学位論文要旨



No 212074
著者(漢字) 山村,正美
著者(英字)
著者(カナ) ヤマムラ,マサミ
標題(和) 天然ガスの直接変換による液体燃料製造に関する研究
標題(洋)
報告番号 212074
報告番号 乙12074
学位授与日 1995.01.26
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第12074号
研究科 工学系研究科
専攻 応用化学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 藤元,薫
 東京大学 教授 吉田,邦夫
 東京大学 教授 御園生,誠
 東京大学 助教授 奥原,敏夫
 東京大学 助教授 辰巳,敬
内容要旨

 天然ガスは、エネルギー換算でほぼ石油に匹敵する埋蔵量を有する化石燃料資源であり、主として都市ガス、発電用燃料として用いられている。天然ガスは液体燃料に比べて運搬に問題があり、近辺に需要地がない場合や、経済的にLNGとして出荷できない小規模ガス田は開発できない。そこで、これらの開発を促進するための一つの方法として液体燃料への変換が求められている。こうした状況に鑑み、より経済的なプロセスの開発を目的として、直接変換法による天然ガスの液体燃料化について研究した。

 最初の反応は酸化カップリング反応とよばれ、酸素の存在下にメタンを反応させて炭素数2以上の炭化水素(以下、)を生成する反応であり、2番目の反応はこれらをC5以上の液体炭化水素へ低重合する反応である。

1.メタンの酸化カップリング反応触媒の開発

 メタンの酸化カップリング反応(以下、OCM反応)については、これまで多くの触媒が報告されている。しかしながら、周期律表5族金属(V、Nb、Ta)についてはほとんど研究が行われていなかった。そこで、本論文では1族/3族/5族の多元系金属酸化物について研究した。

 1族金属と5族金属をそれぞれ単独で用いた場合はOCM反応に対する活性は低いが、両者を一定の原子比(1:1および1:0.3)で混合して用いると比較的高い活性を示した。1族、5族金属をそれぞれA、Bで表すと、原子比1:1で調製した触媒の結晶構造はすべてABO3で表される複合酸化物(メタン5族金属酸塩)であったが、5族金属の量を減らした原子比1:0.3の触媒の主たる結晶構造は、A3BO4で表される複合酸化物(オルト5族金属酸塩)であることを明らかにした。,ABO3にはCO2を吸着できる塩基点が存在しないのに対し、A3BO4構造の触媒にはCO2を吸着し、かつそれを700K付近の温度で脱離する塩基点が存在していることが推察された。

 3族金属は単独でもOCM反応に対して、比較的高い活性あよび選択性を有している。これに1族金属を原子比1:1で添加すると、選択率はさらに高くなったが、メタン転化率は逆に低下した。この1族/3族二元系触媒に5族金属を添加すると、高い選択率を維持したままメタン転化率が高くなった。Na/La/yNb系触媒において、y=0.15〜0.3の場合、最も高い性能を示し、また、安定性の点でも優れた触媒であった。

2.エチレン低重合触媒の開発

 OCM反応の生成物の液体燃料化については、主としてZS M-5触媒によるエチレンの低重合を対象として研究した。できるだけ寿命の長い触媒を得ることを目的とした。酸点をマグネシウムで修飾したMg-ZSM-5触媒の場合は12時間以上にわたって80%以上を維持し、寿命が1.5倍長くなることがわかった。Mg-ZSM-5触媒の場合は反応後において、弱酸点(TPDの低温側のピーク)が他の触媒より多く残っていることが認められ、このことが長寿命の原因であることを明らかにした。

 ガリウムや亜鉛など、従来から水素活性化触媒として用いられている金属をZSM-5触媒と混合してハイブリッド触媒として用いると、触媒表面の水素の挙動が制御されることによって触媒活性の長寿命化および反応収率の増大が図れた。中でも亜鉛が最も優れた性能を示した。すなわち、Zn/SiO2+Mg-ZSM-5触媒を用いると、8時間の反応において活性低下はほとんど認められず、液体炭化水素選択率も高かった。

3.工業化ブロセスの構築

 本研究で得られたNa/La/0.2NbおよびZn/SiO2+Mg-ZSM-5を、OCM反応およびエチレン低重合触媒としてそれぞれ用いることを前提に、天然ガスから液体燃料製造プロセスを構築した。詳細な経済性検討は今後の課題であるが、定性的にはすでに報告されている既存のプロセスと比べて十分競合できるものと考えられた。

 以上まとめると、天然ガス中のメタンを酸化カップリング反応によって炭化水素とし、これを低重合して液体燃料を製造するプロセスに関し、それぞれの反応に有効な触媒を開発した。本研究で得られた触媒はそれぞれ、既存の触媒と比べて同等以上の性能を示した。これらの触媒を用いて、工業化の可能性のある独自プロセスを構築した。

審査要旨

 天然ガスは、エネルギー換算でほぼ石油に匹敵する埋蔵量を有する化石燃料資源であり、主として都市ガス、発電用燃料として用いられている。天然ガスは液体燃料に比べて運搬に問題があり、近辺に需要地がない場合や、経済的にLNGとして出荷できない小規模ガス田は開発できない。そこで、これらの開発を促進するための一つの方法として液体燃料への変換が求められている。こうした状況に鑑み、より経済的なプロセスの開発を目的として、直接変換法による天然ガスの液体燃料化について研究した。

 最初の反応は酸化カップリング反応とよばれ、酸素の存在下にメタンを反応させて炭素数2以上の炭化水素(以下、)を生成する反応であり、2番目の反応はこれらをC5以上の液体炭化水素へ低重合する反応である。

1.メタンの酸化カップリング反応触媒の開発

 メタンの酸化カップリング反応(以下、OCM反応)については、これまで多くの触媒が報告されている。しかしながら、周期律表5族金属(V、Nb、Ta)についてはほとんど研究が行われていなかった。そこで、本論文では1族/3族/5族の多元系金属酸化物について研究した。

 1族金属と5族金属をそれぞれ単独で用いた場合はOCM反応に対する活性は低いが、両者を一定の原子比(1:1および1:0.3)で混合して用いると比較的高い活性を示した。1族、5族金属をそれぞれA、Bで表すと、原子比1:1で調製した触媒の結晶構造はすべてABO3で表される複合酸化物(メタン5族金属酸塩)であったが、5族金属の量を減らした原子比1:0.3の触媒の主たる結晶構造は、A3BO4で表される複合酸化物(オルト5族金属酸塩)であることを明らかにした。ABO3にはCO2を吸着できる塩基点が存在しないのに対し、A3BO4構造の触媒にはCO2を吸着し、かつそれを700K付近の温度で脱離する塩基点が存在していることが推察された。

 3族金属は単独でもOCM反応に対して、比較的高い活性および選択性を有している。これに1族金属を原子比1:1で添加すると、選択率はさらに高くなったが、メタン転化率は逆に低下した。この1族/3族二元系触媒に5族金属を添加すると、高い選択率を維持したままメタン転化率が高くなった。Na/La/yNb系触媒において、y=0.15〜0.3の場合、最も高い性能を示し、また、安定性の点でも優れた触媒であった。

2.エチレン低重合触媒の開発

 OCM反応の生成物の液体燃料化については、主としてZSM-5触媒によるエチレンの低重合を対象として研究した。できるだけ寿命の長い触媒を得ることを目的とした。酸点をマグネシウムで修飾したMg-ZSM-5触媒の場合は12時間以上にわたって80%以上を維持し、寿命が1.5倍長くなることがわかった。Mg-ZSM-5触媒の場合は反応後において、弱酸点(TPDの低温側のピーク)が他の触媒より多く残っていることが認められ、このことが長寿命の原因であることを明らかにした。

 ガリウムや亜鉛など、従来から水素活性化触媒として用いられている金属をZSM-5触媒と混合してハイブリッド触媒として用いると、触媒表面の水素の挙動が制御されることによって触媒活性の長寿命化および反応収率の増大が図れた。中でも亜鉛が最も優れた性能を示した。すなわち、Zn/SiO2+Mg-ZSM-5触媒を用いると、8時間の反応にわいて活性低下はほとんど認められず、液体炭化水素選択率も高かった。

3.工業化プロセスの構築

 本研究で得られたNa/La/0.2NbおよびZn/SiO2+Mg-ZSM-5を、OCM反応およびエチレン低重合触媒としてそれぞれ用いることを前提に、天然ガスから液体燃料製造プロセスを構築した。詳細な経済性検討は今後の課題であるが、定性的にはすでに報告されている既存のプロセスと比べて十分競合できるものと考えられた。

 以上まとめると、天然ガス中のメタンを酸化カップリング反応によって炭化水素とし、これを低重合して液体燃料を製造するプロセスに関し、それぞれの反応に有効な触媒を開発した。本研究で得られた触媒はそれぞれ、既存の触媒と比べて同等以上の性能を示した。これらの触媒を用いて、工業化の可能性のある独自プロセスを構築した。

 よって本諭文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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