に突入した現在、その取扱量も激増する一方、CTとして利用できる港頭用地は制約が多く、その環境は一変した。本論文は、このCTに理論的な分析を試み、これに基ずいた計画手法を取りまとめたものである。

 CTの計画に当たって、重要な項目を選定すれば、次の通りである。

 1)所要蔵置容量の算定

 2)年取扱能力の算定

 3)荷役方式の選定

 4)荷役機器台数の算定

 5)レイアウトのまとめ

 これらの項目に対して、本論文では次の通り理論的考察・分析を行い、具体的な計画手法をまとめることができた。

 1.所要蔵置容量(Co)は寄港船の寄港間隔(p)、寄港時の陸揚・船積量(q)、積替コンテナの取扱比率()、ヤード内コンテナの搬出入パターンにより決定される。この点については、コンテナ搬出入の実際のパターンに近い指数分布を使い、数ケースの分析を行った。さらに、近似式を得るため、指数分布を単位分布に置換えた場合を考察し、単位分布にもとずいて所要蔵置容量を求めれば、常に安全側にあり、通常に起こる程度の寄港遅延、搬出パターンの変動などもカバーできることを確認できた。従来この面に関して、理論的考察・分析は皆無であった。

 一方、与えられたターミナルの地形から得られる蔵置容量(C)について、従来は、実際にレイアウト図を描いて得られたグランドスロット数と、採用予定のヤード荷役機器の性能から経験による積段数とから求められていた。この手法では、コンテナ荷役方式毎にレイアウトを作成し、手数のかかる試行錯誤を要した。本論文では、実績値を分析して得られたデータからヤード面積率()を決め、荷役方式毎にケーススタデイにより求められたデータから土地利用率(Ls)を決め、これらからグランドスロット数が、種種のケースにつき容易に求められるようになった。また、取出率なるインデックス(S)により、ヤード内コンテナの特性による積段数(t)を求め、そのターミナルの地形による蔵置容量が簡便に求められるようにした。これで、CFSの有無、荷役方式等の種種のケースに対応して検討ができ、その試行錯誤も容易になった。

 寄港船のスケジュールから得られる所要蔵置容量と、地形から得られる蔵置容量の比較により、その計画条件の問題点も、その計画初期に見出すことが可能になった。

 2.年取扱能力が、一般に、コンテナターミナル計画の目標値となる。所要蔵置容量(Co)にもとずいて、所要年取扱量(Ao)が得られ、地形から得られた蔵置容量(C)により静的年取扱能力(A:そのターミナルの年取扱能力の上限)を求め、静的年取扱能力(A)>所要年取扱量(Ao)を確認する。さらに、所要年取扱量を超える動的年取扱能力(A’)が得られるよう荷役機器の台数・性能を決定し、そのターミナルの計画が達成される。

 このとき、静的年取扱能力を蔵置容量から求めるが、従来は、ただ単に蔵置コンテナの平均滞留日数による年回転率にもとずく関係式であった。本論文ではコンテナの搬出入期間(Dl,Du)だけでなく、コンテナ船の寄港間隔(p)、一船陸揚・船積量(q)、積替コンテナの取扱比率()を考慮した関係式を提示できた。

 3.荷役方式の選定もコンテナターミナルの計画において、極めて重要である。従来、各荷役方式の優劣の比較は数多くなされているが、計画に当って如何に選定するかという見地からの論は皆無であった。その上、荷役方式の選定と蔵置容量の計画とは、複雑に絡み合っているので、かなりの量の試行錯誤の作業が要求されていた。

 本論文においては、既述の蔵置容量、年取扱能力などの数値的な計画に使われるもの以外の諸条件も加えたコンテナターミナルの計画条件から、適切な荷役方式を選定する方法を提示している。先に述べた蔵置容量の計画作業の簡便さと相俟って、蔵置容量の計画・荷役方式の選定の試行錯誤の作業を行う場合でも、従来より遥かに容易に広く行うことが可能になったと考えられる。

 4.ヤード荷役機器台数の算定は、従来、詳細に計画できる海側荷役の岸壁コンテナクレーン台数に対する比率などを用い、あまり理論的ではなかった。これは、コンテナ船-岸璧間の海側におけるコンテナの取扱量が明確であるのに比し、搬出入を主体とする陸側荷役におけるコンテナの流れ及びその量が明確化されていなかったためと考えられる。

 ここで、本論文では、まずコンテナの流れを分析し、陸側の作業を分類し、その作業毎の取扱量を得られるようにした。これによって、陸側荷役を支えるヤード荷役機器の台数がその取扱量により合理的に算定できるようになった。また、コンテナ搬出入作業については、他の作業のようにターミナルが自ら管理できるものと違い、ターミナル以外の要素により行われる性格なので、待ち行列の理論を使いその作業に必要な荷役機器の台数の考察を行った。

 5.コンテナターミナルのレイアウトは、その計画を具体的に示す重要なものである。蔵置容量、年取扱能力等の数値的検討は、最適のレイアウトを得るためになされるといっても遇言ではない。また、最適荷役方式もレイアウトによって、期待通りの真価が発揮できるのである。従来、コンテナターミナルのレイアウト計画法についての考察はほとんど行われていなかった。

 本論文では、まず、コンテナターミナルのゾーニング、面積配分を分析し、レイアウトについてマクロな計画概念を示した。ついで、レイアウトに必要なターミナルを構成する各部の基本寸法とその意味づけ、及びその配置の考え方を明らかにした。最後に、全体配置の考え方をまとめた。そこで、この順序に従って、レイアウト作成を進めれば、かなりの程度のレイアウトが得られると期待できる。勿論、レイアウトの作成は実務経験にもとずいた円熟した技量が必要であるから、これで満足度の高いレイアウトが得られることは難しいであろうが、これにより第一近似としてのレイアウトが得られると確信している。

 また、積替コンテナの取扱比率をパラメータとして、CTの年取扱量の変化についてケーススタディを行った。この結果、CTの全面積当りの年取扱量の指標P(TEU/年・ha)の値で、そのCTの特性を判別できることを示した。すなわち、OD型CTの上限がP=23,000付近にあることとハプセンタ型CTの下限がP=28,000付近にあり、=0.4〜0.5がその境界であることをを見い出した。この結果は積替コンテナ取扱比率によって、ターミナル全面積当り年取扱量に大きな差のあるOD型の日本CTとハプセンタ型のシンガポール、香港のCTとの実績値に合致している。

 以上のとおり、本論文の指示に従って計画作業を進めれば、理論に裏付けされたコンテナターミナルの計画が可能になる。従来、実務経験の豊富な人に限られていたこの計画作業の門戸を、広く開くことができたのではないかと確信している次第である。

審査要旨

 海上コンテナ輸送サービスは、現在では雑貨輸送の主力を占める地位を確立し、社会経済活動の中で極めて重要な役割を果たしている。コンテナ輸送が荷役の合理化を目的に発展したという経過を見ても、海上輸送を担うコンテナ船と陸上輸送相互をつなぐコンテナターミナルの役割は極めて大きい。特に海上輸送が数千個単位のコンテナ輸送であるのに対し、陸上輸送はトラックの場合1個単位、列車を使う場合も数十個単位であるという数量的ギャップの大きいインタフェース問題という特殊性を持っている。

 本論文の著者は長年にわたり、コンテナ船そのもの、あるいはコンテナ輸送システムの計画に携わっており、その経験に基づきコンテナターミナルの計画法についての理論的解明とその体系化を行っている。

 この論文で取り扱っているコンテナターミナル計画法の範囲は、マクロスコピックな計画段階で、コンテナ船の寄港スケジュール、年間取扱貨物量、コンテナターミナル用地が決められているという条件の下で

 (1)コンテナターミナルの所要藏置容量の算定

 (2)所要年間取扱能力の合理的実現法の計画

 (3)荷役方式の選定

 (4)荷役機器台数の算定

 (5)コンテナターミナルレイアウトの計画法について考察したものである。

 従来この問題についての考え方は極めて概括的であり、個々のコンテナターミナル利用の特性を考慮しておらず、単に藏置コンテナの平均滞留日数に基づく回転率という概念で検討されていた。多様なコンテナターミナルの運用が行われるようになった今日、このような概括的な観点によるモデルでは合理的計画は困難であるとして、著者はつぎのようなコンテナターミナルの特性値を新たに導入すべきことを提案している。

 第一の特性値は積替コンテナの取扱比率である。最近のコンテナ輸送では生産地から消費地へ向けての直接的輸送に加え、香港、シンガポール等に代表的に見られるように、コンテナ輸送の中継機能を果たすコンテナターミナルが増えてきた。このような港ではコンテナ貨物の多くが船から陸へではなく、船から船への積替が行われる。船と陸、船と船の積替のための荷役は大きな相違があり、コンテナターミナルの所要藏置量、年間取扱量に大きな相違を持つことになる。著者はこれらをOD型、ハブセンター型と特性を区分し、積替コンテナの比率を考慮して取り扱うことを提案した。

 第二の重要な特性値として、著者はコンテナ藏置時の積み段数に関連し、取り出し比率という概念を導入した。計画の対象とするコンテナターミナル面積からコンテナ藏置のためのグランドスロットが求められるが、藏置量はグランドスロット上の積み段数に比例する。しかし、積み段数を増やせば当然荷役効率が下がるため、実効的藏置量がそのまま比例的に増えることにはならない。積み段数が多い場合、取り出すべきコンテナが下の方におかれている場合、その上のコンテナを取り除く作業が追加されるためである。この問題について著者は簡単な仮定のもとに効率低下の度合いを表現した上で、代表的な荷役方式に応じて実績を参考にしながら取り出し比率を求めている。

 第三の特性値としてコンテナターミナルへの搬入搬出パターンの影響をあげている。冒頭に述べたとおり、コンテナ船の積載量と陸上輸送機器の積載量が大きく異なるため、搬入は船の出港日に合わせる傾向があり、搬出はコンテナターミナルを一種の倉庫と考え、輸送スケジュールに余裕がある場合は到着したコンテナをなかなか取りに来ないという傾向も見られる。搬入搬出のパターンは必要藏置量、年間取扱量に大きな影響を及ぼすが、これらについての処理方法を提案している。

 このほか、小口の貨物をコンテナにまとめて送り出す、あるいは逆にコンテナに取りまとめられた到着貨物を行き先別に分解するためCFS(Container Freight Station)というサービスがあるが、このサービスの有無あるいはCFSコンテナと一般コンテナとの数量上の比率はコンテナターミナルの計画に重要な影響を及ぼす。以上述べたような諸特性を考慮することによって、本論文は従来の経験を主体に粗い分析をもとに行われているコンテナターミナルの計画法を再整理し、所要藏置量の算定、必要年間取扱能力の合理的な実現法等、静的なターミナル機能の算定を見通しよく行うことができる新しい計画法を提案している。

 コンテナターミナルの計画は上述の静的計画にとどまらず、その計画が間違いなく実行できるための荷役装置の運用も含めた動的な検証が必要である。コンテナ船の荷役を担当するコンテナクレーンは、荷役方式が確立しており計画上の取り扱いは容易である。しかし、コンテナヤードでの荷扱いにはオンシャーシ、トランスファークレーン、ストラドルキャリア等いくつかの代表的な異なる荷役方式があり、計画時にそれらの選定を行うための判断基準が求められている。本論文で著者は各荷役機器の特性を分析して、それらの特性を明確に整理したうえで、コンテナターミナルへのアプローチのための道路、ターミナルゲート、グランドスタック、CFSの各要素とそれらを結ぶ搬送機器、コンテナハンドル機器からなるシステムとして捉え、全体をひとつの待ち合わせモデルとして扱っている。著者が利用できる環境の制約からシミュレーションによりコンテナターミナルのオペレーションを詳細に検討することは行っていないが、待ち合わせモデルを応用することにより、良い見通しが得られることを示し、シミュレーションを行う際の主要な観点を示し、今後の発展に寄与できる筋道を得ている。

 最後に、以上の検討結果と新たに著者が提案した諸特性値を使いながら、実際のコンテナターミナルの計画法をレイアウト設計も含めてまとめている。レイアウトの設計法は優れて経験的なものであり、その方法論を客観的かつ体系的に示すことは困難であるが、コンテナターミナル計画法の重要な観点が本論文により整理されているため、著者の長年にわたる経験をもとにした記述が比較的わかりやすく伝わる形で整理されている。本論文が今後この道に進む後進にとって極めて重要な指針となることは間違いない。

 海上コンテナ輸送は既に雑貨輸送の主力になっており、利用の形態も多様化しつつある。最近ではNIES諸国のコンテナ輸送への参入が極めて顕著になっていることも大きな特徴である。このような状況の中で、従来経験をもとに行われていたコンテナターミナルの計画法について、実用性を保持しながらも極力理論的に分析し、それを踏まえて体系的にまとめた意義は極めて高いと評価できる。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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